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インタビュー/佐々木 三重子
[2009.11.10]

新しいダンスの地平を拓く、マニュエル・ルグリに聞く

パリ・オペラ座バレエ団エトワールとしての輝かしい足跡を残して、今年5月に退団したマニュエル・ルグリだが、来年9月にはウィーン国立歌劇場バレエ団とウィーン・フォルクスオーパー・バレエ団の芸術監督に就任する。
その合間に、来年2月に来日し、<マニュエル・ルグリの新しき世界〉と銘打ったガラ公演を、A、B2種のプログラムで行う。リハーサルのために来日したルグリに、この公演について聞いた。

----Aプロは〈ルグリ×ド・バナ×東京バレエ団 スーパーコラボレーション〉と名付けられ、パトリック・ド・バナの振付作品のみで組まれました。彼の振けのどんなところに魅力を感じてそうされたのですか。

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マニュエル・ルグリ 彼の音楽性が好きですし、精神的なものにも惹かれますダンサーに良いイメージを与えてくれるので、ダンサーは喚起させられます。彼はイメージを大切にする人です。
彼の作品を最初に観たのは、Bプロで上演する『マリーアントワネット』。これを観て一緒に仕事したいと思い、ソロを振付けてもらいました。
今年の〈世界バレエフェスティバル〉のガラで上演した『ザ・ピクチャー・オブ…』です。これをAプロで踊ります。初演は2008年のクリスマス・ガラ。その後、少し変更が加えられたものを〈世界バレエフェスティバル〉で踊りました。ド・バナは一度上演した後も見直して作品を深め、より良いものを求めていくタイプの人なので、さらに良い形でお見せできると思う。私自身、何度か踊って彼のスタイルがわかってきたので、より良いものが出せると思います。

----その『ザ・ピクチャー・オブ…』ですが、踊ってどのように感じられましたか。

ルグリ
 動きが独特です、組み立て方も。ド・バナはベジャールのバレエ団で踊り、その後はナチョ・ドゥアトのカンパニーで踊ってきたので、コンテンポラリーが基礎としてあります。私の基礎はクラシックなので、まずは彼のスタイルや動きになれないといけません。でも、ひとたび彼のスタイルが身についてくると、きちっとした構造があるにもかかわらず、ダンサーはとても自由に踊れます。そこに魅力を感じます。

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----東京バレエ団と共演する新作の『ホワイト・シャドウ』は、どういう作品ですか。

ルグリ
 作品の解説は、振付家でないとうまく説明できません。はっきりした役柄や役割があるわけではありません。最初は太陽とか地球といったキーワードがありましたが、それは作品をどういうふうに創っていくかという始めの段階で便宜的につけただけのもの。見えないものを視覚化させようという色々なアイデアがありますが、とても抽象的です。音楽との関係性、身体性、精神性などを様々に利用しながら組み立てられています。

----共演する東京バレエ団については——。

ルグリ 東京バレエ団は以前から評価しています。何度もクラシック作品に客演しましたが、いつも短い滞在だったので、一緒に作品を創れたらと思っていました。
パトリック・ド・バナと出会った時、彼は日本の文化も好きですから、私と東京バレエ団を結び付けてくれる振付家として理想的だと思いました。この作品は私を中心としたものではありません。私が東京バレエ団の中に入って、ド・バナの世界を創っていくという感じです。皆が良い形で舞台に立てるよう、それぞれ踊るパートが与えられています。今、東京バレエ団のダンサーとこのプロジェクトを共有しているという手応えを感じています。

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----オレリー・デュポンとフリーデマン・フォーゲルが東京バレエ団と共演する『クリアチュア』は、どんな作品ですか。

ルグリ もともとは、確かオランダの若手ダンサーのグループのために、ワークショップの形で創られた作品で、『イントロダンス』というタイトルだったと思います。観た後で、パリ・オペラ座でも上演したいと頼んだら、オペラ座用に6人のダンサーのために改訂されました。今回は人数ももっと増えて、オレリーとフリーデマンも加わります。この二人が踊る部分は新たに振付けることになるので、新作初演といえるかもしれません。

----Bプロは〈ルグリと輝ける世界のスターたち〉ですが、ギエムとの15年振りの共演が話題になっています。

ルグリ シルヴィ・ギエムは、私が国際的に活躍する時の最初のパートナーでした。
最後に共演したのは、パリ・オペラ座での『ラ・バヤデール』だったと思います。私は長いことオレリー・デュポンと踊ってきました。シルヴィは外ではニコラ・ル・リッシュと踊ることが多かったですね。私はオペラ座を引退しましたが、このような形で日本に来ることができます。そこで、とても良い機会だと思い、シルヴィに踊ってもらえないかと尋ねたら、受け入れてくれました。

