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[2008.12.10]

首藤康之インタビュー


 東京バレエ団退団と同時に、ベジャール作品を封印したダンサーの首藤康之だが、ベジャールの追悼特別公演ということで、一連の公演に特別団員として参加している。ベジャールの作品や自身が踊る役について、また退団後の幅広い活動について聞いた。

----インタビューが記事になるのは『くるみ割り人形』公演の後になりますが、ベジャール作品を踊ることに対して、どのような感慨をお持ちですか。
首藤  ベジャールさんは僕の人生観を変えた人ですから、その作品を踊ること自体が僕にとっては重要なこと。ベジャールさんの死によって、僕の中で何かが終わって しまったような気がしていたのですが、今回踊ることによって、またスタートしたいなと思っています。感謝をこめて踊りたいです。

----12月には『ザ・カブキ』で、塩冶判官を踊りますね。
首藤 『ザ・カブキ』は、僕が東京バレエに入団するきっかけになった作品。あの当時、47人の男性ダンサーが一気に登場して動き回るというのに衝撃を受けました。男性ダンサーがこれほど活躍できる場があると、それを活かせる振付家がいると、初めて知った作品です。
塩冶判官は切腹して自ら死に進んでいく。思い返せば、僕が初めてベジャールさんと共同作業をしたのは『M』で、この作品を通じて三島由紀夫を知り、切腹と いう行為も知りました。三島は、「死は美しくなければいけない。死は待つものではなく、自分から向かっていくものだ」と言っています。武士道の精神。僕に とって切腹という行為は、ある意味で最初に知った日本の文化であり、一つの美の形です。

「中国の不思議な役人」

----来年の〈ベジャール・ガラ〉は追悼公演のフィナーレ。『中国の不思議な役人』では、「役人」のほかに、初めて「娘」も踊りますね。
首藤  これは僕の大好きな作品です。ベジャール・バレエ団にいっていた時に、この作品でコール・ド・バレエを踊ったので、いつか「役人」を踊ってみたいと思いま した。それが叶ったら、「娘」に対する興味がわいてきたんです。一つの作品の中の異なる役というと難しく感じますが、二つの役を生きることによって、自分 の中で作品の世界が広がります。マシュー・ボーンの『白鳥の湖』でスワンを踊った時、次は王子を踊りたいと思った。実際に王子を踊ったらスワンの感情がよ くわかったし、その後でスワンを踊ると王子の気持ちがまたよくわかった。同じことを期待して、「役人」も「娘」も踊ることにしました。すごく楽しみです。

----演じる上で、特に気をつけようと思うことはありますか。
首藤 「娘」は女性の役ですが、男が演じる女性だと いうことを忘れないことです。あとは、ベジャールさんの振付の形を大事にすること。その形を表現することによって、キャラクターというものを含めて、すべ てが見えてきますから。キャラクターの性別をあまり意識しすぎると、品のないものになってしまう。ベジャールさんのスタイルを忠実に守りながら、なるべく シンプルに、音楽にのせて踊りたい。これは、すべての作品に対して言えることです。
「役人」が無表情に演じれば演じるほど、「娘」が引き立つので、その辺のバランスも相手役の人と話し合ってやりたいと思っています。変に「役人」の感情 が出ると、「娘」との間で殺しあってしまう部分が生じることもありますから。「娘」は魅力的でないと人をだませないので、魅力的でありたいとは思います が、やりすぎて品を失わないようにしたい。「娘」では、クーン・オンズィアさんが演じた時の強烈な印象があるので、それも勉強しながら踊りたいと思いま す。

