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インタビュアー/関口紘一
[2011.07.25]

公演直前インタビュー、Noism芸術監督 金森穣

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サイトウ・キネン・フェスティバル松本で、バルトークのバレエ『中国の不思議な役人』、オペラ『青ひげ公の城』を演出・振付けする、Noism芸術監督 金森穣

----サイトウ・キネン・フェスティバルでバレエ『中国の不思議な役人』とオペラ『青ひげ公の城』の演出・振付をなさるそうですね。以前サイトウ・キネンのヤナーチェクのオペラに出演された時はNoismとしてでしたか。

金森 いえ、井関佐和子やほかのメンバーと出ましたが、Noismとしてではありません。トンボの役だったりしたので、プロデューサーもまさか私が出演をOKするとは思っていなくて、Noismの舞踊家を推薦してもらいたいということでした。私は小澤征爾さんと一緒に舞台に立てるということは貴重なことなので、役は何であれ出演したいと思いました。小澤さんが指揮する舞台でしたからね。その縁が今度の仕事に繋がったと思います。

ーーーー大きなお仕事ですね。

金森 最初はバレエだけだったんですけど、一年ほど前に「オペラとバレエをぜひ両方やってみないか」という話になりました。さすがにその時は凄く悩んで三ヵ月をくらいあずかって考えました。

ーーーー両作品ともバルトークではありますが。

金森 そうですね。バルトークで二つとも一人の演出家が創るとなった時に、まったく別物を創るのではなくて、自分が一晩でお見せするコンセプトを自分なりに持てるのであればやりたいと思って模索しました。自分なりの演出アイディアでバルトークのオペラとバレエがひとつのコインの裏表みたいに繋がるコンセプトが見出せたので、これはぜひやりたいということになりました。

ーーーー2作品ともNoism が出演される。

金森 そうですね、『青ひげ公の城』のほうは歌手のかたが二人出演しますが『中国の不思議な役人』はNoism だけで、Noism 1も2も総出演です。演出を引き受ける際に、あちこちから舞踊家を集めるのではなく、自分の舞踊言語をじっくり理解しているダンサーで創りたいとお願いし理解していただいたので。

ーーーー振付家の方がオペラの演出をなさるケースはしばしばありますが、歌手やコーラスなどの動かし方が難しそうです。

金森 今回は『青ひげ公の城』に歌手が二人出るだけなので、どちらかというと取り組み易いかもしれません。私は歌手の方に舞踊的な動きは求めません。歌手の方は歌うことを専門的にやられていますから、その身体を理解した上で構成していきたい。逆に捉えればうちのメンバーにオペラを歌わせるようなものですから、それはあり得ない。オペラは総合芸術で歌手の方がいてダンサーもいたり、時には役者の方もでたり、そういう方たちの専門職性を理解した上でそれを総合的に演出していく力量が求められると思います。

ーーーー装置はどうされるのですか。

金森 今回、美術はNoism で何回も一緒にやった田根剛です。空間的にも予算的にも大きいですから、しっかりしたものを作りますけれど、ただいわゆるオペラの具象的な背景みたいなものにはなりません。演出意図に必要な美術を作り上げるつもりです。

ーーーー『中国の不思議な役人』はベジャールも創っていますが。

金森 あれは私が18歳の時、ルードラにいた頃、目の前でクリエイションしてました。だからローザンヌ、メトロポール劇場の初演を観てます。

ーーーーそうですか、プレッシャーになりませんか。

金森 凄く強烈に印象に残っていますし大好きな作品です。影響を受けてないといえば嘘になりますが、自分なりの物語の解釈で自分なりに『中国の不思議な役人』を描こうと思います。

ーーーーあの作品は物語といったらいいんでしょうか。

金森 役人の不思議さをどうとらえるかが、演出側のメインのコンセプトになると思います。私の演出では、役人は人形として登場します。人形ですから死にません。しかし生と性を求め、人間になることを望む役人は、人間になる事で同時に死を手に入れるのです。「エロス・タナトス」ですね。役人の不思議さと娼婦であるミミのおかれた境遇とが鏡面のように惹かれ合います。ミミというごろつき一家のコミニティの中の生け贄と役人というマクロなコミニティ、社会の中の生け贄が互いに惹かれあって、愛と死をともにするという構成になると思います。

