インタビュー&レポート

インタビュー: 最新の記事

インタビュー: 月別アーカイブ

インタビュアー/関口紘一
[2010.08.10]

映画『小さな村の小さなダンサー』に主演した
バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル、ツァオ・チーにインタビュー

interview1008b03.jpg

----『小さな村の小さなダンサー』はたいへんおもしろく拝見しました。この映画はどこでロケをなさったのですか。
ツァオ・チー 中国のシーンは全部北京です。あとはクルーの一部がヒューストンで撮って、それからシドニーで多くのシーンを撮影しました。

----そうすると、グレアム・マーフィーの作品は何作か踊られたのですか。
ツァオ・チー そうです。今回は、オーストラリア・バレエ団やグレアム・マーフィーとも密に仕事をすることができました。マーフィーは私にとって作品に対する解釈が近い方だと思いました。『春の祭典』なども男性のパートが非常にパワフルでアスレチック、肉体を活かす振付にしたい、ということで共通するものを感じました。
それから「君はもう私の『白鳥の湖』のほとんどの部分をを踊ったんだから、今度の日本公演で全幕踊ったらどうか」というようなジョークを交えたリラックスした話になったりしました。いつかまた一緒に仕事をしたいと思っています。

----映画に登場していた『白鳥の湖』はどのように撮影されたのですか。
ツァオ・チー 映像として使うのは3分くらいだったので、『白鳥の湖』のいいところ撮りをして見せています。舞台で全幕を観るとまた振付が違っている部分もあります。

----もちろん、サムソヴァ、ライト版『白鳥の湖』も主演されているわけですが、今回のように、現代の服装でチェイコフスキーのメロディを踊られるというのはどういう気分ですか。
ツァオ・チー 現代の服装だとパンツですから、足がカバーされているというだけで気持ちの上で自由度は増します。タイツを履くとやっぱりクラシック・バレエ向きの姿勢になるんですが、シャツとズボンだと異なったものが自然に姿勢に表れます。逆に、普通の現代的な格好でクラシックのポーズをとると不思議な感じがすると思います。
バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)のダンサーとしては、モダンなスタイルにも慣れていますから、特に難しいことはありませんでした。

----オーストラリア・バレエ団の来日公演にゲスト出演される、というようなことがあれば日本のファンも喜ぶと思います。
ツァオ・チー 今回の日本ツアーは時間的に無理かもしれませんが、映画に出演したことで、オーストラリア・バレエ団のディレクターのデヴィッド・マッカリスターやダンサーたちとも親しくなれたので、別の公演でゲストのような形で出演しようという話は進行しています。彼らと長い時間一緒に仕事をして仲良くなれたので、もちろんBRBは私のホームですけれど、二つ目のホームができたような気持ちです。

interview1008b04.jpg

----映画には『春の祭典』の舞台もでてきましたが、あの火が走るシーンもあそこだけを撮影したのですか。
ツァオ・チー 『春の祭典』は全部踊られていますが、まず、ダンスのパートを2日間で撮影してから、それをテレビのモニターで放映しながら観客の反応を撮りました。

----そうですか、あのシーンはたいへん感動的で、母親役のジョアン・チェンが素晴らしかった。
映画の主人公のリー・ツンシンの実際の舞台をご覧になったことはありますか。

ツァオ・チー 彼は私の17歳年上になるので残念ながら、生の舞台を観たことがありません。ヒューストン・バレエ団には『春の祭典』などの映像が残っていましたので、それを観て動き方などを研究することはできました。

----リー・ツンシンの中国時代のバレエ教師は、あなたのお父さんだと聞いたのですが。
ツァオ・チー そうです。彼が北京舞踏学院に行ったのは11歳のころですが、男女ペアの若い先生が一人一人の生徒の面倒をみる、というシステムになっていました。父がバレエ教師で母も音楽を教えていて、リー・ツンシンの担当でした。もちろんバレエも教えたし、普段の生活も監督する立場でした。

----では、あなたも彼がヒューストン・バレエ団に亡命した事件はご存知でしたか。

ツァオ・チー その当時、私はまだ幼かったので細かいことまでは知りませんでしたが、彼はいいダンサーでしたし、北京舞踏学院からの最初の亡命者だったのでそのことは知っていました。

----映画を観て驚いたのですが、中国は革命などの大きな混乱を経験したのにも関わらず、バレエに関して非常に正確な知識を失わず、しっかりとしたバレエ教育を行っていたということです。そうした知識はロシアからもたらされたのでしょうか。
ツァオ・チー そうですね、特に70年代にはロシアのバレエをじっくりと学んだ先生が多かったと思います。ロシアの教師が中国に来て、よくマスター・クラスを行ったりしていました。私たちの時代にはそういうことはほとんどなかったので、当時はやはりロシア色が強かったのだと思います。

----映画ではバリシニコフが踊っているビデオを、宝物のように大切に扱っているシーンもありました。バリシニコフはヴァルナ国際バレエコンクールの金賞を受賞していますが、あなたもヴァルナでゴールドメダルを受賞しました。
ツァオ・チー そうですね、やはり、かつての偉大なダンサーたちが受賞しているコンクールなので私も参加しました。若いダンサーとして先陣を切るつもりでした。

