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インタビュー:関口紘一
[2017.12.19]

映画公開直前インタビュー
『ダンシング・ベートーヴェン』のアランチャ・アギーレ監督

----アランチャ監督は、10代の頃にベジャール作品をご覧になって強く印象に残った、とおっしゃっていますが、その時の作品は何でしょうか。

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アランチャ 『春の祭典』です。それからベジャールがブリュッセルに設立した舞踊学校のムードラに1984年に入り、1年間在学しました。

――それは私がベジャール作品に感銘を受けて、ダンスマガジンを創刊した年です。

アランチャ おお、そうですか。

----当時、ムードラではマギー・マランなどと一緒ではないですか。

アランチャ いえ、彼女は私よりも以前です。

----ダンスの道には進まれなかったのでしょうか。

アランチャ 実は私は映画も好きで小さな頃からシナリオを書いたりお芝居を組織したりとか、いつもダンスか、映画か、演劇か、と考えて迷っていました。成人してみて、やはり、映画界の方が自分が最も役に立つだろう、と結論つけました。

----『ダンシング・ベートーヴェン』で、ジル・ロマンとキーラ・カルケヴィッチの娘のマリア・ロマンをインタビューに起用したことは、素晴らしいアイディアだと私は思います。マリアはダンサーの道を断念して俳優としてスタートしていますが、この仕事により、両親が体験したバレエを再構築していく過程を辿ることができるのですから。

アランチャ そうですね、マリアの母のキーラ・カルケヴィッチは『第九交響曲』第3楽章を踊っていたわけですし。そして、直接ベジャールとこの作品を稽古したことのあるダンサーと話すことはすごく重要なことでした。そういうかつての経験を持つダンサーに話を聞けた、ということはこの映画のモティーフにより深みを与えている、と思います。

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----ダンサーを断念したマリアは、やはり別の道を選ばれたアランチャ監督の想いと重ねた問いかけもできたのではないでしょうか。

アランチャ そうですね。私も家族がアーティストだったという家庭環境に育ったので、彼女の中にちょっと自分自身を見出すところはあります。

----ご家族はどいうジャンルのアーティストでしたか。

アランチャ 父が映画監督で母が演劇の女優でした。

----そうするとカルロス・サウラ監督などと一緒に活躍されていたわけですね。

アランチャ そうです。私はアーティストとしては恵まれた環境だったと思います。

----第2楽章のメインをい踊ることになっていたカテリーナ・シャルキナが、キャスティングされたのちに妊娠していることがわかり、役を降りなければならなくなります。そういう運命の彼女の人生。そのあとを受けてメインを踊るダンサーのこと、そして父となることが決まったオスカー・シャンコンの喜び、などがまるでシナリオを書いたドラマのように描かれました。たいへん感心しました。

アランチャ フィクションも人生の題材にしているわけですし、自然にこういうストーリーを作る神様が最も上手い脚本家なのではないでしょうか。

----その子供が誕生する喜びと『第九交響曲』のテーマが一致しているところが、また、素晴らしいですね。

アランチャ それは一つの芸術作品ができていく過程とも重なると思います。本当に小さな胎児が生まれて大きな赤ちゃんになっていく過程も重なるので、その意味でもよかったです。

----東京バレエ団も描かれていて、ベジャール・バレエ団と親しい関係のカンパニーであることがよく表れていました。

アランチャ そうですね、ベジャールは日本と結びつきが深かったですし、東京バレエ団とも多くの仕事をしました。ベジャールの後継者であるジル・ロマンが、東京バレエ団との結びつきも受け継いでいます。

----ベジャールは前世は日本人だった、とも言っていたと言われています。

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アランチャ そうですね。『M』『ザ・カブキ』は東京バレエ団のために振付けた作品ですし、ベジャールは東京バレエ団は自分の第2のカンパニーだと言っていました。

----おかげさまでわれわれ日本人は、ベジャールの素晴らしい作品をたくさん観る機会に恵まれました。ただ、東京の評論家はせっかく登場しているのに、マリアさんの基本的な質問に何も答えず、笑っているだけでしたね。

アランチャ あれを見ると観客もみんな笑うんですけれど、長編映画の中にはああいう笑いの瞬間も入れたかったので、良かったとは思います。あのインタビューの時にはマリアは東京に来ることができず、評論家のショットは東京で撮り、マリアのショットはマドリッドで撮ったわけです。

----それから『第九交響曲』で舞台の上に円を描いたのは、禅の思想と関係があるような話も出ていました。確かにベジャールは禅の僧侶の名前を持つほど禅には精通していましたが、サン・マルコ広場で上演した時は円ではなく六角形が描かれています。ですから、『第九交響曲』で舞台に描かれた図形は禅とは関係がなかったと思いますが。

