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[2008.07.10]

ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス芸術監督・振付家
エドゥアール・ロック インタビュー

  ----カサブランカ生まれとお聞きしましたが、何才までいらっしゃったのですか?

エドゥアール・ロック(以下ロック) 2才半までです。

----今回上演される『アムジャッド』のタイトルは、モロッコ語だそうですが、日常的に使われる言葉ですか、それとも特別な言葉なのですか。

ロック 実は名前です。女性でも男性でもあり得る、人の名前です。ファーストネームになります。意味としてはパーフェクション。完璧さという方がより正しいですね。

----では、前の作品の『アメリア』と同じに考えていいですか。

ロック そうですね。『アメリア』と続いて今回のタイトルも同じく人の名前です。『アムジャッド』のタイトルを選んだ理由ですが、そ れはオリエントに関係しています。この作品には『白鳥の湖』と『眠れる森の美女』という二つの代表的バレエが取り上げられていますが、これはロマン主義時 代のバレエです。その頃のヨーロッパは、今よりもずっと厳格なモラルが支配していた時代です。ロマン主義時代のさまざまな表象の対極におかれたのが「東 洋」でした。オリエントの世界は厳格なヨーロッパ社会の対極点として、さまざまな芸術の中で視覚的にもテキストの中でも多く取り扱われました。さらにバレ エに採り入れられ、新たな表現の地平を開くことになりました。
私も、『アムジャッド』を作るにあたって、さまざまな視覚性、フィルム映像を使ってバレエの外の世界を作品の中に提示することを試みました。一つの作品に他の異質なものが入り込んで揺らぎの様なものがあるということが興味深いのです。

----ロマン主義の頃の時代の厳格なイメージに対して、オリエントのイメージは幻想的な世界ということですか。

ロック そうですね。対極、二つの相反するものはバランス的におもしろいと思いまして、中でも視覚的に色々と表現されていると思うの ですが、ただ私はまた違うことに興味があります。それは記憶、思い出。そんな意味で捕らえなおすと『眠れる森の美女』や『白鳥の湖』は、音楽、ダンス、舞 台装置にしても人々の記憶の深奥に訴えかけるものがあると思うのです。喚起性、記憶を想起させる力が実際にバレエを見たことのない人や、ダンスをよく分か らない人にも何か思い出させる効果がある、ダンスというジャンルはあまりポピュラーではないですが、そういった幅広い意味で共有されている記憶の中から生 まれていくところがおもしろい。そこに興味を持ちました。
また、この作品に関して面白いのは、観客がいるときです。『眠れる森の美女』や『白鳥の湖』にはレフェランスがあるので忠実な立場で来ることは難しい、そ ういったある程度心の中で準備されている中で実際に作品を観ることによって何かネジレを感じ、さらにそのネジレがそれぞれ個人の記憶から呼び覚まされてい き、また新しいものが生まれる、そういったところがおもしろいと思います。

------ロックさんの作品はスピード豊かな作品が多いですね。観ているとあっという間に終わってしまう。最初の作品からスピーディなものを目指されていたのですか。

ロック スピード感が特徴と言ってくださったのですが、最初の頃はそんなことはありませんでした。84年に初めて作品が発表されたのですが、その頃の作品は今のようなダイナミックさはなかったです。後からきたものです。

----最初の作品は『ジャングルのリリーマルレーン』ですよね。どのような作品でしたか。

ロック それはカンパニーの最初の作品です。
カンパニーが出来て28年たつのですが、その頃の作品です。その前の83年ぐらいから85年までは、モントリオールのレ・グラン・バレエ・カナディアンに作品を提供していました。

------『ジャングルのリリーマルレーン』はどのような作品ですか。

ロック 音楽は、カナダのケベックでその後有名になったアーティストですが、ロベール・ラシーヌという人のものでした。
ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップスは、当時も今と同じ9名のダンサーでした。人数は今と同じですが、非常にバラエティーにとんだダンサーが多かったので す。クラシック・バレエ、コンテンポラリー・ダンスを踊る人がいましたしインプロに強い人もいました。ダンサーは、今よりももっとバラエティーに富んでい ました。
作品はムーヴメントが中心になっていますが、演劇的要素のある作品で、みなさんが見てくださっているような作品や、その後のものとは違うものでした。3週間モントリオールで上演し、その後1週間ニューヨークのキッチンで上映しました。

----最近は『アメリア』もそうですが、クラシック・バレエのポアントに非常に関心をもっていられて、クラシック・バレエを題材にして作品を作られることが多いかと思いますが。それはどういう関心なのですか。

ロック 最初にポアントに興味をもったのは、1987年にオランダ国立バレエ団の
当時のディレクターと出会って仕事をしたときです。非常にその時の経験が快適に感じました。ポアントは、身体を自然に延長するものであると印象を受けました。そして97年にカンパニーで初めてポアントを使って作品を作りました。
私の考えでは、ディティールがものすごく詰め込まれていたり、速度が非常に速かったりする、そういった時には、観客は、いっぺんにすべてを見ることは出来ないと思います。その欠如した部分を、それぞれ自分の頭の中で自然に補っている。
ポアントというのは、お話した考え方の全く逆の非常に目立つ存在であり、非常に正確であり厳格な存在であるといえます。
ポアントは二つのものを切り離す、空想の身体と現実の身体を切り離すものです。
現実の身体はグラフィックなイメージを描きながらダンサーの体ということを意識させ、逆に速さで隠して見えなくさせる、そういった二つを切り離す象徴的な存在だと思います。