これまでに一緒に踊る機会はあったのかも知れませんが、今が一緒に踊る良い時期なのでしょう。円がちょうど一周したような感じで、とても幸せです。
彼女と踊るのはマクミランの『三人姉妹』で、私にとっては初めての作品です。もう一つはキリアンの『優しい嘘』(2組のカップルのための作品で、ル・リッシュとデルフィーヌ・ムッサン、ルグリとファニー・ガイダーのペアが初演した)。シルヴィが日本で取り上げたのは、ニコラが踊ったパートのほうです。今回は私が踊ったほうをお見せするので、前のものより少し長いです。彼女にとって、今回踊る『優しい嘘』は初めてになります。

----Bプロに参加される他のダンサーや作品についても、お話しいただけますか。

ルグリ
 〈輝ける世界のスターたち〉というタイトルから、バレエフェスティバルのようなガラ公演を想像されるかもしれませんが、私にとっては、そのようなガラとは一味違うものです。なぜなら、私が大好きな作品や、この作品をこの人に踊らせたいという、何かしらの意味があって構成したものだからです。
たとえば、私が大好きな『アザー・ダンス』を、デュポンとフォーゲルに初めて一緒に踊ってもらいます。アニエス・ルテステュには、ド・バナと組んで『マリーアントワネット』を踊ってもらいます。ド・バナと仕事をしたいと思うきっかけになった作品で、日本初演です。ナショナル・バレエ・オブ・カナダのギヨーム・コテは、昔、『眠れる森の美女』のデジレ王子を踊る時に、私が指導したことがあります。彼のパートナーは同じバレエ団のヘザー・オグデンです。
ほかにデヴィッド・ホールバーグ(ABT)や上野水香も。同じ作品でも、前と違うペアが踊れば、また新たな発見があるでしょう。お客さんにも新たな発見をしてもらいたい。また今回は、ヘレナ・マーティンというフラメンコのダンサーも招きます。大変個性の強いダンサーで、私の世界観をも表わしてくれる素晴らしい表現者です。ダンスにはいろいろな形がありますから、その好きな形の一つとして入れました。

----2010年9月にウィーン国立歌劇場バレエ団の芸術監督に就任されますが、芸術監督としてどのようなことをなさりたいか、お聞かせください。

ルグリ ウィーン国立歌劇場バレエ団はクラシックのカンパニーですし、ウィーンは非常に保守的なところです。いきなりガラッと変えることはできませんし、そうするつもりもありません。まずはレパートリーを広げること、ネオ・クラシックも含めて色々な作品を採り入れることです。ジェローム・ロビンズやキリアンもね。もちろんヌレエフの作品もします。ヌレエフはウィーンで非常に重要な人物でしたから。ツアーも含めて、公演回数を増やしたい。新作も手掛けます。でも、まずダンサーを見てみないと。歌劇場には色々なルールがあるでしょうから、様子を見ながら進めていきます。監督としての私の形が出せるようになるのは三年目かなあと思うので、私を評価するのはそれまで待っていただきたいです。

----最初のシーズンで何をするか、お決まりですか。

ルグリ 新作は一本だけで、あとは既存の作品ですが、一年目の特徴を言うなら、ウィーンで紹介されてこなかった偉大な振付家のいろいろな作品を上演する予定です。ベジャールなどダンサーにとって初挑戦になる作品や、ウィーンの観客にとって初めて観る作品もあるかもしれません。実は、来年3月にウィーンで詳細を発表することになっていますので、今はまだお話しできないのです。

----自ら振り付けをなさることは…。

ルグリ ありません! 考えたこともありません。ダンサーとしては、ダンサーのキャリアをまっとうしたいから、振付はしませんでした。ディレクターとしてしっかり務めるには、それに専念しないと務まらないでしょう。自分のことを考え始めると、芸術監督として務めきれないと思うので、ウィーンでは踊るつもりはないです。もちろんトレーニングは続けますし、稽古場に行って指導もするでしょう。踊りから全く離れるわけではありません。
もし踊るなら、オフの時にウィーンではない所で踊ることになるでしょう。でも、古典作品や全幕物を踊ることはなくなるでしょう。踊るなら完璧に踊りたいので、中途半端に踊ることは避けたいからです。皆さんにわかっていただきたいのは、ダンサーは歳と共に成長し進化しますが、時を止めることはできないということです。今45歳。20歳のふりをすることはできません。
体は元気でも、踊れるものは変わっていきます。自分が衰えた部分は絶対見せたくないので、今の自分に合った作品を踊りたいと思います。

----パリ・オペラ座バレエ団を退団後、バレエ団との関係は全くなくなるのですか。

ルグリ
 今シーズンはまだ踊りますよ。契約が一年延長されましたから。12月に『ペトルーシュカ』、春にロビンズの『イン・ザ・ナイト』に出演します。でも、私がオペラ座でゲストとして踊る意味はどんどん少なくなっていくでしょう。
それで良いと思います。芸術監督のブリジット・ルフェーブルとは大変良い関係にあるので、私がウィーンに移ってからも、衣装を借りたり、共同制作など、何かの形で交流できるかもしれません。

(写真は10月30日に行われた『ホワイト・シャドウ』の公開稽古より)