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インタビュアー/関口紘一
[2010.05.21]

金森 穣インタビュー
新作、劇的舞踊『ホフマン物語』について、Noismについて

----2004年にNoismを設立されて、その後、海外公演なども行って昨年はNoism2を立ち上げられました。この間の経過を振り返られていかがですか。

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金森 Noism2を立ち上げるところまでは想像していませんでしたけど、Noismの今あるような組織体制、ミストレスがいたりとか専属のスタッフが常にいたりとか海外公演に行ったりとかそういうことに関しては最初から出来るだろうと思っていました。ただ、始めた時はスタッフ一人だったし、ミストレスもいなかったから全部やらなければなりませんでしたけど。
ここまでくるのに6年かかりました。そしてやっとプロの舞踊団としてやっていけるようになりました。その間に契約継続の話もありましたし、Noism2という研修生カンパニーがプラスアルファとしてあるわけです。立ち上げのころからはやくこのくらいの環境にしたいなと思っていました。

----オリジナル作品ばかりの上演ですが、年間の公演数に関してはいかがですか。


金森 公演数は増やしたいと思いますが、実際の公演回数30何回というのは、私がヨーロッパで踊っていた時、最後に所属したスウェーデン、ヨーテボリのオペラハウスのカンパニーでもそのくらいです。NDTとかリヨン・オペラバレエといったレパートリー・カンパニーと呼ばれて、世界ツアーも行っているカンパニーにはある種の商業性があって、ちゃんとしたリハーサルができないとか、新作を作るのに十分集中できないとか、そういうマイナス要因もそれなりにありますから、ただ公演回数が増えればいい、というものではないです。しかしもう少し、例えば年間50回くらい公演できて、新作にも集中できるというのがベストだと思います。

----ダンサーに関してはいかがですか。

金森 ダンサーについては、設立時のメンバーはもう井関佐和子しかいないし、2年目のメンバーは宮河愛一郎がいて、それ以外はみんな変わってしまっています。そういう意味では同じメンバーで継続していくことの難しさは感じていますが、同時にひとつの組織ということを考えた時、10人の同じメンバーが同じ志で10年やっていくことは難しいと思います。
今、残っている二人がただ残っているだけじゃなくて、私のことを一番理解している舞踊家になっていてくれるということと、若い子たちにいろんなことを教えてやれるくらいに成長してきていることを考えると、それだけでもありがたいことだと思います。

----表現のクオリティの面ではどのように感じていますか。

金森 そりゃ完璧な満足ではないですよ。佐和子とか愛一郎とかのメンバーに関してはすごく、自分にも還元してくれるものをもってますけど、やっぱり新しくきた若い子たちはまだまだ未熟な面がたくさんあります。しかし舞踊家として完璧ということはないわけで、常にさらに高みは目指すわけですが、表現者としては振付する側もそうですから、お互い常に求め続けています。
重要なのはたとえ未経験であっても、何で自分がその舞踊団にいるのか、その舞踊団にどれだけの気持ちでいたいのいか、ということを明確にもっている必要があります。そういうことに関しては、ここ1、2年ではっきりしてきました。今のメンバーたちは、Noismでやっていきたいから所属しています。今まではただの通過点と思っていて、とリあえずNoismでやってみたいとか、給料もらって食べていけるからやってみたいとか、ちょっと勉強してみたいという面があったと思います。

----表現のレベルは違っても、共通のアーティスティックな意識をもって活動できるようになったということですか。


金森 そうですね。カンパニー自身がカンパニーの理念を持ち始めていますから、そこに来る人たちは、それを欲してあるいは学びたいと思って来ています。

----そうするとNoism 2の段階からそういったカンパニーの理念を理解していく。

金森 Noism2のうちに精神的な部分をある程度養ってもらいます。Noism1は、手取り足取り教えるのではなくて、給料をもらってやるからには自分たちは振付家に何かを還元できるるような、教えられてどうのこうのというのではない舞踊家としてプロフェッショナルのカンパニーであってほしいのです。そうやって段階を踏んで進める、本来ならばその前に学校を作るべきなんですが、それにはまた時間がかかりますので。
今、Noism2は8人です。一応、17歳から22歳というくくりになっていますが、23歳の子もいますし、別に16歳であっても、年齢で厳しく括ってはいません。