----ガラ公演では、『ペトルーシュカ』で「青年」も踊りますね。
首藤 これも大好きな作品で、「青年」も本当に 素敵な役。ストラヴィンスキーの音楽がよくわかって振付けられている。フォーキン版の『ペトルーシュカ』も踊りましたが、その時に新たに聞こえてきた音楽 もあったので、それを思い出しながら、改めてベジャールさんの「青年」を踊りたいです。
「青年」の役は、ワシーリエフさんのために振付けられただけあって、すごいテクニックが必要とされます。その上、色々な感情を入れて、正気を失っていく 「青年」の変化をみせないといけない。途中で面をつけるのですが、つけると顔で伝えられないので体で表現することになる。色々なテクニックを使ってみせな ければいけないが、普通に踊ってはテクニックの羅列になってしまうし、表現しすぎるとテクニックが見えなくなる。精神的にも肉体的にも、今まで踊った中で 一番ハードな役です。
初めてこの役を踊ったのは20代の前半ですから、何でもできましたし、何も考えずに踊っていました。今は体の状態が違うし、いろいろ経験したことで、様々な恐さや喜びを知りましたから、それを活かしてこの作品を踊れたらと思います。

----2004年に東京バレエ団を退団してから、どんな変化がありましたか。 
首藤 バレエ団にいた時は、全部 オーガナイズされていました。ベジャールさんやノイマイヤーさんの振付も、振付けされたのを踊る、何か言われて創っていくという感じでした。退団して何人 かの振付家と仕事しましたが、本当にイチから創る感じです。音楽と題名は決まっているが、内容やストーリーは決まっていなくて、何をやりたいかを話しあ う。だから、自分でやりたいことをやるのに、すごく時間がかかります。二年越し、三年越しとか。ハードですが、自分でやるということが、少しずつだけれど 上手くできるようになってきました。

----去年ベルギーの王立モネ劇場で初演したシディ・ラルビ・シェルカウイとの『アポクリフ』は、話題になりましたね。
首藤  ラルビとのコラボレーションです。数年前、びわ湖ホールでラルビの公演を観て衝撃を受け、ベルギーまで会いに行きました。すごく才能のある人で、クラシッ クを基本としたバレエも創れるし、クルベリ・バレエに振付ければ完全なコンテンポラリー・ダンスになる。モロッコ人とベルギー人のハーフで、独特の世界観 を反映させた作品が多いですね。
向こうでバレエやコンテンポラリー・ダンスをたくさん観ましたが、ラルビの作品が一番僕の心に通じるものがあった。で、彼に「一緒に仕事してくれないか」 と。「じゃあ何を創る?」「他にダンサーは要るか?」と、2年間もメールでやりとりしました。コラボレーションをするには、自分自身も振付家でないといけ ない。最初はインプロヴィゼーションで、あらゆる音を鳴らして振りを考え、素材をたくさん集める。そこに、自分がどういう人生を歩んできたのかが現れま す。
『アポクリフ』で踊るダンサーは3人。ラルビとディミトリ・ジュルドと僕。ラルビはヒップホップから入ってジャズダンスも学び、ヨガを中心とした動き。 ディミトリはフランスのサーカスの学校出身で、ダンスに転向した。僕はクラシックのダンサー。違う道を歩んできた3人がここで出会った。それを表現してい こうと。作品が鏡のように自分たちの人生を映し出すので面白いけれど、同時に自分があまりにもストレートに見えすぎて、こわくもありました。僕たちが人生 を積み重ねれば重ねるほど、作品も進化していく。
イスラム教のコーランとキリスト教の聖書と、抽象的ではありますが、それらを通して死と愛を表現する作品です。最初は100分あったのが、90分になり、 100分に戻り、65分になりと、上演するたびに変わる。音楽は地中海のコルシカ島の伝統音楽。7人の男性がア・カペラで歌うポリフォニーが本当に美し い。彼らも舞台の上を横切ったり、移動したりする。僕たちも歌ったり、文楽のように3人で人形を操ったり、テキストも読む。色々な要素が盛り込まれていま す。三島由紀夫のテキストも入っています。僕は使いたくなかったけれど、彼らにとって、三島は知れば知るほどミステリアスな存在なのです。

