ノンバーバルパフォーマンス『ギア-GEAR-』の舞台でヒロイン役を演じる 兵頭祐香インタビュー

4月1日からロングラン公演が始まったノンバーバルパフォーマンス『ギア-GEAR-』の舞台でヒロイン役を演じる兵頭祐香。幼い頃からバレエのレッスンを続け、高校生の時に突然、河瀬直美監督の映画『沙羅双樹』の主役に抜擢されて出演。主演女優としてカンヌ国際映画祭のレッドカーペットを歩いた──そんな彼女が『ギア-GEAR-』に掛ける思いとは。

──小さな頃からバレエを習われていたのですよね。

兵頭祐香:はい、4歳から法村友井バレエ学校の支部教室で始めました。小学校5年生くらいからは、本部教室にも通うようになって、ほぼ毎日バレエのレッスンを受けていました。ちょうど、法村珠里さんは同期なんですよ。春休みにロシアのボリショイとワガノワ・バレエ学校への短期留学に参加したこともあります。

──では、学校を卒業したら、法村友井バレエ団の団員に、と思っていらっしゃったのではないですか。

兵頭:正直、映画『沙羅双樹』に出るまでは、バレエ団に入ったら指導も出来るのかな、振付にも挑戦できるのかな......と、なんとなく考えていたんですが......。バレエ団に入る手前のクラスにいた時、高校の帰りに道を歩いていて、突然、河瀬直美監督にスカウトされたんです。オーディションを受けることになり、気軽に受けたら、映画『沙羅双樹』の主演女優に抜擢されました。その映画がその年に創られた全世界の何千本もの映画からたった20本のなかに選ばれて、カンヌ映画祭に行くことになり、レッドカーペットを歩いて......、それは本当に衝撃的な経験でした。

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──それで、女優の道へと方向を変えられた。

兵頭:バレエをやるのか、女優の仕事をするのか、選ばなきゃいけないとすごく悩んだんです。けれど、それまでに10年以上バレエをやっていて、自分にはバレリーナとしての素質や才能はないなと分かってきていたんです。バレエをされている方なら皆さん分かると思うのですが、バレリーナの条件って、トレーニングで改善できることには限りがあって、骨格とか股関節の状況とか持って生まれたどうしようもないことがあるのですよね。とはいえ、法村友井バレエ団はグランド・バレエを上演する団体でしたから、バレエは一人でするものではないということは分かっていました。主役をやりたいというわけではなかったので、グランド・バレエを創り上げるための一員になることは出来るんじゃないかと思っていて、その道は確かにあったと思うんです。
ですが、やっぱり、カンヌの衝撃はあまりにも大きくて。もし、バレエをやってきたように、子供の頃から俳優を目指して勉強してきていたら違ったかもしれませんが。私の場合、演技だとか何も分からないままに、自分が通っている高校にカメラが入ってきて、いつものように普通にしているところを、どこかから撮られていて、気づいたら映画になっていた......。たまたま、河瀬監督が創りたかった作品のイメージに私がはまったとうことなのでしょうね。よく、「大変だったでしょう?」と聞かれるんですけど、普通の撮影というものを知らないので比べようがないし、とにかく楽しかった。映画の最後に「バサラ祭り」のシーンがあって、そこでの踊りを練習するのは、大変といえば大変だったけど、それまでにやってきたバレエのレッスンの方がずっと大変だったというのが実感です。バレエはトゥ・シューズを履くまでに何年もトレーニングが必要で、痛いし、精神的にもすごくストイック。「バサラ祭り」の踊りはそういうものではなく、発散するものですから。
とにかく、そんな想像もしなかったことが、またたく間に起こって......。バレエが嫌ということはまったくなくて、その衝撃の大きさに俳優の道を歩み始めたというところです。

──その後、映画や演劇の舞台で活躍をしていらっしゃるわけですが、この『ギア』に出演されたきっかけはなんですか。

兵頭:私はThe original tempo(TOT)というパフォーマンスグループのメンバーなのですが、その演出家ウォーリー木下が、『ギア』にも関わっていて、2年半前のトライアウトが始まる時に情報を教えてもらったんです。それで、オーディションを受けて出演が決まりました。このThe original tempoも言葉のないノンバーバルをやっているところなんですよ。海外公演も多くて、この5月、6月には、スロベニアとの共同制作の予定があって、今は、『ギア』とその準備、両方で大忙しといったところです。でも、舞台がたくさんあるのは、すごく嬉しいことだと思っています。