----ここで何年キャリアを積むとどうなるとか、ということはありますか。

金森 いやないですね、まだ始まったばかりですが、2年あるいは3年でしょうね。3年以上2で研修しているというのはどうかなということはあります。

----Noism2でも作品を作らせたりすることもありますか。

金森 いや、作品を作らせることはないですね。純粋にダンサーとして振付家を招聘してオリジナル公演をするということです。
プロのカンパニーに入ることのできる精神的技術的な素養を積んだ舞踊家を育てることが目的です。
今は振付家を養成するための組織は必要ないですね、みんなそれぞれが自分で振付けてます。Noism2にオーディションに来る子は、映像資料で取り寄せると、8割が自分で振付けています。私はそれがいいことだとは必ずしも思いませんが、それくらいの時代になってきていますので、今、敢えて振付家を育てるということは必要はない、と思います。逆に言えば振付なんてものに片足突っ込んで中途半端にやるよりも、一舞踊家としての精神性と技術を学ぶ必要があると思います。
ほんとうの意味で振付家としての仕事をしてみると、自分が振付家になった時にダンサーになにを求めるか、逆に舞踊家としてはこうあるべきではないかということが見えるはずです。中途半端な状態で振付をやると、振付家が求めることを素直に還元できなくなります。自分だったらこうやるとか、そういうことが先行してしまいます。
Noismのメンバーでもみんな振付けますよ。佐和子くらいじゃないかな、振付けに手を染めないのは。だから彼女は、今の時代には稀有な存在です。舞踊家として私はそこを信頼しています。

----新潟ですと、コンテンポラリー・ダンスを目指すには、環境的につらいものがあるんじゃないですか。

金森 どうですかね。何を求めるかにもよります。遊び場もたくさんあって情報があふれていていろんなものが見られるような環境にいるか、自分の身体と向き合って一舞踊家として大成したいのか。舞踊家として必要な技術、精神性を学びたいのであればNoismは適しているでしょうけれど、やっぱり劇場を離れたところでの遊び場とか友だちとかいろんな刺激を求めるような人には新潟はつらいかもしれません。
でも、見るに値するものがあれば新幹線でも夜行バスでも行くと思います。逆に言うとほんとうに見たいのかどうかもわからないものに対して身をさらしていくことが、東京でやっている舞踊家たちのある種の弊害だと私は思っています。結局、友だち付き合いで見に来てもらったら見に行かなきゃならないとうことになっています。ほんとうの意味で素晴らしいと思ったものを日本の振付家でやっている人はいるし、海外からも優れた振付作品は来るだろうし、そういうものをちゃんとチケットを買って見に行く、ということがどこまでできているのだろうか、とも思います。サークル的になっているというか。
舞踊学を極めるとか舞踊評論家になるというのであれば役に立つかもしれませんが、舞踊家としては自分の身体と向き合うことが一番大切なわけで、いろいろな公演を見ることが最も必要なことではないですから。

----次回公演、劇的舞踊『ホフマン物語』は新潟限定公演ですね。

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金森 これはもうNoismを立ち上げた当初から、地方都市の舞踊団として考えていたことです。現在、他の都市の公演は買い取ってもらっていますが、東京は手打ち公演です。どこまで手打ち公演でやるべきかということは、常に疑問でした。しかし新潟の市民の方々に理解していただくためにも、実際問題、やっぱり東京で評価されるということが必要だったわけです。だから今まで東京で評価されること、たとえば朝日の賞をいただきましたとか、東京の新聞に出ましたとか、そういうことが行政の方々を含めて新潟のみなさんに理解していただくためにプラスでした。しかしここまできて海外公演も成功しまして、やっぱりこれからは東京で手打ちで公演するのではなくて、東京とか様々なところからNoismを見に来てもらうことによって、新潟に還元されるという方針を具体的に打ち出していこうと思います。そうでないと、新潟市の税金でやっているという意味がないのではないか、ということで具体的に始めました。今後も東京公演を行いますけれども、東京で評価をうるための手打ち公演は必要ないと思っています。
たとえば静岡には毎回、呼んでもらっていますので、何回も見に来てくれる人がいてメンバーにもファンがついてます。出待ちで佐和子にサインもらったりとか、東京か新潟でしかなかったことが静岡でも起こり始めています。

----そうですか、それは期待できますね。
劇的舞踊『ホフマン物語』はストーリー的な展開になるのですか。


金森
 そうです、始めて先に台本書いてそれに基づいて進めています。オッフェンバックのオペラの、プロローグがあってオランピアがいて、ジュリエッタがいて、アントニオがいて・・・という構図をそのままに使った3幕ものですが、小説のほうがブラックなニュアンスがあっていいんです。オペラより細かいエッセンスは小説から採り入れて、オリジナルな表現を入れて創ります。最初から最後までストーリーで展開していきます。