----それからBRBを選ばれたわけですか。

ツァオ・チー そうですね、当時、私は17歳でしたが、チューリッヒ・バレエ団、ドイツ・ナショナル・バレエ団とBRBからそれぞれオファーをいただきました。ロイヤル・バレエ・スクールに学んでいてやっと英国の生活にも慣れたところだったので、これからまた新しい国に行くのは負担が大きいと思って、BRBに決めました。またBRBは、カンパニーとしてはロイヤル・バレエ団よりも小規模なので、よりチャンスは与えられるだろう、という気持ちはありました。たとえロイヤル・バレエ団に入れたとしても、最初の数年間は何もできなかったでしょう。私はあまり忍耐強い方ではないので、やろうと思ったらすぐにやらないと気が済まないのです。BRBだったら、そんなに大きな役でなくてもいいけれども、すぐに舞台に立てるのではないか、と思いました。

----BRBはビントレー芸術監督の下、『アーサー王』や『シラノ』『美女と野獣』そのほかにもいろいろと創作バレエの大作をどんどん創っていて、とても活発なバレエ団だと思うのですが、やはり、ダンサーとしては大変ではないですか。
ツァオ・チー 確かに疲れます。ただ、私はダンサーとしては『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』などの古典作品が好きです。
BRBのいいところは、そういった創作作品と同時に、必ず古典作品もプログラムに入れていることです。いくら一生懸命やっていてもどちらかに偏ってしまうと、ダンサーは必ず飽きてしまいます。けれどもスタイルが変化することによって、ダンサーのほうも常にフレッシュな気持ちになって、緊張感を持って努力することができます。その点は私にとっては非常に良い環境です。もちろん『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』は好きですが、それだけを踊っている自分というのは、正直に言って考えられません。BRBのようにスイッチしていくという方法が、メンタル面でも疲弊しないやり方だと思います。

----ダンサーのモチベーションとしてもそうですね。
ツァオ・チー そうです。やはり同じことを続けているとどうしてもモチベーションが弱くなってしまいます。ダンサーは常に新しいスタイルに挑戦することで、どんどん自分を成長させていくべきです。

----ビントレーの作品で踊って楽しい役、好きな役は何ですか。
ツァオ・チー ビントレーの作品はどれもダンサーに対する身体的要求が高いので、正直なところ踊り易い作品はひとつもありません。その中では比較的要求度が高くないもので『ペンギン・カフェ』の縞馬、音楽もファンキーですしね。それから『ホブソンズ・チョイス』の主人公の友人役です。これはブリティッシュ・コメディ色が強いので自分には合わないと思っていたら、キャスティングされたので、思わず「本気ですか」と言ってしまったくらいです。でも踊ってみたらコメディだったこともあってか、とても楽しかったのです。
それから、『エドワード II 世』の主人公の愛人役ギャベストン(男)は、演技が重要だし、闘いのシーンもあるし、ダンスもおもしろかった。1995年にシュツットガルト・バレエ団で初演した作品でしたが、BRBで上演する時にビントレーが私をキャスティングした役です。

----ビントレー作品のコメディや歴史的な題材を扱ったものはまだ日本では上演されたことがないので、ぜひ観たいと思っています。
ツァオ・チー そうですね、ビントレーの作品には、英国風なユーモアとかストーリーが色濃く反映されています。ただ、そういう作品に馴染んでいないと分かりにくいということもあると思います。実際、私もこうしたユーモアをおもしろいな、と思い、ビントレー・スタイルが笑えるようになるまでには少し時間がかかりましたから。

----2011年にはBRBの来日公演が予定されています。日本人ダンサー、佐久間奈緒とパートナーを組むことが多いと思いますが、彼女はどんなダンサーですか。
ツァオ・チー 佐久間奈緒はとにかく努力家でがんばり屋です。本当にたくさん一緒に踊ってきましたので、とてもよく理解し合えているパートナーです。踊り易いですし、どんな作品でも問題なく組めます。レギュラーな仕事で、良いパートナーに恵まれているということは、ほんとうにラッキーだと思います。

----多分、来日公演では『眠れる森の美女』を踊られることになると思いますが、日本のファンに見所を教えてください。
ツァオ・チー 映画『小さな村の小さなダンサー』をぜひ観ていただきたいと思います。そうすると舞台ではまたフレッシュなツァオ・チーをお目にかけることができると思います。映画だといろんな別の準備とかありますし、短い時間しかお目にかけられないので、踊りだけの舞台を観ていただいて、さらにいっそう楽しんでいただけたら、たいへん嬉しいです。

----本日はありがとうございました。映画も公開されますし、舞台も楽しみにしております。

●『小さな村の小さなダンサー』
8月28日(土)よりBunkamura ル・シネマ、シネスイッチ銀座、他 全国ロードショー
http://chiisanadancer.com/

●英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 2011年日本公演
●公演日程:2011年5月下旬
●上演作品
 ピーター・ライト版「眠れる森の美女」

interview1008b01.jpg

フレデリック・アシュトン振付「真夏の夜の夢」/「ダフニスとクロエ」

interview1008b02.jpg

●前売開始:2010年12月上旬(予定)