バレエの栄光の歴史がきらめく「薄井憲二バレエ・コレクション」の逸品を訪ねて その9
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コラム/バレエの栄光の歴史がきらめく「薄井憲二バレエ・コレクション」の逸品を訪ねて
森 瑠依子
<眠れる森の美女 2>
今年はクラシック・バレエの確立における最大の貢献者、マリウス・プティパ(1818〜1910)の生誕200周年。前回はプティパの代表作『眠れる森の美女』のマリインスキー劇場での誕生と、バレエ・リュスによるイギリス公演にまつわるアイテムをご紹介したが、今回はイギリス、アメリカ、日本で上演された『眠れる森の美女』に関連するコレクションを取り上げる。
1.イギリスの『眠れる森の美女』
1921年にロンドンで『眠り姫(眠れる森の美女)』を上演したバレエ・リュスに、1923年から2年間在団したアイルランド出身のニネット・ド・ヴァロワ(1898-2001)は、退団後ロンドンにバレエ学校を開校し、現在の英国ロイヤル・バレエの基盤を築いた。1939年に彼女が率いるヴィク・ウェルズ・バレエ(現ロイヤル・バレエ)は、バレエ・リュスにプティパの振付を指導したニコライ・セルゲーエフ(1876-1951)を雇い、バレエ・リュス版よりもプティパの原典に近づけた『眠り姫』を上演した。マーゴ・フォンテイン(1919-1991)とロバート・ヘルプマン(1909-1986)が主演したこの作品は大成功を収め、以後『眠れる森の美女』はロイヤル・バレエの十八番として知られるようになる。そして1946年に制作されたド・ヴァロワ、フレデリック・アシュトン(1904-1988)らの振付を加えた改訂版はさらなる完成度で、高い評価を得た。
1946年に出版された改訂版『眠れる森の美女』の舞台写真集(当時の団名はサドラーズウェルズ・バレエ)。たくさんの舞台写真と、著名な評論家シリル・ボーモントによる解説が掲載されている。写真は第1幕でオーロラ姫を演じるマーゴ・フォンテイン。
リラの精役のベリル・グレイ(1927-)。
プロローグより、カラボスを演じるロバート・ヘルプマン。ヘルプマンはフロリムンド王子も演じている。
第3幕第2場のアポテオーズ。妖精たちと宮廷の人々が、結婚式を終えたオーロラ姫とフロリムンド王子に敬意を捧げる場面(以上、BK-0208-pieより)。
こちらはそれから約50年後の舞台。1994年に自ら振付けた版でおどろおどろしくカラボスを演じるアンソニー・ダウエル(1943-)とロザリンド・エア。ダウエルは20世紀を代表するダンスール・ノーブルのひとりとしてロイヤル・バレエで活躍し、1986年から2001年まで同団の芸術監督を務めた(PH-C-25-19)。©Leslie E. Spatt
2.アメリカの『眠れる森の美女』
アメリカではバレエ・リュスよりも早い1916年にアンナ・パヴロワが『眠れる森の美女』の1幕版をニューヨークで上演していたが、全幕版の初演はその21年後、1937年のフィラデルフィア・バレエ版である。そして1949年には英国のサドラーズウェルズ・バレエが訪米してセルゲーエフの改訂版を上演し、アメリカでも観客を熱狂させた。アメリカを代表するバレエ団のアメリカン・バレエ・シアター(ABT)の全幕版上演は、キーロフ・バレエ(現マリインスキー・バレエ)から亡命したナターリヤ・マカロワとミハイル・バリシニコフという、この上ないスターを主演に迎えた1976年のメアリー・スキーピング版まで待つことになる。さらに1987年には当時の芸術監督ケネス・マクミランの改訂振付による新しい『眠れる森の美女』が初演され、長く人気を集めた。
マクミラン版『眠れる森の美女』プロローグの妖精たち(PH-C-02-66)。
©Martha Swope
オーロラ姫を演じるアマンダ・マッケロー(1964-)とフロレスタン王のユルゲン・シュナイダー(1936-1995)、王妃のジェネット・ザーブ(PH-C-02-65)。
©Martha Swope
デジレ王子役のフリオ・ボッカ(1967-)(PH-C-02-63)。©MIRA
3.日本の『眠れる森の美女』
日本では第二次世界大戦終戦の翌年1946年に東京バレエ団が『白鳥の湖』全幕を初演したのに続き、1952年、小牧バレエ団が『眠れる森の美女』全幕を初演。オーロラ姫を演じたロンドン・フェスティヴァル・バレエのスター、ソニア・アロワが小牧正英とともに演出・振付に携わり、見事な舞台を創り上げた。なお、翌年に貝谷バレエ団が『くるみ割り人形』全幕を初演したことで、チャイコフスキー作曲の3大バレエの日本初演が実現。それから65年が過ぎた現在、多くの日本のバレエ団が3大バレエをレパートリーとし、観客を魅了している。
1952年11月に東宝20周年記念公演として東京、日本劇場(日劇)で行われた小牧バレエ団の『眠れる森の美女』プログラム。ハンガリー出身で、パリのプレオブラジェンスカヤらに学んだ当時25歳のソニア・アロワ(1927-2001)の横顔が初々しい(PR-302)。
同年12月には「ソニア・アロワ送別公演」として、日比谷公会堂に会場を移した(PR-303)。
1997年10月、東京に新国立劇場が開場し、日本のオペラ、ダンス、演劇の新しい中心地として大きな役割を果たすことになった。バレエの開場記念公演の第1弾はコンスタンチン・セルゲーエフ改訂振付のマリインスキー劇場版『眠れる森の美女』で、森下洋子と清水哲太郎、吉田都と熊川哲也、酒井はな及びマリインスキー劇場のディアナ・ヴィシニョーワと小島直也と、日露のスターの豪華な競演によって大成功を収めた。プログラムの表紙は1890年初演版の衣装をデザインした、イワン・フセヴォロジスキーによる青い鳥のデザイン画(PR-227-OF)。
今回ご紹介したアイテムを含む貴重な『眠れる森の美女』のコレクションが、兵庫県立芸術文化センターの「薄井憲二バレエ・コレクション 2018企画展」にて6月24日(日)まで公開されている。
公式サイト:http://www1.gcenter-hyogo.jp/ballet/index.html
写真提供:兵庫県立芸術文化センター 薄井憲二バレエ・コレクション
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