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(インタビュー/三方玲子)
[2009.12.10]

新作『After the lunar eclipse/月食のあと』を踊る平山素子に聞く

永遠の一瞬を感じるような、プリミティブなダンスを踊る。ダンサーとしてキャリアをスタートし、2008年に『Life Casting-型取られる生命-』で朝日舞台芸術賞、2009年に『春の祭典』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞するなど、振付家としても注目を浴びる存在になった平山素子。ミュージカルの振付、北京オリンピック・シンクロナイズドスイミング日本代表のデュエット振付協力など、活躍の場を広げている彼女が求めるダンスは、どこへ向かうのだろうか。出身地である愛知県主催のダンス・フェスティバルで発表する新作について聞いた。

トゥ・シューズを脱いで、自由なダンスに出合う
 

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――平山さんは愛知県のご出身なんですね。
平山 ええ、ダンスを始めたのは名古屋で、5歳から高校生までクラシック・バレエを習っていました。トウ・シューズを履いて本格的に。高校を卒業して、筑波大学で舞踊を学ぶ学部へ進学しました。そこで、いきなり創作ダンスに出合ったんです。「自由なダンスを」って。名古屋にいた頃は外の世界を何も知らない、打ち込んでいたクラシック・バレエが自分にとってすべてだったところへ突然「自由なダンスを」と言われても、全然わからなかったですね。この出会いがまず一つ、自分がチェンジするきっかけになりました。

――その後2000年まで参加されたH・アール・カオスと出合ったのは大学生の頃ですか。
平山 ちょうど大学の終了間際、この先どうしようかと思っていた時期です。実のところ、ダンサー志望じゃなかったんですよ。たまたま友人とH・アール・カオスの公演を観に行って、本当に衝撃を受けました。これは一体何なんだ?!って。そのときはキャパシティ100人くらいの小さな小屋でしたが、当時からやりたい世界観がはっきりとあって、ブレていない。それで、公演アンケートに「参加してみたいです」と書いたら、大島(早紀子)さんが「次の公演があるんですけど、どうですか?」とお電話をくださって。そこから数年間、参加させていただきました。とにかくカンパニーの世界観が強烈で、まずは今求められていることを体得したい。そこに向かっていないと出来ない。毎公演そうやって夢中で取り組んでいるうちに、気付いたら数年たっていました。

――『白鳥の湖』や『春の祭典』、『秘密クラブ…浮遊する天使たち』などに参加されていますね。
平山 小劇場からカナダのナショナル・シアターのような大きなホールへ進出して、北米ツアーに出たり、ちょうどカンパニーがメジャーになっていく時期でしたね。

――水の中で踊った公演などにも参加されていますか。
平山 ええ、横浜のビジネスパークでの『眠りの森の』ですね。すごかったですよ、稽古場で踊ってても、「これ、ほんとに水の中でやるんですよね…?」って(笑)。ハードだった。そういうチャレンジが本当に面白かったですね、今の創作活動にも影響があるかもしれません。稽古場で、これでもかというところでグッと踏みとどまって、最後の最後でさらにもう一段上を目指す、みたいな意識が強かったです。

――2001年まで1年間、文化庁派遣在外研修員としてベルギーへ留学することになりますね。
平山 その頃は、ダンサーとして振付家の要求に何でも応えられるのが良いことだと思っていました。けれど、「あなた自身は何がしたい?」と問われると言葉に詰まってしまう。ちょうど、そういうことを考えていた時期で…留学は、一度リセットして考え直す良いきっかけになりましたね。

