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インタビュアー/関口紘一
[2010.08.10]

新国立劇場バレエ団芸術監督に就任するディビッド・ビントレーに聞く

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----カフカの小説『変身』あるいは戯曲『ホブソンズ・チョイス』など、普通はあまりバレエにしようとは思わない題材をとりあげて、優れた作品を創られていますが、どういうポイントでテーマを決められているのですか。
ビントレー 作曲家のマーラーの言葉によると「あなたがテーマを選ぶのではなくてテーマがあなたを選ぶ」ということです。ある時、予期せぬ形で突然テーマが降ってきて、いつまでも消えないのです。たとえばあなたがあげられた二つの作品もテーマが浮かんでから、どうやったらバレエにすることができるだろう、という想いが頭の中にいつもありました。そしてどうしたらバレエにできるか、ずっと考え続けました。
じつは私は、「これからバレエを創るなんて無理だろう」と思われるものをバレエにするのが好きなんです。

----『変身』も非常にシリアスなバレエに創られていて驚きました。実際に、働き手がムシに変身してしまった家族の気持に沿って描かれていました。
ビントレー そう、私がカフカの作品で興味をいだいたのは、グレゴール・ザムザが昆虫に変身することではなくて、それによって家族にどんな変化をもたらしたのか、でした。

----だから鏡を使った凝った表現などを使われたのですか。
ビントレー そうです。凄いプレッシャーを感じている人々は感情が渦巻いて、まるで感情そのものが一人の人間のように動きだしてしまうのです。

----『ホブソンズ・チョイス』もたいへん面白かったです。
ビントレー 私は、モーツァルトの『フィガロの結婚』にインスピレーションを得て『ホブソンズ・チョイス』を創りました。これはまさに家族や召し使いたちの人間関係でした。私もそれと同じように『ホブソンズ・チョイス』によって靴を創る普通の人々の話が創れると思いました。

----『ホブソンズ・チョイス』は素敵な作品ですが、今シーズンのプログラムには入っていません。いつか観られますか。

ビントレー 日本のお客様にもアピールしますか、どうでしょうかね。

----絶対アピールすると思います。
作品を創る場合、音楽から発想されるのですか、それともドラマからですか。

ビントレー 私の場合は、両方あります。『カルミナ・ブラーナ』などは音楽に触発された作品です。『ホブソンズ・チョイス』などはドラマから創り始めて、それに相応しい音楽を探しました。

----『アーサー王』のような大作も発表されていますが、日本で上演することは難しいのでしょうか。
ビントレー 『アーサー王』は、私にとっては変わった作品です。巨大な作品で、物語はイギリスの神話に基づいていますが、イギリスの人たちにすら充分知られていない物語なので・・・ボックスオフィスはたいへんだったようです。非常にモダンな作品でセックスや暴力もとりあげられていて、いろいろな反響がありました。

----『シラノ』も創られました。佐久間奈緒が日本で『シラノ』を上演したい、と言っていました。
ビントレー ええ。『シラノ』のロクサーヌ役を踊った女性たちは、みんなこの役が大好きになってまた踊りたがります。ロクサーヌ役は、男性の兵士に扮してブーツを履いて踊ったり、年齢を重ねた役になってからは長いドレスを着て踊ったり、いろいろな面を表現できる役ですから。

interview1008a04.jpg 「Take Five」 interview1008a05.jpg 「ペンギンカフェ」

----日本でお仕事することになりましたが、日本の文化には興味をお持ちですか。
ビントレー 私は日本のカルチャーには関心を持っていました。歌舞伎がとても好きでした。かつて私のカンパニーが本拠地にしていたロンドンのサドラーズ・ウエルズ劇場には、時々歌舞伎が公演にきていました。それから黒澤明監督の映画も大好きでした。ですから私が初めて日本にきた時は、きっと歌舞伎や黒澤映画のような世界が広がっているんじゃないか、と想像して楽しみにしていたんですが、大きなビルディングもたくさんあって、少々がっかりしました。もちろん、あなたもロンドンに行けばシェイクスピアに会えると思ってくるわけじゃないでしょうけども・・・。

---新国立劇場バレエ団に振付けられた『アラジン』についてですが、素晴らしい作品だと思います。ただ、アラジンが中国人だったという発想はわれわれにはありませんでした。

