バレエの栄光の歴史がきらめく「薄井憲二バレエ・コレクション」の逸品を訪ねて その12

コラム/バレエの栄光の歴史がきらめく「薄井憲二バレエ・コレクション」の逸品を訪ねて

森 瑠依子

<くるみ割り人形>

2018年、マリウス・プティパ(1818-1910)の生誕200年の最後に、薄井憲二バレエ・コレクションの中からご紹介するのは、12月の定番『くるみ割り人形』にまつわる品々。

『くるみ割り人形』はチャイコフスキー作曲3大バレエの最後の作品で、各国の踊りを中心にした組曲版の演奏を耳にする機会が多く、なかでも「花のワルツ」は『白鳥の湖』のテーマと並んで日本でもなじみが深い。また、音楽が有名であるのに加え、日本では12月の風物詩として国内のバレエ団がこぞって上演し、子供たちが出演することもできるため、バレエ作品としても身近な演目となっている。

1892年の帝室マリインスキー劇場バレエによる初演版は、『白鳥の湖』で湖畔の場面を担当したレフ・イワーノフが振付けており、マリウス・プティパは台本作者としてのみ参加している。プティパは振付を任されていたのだが、病気のためにイワーノフに交替したのだった。現在、イワーノフの振付は金平糖の精の踊りを含むパ・ド・ドゥに若干残っている程度で、キーロフ(現マリインスキー)・バレエのワシリー・ワイノーネン版(1934年)を基礎とした改訂版や、斬新な新解釈の版など、バレエ団によって多彩な振付が試みられている。

薄井コレクションには『くるみ割り人形』のストーリーと舞台写真を数多く掲載した書籍が複数ある。その一部をご紹介しよう。

「Stories of the Ballets: The Nutcracker」(BK-1015-pie)
Barbara Newman著、1985年、ロンドン、Aurum Press刊

『くるみ割り人形』のイラスト入り物語と舞台写真で構成された一冊。著者のバーバラ・ニューマンはニューヨーク出身の作家、バレエ評論家で、日本でも『ダーシー・バッセルが紹介するBallet Stories「バレエ名作ストーリー」』(文園社)が出版されている。

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表紙

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ロシアの踊り(トレパック)の舞台写真

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自作の版でドロッセルマイヤーを演じるルドルフ・ヌレーエフ。ヌレーエフ版ではドロッセルマイヤーと王子は同一人物という設定で、ひとりのダンサーが演じる。

「The Official Bolshoi Ballet Book of The Nutcracker」(BK-0206-pie)
Yuri Grigorovich、Alexander Demidov著、1986年、ニュージャージー、T.F.H. Publications Inc.刊
ボリショイ・バレエの芸術監督/バレエマスターのユーリー・グリゴローヴィチが共著者となっているボリショイ・バレエ公式本。グリゴローヴィチ版『くるみ割り人形』の物語が、たくさんの舞台写真とともに紹介されている。

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表紙

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グリゴローヴィチ版のドロッセルマイヤー

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グリゴローヴィチの製作メモ

The Nutcracker Ballet」(BK-0205-pie)
Jack Anderson著、1996年、ニューヨーク、Mayflower Books刊
多数の新旧の舞台写真を掲載した大判のフォトエッセー。著者ジャック・アンダーソンはミルウォーキー出身の著名な舞踊評論家、舞踊史研究家で、ニューヨーク・タイムズなどに寄稿。バレエとモダン・ダンスに関する著書が多数ある。

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表紙カバー

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これもヌレーエフが演じるドロッセルマイヤー。1967年にスウェーデン王立バレエで初演されたヌレーエフ版は英国ロイヤル・バレエ、ミラノ・スカラ座バレエ、パリ・オペラ座バレエなど、各国の有名バレエ団で上演されている。

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バレエの物語がイラスト入りで紹介されている。

貞松・浜田バレエ団「くるみ割り人形」公演プログラム(PR-478-OF)
1997年12月25日、神戸文化ホール
これは神戸の貞松・浜田バレエ団クリスマス特別公演のプログラム。巻頭に薄井憲二氏による作品解説「『くるみ割り人形』の初演」が、本コレクション収蔵の歴史的な写真とともに掲載されている。

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薄井氏による作品解説。写真は上が初演で金平糖の精を演じたアントニエッタ・デレッラ、下がマチルダ・クシェシンスカヤ。マチルダの父フェリックス・クシェシンスキーはすぐれたキャラクター・ダンサーで、1892年の初演でクララの父を演じた。

写真提供:兵庫県立芸術文化センター 薄井憲二バレエ・コレクション

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