――帰国後は、フリーで活動を。
平山 振付だけじゃなく構成や演出も考えながら、自分も出演するという現在の形を少しずつスタートしていきました。

時間と空間と重力の錯覚を起こすような新作
 

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――今回は日本のライトアートの第一人者、逢坂卓郎さんとの新作ですね。このアイデアはどこから。
平山 2005年に、無重力空間ダンス実験『飛天』プロジェクトにパフォーマーで参加したことがありました。飛行機に乗って、機体が落下していく数十秒間だけ作り出される無重力に近い状態の中でダンスを踊る。映像作品として発表しました。その体験以来、ますます重力に逆らいたくなるし、この要素を何らかの形で身体表現に取り入れられないかと思っていたんです。逢坂さんも、無重力の状態だと光や音がどう変化するかに興味を持っていて、ライフワークのように継続していらっしゃいます。落下する飛行機の中で光を回したり、色々な実験をされていることは以前から伺っていました。そこで今回、愛知芸術文化センターから新作の依頼をいただいたとき、ぜひ逢坂さんとご一緒したいなと。時間と空間と重力の錯覚を起こすような新作にできればと考えています。

――宣伝ビジュアルはどうやって撮影したんですか。
平山 LEDライトの前に1枚の紗幕を垂らした逢坂さんの作品の前で踊りました(新潟市の信濃川の上にて・写真)。通常のLEDライトより柔らかい光を出したい意図で紗幕を使って発表された作品で、色や光の強さの変化でさまざまな表情が浮かび上がります。さらに、踊っている身体がライトで紗幕に映し出されている、予定にはないカットも撮影しました(写真)。撮影しているうちにライトと紗幕の間に入ってみたくなって、入ってしまいました(笑)。

――2004年の『月に憑かれたピエロ』、2007年の『ハムレット~幻鏡のオフィーリア~』など、積極的に愛知芸術文化センターの企画に参加されていますね。
平山 愛知芸術文化センターのプロデューサーは、早い時期からコンテンポラリー・ダンスのオリジナル企画に力を入れていました。面白いのは、自分ではなかなか手をつけないような「え?!」と驚くお題を提案してくださること。『月に憑かれたピエロ』も『ハムレット~幻鏡のオフィーリア~』もそうでした。

――実験的な作品を?
平山 “ちょいズレ感”がある、とんがった方向性の作品を発表できる場であると思います。たとえば非常に確実なクオリティを求められる新国立劇場とはまた違った、ひとつの方向性として。常にチャレンジしていかないと、角が丸くなっていっちゃうんですね。作品を評価していただくと、「ここでこうまとめたらうまくいく」とわかってきて、“手堅い” 演出や振付になっていく危険がある。愛知は、そこをあえてはずしていくエネルギーと勇気をいただける場所かもしれません。「ソレハ、イツモユルヤカニ浸食シ壊シテイク。」という新作のキャッチコピーにも、そんな自分のダンス観が反映されていると思います。ゆるやかだけど確実に変化を遂げながら、さまざまな舞踊作品に取り組めたら。

――美術、照明、衣裳なども、毎回すごく繊細にこだわってらっしゃいますね。
平山 たとえば美味しいカレーを誰かに食べてもらうとき、そのへんにある100円のお皿に適当に入れて出すんじゃなくて、どんな器に盛って、どんな灯りの部屋で、どんな音楽を流したら、より美味しく食べてもらえるか考えたいんです。ダンスも同じ。けれど自分の限界はわかっていて、自分ひとりではできない。たくさんイメージは膨らむけど、絵を描いてみたらヘタだったり、言葉で書き留めてみてもダメだったり(笑)。そこで、各ジャンルのアーティストと知恵を出し合って作っていきたいですね。多くのアーティストにもっともっとダンスに興味を持ってもらって、総合的なアートとしてのダンスの価値を提案していきたいと思うんです。

求めるのは、“マジック”がかかっているダンス
 

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――普段はどんなレッスンをなさっているのですか。
平山 ベースはバレエです。ウォームアップではまず、バーからセンターまでひと通りのバレエの基礎を。次に、さらに身体をこまかく動かしていきます。手の指を1本ずつとか、背骨の積み上がってる頚椎をひとつずつとか、とてもこまかいパーツをほんの少しずつ動かしていく。30分くらいひたすらやります。外見の形(かた)ではなく、イメージが大切。「外から中へ空気を集めるように」とか「空気を吸い上げるだけ」とか。次第に身体がリラックスしていくことが重要で、力みがあるうちはダメなんです。

