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[2008.08.10]

私にとって踊ることは生きること、生きることとは踊ることです
『エリザベス1世“ラストダンス”』の主演・演出・振付家、リンゼイ・ケンプ=インタビュー

----リンゼイ・ケンプさんの祖先には、エリザベス1世の時代に活躍したシェイクスピア俳優のウィリアム・ケンプがいらっしゃるそうですが、今回の来日公演演目『エリザベス1世』はそのことと関係があるのでしょうか。

リンゼイ・ケンプリンゼイ・ケンプ 大いにあると思います。私自身がウィリアム・ケンプは私の祖先に違いないと想像するほど、われわれには多くの共通点があります。私の人生、作品、ダンスすべてにおいて共通点があるのですから、彼の存在をとても近くに感じています。

もちろん私はこれまでずっとウィリアム・ケンプを意識していましたし、エリザベス朝時代の演劇にも強い関心を持ってきました。
私の作品の多くはシェイクスピア時代に大いに影響されています。例えば、男性が女性役も演じる伝統とか。日本の歌舞伎にも“女形”の伝統がありますよね。

ウィリアム・ケンプは俳優でありダンサーであり道化、そして冒険者です!
多分私は天才的な部分は引き継いでいませんが、彼が私に道を示してくれたことは確かです。

----エリザベス1世の生涯でケンプさんが最も興味深いことはなんですか。

リンゼイ・ケンプ エ リザベスのどんな面にも魅了されます。まず、私の最初のエリザベス体験は5歳の時。母がベティ・デイヴィスとエロール・フリン演じる映画『女王エリザベ ス』(1939)に連れて行ってくれたことです。それ以来、私は彼女に夢中なんです。彼女は偉大な指導者として、40年間に及ぶ平和と反映をイングランド にもたらしました。それだけれなく、エリザベスは詩人やシェイクスピアといった作家たち、作曲家やダンサーたちにとって、偉大なインスピレーションの源で もありました。エリザベス1世の時代は「黄金時代」もしくは「栄光の時代」です。

エリザベス1世の人生や人格は、なんて色彩豊かで、ドラマティックで情熱的なんでしょう! だからこそ多くの映画監督たちも魅せられるのでしょう。サラ・ベルナール主演の無声映画に始まり、ヘレン・ミレンやケイト・ブランシェット・・・そして、もちろん私も!

彼女の物語は普遍的なのです。
エリザベスを演じた最高の女優はイギリスのグレンダ・ジャクソンだと思います。
それらの作品の要素を自分の作品に取り入れています。
すべての作品から着想や影響を受けています。今回の私の作品は、エリザベス1世の人生の終曲から始まります。走馬灯となって彼女の記憶・・一連のフラッシュ・バックで物語が綴られていきます。

フ ラッシュ・バックには彼女の人生における重要な瞬間が現れます。情熱や怒りに溢れた恋愛体験、スコットランドの女王メアリー・スチュアートの死に対する罪 悪感などなど。また、パフォーマーとしては、スペインの無敵艦隊を破ったアルマダ海戦といったアクションシーンもじつに演じ甲斐があります。物語はすべて ダンスとマイム、音楽と色彩によって語られますが、どれも強烈で情熱的な瞬間ばかりです。

----これまでケンプさんはサロメ、ニジンスキー、アリス、妖精パック、ディバイン(『フラワーズ』)など様々な人物を演じてきましたが、エリザベス1世はまた違いますか。

リンゼイ・ケンプ ある意味では似ていますよ、すべて私が演じているのですから(笑) リンゼイ・パックにリンゼイ・ロルカ(『残酷な庭』)、リンゼイ・サロメです。いずれも私のファンタジーを具現化した私のヴァージョンだと言えます。そして私は子供のころから仮装が大好きなんです。

ある意味、全く違います。だってエリザベス女王を今回は演じるんですから! でもリンゼイ版ですけどね。

----今度の作品には、サブタイトルに “ラスト・ダンス” と付いていますね。

リンゼイ・ケンプ エリザベス1世に小さな頃から魅了されてきました。でも、ほんの3年前までは、この役を演じるとは思っていなかった。まるで私がエリザベス1世を演じられる年齢になるまで、この役が待っていたかのようです。

3 年前、エリザベスの最後のダンスに関する本を読みました。私はエリザベスがダンスに対してとても情熱をもっていたのは知っていましたが、それが死や老いに 対する思いを遠ざけるためだったとは知りませんでした。ただ成り行きに任せて老いていくよりも、フルートと太鼓奏者を呼び、踊り続けることを選ぶのです。 ここに私は共鳴しました。私にとって踊ることは生きること、生きることとは踊ることです。私は生きるために踊り続け、生きることが喜びの体験となるので す。私も踊り続けます エリザベスのように・・・。
これがエリザベスのラスト・ダンスです。もっと長生きしたいしもっと踊り続けたいですから、私にとってのラスト・ダンスにはならないでほしいけど!

