キャラクターダンス講座 クラシック・バレエとキャラクターダンスその3:チャルダッシュについて

キャラクター・ダンス講座 第5回

クラシック・バレエとキャラクターダンスその3:チャルダッシュについて

チャルダッシュはハンガリーの踊りで、1830年頃最盛期を迎えました。その名前は、「宿屋」「ビール屋」といった意味です。チャルダッシュの音楽は2拍子系で、たいてい4分の2拍子か4分の4拍子です。ゆっくり始まり、いつも速いテンポ、さらには非常に速いテンポで終わります。
その起源は、ハプスブルク家(オーストリア王室の一族)の軍隊で大流行した徴兵の踊りであるヴェルブンコシュに、端を発しています。ドイツ語では、「ヴェルビンデン」といい、「集める」という意味です。かくして、兵士たちは若者を軍隊へ誘い、入隊させるために村から村を行軍したのです。もともと、この踊りは最初に騎兵隊によって踊られていたため、繰り返される動きがあるのです。拍車をカチャカチャ慣らすために蹄を鳴らす動きです。

チャルダッシュの基本のステップは、ブランル(16世紀頃のフランスで踊られた踊り)と似ており、 2歩右に動いたら2歩左に動くという構成になっています。さらに優美さを加えるために、最初のほうで、ステップの出だしとは反対の方向に体のバランスをとって 皆でつながる動きが続きます。

ハンガリーの民俗舞踊
YouTube参照
《ソロダンス・ガラ:チャルダッシュ・チョコール Szolotanc Gala - Csardas Csokor》 


以後、チャルダッシュは、何よりもまず、カップルの踊りとなっています。ハンガリー系の人々が住む地方ではどこでも踊られており、同様にルーマニアでもこの踊りを見かけます。原則としてカップルは一緒に、すなわち鏡のように向かい合うにせよ、輪になって同じ足から始めるにせよ、移動します。右に2歩、次に左に2歩、というのがひとつの単位を構成していますが、もちろん地方によって様々なヴァリエーションがあります:前に後ろに移動するパ、曲がったりまっすぐに移動するパ、対角線のパ、回転するパなど。様々な形態のなかでも、単純な円形での移動や、男女二人での回転、女性だけの回転、パートナーが離れたり近づいたりする動きが特徴的です。

クラシック・バレエのディベルティメントにおいて、チャルダッシュの影響はとても強く、あらゆるキャラクターダンスが、ハンガリー風でなくとも、アン・ドゥダン(内股)で一本か二本の足でのドゥミ・プリエのステップのあと、長靴を打ち鳴らすという特徴的なステップを、ほぼ例外なく取り入れています。この現象は、単純なことから生じています。振付家たちが伝統の源を知らずに、プティパのような過去の振付家を単純に真似したからです。かくして、ハンガリー語で《ボカソ》と呼ばれる、このかかとの動きは、時が経つにつれて、クラシック・ダンスではないという口実、印、特徴のようになったのです。このように、ボカソをアンシェヌマン(一連の動き)のなかに含めることは、《本物の》キャラクターダンスを創ったという証拠になりました。甚だしい間違いですが、この方法はうまくいき、この確信は強固なものとなっています! アン・ドゥダン(内股)からアン・ドゥオールへの移り変わるステップで感じるこの喜び、この楽しさは疑う余地もなく、この《禁じられた》遊びは《クラシックのダンサー》を深く魅了するのです。禁止されたことに違反するのは何と気持ちがいいのでしょう!

19世紀、ハンガリーでは、彼らの伝統をさらに磨きをかけるために、ハンガリーの伝統舞踊の振付家たちは、フランスの振付家たちにすがりました。こうしてチャルダッシュは、祖国ハンガリーで真の華麗な舞踊になるべく発展し、変貌を遂げました。時には、女性のブーツにも小さな拍車をつける場合もありました。今日では、ハンガリー伝統舞踊の偉大な踊り手は、《銀の拍車》という称号を持つに至ります。ヨーロッパのクラシック・バレエ界で《ソリスト》もしくは《プリンシパル》に相当する称号です。

自分のバレエ作品にチャルダッシュを加える振付家は数多いのですが、もっとも有名なのは、マリウス・プティパの『白鳥の湖』のものであることは、異論の余地がありません。

YouTube参照 Danse Hongroise "Czardas" - Swan Lake Act 3 


偉大な作曲家たちも同じく、チャルダッシュのテーマを取り上げています:フランツ・リスト、ヨハネス・ブラームス、ヨハン・シュトラウス、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー...。
今日、ハンガリーではチャルダッシュの音楽は、何よりも遊牧民(ジプシー)によって演奏され、誰もが口ずさむ歌や流行歌がもつような役割を果たしているのです。

[筆者紹介] ナデジダ・L・ルジーヌ Nadejda L. Loujine

現在、ゲルシー・カークランド・アカデミー(New York)、ゲスト教師。ジョフリー・バレエ・スクール(New York) ゲスト教師。
元パリ・オペラ座バレエ学校教師。
パリ・オペラ座バレエ団、ジャン=ギヨーム・バール振付『泉』のレ・ダンス・コカジエンヌ(コーカサスの踊り)振付助力。テアトル・デュ・ソレイユ 教師および振付アドバイザー アリアーナ・ムーシュキン演出『Les Naufrages du Fol Espoir』。バルセロナ・オペラ座 Grand Teato del Liceo 『スペードの女王』振付・指導。その他、モリエールをはじめ、多数の演劇作品に振付。
Chevalier des Arts et des Lettres受章。
著書 「ダンス・ドゥ・キャラクテール」アンフォラ社
URL www.dansedecaractere.com

コラム/その他

[ライター]
ナデジタ.L. ルジーヌ Text by Nadejda L. LOUJINE
[監修]
今井 美樹 Miki Imai
[訳]
香月 圭 Kei Kazuki

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