――筋トレなどは?
平山 いわゆる“筋トレ”は絶対にしないです。重い物を持てる、腹筋を何回以上できる、そういうことは私にとってまったく意味がないんです。どんな動きをしたいかイメージを持って練習することが大切。たとえば「リラックスして地面に寝た体勢から、ゆるやかな風が吹いて来て、ふわっと上半身が浮き上がり、風が止むと再び上半身がもとの体勢に戻る」動き。科学的に検証すると強い腹筋が必要な動きですが、そのために腹筋を1日50回、ただ機械的に繰り返すことはしないですね。実際に動きを何度も繰り返して、「上半身がこの角度まで上がるともっとそれらしく見えるかな?」「さらにゆっくり起き上がってみたらどうか」「もっと強い風が吹いた場合は?」といろいろ試しながら、身体をさぐっていくんです。

――平山さんがダンスで目指すところはどういうところですか。
平山 とにかく“マジック”がかかっているダンス。感動したものには、ダンスそのものに魔法がかかっているように見えるんです。ダンスを見た目の形でとらえるよりも、発するエネルギーや観客がその踊りに思わず引っ張られる力みたいなものが重要。お客さまと、お互いにその“マジック”を感じ合えるかどうかが一番大切だと考えています。

――どんなダンサーが好きですか。
平山 やはり、“マジック”を感じられる人。この人は舞台にいなければいけないと思わずにいられない、魔法がかかっているダンサーっていますよね。そういう人や作品に出合いたい。そして誰かのマジックに出会ったとき、「じゃあ、自分にはどんなマジックができるかな」と考えます。誰かの真似をするんじゃなく、自分は自分なりのマジックを提案したいタイプなんですよ。そこが、コンテンポラリー・ダンスを面白いと感じて、フィールドワークの中心に置いている理由でもあると思います。

――劇場へ行くだけじゃなく、日常的にダンスクラスに通って楽しむ場合もありますね。
平山 日々のレッスンの中でも、マジックは感じられると思うんです。たとえば身体と音楽がシンクロしたときに脳内に良いものが溢れるような、ドーパミンが出るような感覚。簡単に得られるものじゃないけど、その感覚を信じて続けられたら。ただその前に、技術を体得するために潜り抜けるトンネルが長すぎることもあるかもしれません。ダンスって、たった一つの動きが身体に染み付くまでに莫大な時間がかかるから、出口がなかなか見えない。少しでも、日常的に「膝は少し曲がっていたけれども、音楽に乗れた」「今日は気持ちよく踊れた」っていう感覚を日々のレッスンから持ち帰れたら素敵ですよね。

――その“マジック”は、ダンスに限ったことはないんですね。
平山 たとえば「このプリン、なぜこんなに美味しいの?」っていうマジックもあります(笑)。このコーヒーは美味しい、ある本のひと言が強烈にマジックだった。皆さん日常的に、いろんなマジックを感じているはず。その一つに、ダンスもあってほしいですね。

――コンテンポラリー・ダンスは、まだまだ敷居が高いですが…。
平山 「ストーリーがなくて意味がわからない」「コンテンポラリー・ダンスは難しい」と身構えず、身近なマジックの一つかもしれないと気軽に入ってきていただけたら嬉しいです。展開している動きの表層や踊りの形だけを見るんじゃなく、“マジック”に敏感になって観ていただければ。そして、もし初めて体験するコンテンポラリー・ダンスが私の舞台だったなら、「面白かったから次は別の振付家やカンパニーの作品も見てみよう」と興味を持ってもらえる作品をやらなければ、という腹はくくっているんです。有難いことに朝日舞台芸術賞(2008年)や芸術選奨文部科学大臣新人賞(2009年)をいただきましたし、自分の作品に対する責任感はあります。コンテンポラリーダンスは、高い現代性とアートとしてのクオリティを持っていて、かつ非常に多くの可能性を秘めている。それを自分の作品だけじゃなく様々な作品で感じてもらいたいんです。食わず嫌いの方も、まずはぜひ一度、劇場へ足を運んでみてください。