そうでなくても。私はすべてのダンスを私にとって生涯最後のダンスだと思って踊っています。そして毎日が人生最後の日であるかのように生きるのです。
私のダンスは常に集大成。私の最高のダンスじゃなくても私の最高のダンスに対する努力の集大成なのです。

----『エリザベス1世』のカルロス・ミランダの音楽はどんな曲ですか。

リンゼイ・ケンプ 素 晴らしい音楽です。カルロス・ミランダと私は長年の付き合いです。30年前にランバール・ダンス・カンパニーのためにロルカの生と死を描いたバレエ『残酷 な庭』(クリストファー・ブルースとの共作)でコラボレーションして以来ですから。それから『真夏の夜の夢』『ビッグ・パレード』『ニジンスキー・ザ・ フール』など多くの作品を一緒に創ってきました。今回の作品でも彼は完璧でした。彼が素晴らしいのはエリザベス朝時代の音楽を再現するわけではなく、その 時代を想起させるような音楽を創るところです。

カルロスと仕事ができたことに加え、『オルランド』『恋に落ちたシェイクス ピア』で衣装を担当したサンディ・パウエルが参加してくれたのもラッキーでした。彼女はエリザベス朝時代の衣装のエキスパートだし、私の生徒でもあるんで すよ。もちろんとても美しい衣装の数々を創ってくれました。
サンディ・パウエルはまだ私の生徒だった時代に『ニジンスキー・ザ・フール』『真夏の夜の夢』『ビッグ・パレード』の衣装を制作しました。

----フランソワ・テストリーの素敵な歌は今回の舞台でも聴くことができるのでしょうか。

リンゼイ・ケンプ も ちろん! フランソワ・テストリーは、マルチな才能と魅力をもつ稀有なアーテスストです。彼はベジャールの学校、ムードラを卒業して以来、私と仕事をして います。『真夏の夜の夢』からですね。今回は、アンジュー公を演じます。アンジュー公は恐らくエリザベスが結婚を考えた唯一の男性だったのではないでしょ うか。
フランソワ・テストリーは、エリザベス朝時代の音楽にうってつけの声をもっていますからね。舞台にはエリザベス朝時代のダンスだけでなく、当時のコメディア・デ・ラルテの役者やダンサー、歌手も登場します。
カルロス・ミランダはフランソワ・テストリーの声にかなりインスパイアされたに違いありません。彼のために最高に美しいラブソングを作りましたから。

----かつてあなたはデヴィッド・ボウイにマイムを教え、コンサートを演出し、彼をスターにしましたが、無名時代のボウイはどんな人でしたか。

リンゼイ・ケンプ ボ ウイは当時のんびりとしていました。そして私のクラスでもとてもシャイでした。私は彼にダンスを教えもっと大胆になるようしました。もっと大きく、そして もっと美しく動くために大胆であるように。ボウイ自身もまた私に大いにインスピレーションを与えてくれえました。彼と過ごした時間はとても充実していまし た。私の生徒に始まり、その後一緒に『Pierrot In Turqouise』
という小規模なショーに出演しました。あまり収入はよくありませんでしたが、ボウイにとっては、これが名声への最初のステップといえるでしょう。その後、 ボウイは私をレインボーホールの『ジギー・スターダスト』公演の演出家としてロンドンに招いてくれました。確か、1972年だったかな? まるで昨日のこ とのようだよ。

----フェリーニやミック・ジャガー、アンディ・ウォーホールがあなたの作品を絶賛していますが、あなたご自身はどのようなアーティストが好きですか。

リンゼイ・ケンプ 困っ たな。とんでもないギャラリーが私の中には存在するんだよ。私の人生に影響を与え、守ってくれる守護天使に始まり・・・私に進むべき道を示してくれる。ワ ツラフ・ニジンスキー、イサドラ・ダンカン、パブロ・ピカソ・・・私に多くの影響を与えてくれたそれらのアートに感謝します。

日 本文化の影響もはずせません。歌舞伎やアイヌ文化、舞踏家の大野一雄など・・・。大野一雄には、時に彼の啓示を感じるほどです。大野一雄と同時代に生きる ことができて幸せです。私は、時々彼の息吹を感じるのです。特に、今回エリザベス1世を演じる私にとって、これはとても重要なことです。彼は私の進むべき 道を示してくれているようです。

----ケン・ラッセルやディレク・ジャーマンの映画にも出演されましたが、映画はどういうものが好きですか。

リンゼイ・ケンプ 好きな映画のひとつは子供時代に私が始めて観た映画『赤い靴』です。マイケル・パウエルとエメリック・プレスバーガーの映画です。映画はバレエ・リュスの時代を空想させます。
ロバート・ヘルプマン、モイラ・シアラー、レオニード・マシーン、フレデリック・アシュトンなど、素晴らしいダンサーであり俳優が出演しています。また、 ドイツ印象派のデザイナー、ハイン・ヘクロスの衣装の色彩も素晴らしい。彼女はクルト・ヨースの『グリーン・テーブル』の衣装を手がけた人です。
私は素晴らしい映画にしばしば連れて行ってくれた母の教育に感謝しています。母は後年、よく『赤い靴』に連れてったことを後悔しているわ、と言っていました。この映画は素晴らしい映画で、今日の私の活動に深い影響を与えています。

