マシュー・ボーンのチャリティー部門による南イングランドツアー「ドアステップス・デュエット」に、レジデント・ディレクターとして参加しました
- インタビュー & コラム
- コラム 友谷真実
掲載
6月後半から7月末までロンドンでマシュー・ボーンのチャリティー部門による南イングランドツアー「ドアステップス・デュエット」に、レジデント・ディレクターとして参加しました。昨年は出演も兼ね同役をもう一人の男性とシェアしましたが、今回は芸術面を一人で担当しました。
このチャリティー部門の「ドアステップス・デュエット」については「踊りある記」の過去の記事をご覧ください。
https://www.chacott-jp.com/news/column/usa/detail037297.html
Photo from Doorstep Duets 2025 by Stephen Daly.
Photo from Doorstep Duets 2025 by Stephen Daly.
今回の作品『My Feet Don't Quite Touch The Floor(私の足はまだ床に届かない)』は、学校教育の自由な在り方や、想像力・夢を育むことの大切さをテーマにしています。振付は、日本公演では『くるみ割り人形』『ザ・カ―マン』『シザーハンズ』など一緒に出演していましたシェルビー・ウイリアムが担当しました。
この作品のテーマは「自由な学び」。
学校の勉強は、「こうしなければならない」「このやり方だけが正しい」と決めつけるのではなく、もっと自由に、いろんなやり方で学べたらいいのに...という思いが込められています。
夢やアイデア、好奇心をどうするか――押さえ込むのではなく、思いきって受け入れてみたらどうだろう?
そんなメッセージも込められています。
物語は、伝説の振付家ジリアン・リン(『キャッツ』『オペラ座の怪人』)とアーリーン・フィリップス(『グリース』『ガイズ&ドールズ』)の若い頃の体験からインスピレーションを得ています。
2人は自分の道を見つけ、心のおもむくままに進んでいくことで、すばらしいキャリアを築きました。
この作品は「感性」や「自由な発想」を大切にすることで、誰もが新しい可能性をひらくことができる――そんな希望にあふれたダンスの物語です。
学校公演では、子どもたちが、言葉を使わないダンスに真剣に見入っていました。
質疑応答の時間には、「ダンサーの皆さんにとってイマジネーションとは何ですか?」といった、鋭く本質を突く質問も次々に出され、子どもたちの関心の高さがうかがえました。
また公園でのパフォーマンスでは、ADHDのお子さんをもつお母さんからこんな感想をいただきました。
「自分の子どもを想いながら観ていました。こんなふうに、自由な発想やイマジネーションを大切に育ててくれる学校があったら素敵だと思います」
Latitude フェスティバル
私の仕事ですが、1日に3、4か所、多い時は5か所に2台の車で移動してパフォーマンスをします。
前日に何時にウォーミングアップをし衣装に着替えて、車で移動してパフォーマンスと、スケジュールをステージマネージャーのジャックと決めます。
そして、パフォーマンスの場所につくと、広さ、床の状況、天井の高さ、正面はどの方向で観客はどこに座るかなどを決めます。
外の場合は、観客を夏の気温で暑くなっているコンクリートに座らないように、芝生の場所はないか? 事前に決められた場所から変更をお願いするときもあります。風が強い場合は使用する小道具も変更します。
また、地面が平坦でない場合や天井が低い部屋では、小道具の机と椅子に乗る振りはカットなどダンサー達に指示します。
キャストは1週間のキャストを決めてダンサー達に週初めに知らせます。
Photo from Doorstep Duets 2025 by Stephen Daly.
Photo from Doorstep Duets 2025 by Stephen Daly.
1か所で4回公演ではなく、4か所に行くのでそれぞれ違い、またキャストも二組あるので「ここはお客さんが近いからこうして欲しい」「ここは真横から見ているお客さん達にも向かって踊ってほしい」など、毎回現地についてから指示をします。
終わってからも、ノート(ダンサーへのアドバイス)などをまとめて、次の日のウォーミングアップで伝えるように準備します。
また、プロデューサーやステージマネージャーから次の日の注意点や、ホスピスなどダンサー達が気持ち的に辛くなる場合もあるので、どんなところに行くのかなどミーティングもあります。 衣装や小道具の状況も確認したりなどです。
上記は仕事内容ですが、それ以外に正直「お母さん」みたいな仕事もあります(笑)。
「衣装は当日の朝、宿泊先を出る前に確認してね」「小道具の鉛筆はある?」「体調はどう? 外公演が今日は多いけど大丈夫?」「水は飲んでる?」など・・・
スケジュールも聞かれるので私は簡潔に「送られてきたスケジュールを自分で見て」と言い返していました(笑)。ちなみに、スケジュールはプロデューサーが作ります。宿泊先もプロデューサーが決めます。このツアーでは二人プロデューサーがいます。そのうちの一人は昨年も担当し、私と舞台に一緒に出ていたサム・アーチャーです。前からプロデューサーの仕事に興味がありこの「ドアステップス・デュエット」で担当しています。
始まる時間や今日のキャストは? もよく聞かれるので、1週間のキャストスケジュール以外に1日のキャスト表をみんなの携帯のグループに前日送ります。私は他に当日決めることで忙しいので、あくまでも聞かれないためにです(笑)。
Photo from Doorstep Duets 2025 by Stephen Daly.
