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インタビュー/佐藤 円
[2016.07.14]

「エトワール・ガラ」開幕直前インタビュー:バンジャマン・ペッシュ

2005年にスタートし8月に5回目を迎える「エトワール・ガラ」。アーティスティック・オーガナイザーを務めるバンジャマン・ペッシュが公演直前に緊急来日。早速、最新のインタビューをお届けします。

----「エトワール・ガラ」は今回が5回目、10年以上続いているということですけれど、長い期間続けるというのは素晴らしいことですね。毎回クラシックやコンテンポラリーの多様な作品をプログラムされていますけれど、今回のプログラムを組むにあたってテーマというか狙いがあるようでしたらお聞かせください。

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ペッシュ 今回は特にネオ・クラシックの作品に狙いを当てて、リアム・スカーレットなどをご紹介します。また、音楽は生演奏にもこだわり、録音音源を使用する演目の他に、ピアニストの方に協力いただいている生演奏の演目があります。つまり、視覚としてはダンスを見ていただき、聴覚では音楽を感じていただく。2つの要素を楽しんでいただけると思います。

----ピアニストがオペラ座の方なので安心とは思うのですが、ガラ公演で生演奏となると演奏者の方とのリハーサルなど、合わせるのは大変なのでしょうか。

ペッシュ いいえ。むしろ生の演奏で踊るほうが私たちとしては踊り易いです。というのも、ピアニストの方が私たちの身体の動き、ダンスに合わせてくださるのです。録音の場合には音楽の方に私たちが合わせるという必要がありますけれども、ピアニストの方は私たちの身体のリズムを感じ取って、それに合わせて演奏してくださいます。ですから、振付のリズムと、ピアニストの方のリズムとの調和を楽しんでいただけるかと思います。

----では、よりいっそう、ライブとしての楽しみがあるということですね。

ペッシュ そうですね。ダンスにまた新たな色彩が生まれると思います。

----それは楽しみですね。今回のプログラムのなかでオペラ座のレパートリーにはない『三人姉妹』が入っていたのですが、これはあなたが選んだのでしょうか。それともダンサーからのリクエストですか。

ペッシュ 『三人姉妹』に関してはダンサーから踊りたいと言ってきた作品です。アマンディーヌとオードリックからやってみたいと声が上がりましたので、上演許可などを得るために私が奔走しました。この作品を踊るというのは、英国バレエのスタイルにオペラ座のダンサーたちがどれだけ浸ることができるのか、というチャレンジになります。

----ほかの演目はあなたが提案することが多いのですか。

ペッシュ いつもみんなと意見交換をしながらやっています。私のほうからこういうものをやりたいのだけれど、と提案することもありますし、彼らからやってみたいという声が上がることもあります。ただ、彼らより私はキャリアがありますので…。それでも、意見交換しながら決めています。

----意見交換はリハーサルの合間などに行っているのですか。特別に時間を設けたりするのでしょうか。

ペッシュ 毎日会っていますからね。僕はこれやろうと思っているけれどどう思う?、なんてやり取りを日々の生活の中でやっていますよ。

160714_0029.jpg ローラ・エケ&オードリック・ベザール
『ジュエルズ』より (c)Hidemi Seto
160714_0124.jpg アマンディーヌ・アルビッソン&マチュー・ガニオ
『白鳥の湖』より(c)Hidemi Seto

----今回、演目上舞台装置が簡素なので照明演出にこだわりたいという話を聞いたのですが、具体的にプランニングやチェックにかかわっているのですか。

ペッシュ 照明による雰囲気づくりということを大事にしてきました。だんだんと私も慣れてきましたので照明を駆使して、様々な空間を作るということを考えています。やはりセットに関しては持ちこむことが難しいですし、照明ならばいろいろなことができるので重要です。照明によって作品の立体感や深みを出していきたいと思います。

----今回、オペラ座のダンサーたちはエトワールも多く、スケジュールを組んだりすることは難しかったのではないでしょうか。
   
ペッシュ シーズンが7月15日で終わりますので、7月末からのこの時期というのはダンサーたちがスケジュール的に一番押さえやすい時期でもあります。また、前回に関してはオペラ座以外のダンサーたちも招待していたのですけれど、今回はオペラ座以外のダンサーは少ないので、よりオペラ座のダンサーたちにスポットを当てています。もちろん、シルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコといったハンブルク・バレエのダンサーに来てもらいますので、彼らとオペラ座のダンサーとの交流の場でもあります。