──『ギア』、舞台に立つ側からの魅力や難しさはどんなところですか。

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兵頭:ジャンルの違う出演者と一緒に舞台に立つということが、魅力であり、難しさでもありますね。役者ばかりとかバレリーナばかりでの舞台と違って、ブレイクダンサーと、バトントワラーと一緒に舞台に立つというのは、トライアウト公演が始まった頃、とても難しいと感じました。というのは、ブレイク・ダンスもバトンも、点数が付けられる"競技"なんですよね。役者もカンヌで女優賞などがあるように表彰はありますが、それは、"○○という作品に出演した誰々"という評価のされ方なわけです。ですが、バトンだったら、"バトントワラーとしての誰々"として評価される。役者はこの人を使うと必ず何点が出せるというものではない。マジックとマイムは、その中間くらいでしょうか。最初、舞台に立つことの意味が違うんだろうと思い、どうしたら良いか分からなかった。1年くらい経って、やっと分かったんです。みんな「お客さんに感動してもらいたい」という思いは同じなんだって。それからは、その違いが魅力になりました、ゴールはみんな割と同じところを目指しているんだって。

──舞台を観ていて、それぞれのパフォーマーの演技を、ヒロインとしての兵頭さんがストーリーとして流れるように、ある時は観客と同じ視線で技に驚きながら見せていらっしゃるという気がしました。

兵頭:ありがとうございます。そうできていると嬉しいです。また、あの役、人形として生きるって難しいですよね。私、舞台で何に感動するかって、舞台に立っている人物のエネルギーに感動すると思っているんです。凄い技でも感動するけれど、それはパフォーマンスパートに任せて。人形って本来生きていないものだから、人形としてそれをするのに苦戦しています。まだ、今も正解は分からないのですけど、毎回、こうするとどうだろうと試行錯誤しながらやっています。

──ヒロインパートのリーダーとして、創る方にも意欲的に取り組まれていますよね。

兵頭:はい、今、3人のヒロイン役がいるのですが、誰の時でもきちんとお客様に楽しんでいただけるように、技量を上げるとともに、演出も変えていっています。ヒロインは、バレエが出来る人とはなっているのですが、私たちはバレリーナではありません。私も、もう7〜8年はきちんとしたバレエのレッスンはできていません。もちろん、バレエは舞台に立つ上での基礎なので、知り合いのスタジオにたまに行かせてもらったり、ここでヒロインパートのみんなでレッスンしたりはしますが。これはやっぱり演劇作品で、ヒロインはバレリーナではなく、役者として舞台に立っている、そう思っています。他の4人はそれぞれのジャンルで世界的にも一流です、でも私は一流のバレリーナではない。一流の中にそうでないものを放り込むとダメなんです。お客様が納得できるものにしたい、感動していただくためにベストなチョイスができる力をつけることが大切だと思っています。
ちなみに、最後のシーンのピアノの音、弾いているのは私なんですよ。あのヒロインが一人ぼっちになるシーン、どう終わらせるか、なかなかしっくりいかなくて。どう考えても絶望なんですけど、希望を持って終わらせたい。それで、いろいろ模索している時、「イメージをピアノで弾いてみていいですか?」って聞いたら、「やってみて」ということになり、良いじゃないかと、録音して使うことになりました。

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──ピアノも弾かれるんですね。それに、バレエの素養は確実に動きに活きていますね。

兵頭:バレエよりピアノの方が長いんです。The original tempoでは、ピアノを弾くことが多いんですよね。バレエもピアノもやってきたことが本当に役に立っています。

──これから、どんな道を歩んで行きたいと思っていらっしゃいますか?


兵頭:俳優としてなのか、人としてなのか──どちらも重なるような気がするのですが、人がやっているものを人が観る、それは舞台でも現実の世界でも同じだと思います。自分がここにいることは、観てくれる人がいるから証明できる、"証明"という言葉が適切かどうか分からないのですが......存在証明のようなものであるような気がします。そういうものを、ちゃんと伝えられる俳優でいたい、人でいたいと思います。
あとは、やっぱりカンヌに戻って「ただいま!」と言いたい。『沙羅双樹』の時は、本当に何も分かっていなくて、自分の力で何か出来たとはまったく思えないんです。とても難しいことだとは分かっているのですけど、今度こそ、自分で参加した意味が分かった上で、あのレッドカーペットを歩きたい。絶対にいつかやりたい。そして、今度はお母さんだけじゃなくて、お父さんも連れて行きたいなと思います。

──最後に「DANCE CUBE」読者に一言お願いできますか。

兵頭:きっと、バレエをされている方がたくさん読んでくださっているのですよね。やっぱり「観に来てください」ですね。私はバレエをやっぱりすごく好きで、初めてトゥ・シューズを履いた時とか、衣装をもらった時の『ワァ!』っていう気持ち、そういう気持ちをずっと持っていられたらいいなと思っています。『ギア』を、そういう風に素敵だと思ってもらえる舞台にしたいと思っています。また、私はバレエをやっている時、バレエばかり観に行って、違う舞台はほとんど観なかったのですけど、違うものを観るのは絶対にバレエにも活かせると思います。ぜひ、観に来てください!

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