大きな公演と違いスタッフを入れて8、9と人数が少ないのでとても楽しく、家族旅行のような感じになります。ジョイフルを観客に送るツアーで、フィードバックも直接聞けるのでとても楽しく、やりがいのあるパフォーマンスです。イギリスのケアハウスで「ちゃんと支払いは行われているの?」とご老人から心配されて質問もありました。「ちゃんと交通費、宿泊、食費、そして大きな公演と同じギャラのリハーサル費、パフォーマンス費を頂いていますので大丈夫ですよ」と答えました。イギリスでも田舎に行くと「ダンサー」が仕事とはやはり理解されていないところもありました。地域に行って、地域の劇場に行かれない、来られない方々にこの15分−20分のダンスパフォーマンスを観てもらい、何かを感じてそのことを家や仕事場で話してもらい、芸術が広がっていくのに関わっているのはとても誇りです。
いつか、日本や海外の地方でもスポンサーがあればぜひ、本物の芸術、マシュー・ボーンの世界の「ドアステップス・デュエット」(玄関先でのデュエットという意味です)ワールド地域ツアーができると良いですね。
Photo from Doorstep Duets 2025 by Stephen Daly.
Photo from Doorstep Duets 2025 by Stephen Daly.
Photo from Doorstep Duets 2025 by Stephen Daly.
Photo from Doorstep Duets 2025 by Stephen Daly.
インタビュー & コラム
友谷 真実 Mami Tomotani
福岡シティ川添バレエ学苑、三ノ上万由美バレエスタジオでバレエを黒田バレエスクールにてコン テンポラリーダンスを学ぶ。
15 歳で劇団四季合格し、ミューシカルで活躍後、英国マシュー・ボーンのニュー・アドベンチャーズに日本人として初めて入団。「くるみ割り人形」では主役クララを演じ、 「エドワード・シザーハンズ」「Highland Fling」(愛と幻想のシルフィード)、トニー賞 受賞の「白鳥の湖」「カーマン」 「眠りの森の美女」出演。 現在は、マシュー・ボーンのインターナショナルツアーの「前座公演」振付、ワークシ ョップを担当。2023 年―2024 年は「エドワード・シザーハンズ」イギリス公演に出演 する。
また、「ハリー・ポッターと呪いの子」日本アソシエイトムーブメントディレクター 担当。最近では NY のアーティスト、Kazue Taguchi の作品で NY の The Museum of Art and Design で踊り、福岡美術館でバンドネオン演奏者、川波幸恵とのコラボで踊った。
振付家として N.Y の全米 No.1 のミュージカル「フェーム」のモデルにもなったラガー ディア芸術高校で「サウンド・オブ・ミュージック」や芝居の「プライドと偏見」「キ ルトに綴る愛」「Compleat Female Stage Beauty」振付で活躍中。 ピッツバーグ大学の「Zanna Don't!」振付やコンテンポラリーのコンクール作品振付で は、NY の NYDA/Hariyama Ballet の二名のダンサー達が銀賞を受賞。YAGP N.Y でもトッ プ 12 入賞。2019 年には、国際バレエコンクールで 1 位と 4 位を受賞。 振付助手としては 2021 年、ホリプロミュージカル、マリア・フリードマン演出、振付 家ティム•ジャクソン「メリリー・ウィー・ロール・アロング」の 1 幕を担当。マシュ ー・ボーンの「ドリアングレイ」日本公演のリハーサルアシスタントも経験した。
ブロードウェイミュージカルを学ぶ NY のプログラム「Mid Manhattan Performing Arts」 芸術監督。
マイズナーテクニックで有名な「ネイバーフッド・プレイハウス
」、N.Y の Hariyama Ballet、でコンテンポラリー、シアターダンス指導、ジョフリーバ レエサマーインテンシブでコンテンポラリー、シアターダンス、バレエを指導、ステッ プス、カーネギー・メロン大学、プリンストン大学など全米、日 本でワークショップ を開催している。
チャコットの web マガジン「踊りある記」連載中。
その他出演作品は「王様と私 」(ロイヤルアルバートホール)、 劇団四季「キャッツ」、「ジーザス・クライスト=スーパースター」、「アスペクツ・オブ・ラブ」、「ウエストサイド物語」、「オペラ座の怪人」、「ハンス」、「オンディーヌ」、スイセイ・ミュージカル「フェーム」、「ピアニスト」。 オーストリア、州立バレエ・リンツにてロバート・プール、オルガ・コボス、ピーター・ミカなどのコンテンポラリー作品。
Website : https://www.mamitomotani.com/
X : @mamitomotani
Instagram : mami.lesson_choreograph