ーーーーまさに金森さんのテーマですね。

金森 逆にいうといわゆる仕事として演出するということにはあまり興味がないですから、これはほんとに自分なりに創りたいと思いました。

ーーーー「中国」ということはあまり・・。

金森 私の演出では闇の中から選ばれた生け贄となりますが、残念ながらサイトウ・キネンの中国公演では上演しません。

ーーーー『青ひげ公の城』は以前にアレッシオ・シルヴェストリンが創りましたね。

金森 そうですね。外部振付家招聘企画で振付けた『DOOR INDOOR』は『青ひげ公の城』のドアを題材にしていました。
『青ひげ公の城』は内と外というメインテーマがあって、男女もそうですけど、表層として外側に見えるものと、その人の内側にあるものを知りたいと願う欲望が描かれています。
私の解釈ということになるのですが、この作品では、女性の強い娼婦性、自分の色気を使って、男性の開けてはいけない扉を開けさせてしまうわけです。実際に自分の欲望に振り回されるユディットも人形そのものであるし、内と外ということでいうと、外のユディット・外の青ひげを歌手の二人で、内のユディット・内の青ひげそして影たちを舞踊家が演じます。ですから内側と外側というのは常に自分の中にあります。
いろいろと考えていくと『中国の不思議な役人』で人間になろうとする役人と、『青ひげ公の城』で人間であるがゆえに愛憎の感情に振り回されて人形のようになってしまう人間ユディット、といったように、コインの裏表のような構造を持っていて、それをひとつのイブニングに一人の演出家として創れるということは、たいへんやりがいのある仕事だと思います。バルトークの音楽は、猥雑さとか暗さとかがあっては好きです。そして『青ひげ公の城』は指揮が小澤征爾さんですから。
オペラにの演出に関しては自分もまだ未体験ですが、まず音楽が一番です。それを理解したうえで演出をしないといけない。私は私の世界をNoismで作ってますから、私たちの持っている身体的なスキルと表現の力で、オペラの枠を壊すことなく新しい角度からオペラを提示出来るかどうかというのが、われわれのチャレンジです。

-----一方はオペラでもう一方はバレエ・・・。

金森 『中国の不思議な役人』は沼尻竜典さんの指揮で、私の演出・振付です。しかし楽譜に細かく書き込まれた台本があります。バルトークによる何小節分は何をしているところ、という指示が細かく書き込まれているわけです。そのことを全部度外視して自分なりに解釈した演出をするのならば、Noismで実現すればいいわけです。そうではなくて、今回は作曲家のラインをしっかりと追いながらも自分なりの解釈とか、自分なりの表現をそこにどう見い出せるか、それが今回のチャレンジになります。

----北京と上海を回るサイトウ・キネン初めての中国ツアーにもっていくのですか。

金森 ええ、『青ひげ公の城』を持っていきます。そのほかにもオーケストラのコンサートなどいろいろ帯同します。
そしてこれはフィレンツェのオペラハウスと共同制作なので、来年、『青ひげ公の城』と『中国の不思議な役人』をフィレンツェでも上演します。『中国の不思議な役人』はNoismが踊りますが、『青ひげ公の城』はフィレンツェのオペラハウスの舞踊家も踊ります。
オペラハウスの舞踊団というのは、また違うところがあると思います。当然、Noismの場合とはテクニックなどにも違いはあると思います。

----指揮者が芸術監督を務め、オーケストラと一緒に仕事をするのはまた違いますか。

金森 ヨーロッパにいた頃、リヨンとかネザーランド・ダンス・シアターIIでは年間1プログラムは、オーケストラと一緒に仕事をしていましたし、20歳で初めて作品を創ったときも指揮者の方と話し合って生オケで上演しました。ただ、今回のように楽譜に基づいて創るというのは初めてです。今までは音楽をもっと直感で受け取ってきましたけれど、今回は変拍子も多いし、楽譜に書き込まれた指示もいろいろあるし、カウントで割って変拍子を数えて、というふうにやっているので新しいプロセスですね。オーケストラとリハーサルする時には、スコアの番号とかダンサー自身も分かるように創っていかないとなりません。

-----いつもは先に動きの設計図を書いて振付けられるのですか、それともダンサーと一緒に動きを創って行く・・・。

金森 物語があるときは先に設計図を書きますけれど、物語のないものはまず、みんなと向き合う、もちろん先にも考えておきますけど。特に最近は、一年二年先の依頼が今ここに来ますから、今のうちに自分1人で考えておかないとなりません。例えば今回のサイトウ・キネンにしても2年前から劇的舞踊『ホフマン物語』を創りながら自分の中で考えてきたものを、やっと今、みんなとシェアし始めているわけです。メンバーたちはその間、目の前のことでいっぱいいっぱいですから。
これだけ時間をかけて楽譜も勉強して台本も何回も考えて、いろいろとやるのは初めてですね。私のタイミング的には3〜4年まえから物語性がある作品を創り始めているので良かったですが、新しいチャレンジであることは間違いありません。貴重な体験ができるので、Noismの一人一人にここで経験したことを血肉にしていってほしいと思ってます。