ビントレー アラジンの原典は中国人に設定されています。多分、ディズニー映画の影響が大きいのかもしれませんが、特に日本ではアラビアだと思われています。
私の最初のアラジンのバレエが上演された時は、音楽が完全に中国のものになっていました。でも私は、日本ではアラジンが中国人ということは理解されない、とわかっていましたが、音楽に中国の雰囲気が残っていたのでその一部分を使って、ライオンダンスとかドラゴンダンスを振付けました。それをどのように作品に消化しようかと考えて、アラジンは移民であるという設定にしました。

----そうでしたか。たとえばイギリス人のダンサーと日本人のダンサーを振付ける場合に大きな違いはありますか。
ビントレー 特に違いはありません。私が振付ける時は、なにか決まっているものを与えていくのではなくて、ダンサーがもっているものを引き出していくという作業ですから。日本人のダンサーは、どちらかというと、どういうふうに動くか言ってくれ、という傾向がありますが、彼らから引き出すのが私の仕事です。
実際には、私がダンサーにちょっとしたステップなどを与えて、やってみてもらい、ダンサーに「君はこれからどっちにどうやって動きたい?」と尋ねながら、自由にダンサーに膨らませて動いてもらって創っていきます、そういう作業を重ねながら、私が作品全体を進めていきます。

----ダンサーの育成についてどう考えていますか。
ビントレー 難しい質問です。ダンサーは技術的な面と表現とか振付家との対応とか、様々な面で成長していかなければならないからです。私が思うのはできるだけ多岐にわたる作品にダンサーを触れさせることにより、彼らはそこで吸収して成長していく、いろいろな分野に携わっていくことが必要だと思います。ひとつだけとりあげてどうこう言うわけにはいきませんが、新国立劇場バレエ団のダンサーたちはかなりいい状態になってきていますので、私はできるだけ一緒にいてできるだけ多くのバラエティに富んだ作品に触れさせていこうと思います。
でも私は、観客もダンサーと同じようにたくさん学んでほしい、とも思っています。

----たとえばバーミンガム・ロイヤル・バレエ団では、映画『小さな村の小さなダンサー』に出演したツァオ・チーや日本人ダンサーの佐久間奈緒などアジア系のダンサーも活躍しています。
ビントレー そうですね。現在、中国人3人日本人4人のダンサーがいます。全員アッパースクールの出身ですが、やはり、最初からロイヤル・バレエ・スクールで学んできたダンサーたちとは違いがあります。私たちのカンパニーは、ロイヤル・バレエ団とロイヤル・バレエ・スクールをシェアしているので、そこの出身者が多いのですが、他の国からアッパー・スクールに入って卒業した人、あるいは既に他のカンパニーで踊っていた人などもいます。それぞれの環境でバレエ教育を受けているわけですが、カンパニーとして統一感のあるダンサーにしていくことが重要です。しかし、バラエティのある才能も必要ですから、そういう点も充分に配慮してダンサーを構成しています。

----バーミンガム・ロイヤル・バレエ団と新国立劇場バレエ団の兼任芸術監督になられるので、二つのカンパニーが交流していいことが起るのではないかと期待しています。
ビントレー 現在、既に両方のカンパニーが持っている共通の作品があります。バーミンガムで上演した作品を新国立劇場で上演する場合は、教師とかダンサーを連れてくることもできます。逆に『アラジン』をバーミンガムで上演する場合は新国立のダンサーをゲストて踊らせることもあります。
また、全幕の大作を一年半後くらいに共同製作で上演しようと思っています。お互いに予算が厳しいですからね。

----シーズンのプログラムをみると、プロコフィエフは二曲上演予定されていますが、チャイコフスキーのバレエの上演予定がなくて寂しいのですが。
ビントレー チャイコフスキーは、今、おやすみしてます。

----チャイコフスキーに振付けた作品はありますか。
ビントレー ピアノとオーケストラの『コンサート・ファンタジィ』というピースを8年前に創りました。私はチャイコフスキーは好きですが、既にあまりにたくさん振付けられていますので。

----ジャズの三部作の一挙上演とか、そういうプランはありませんか。
ビントレー そうですね、やってみたいですけど、いいバンドが必要になります。

----ご自分の作品をほかの振付作品と組み合わせたりして、遠慮されているのではありませんか?
ビントレー はい。慎み深くやっていきたいと思っています。

----あまりスベクタキュラーな作品ばかりでなく、『ホブソンズ・チョイス』のような人生の真実を捉えた珠玉の作品をどんどん上演してください。
ビントレー 私もそういう舞台が見たいと願っています。

----本日はたいへんお忙しいところ時間を取っていただいてありがとうございました。今後のご活躍を大いに期待しております。

Stage Photos by Bill Cooper
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