160714_0742.jpg ドロテ・ジルベール
『眠れる森の美女』より(c)Hidemi Seto
160714_0799.jpg アマンディーヌ・アルビッソン&マチュー・ガニオ
『眠れる森の美女』より(c)Hidemi Seto

----エルヴェ・モローが新作を持って参加するはずでしたが、怪我で来日できないということで残念です。このように急きょほかのダンサーに出演依頼をして、演目を決めて、というのは大変だったのではないですか。

160714_Ladame.jpg アバニャート&バンジャマン・ペッシュ
『椿姫』より(c)Hidemi Seto

ペッシュ こうしたことはこの世界ではつきもので、あいにくですけれどもこうした環境にも慣れてきてしまいました。ダンサーはみな忙しい人たちですし、身体の故障ということもありますので、どうしてもスケジュールの予期せぬ状況はあるのです。エルヴェに関しては「エトワール・ガラ」に3回目の参加になるはずで、この公演の成功のために力を貸してもらいたいと思っていたのでとても残念に思っています。彼自身も悲しく残念な思いでしょう。それでも何とか公演は行わなければなりません。残念なことになってしまう人もいれば、それがほかの人の幸せにもなるということで、私はエルヴェに代わって出演してくれる2人の若い才能あるオペラ座のダンサーを選びました。彼らが新たな才能を開花する機会になってくれればと思っています。

----怪我についてはあなたも怪我をされて、最近では作品によっては踊れないということもありましたね。男性ダンサーの怪我が、オペラ座のダンサーたちには多いように日本で見ていて思うのですが、そのあたり、スケジュールが過密なのか、なにか感じられることはありますか。

ペッシュ 単純に男性ダンサーのほうが女性ダンサーよりも身体的にきついからだと思いますよ。女性をリフトしたり…。バレエの歴史をさかのぼっても女性ダンサーのほうが現役としての息が長いですよね。女性のほうが楽だということでは決してないですけれども、男性ダンサーのほうが身体にかかる負担は大きいですし、例えば跳躍なども負担が大きいと思います。

----やはり、職業病のようなものとして付き合っていくしかないと。

ペッシュ ウィ。(大きくうなずく)

----まもなくオペラ座のシーズンが終わりますが、2月20日にアデュー公演をされてから今までの期間は、オペラ座でどのように過ごされていたのですか。ほかのダンサーと一緒に普通にクラスを受けたりしていたのでしょうか。

ペッシュ うーん、何していたかな? 覚えていない…。(笑)いやいや、ちゃんと仕事はしていましたよ。でも、終わりということは終わりでしたから、友人に会いに行ったり、最後にオペラ座で踊っておこうということもありましたし、日常を取り戻すということですかね。

----では、リフレッシュされたということですか。

ペッシュ ええ、週末、山にも行きました。

----どちらまで。

ペッシュ スイスのほうへ。

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----ところで、このシーズンはミルピエ監督の右腕としてダンサーとしての仕事以外にも動かれていたようですが、オペラ座の監督が変わることになって、あなたは来シーズンオペラ座に残ってなにかお仕事をされるのでしょうか。

ペッシュ いいえ。私はオペラ座には残りません。

----今までの長いキャリアの中でたくさんの作品を踊られてきましたが、特に思い出深い作品があったら教えてください。


ペッシュ まず思いつくのは私が最も多く踊った役ともいえる『アルルの女』ですけれども、それ以外にも自分が踊った役はすべてが好きかもしれないです。今思い出すと、例えば『火の鳥』も好きですし、初めて踊ったときの『白鳥の湖』『ジゼル』、キリアンのこともよく覚えています。彼がスタジオでどんなだったか、とか。でも、これだけ長いキャリアになってきますと、ひとつふたつに絞るということはなかなか難しいので、どれか挙げてくださいと言われると何時間でも話せてしまいます。

----今回『ル・パルク』を踊られますね。アデュー公演でも『ル・パルク』を踊られましたが、この作品についてはどうですか。やはり思い入れが強いのではないですか。

ペッシュ『ル・パルク』は2014年に踊った作品です。これは私が腰の怪我をする前に踊った最後の作品で、この怪我の前と後で私のダンサー人生が大きく変わりました。怪我によって踊るレパートリーが随分と変わってしまったのです。私は手術をせずに、自分の身体で踊れるものを踊るという選択をしました。つまりこの『ル・パルク』を踊った時というのが私にとっての転機で、キーポイントだったのです。ですからアデュー公演でも選びましたし、今回の公演で日本の皆様に是非お見せしたいと思いました。