----サイトウ・キネンの後はどういう予定ですか。

金森 冬に劇的舞踊『ホフマン物語』を再演して、来年年明けNoism2の公演があって春にはフィレンツェに行って、それからNoism1の新作を6月末に上演します。これは新潟市の『水と土の芸術祭』があるのでそこの参加作品ともなります。
次の新作は物語的な要素はあるにせよ、もうちょっと違うアプローチもしたいな、と思っています。

----井関さんとのunit-Cyan(ユニットシアン)の公演もありますよね。

金森 はい、9月に高松です。
 

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----これはご自身ではどういう位置づけですか。

金森 これはもう、Noismではできないことをやろう、ということがメインのコンセプトなので極めてざっくばらんに展開しています。何を言われようとも好きなことをやる! ということですね。今後、シアンがどういう展開をしていくかは分かりませんが、Noismとしてストイックに劇場文化とかかわっていく中で、バランスをとるためでもあります。自分の中ではある程度、腹をくくって押さえ込んでいることがあって、それは例えば佐和子とのプライベートというか、人間として自分自身が抱えている幼児性だったり様々なことをどこかで吐き出さないと、ちょっと身が持たないので。今は時期的にそういう時期でもあるし、別の振付家の作品に身を捧げることにはあまり興味がないので、自分自身の振付で自分と向き合いたいと思い、始めました。そういう中でゼロから、シアンに関しては幼少の頃からを立ち上げて自分と向き合いたい、と思っています。

----海外公演もなさっているし最前線で活動されていて、現在の世界の舞踊の状況をどのように見ていらっしゃいますか。ベジャールやピナ・バウシュも死んでしまったし・・・ローラン・プティも。

金森 20世紀は戦争もあったしある種の破壊の世紀であって、物事を壊す大きなエネルギーをかけて作品を立ち上げてきた偉大な先人たちがいました。21世紀になった今、われわれの目の前にあるものを壊すのにそんなには大きなエネルギーはいりません、もう壊れてしまっているから。みんなで物凄いエネルギーを懸けて壊さなければならないものなんてないんです。
舞踊あるいは舞台芸術の世界でいうと、個人的な意見としては、20世紀に壊された瓦礫の山から自分たちにとって受け継いでいかなければいけないもの、あるいは未来に対して必要なものを選びとる力が必要です。それこそオペラの演出をするという時、オペラを壊すのではなくてオペラという人間の文化の中で守ってきた貴重なものを自分たちの手にとってもう一度再現できるとか、今の人たちが観て何かを感じることができるものに、もう一度作り替えていくというか、再構成が必要なんじゃないかと思います。それが結局自分が劇場を選ぶ理由でもあります。ヨーロッパはもう既成の劇場文化を壊しちゃってるから、いっそ壊しちゃえばいいんですけど、日本は箱だけ作って中にはなにもありません。もう一度時代に逆行して、壊すのではなくて何かを築き上げていくことの方が今は困難な時代です。その困難なこと成すには膨大なエネルギーが必要ですが、そこにわれわれは活動の意義を見い出しています。ヨーロッパの場合は何にエネルギーを注いでいけばいいか見い出せていないのでないか、と思います。

----19世紀型の舞台芸術は劇場だけじゃなくて、周辺のすべてのスタイルを創り上げていた。それがなくなって・・・。

金森 だから私は敢えて劇場にって、集団活動をしようよ、と言っています。それは今では希薄になっていることだし、単純にいえば一緒にトレーニングをしようよとか。多分、今は何に対して戦いを挑むか、と言うことが見い出せない時でなんです。
今のヨーロッパの詳しい事情はわからないけれども、逆に今はまさに日本に可能性があると思っています。これだけ多くの箱だけ作ってしまって、20年たってやっと法律を作ろうとしているわけです。ヨーロッパは劇場文化を創って、それだけのことをやってきて行き詰まってしまっています。それを客観的に学びながら日本の中で新しい劇場文化構想を構築していくことが逆に、21世紀の世界的に見た劇場文化の中で日本のオリジナルになるだろうし、おもしろいと思います。
どの時代の芸術家もその時代を生き抜かなければならないし、生き抜くことが使命であって、その時代だからこそ生まれるのが芸術家であり、芸術作品であるわけです。
今、新潟が恵まれているというよりも、新潟でわれわれの時代を戦っているのです。その中でもし新潟が続かなくなったら、その中で舞踊家としてどう戦うのか、どういう声をあげるかというのがわれわれの活動であって、別にこれがあればいいとか、これがなければできないとかいうのであってはならないと思います。

----本日はお忙しいところありがとうございました。今回の公演がNoismのさらなる飛躍になることを願っております。