アランチャ 確かにベジャールは会場に順応してモチーフを舞台に描いていましたので、サン・マルコ広場では円は描きませんでした。でも、初演のブリュッセルのシルク・ロワイヤルやオペラ座が再演した時などは円に戻っています。というのは舞台上のデッサンの問題のみならず、振付の最後でダンサーたちが手をつないで演じる動きが円なので、あの振付が手を取り合って丸くなるという動きに合わせたものだと思います。

----今でこそ多くなりましたが、ベジャール作品のように、様々な人種の女性や男性が舞台の上で、ともに<大きな喜び>を表そうと一心に踊っている姿を見ると、自由で豊かな大きな精神を感じました。こうしたベジャールの精神が映画『愛と哀しみのボレロ』などでも共感を呼び、80年代のEU結成やベルリンの壁の崩壊などにも刺激を与えたのではないでしょうか。

アランチャ ベジャールは本当に他の文化に興味を持っていた人でした。単に舞台上に様々な人種を登場させたら面白いか、というとそうではありません。世界に興味を持って世界の文化を研究している人でした。ですからオリエンタルの東洋の文化も、ドイツの文化も、イタリアの文化も深く学んでいました。ですからただ混然とするだけではなく、文化に基づいて作品を作っていました。ベジャールは偉大な知の巨人であり、たいへんスピリチュアルな人でもありました。

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----アギーレ監督が最も感動したベジャール作品はなんですか。

アランチャ マーラーの曲に基づいたソロ『アダージェット』です。ジョルジュ・ドンのために振付られましたが、私はジル・ロマンが踊る『アダージェット』を観て、本当に感動しました。

----私も同感です。すみません、私は年寄りなので『アダージェット』は、ロマンの舞台もドンの舞台も見ております。
ところで、アランチャさんは『アン・アメリカン・スワン・イン・パリ』とか『ベジャール・バレエ・イン・ガルニエ』といった映画も監督されていますが、私たちには見られないですね。

アランチャ 『ベジャール・バレエ・イン・ガルニエ』は。1時間足らずの映画だったので、日本語の字幕付きDVDが出ています。『アン・アメリカン・スワン・イン・パリ』は30分くらいの映画なのでDVDにはなっていません。

----『アン・アメリカン・スワン・イン・パリ』はどのような内容ですか。

アランチャ これは『ベジャール・バレエ・イン・ガルニエ』を撮影している時に起きたエピソードに基づいています。ダリア・イワノワというロシア人のダンサーがオペラ座の本番の直前に病気で倒れていましました。代役になったのが、『ダンシング・ベートーヴェン』にも出演しているキャスリーン・ティエルヘルムというアメリカ人のダンサーでした。本当にギリギリの時間で代役となり、本番を迎えなければならなかったという、本当にあった出来事をちょうどその時に撮影中だったドキュメンタリー映画『ベジャール・バレエ・イン・ガルニエ』とは、また別の映画として撮影したものです。

----それは、ぜひ、2本同時に公開して欲しいです。

アランチャ そうですね、『アン・アメリカン・スワン・イン・パリ』は中編の映画祭で2回ほど受賞していて、評価されていると思っています。

----最後の質問ですが、スペインは舞踊大国です。プティパはスペイン旅行の経験をもとに『ドン・キホーテ』を振付けましたし、ディアギレフはスペイン舞踊そのものをプロデュースして世界に紹介しようとしました。ベジャールもスペイン人のダンサーの資質に惚れ込んで育てようとしましたが、様々な事情によりうまくいきませんでした。レオニード・マシーンだけはスペイン舞踊を自分自身でマスターして見事に踊りました。スペイン舞踊とクラシック・バレエの交流について関心はお持ちですか。

アランチャ スペイン舞踊の最も豊かなトラディショナル・ダンスはフラメンコですね。これは国境を越えて世界中で力とエネルギーが賞賛されています。クラシック・バレエ界でもコンテンポラリー・ダンスでもスペイン出身のダンサーは活躍しています。ジョゼ・マルティネスやアンヘル・コレーラ、タマラ・ロホ、ルシア・ラッカラなどスペイン人は多いのでは。今回の映画でもエザベット・ロスはスペイン人ですし・・・・スペイン人の血の中には、重要なものとしてダンスがあります。

----すみません、もっともっとお話を伺いたいのですが、時間がなくなってしまいました。本日は、たいへん興味深いお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。さらなるご活躍を期待しております。

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『ダンシング・ベートーヴェン』
振付:モーリス・ベジャール
監督:アランチャ・アギーレ
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲『交響曲第9番 ニ短調 作品125』
出演:マリヤ・ロマン、モーリス・ベジャール・バレエ団、東京バレエ団、
ジル・ロマン、ズービン・メータ
配給:シンカ  協力:東京バレエ団/後援:スイス大使館
(c)Fondation Maurice Béjart, 2015  (c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015

12月23日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、
YEBISU GARDEN CINEMA他にて公開

http://www.synca.jp/db/

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