----11月に『アポクリフ』をデュッセルドルフで上演しますね。
首藤 はい。ピナ・バウシュが芸術監督を務める NRWインターナショナル・ダンス・フェスティバル(11月7-30日、ヴッパタールとデュッセルドルフとエッセンの3都市で開催)に招かれています。シ ルヴィ・ギエムをはじめ、最新のコンテンポラリー作品を踊る人、創る人が集まるので、楽しみです。一つの劇場で3演目ぐらい上演される。僕たちの公演は 11月14日と15日、午後10時45分からなので、終演は午前零時を過ぎるでしょう。
『アポクリフ』は2010年までに何回か公演しますが、コーラスと合わせて10人の日程が合わないとできません。でも、来年はもっと『アポクリフ』に集中できそうです。

----ダンス以外にも、活躍の場を広げていらっしゃいますね。
首藤  今年、パントマイムを基盤とした小野寺修二さんの『空白に落ちた男』に出ました。セリフはなしです。パントマイムというと、マルセル・マルソーのイメージ でした。バレエにもマイムはあるけれど、その重要性は忘れられていることが多い。ギエムさんが東京バレエ団の『白鳥の湖』に客演したのを観たとき、2幕で オデットがマイムで身の上を語る場面がありますが、彼女のマイムだけで物語のすべてがわかる。強烈なテクニックの持ち主の彼女が、上体のマイムだけですべ てを表現するのに驚きを感じました。マイムをゆっくり勉強したいという思いはあったものの、バレエ団にいるときは中々チャンスがありませんでしたが、退団 後、縁あって、小野寺さんと会って作品を創ったら、すごく面白いものができました。マイムは重要と思いますが、自然にできないため、東洋人が苦手としてい るもの。小野寺さんのマイムはバレエのとは少し違いますが、今後に活かせることはたくさんあると思います。

----これからなさりたいことは?
首藤 シェルカウイとはもっと一緒にやりたいと思うし、マシュー・ボーンとも、 もう一度仕事したい。日本は進んでいて、バレエやダンスが豊かにある。でもヨーロッパはもっと進んでいて、行くといつも衝撃を受けます。古典は古典で進化 しているし、新しい創造もある。だからフットワークを軽くして、新しい出会いを求めて、できるだけヨーロッパに行きたい。
今年の夏、ブラジルからデボラ・コルカーのカンパニーが来演したが、彼女もすごく興味深い人。クラシックを基本としているが、舞台では結構アクロバティックなこともする。彼女とも何かしてみたい。(素晴らしい)振付家はたくさんいると思います。

(インタビュアー/佐々木 三重子)

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◇IV「ザ・カブキ」
●12/13(土)・14(日)
●東京文化会館
●S席10,000円/A席8,000円/B席6,000円/C席5,000円/D席4,000円/E席3,000円
この他、エコノミー券、学生券、ペア券あり>>>詳しくはこちら
●開演時間=15:00
※13日、首藤康之ほか、東京バレエ団OB特別出演

◇V「ベジャール・ガラ」
●2009.2/6(金)~11(水・祝)
●ゆうぽうとホール
●ギエム出演日:S席16,000円/A席14,000円/B席12,000円/C席9,000円/D席7,000円
●10・11日:S席12,000円/A席10,000円/B席8,000円/C席6,000円/D席4,000円
この他、エコノミー券、学生券、ペア券あり>>>詳しくはこちら
●演目=「ボレロ」(全日)、「ペトルーシュカ」(6・7日)、「ドン・ジョヴァンニ」(6・7日)、「ギリシャの踊り」(8~11日)、「中国の不思議な役人」(8~11日)
●開演時間=平日19:00、土18:30、日祝15:00
※6~9日シルヴィ・ギエム「ボレロ」特別出演、
6日「ペトルーシュカ」と9~11日「中国の不思議な役人」首藤康之特別出演

●お問い合せ=NBS http://www.nbs.or.jp