----『スターバト・マーテル』では振付をされていますね。今回は以前に踊られたものを少し新しくされたと聞いていますが、また今後も振付活動をされる意欲はありますか。

ペッシュ この作品は、2012年に日本の皆さんが地震と津波に苦しんでいらっしゃるときに作った作品です。こちらを今回修正しました。画家が絵にタッチを加えるような形で修正をしました。良い作品というのは美味しいワインに例えられると思うのですが、時がたってよりその味が成熟してくるということがあると思います。成熟したいい作品になっていればと願っています。実はパレルモで振付作品を依頼されたことがあり、その際新しいものということではなく、この『スターバト・マーテル』を出発点とし、20分ほどの作品に仕上げていったということがありました。振付活動については、私自身は自分のことをあまり振付家的ではないと思っているのですが、自分のこれからに関しては芸術監督や企画制作ということで考えているのですけれども、振付家としての将来というものも排除せずに今後考えていきたいと思います。

----ぜひほかの振付も見てみたいです。
ところで、オニール 八菜さんについてお聞きしたいのですが、あなたが彼女に指導するレッスンDVDが8月に発売されると聞きました。彼女の踊りを見てどのように感じてらっしゃるかお聞かせください。


ペッシュ とても素敵なダンサーだと感じています。私たちのオペラ座の遺産というべきフランス・スタイルを自身の力で習得したダンサーだと思います。レッスンDVDでコーチとして彼女を指導しましたけれど、その時は私なりのダンスへの視線、役に対する向き合い方などを彼女に伝えようとしました。彼女の様子を見ていますと非常に順応性が高く、人の意見に耳を傾けることのできる人であると感じました。こうした資質をもって今後さらに成長されると思いますし、また次回の「エトワール・ガラ」には参加してほしいと思っています。

160714_03.jpg オニール八菜を指導するバンジャマン・ペッシュ
DVD「パリ・オペラ座エトワールが教えるヴァリエーション・レッスン」(新書館/8月上旬発売)より (c)Francette Levieux

----「エトワール・ガラ」は、日本のファンにもすっかり定着している公演です。ぜひこれからも続けていただきたいと願っています。
ペッシュさんご自身はオペラ座を引退されましたけれども、舞台に立って踊られる予定があるのでしょうか。例えば次回の「エトワール・ガラ」でその姿を見ることはできそうですか。


ペッシュ それは、その時のお楽しみです! 今日の時点ではお返事は出来ないですけれど。(笑)
今後は自分の気持ちに素直に、踊りたいと思えば踊る、というようなスタンスで行きたいと思いますので、今から全く踊らないということでもありませんし、絶対に踊るということでもありません。その時の自分の身体のコンディションもあるので、どちらかになるでしょうか。

----最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

ペッシュ 私たちのこの企画は日本のファンの皆さまがいらっしゃるからこそ成り立っているものです。皆さまに喜んでいただくためにこの「エトワール・ガラ」を作っています。私が一番うれしいのは、回を重ねるごとに多くの皆さまが会場にいらしてくださるということにつきます。

----ありがとうございました。

ペッシュ(日本語で)ありがとうございました。

●8/3(水)〜7(日)
●Bunkamuraオーチャードホール
●出演=
・パリ・オペラ座バレエ
<エトワール>エレオノラ・アバニャート/アマンディーヌ・アルビッソン/ドロテ・ジルベール/ローラ・エケ/バンジャマン・ペッシュ/マチュー・ガニオ
<プルミエ・ダンスール>レオノール・ボラック/ オードリック・ベザール/ユーゴ・マルシャン
<スジェ>ジェルマン・ルーヴェ
・ハンブルク・バレエ
<プリンシパル>シルヴィア・アッツォーニ/アレクサンドル・リアブコ
・久山亮子<パリ・オペラ座バレエ専属ピアニスト>

●お問い合わせ=Bunkamuraチケットセンター 03-3477-9999(オペレーター対応10:00〜17:30)
http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/16_gala/

◇その他全国公演
<愛知>
8/9(火)愛知県芸術劇場大ホール
お問い合わせ:エトワール・ガラ名古屋公演事務局 052-678-5308

<大阪>
8/11(木・祝)フェスティバルホール
お問い合わせ:フェスティバルホール 06-6231-2221

160714_main.jpg (C)James Bort,IkAubert