キャラクターダンス講座 はじめに ~ダンス・ドゥ・キャラクテールについて語るにあたって~ 

ナデジタ先生のダンス・ドゥ・キャラクテール講座 その1

生まれ変わりゆく、ダンス・ドゥ・キャラクテール

ダンス・ドゥ・キャラクテールのテクニックは、クラシック・バレエの発展と密接に関連しています。
『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』など、グランド・バレエの代表作の中だけでも、理由は忘れられていますが、ダンス・ドゥ・キャラクテールが大幅に取り入れられています。そして、このダンス・ドゥ・キャラクテールの導入が、これらの大作に大きな成功をもたらしました。
このことを理解するために、クラシック・バレエの歴史を振り返り、バレエのあらすじがしばしばフランスやドイツなど、ヨーロッパで昔から語り継がれてきた伝説や民話がもとになっている、ということを思い出してみましょう。

ヨーロッパでは、最近、フォルクロール Forklore {英 Folk}という言葉は廃れた感があり、ダンス・フォルクロリック danse folklorique (民俗舞踊)という言葉はあまり使われず、代わりにダンス・ポピュレール danse populaire
(庶民の踊り)と言うことが多くなりました。ポピュレール (英 ポピュラー)であるということは、「ずっと人々に愛されてきたもの」、という意味があります。ダンス・ポピュレール (庶民の踊り)は、それぞれの社会の特性に影響されながら数え切れない変化を遂げてきました。そしてこれらの変化の中には、地理、気候や、その土地の歴史を基盤として国を形成してきた、様々な民族の特徴が含まれています。それぞれの民族が個々に、ダンスのパと形態を変化させてきたわけです。

プティパ、ブルノンヴィル、またタリオーニなどの振付家は、脚本家の協力のもとに、世界中の伝統舞踊のエッセンスをとった舞踊パートを作品中に取り込んできました。そういうわけで、ダンス・ドゥ・キャラクテールというのは、旧ソ連の踊りやロシアン・ダンスなどだけを指すのではない、ということをこの時点で明確にしておきましょう。

ダンス・ドゥ・キャラクテールというのは、イタリアンでもフレンチでもあり、またハンガリアンでもあります。そしてもちろん、日本風であってもよいはずです。というのも、前述の振付家たちは、数多くの世界中の伝統舞踊にインスピレーションを得て、パ・ド・ブレ、パ・ド・バスク、シソンヌなどの新しいパを生み、また同時に一つの美学や思想を創ってきたのですから。この点については、また今後により詳しく触れていきます。

ダンス・ドゥ・キャラクテールには2つの異なる様式があります。
一つはドゥミ・キャラクテール、もう一つがいわゆる一般で言うキャラクテールです。
これらはどちらも民俗的のものを基盤に持つものですが、そのテクニックの展開はかなり異なります。

ドゥミ・キャラクテールは、民俗舞踊のイメージを参考にしながらも、その伝統的な踊りの動きからは離れ、アカデミックな舞踊の動きを用いています。

「白鳥の湖」第2幕より、ロシアの踊り Nicole Fédorov Gelsey Kirkland Academy

舞踊は19世紀のフランスの支配階級である裕福なブルジョワたちの専用物でした。当時は、この高貴で重んぜられるべき「舞踊」を尊重するために、クラシック・バレエのパが意識的に取り入れられました。そのため、このドゥミ・キャラクテールは、衣装はチュチュが多く、靴のかわりにトゥシューズが履かれます。全体の印象として、少しエキゾティックな雰囲気が加えられます。

Photo by Gene Schiavone 2014年2月に来日するABTの「くるみ割り人形」

Photo by Gene Schiavone 2014年2月に来日するABTの「くるみ割り人形」

一方でキャラクテールは、民俗舞踊を文字通り、そのままコピーしたものではありませんが、そのエッセンスが強い舞踊です。民俗舞踊を舞台でのパフォーマンスとして演じるために、より様式化されたもの、と言えるかもしれません。しかし、キャラクテールの目指すところは、本格的な民俗舞踊を再現することではありません。舞台上のしきたりを尊重しつつ、作品の中の登場人物の価値を上げ、より生き生きとしたパーソナリティーを創り、表現することにあります。
そしてまた、伝統的な民俗舞踊をそのまま再構成するのではなく、そこから派生したものを新たに創っていくのが、キャラクテールの芸術的な主題と哲学なのです。実際に、伝統的、民俗的な世界というのは究極的には個々のアイデンティティー(私はフランス人だ、カタロニア人だ、ドイツ人だ、など)を表現するものですが、キャラクテールにおいては、それはあくまで劇場の世界だけのことです。

キャラクテール:ポジションの例 Nicole Fédorov Gelsey Kirkland Academy

キャラクテール:ポジションの例 Nicole Fédorov Gelsey Kirkland Academy

しかしながら、ドゥミ・キャラクテール、キャラクテールの2つのダンスのどちらも、そのヴァリエーションは、クラシック・バレエの中の主要人物の価値をあげるために創られた、余興として扱われています。
グランド・バレエの筋書きの中でダンス・ドゥ・キャラクテールが占める位置をみればよくわかります。美しく高貴な王子が 「 野蛮者」に打ち勝つ、それが常ですよね。
たとえこの「野蛮者」がその素晴らしい踊りで、美しくも慇懃無礼な宮廷を喜ばせたとしても。

この友人であり、ライバルでもある、異なる2つの舞踊形態の不思議な関係は、どこからくるのでしょうか ?  今後、この話を展開していきたいと思います。

注)用語について
翻訳に関して、いわゆる「キャラクター・ダンス」一般を表わす言葉をダンス・ドゥ・キャラクテールとした。(これは英語のキャラクテー・ダンスと仏語のダンス・ドゥ・キャラクテールは微妙に意味が異なるためである)さらにそれを二つに分類し、ひとつをキャラクテール(正しくはダンス・ドゥ・キャラクテール)とし、もうひとつをドゥミ・キャラクテール(正しくはドゥミ・ダンス・ドゥ・キャラクテール)と混乱を避けるために便宜上表記している。

[筆者紹介] ナデジダ・L・ルジーヌ Nadejda L. Loujine

現在、ゲルシー・カークランド・アカデミー(New York)、ゲスト教師。ジョフリー・バレエ・スクール(New York) ゲスト教師。
元パリ・オペラ座バレエ学校教師。
パリ・オペラ座バレエ団、ジャン=ギヨーム・バール振付『泉』のレ・ダンス・コカジエンヌ(コーカサスの踊り)振付助力。テアトル・デュ・ソレイユ 教師および振付アドバイザー アリアーナ・ムーシュキン演出『Les Naufrages du Fol Espoir』。バルセロナ・オペラ座 Grand Teato del Liceo 『スペードの女王』振付・指導。その他、モリエールをはじめ、多数の演劇作品に振付。
Chevalier des Arts et des Lettres受章。
著書 「ダンス・ドゥ・キャラクテール」アンフォラ社
URL www.dansedecaractere.com

コラム/その他

[ライター]
ナデジタ.L. ルジーヌ Text by Nadejda L. LOUJINE
[訳]
小林 秋恵 Akie Kobayashi / 今井 美樹 Miki Imai

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