----3幕ですと大作ですね、上演時間はどのくらいになりますか。

金森 休憩入れて2時間くらいになると思います。

----それは凄い、グランド・バレエですね。

金森 かつてオペラを演出する話をいただいたことがあって、結局、実現はしなかったのですが、その時いろいろ研究していて『ホフマン物語』の人形、娼婦、死、といったシンボルとしてのキーワードが自分の考える舞踊感と直結するものがありました。実際、演出のアイディアもあって温めていました。
出演者も多くなるので、Noism1&2の合同公演ということにしました。

----大作ですからお金も掛かるでしょう。

金森 いえ、今回の新潟限定には新潟の劇場でしかできないもの、という意味があるので、劇場備品を総点検してなにかできないか考えました。そうしたら箱馬と平台が出て来て、凄くおもしろいんです。すべて尺で考えられていて、いくつか組み替えることで、正方形の台形を作れないかとかやってみると、ちょっと工夫するとできる、それが昔の大工さんの知恵というか、非常におもしろいんです。日本のいにしえの物作りの知恵が結集されていて、尺の違いもサブロクとかヨンキュウとかあってその高さの差が、遠近で見た時に絶妙なんです。その差が少なすぎず多すぎずあって、配置してみると高く見せたい物がちょっと高くなって浮き立つし、他は水平に見えて、これはいいと思いました。ですから今回のセットは、新潟の劇場の箱馬と平台を使ってやりますので、むしろお金はかかりません。

----それで今回の空間構成は金森さんご自身なのですか。

金森 そうですね、今までグランド・バレエを創る時には、セットはその作品のための物で、その作品を上演しない時には倉庫に眠っています。そのために物凄い予算が必要になって、オペラを創る時にはもの凄い美術を作って、それが一回こっきりっていうことも多いわけですよね。それはもうわれわれのとってはとんでもない話なので、そうではない空間を作れないかな、と思っていたんです。
それで今回は箱馬と平台でやりますが、逆に演出力を問われると思いますが、それを敢えて自分のチャレンジと課します。

----それは、今まで舞踊を創られてきたことがオペラ的なものと融合して生まれたアイディアかもしれません。

金森 そうですね。でも私は、師匠のモーリス・ベジャールの影響を受けて作品を創り始めましたが、あの人も創った大きな作品はオペラですよね。そういう意味では、私がここに辿り着いたのは歩み始めた道の必然なんでしょう。

----物語舞踊を創るのもやはり芸術的な問題意識からでしょうか。

金森 芸術的な意識ということもありますが、もうちょっと客観的に最近は物語のある舞踊って少なくなっているのではないか、という気持ちですね。
物語というのは普遍性がありますから、舞踊に興味なくてもおもしろいと思われます。そういう意味で普遍性をもった舞台芸術を現代に提示しないと、どんどん抽象化されて自己表現化されてちょっとおもしろくないな、と感じているところもあります。
19世紀に完成したクラシック・バレエが今日でも見られているのは、物語に普遍性があるからです。そこから新しい表現となった時に、20世紀のいろいろなものが分化されて、抽象化が尊ばれた時代っていうのは確かにありました。しかし、今は21世紀ですから、それをさらに越えて、新しい意味での物語性というものを考えていかないと細分化されすぎていて舞踊が危ない、専門性が無くなってきているということですね。

----そのほかに、劇的舞踊『ホフマン物語』の特徴といいますと。


金森 Noism1&2の合同公演ということで出演者が19名におよぶということですね。今までのNoismにはない登場人物の人数ですし、ひとつの劇場の中で展開される2時間くらいの舞踊。クラシック・バレエではなく現代の舞踊として表現されるということ、日本では希なことと言ってもいいでしょう。

----そういう新作は世界的にも少ないのではないでしょうか。

金森 『ホフマン物語』を知っている人は、こういう解釈もあるのか、と見てもらいたいし、『ホフマン物語』を知らない人は、純粋の物語舞踊として楽しんでもらいたいと思います。

----本日はありがとうございました。大いに楽しみにしております。

Noismオフィシャルサイト http://www.noism.jp/

Noism 1&2合同新作/新潟限定公演 劇的舞踊「ホフマン物語」

●7/16(金)〜18(日)
●りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館  劇場
●演出振付・空間=金森穣、音楽=トン・タッ・アン、衣裳=中嶋佑一(artburt)、照明=伊藤雅一(株式会社 流)/金森穣
● 出演=Noism1&2
●一般5,000円/学生2,500円(全席指定・税込)
●開演時間=16日19:00、17・18日 17:00
●お問い合わせ=りゅーとぴあチケット専用ダイヤル 025-224-5521(11:00〜19:00/休館日を除く)
http://www.ryutopia.or.jp