素晴らしいバレエ・・・。これが私の世界! これこそ私の世界なんだ、ママ!
私は困難にもかかわらずダンサーになることを決意したのです。もちろん簡単なことではありませんでした。でもこの映画を観てしまったんですから!
『赤い靴』を見てほどなく、私が次にみたのが『ホフマン物語』でした。『赤い靴』と同じチームによる映画はまたこれが素晴らしかった! この影響により、 ほんの数ヶ月前、60歳を過ぎた私は、オペラ『ホフマン物語』の演出をする機会を得たのです。オペラも私が愛してやまない世界のひとつです。

----オペラの『ホフマン物語』を演出されたのですか。

リンゼイ・ケンプ ええ、つい最近、スペインで。
私はオペラを演出するのも夢だったんです。私にはオペラ歌手になれるような声がなかったのですが、演出&デザインができたんです!
そしてオペラ演出の仕事をしていたために、長い間、日本に来れなかったのです。その間にもダンスも踊っていましたが、オペラの世界はとても魅力的なものですから。
オペラは総合芸術である点で私のつくる舞台に近いものがあります。私の舞台は常にオペラ的。歌がなくてもそのスタイルや情熱的な面でオペラ的といえるでしょう。

----素敵なドローイングを描かれていますが、どんな画家が好きですか。

リンゼイ・ケンプ ピカソです!
ほかにもたくさんいますが、ひとり挙げるとしたらピカソです。私のドローイングを観ればお分かりになるかと思いますが、彼から大いに影響を受けています。 そして、日本の美学からの影響もあります。木版・・・私は非常に恵まれた子供時代を過ごしました。母が素晴らしい映画に連れて行ってくれました。父は船員 でした。私が2歳半のときに戦争でなくなってしいましたが、父が持ち帰った日本の木版画が家に飾ってありました。私は生まれたときから日本文化の洗礼を受 けていたのです。
木版画だけでなく陶器も父は持ち帰りました。それから美しい着物! 私の姉が小さかった頃に、お土産に小さな着物を持ちかえったんです。彼女も5歳でなく なり、その数年後に私が生まれたのです。だからその着物を受け継いだ私にとって、着物は最初の衣装となりました。そして着物と一緒に日本的な所作も引き継 ぐことになったんです。

----アーティストとして、最も幸せを感じるのはどんな時ですか。

リンゼイ・ケンプ 観客の拍手に包まれる時!
これ以上の瞬間はありません。観客が私を信じ、愛してくれるのですから。
自分が愛されていると知ったときが人間にとって最も幸せな瞬間です。
私は人々を幸せにすることができたか見たい。彼らに喜びの笑顔をつくってあげることができたら私の望みは叶ったも同然です。
それこそが私の人生の目的なんです。喜びを人々にもたらすことが。

----ケンプさんは自分の人生を舞台に投影しますか。

リンゼイ・ケンプリンゼイ・ケンプ ♪Fly me to the moon….(と歌いだす)
自分の人生について語るのはエリザベス1世の人生について語るよりずっと難しい。でもとても共通点があります。ダンスへの情熱、傷つきやすさ。私はその多くを母から引き継いだのですが、母は私よりずっとエリザベス1世に似ています。まず女性ですし!
そして、私のエリザベス1世との共通点のほとんどは母から引き継いだ資質なのです。
最近までエリザベス1世を演じようと思わなかったと先ほど言いましたが、私が彼女を演じた歳は、エリザベス1世が退位した時と歳と同じなのです。でも私もエリザベス1世のように毎日踊り、踊ることが薬になっています。
私の人生経験がなくてはエリザベスを演じることはできなかったでしょう。
衣装は着られても、その肌の内部まで入り込むことは、できなかったでしょう。
私は俳優です。私は自分の性格や経験、特に恋愛体験の一面を舞台に見るのです。
特に恋愛は舞台上で役を演じる上で大切なレッスンです。
観客は舞台でスリルを味わう以上に、まずその世界に夢中になるでしょう。エリザベス1世の若さや美しさが、かつらをとった瞬間に消えてしまう。入れ歯までとるつもりはありませんが。(笑)
私は人々にずっと踊り続けてほしいし、愛を与え続けてほしいと思っています。
『エリザベス1世”ラスト・ダンス”』のプロモーションでまた日本に来られてとても嬉しく思っています。この作品はエリザベス1世の愛と情熱、栄光と波乱に富んだ人生を描いた舞台です。マジックや色彩、美、そして愛が詰まった舞台です。

----素晴らしいお話をありがとうございました。

(インタビュアー/関口紘一)