----現在カンパニーは、毎日普通のクラシックのクラスをやっているのですか。

ロック はい、クラシック・バレエのクラスで練習しています。

-----カンパニーとして特別な練習方法はありますか。

ロック クラシック・バレエの伝統的なテクニックを学ぶクラスを毎朝行っています。あとは振付を通してやっています。舞台上では特別 なパフォーマンスをやっているので、山を登っていたり、川を泳いだりして訓練しているのではないかと想像される人もいますが、そんなことは全くありませ ん。

----- ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップスの公演では、厳密にロックさんのイメージが、ダンサーの頭のてっぺんから足の先まで伝わっているように感じられます。

ロック そうですね、その通りだと思います。

-----それは言葉で伝えるのですか、身体で表現して伝えるのですか。それとも特別な秘密があるのですか。

ロック まず、ムーヴメントに関してそれを伝える時は構造的にしっかりあるムーヴメント、クラシック・バレエのテクニックは言葉で伝えます。ただ、クラシックの構造をもっていないフォルムは、伝える既成の言葉がないので、その場合は身体で表現して伝えます。
フォルムにもっていくパラメイターは色々あるわけです。速さダイナミックさ、そういったものは私が投げかけるコンセプトや言葉をダンサーがリアクションと して投げかけてくる、そんなやり取りで振りが磨かれていきます。それを意味がないという人もいますが、そんなことは全くありません。ダンサーの中にも分か らないという人もいますが、何かをやってみたり、何かを始めたり、やり取りによるわけです。
やり取りで出来たものが舞台の上に乗る時、観客にも必ず決まった答えはないと思うのです。観客にとって舞台上の人物は、白い光のような世界であって欲し い。それで、観る側のあらゆる可能性が働きかけ、観た方それぞれの色を感じて何かを観て欲しい、それが一番自分に興味のあることです。
そういったことを強調するために、『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』のシーンを完璧に取り入れているところもあります。明確に区別をつけるために、そのままのクラシックで使用している場面もあります。

-----では、『白鳥の湖』の第二幕のアダージオなどもあるのですか。

ロック そのままではないですが、第二幕のアダージオをレフェランスとして使っています。あとは音楽を聴けば感じるかと思います。バレエに関しても振付に関してもその構造を取り入れながら、脱構築して作り上げています。

----『アメリア』は映画化されましたが、今回の『アムジャッド』もその予定はありますか。

ロック もし今回の『アムジャッド』を映像化するとなると、『アメリア』よりもずっと複雑になると思います視覚的にも。ただ非常に良いアイディアですし、興味のあるところだと思います。

----モントリオールの大学では中世英文学を勉強されたとお聞きしましたが、中世文学の美学はダンスに影響を与えていますか。

ロック 大学ではロマン主義文学を学びました。これは自分の今の仕事にとても影響を与えています。

----ロックさんの舞台を見ていて、もしもラ・ラ・ラ・ヒューマンステップスのダンサーが、普通にチュチュを着て正式なクラシックバレエを踊ったらどうなるだろうと興味があります。

ロック 自分としてはクラシック・バレエも好きです。最近はキーロフ・バレエが踊った『眠れる森の美女』のヴァリエーションを見まし た。非常にいろいろなキャパシティを持ったダンサーであると再認識しました。やはりコンテンポラリー・ダンスの創作っていうのは、構想に関する仕事でし て、既に出来たものを精緻に自分の味付けで作っていく、古典のものとは異なったものだと思います。
もちろんクラシック・バレエも好きですし、他のクラシック・バレエを踊るダンサーと仕事をすることにはとても興味があります。

----パリ・オペラ座バレエに振付けをされた時には、オペラ座のダンサーと仕事をしたと思いますが、クラシック・バレエをずっとやってきたダンサーたちと仕事をするにあたって、何か違う部分はありましたか。

ロック オペラ座のダンサーはエクセレントです。テクニック的にも本当に世界一の人たちだと思います。ま た、彼らの優れているところはいろいろなダンスの方向性に対して開かれているところです。つまりたくさんの振付家とさまざまな仕事をしているため、そう いった自覚が非常に深い人たちなのです。
逆にカンパニーのダンサーたちはオペラ座のダンサーに比べて、関心の領域が狭いです。一つのものに対してもの凄いエネルギーを注いでいて、狭いところに集 中して長い時間をかけて作品を作っていくと、そこに素晴らしい大きなものが出来上がります。一つのものからまた新しいものがさらに生まれます。そういった 素晴らしい部分は大きなカンパニーのダンサーには無いところでしょう。

----次はどのような作品の構想を考えているのですか。

ロック もう構想は終わりました。今、詳しくお伝えできないのは、音楽のアレンジに関して正式にまだ決定していないので、決まり次第詳しく発表します。2010年の夏に向けて準備をしています。

-----最後に、ロックさんの舞台を見るにあたって観客に伝えたいことはありますか。

ロック 集中して舞台に望めるように、ご飯をしっかり召し上がってきて下さい。

-----わかりました。ありがとうございました。とても楽しみにしています。

(インタビュアー/関口紘一)