公演直前インタビュー「ルグリ・ガラ〜運命のバレエダンサー」に出演するボリショイ・バレエのスター、オリガ・スミルノワ=インタビュー

――「ルグリ・ガラ〜運命のバレエダンサー〜」では、Aプロ、Bプロで4演目踊られます。マニュエル・ルグリとの出会いについてお話ししてください。

スミルノワ マニュエル・ルグリがパリ・オペラ座のエトワールとして、一つの時代を築いた偉大なダンサーだったことは、もちろん知っていました。モスクワで行われたガラ・コンサートの時に、今後、チャンスがあれば、ぜひ一緒に仕事がしたい、と言われました。そしてその時にはすでに私のパートナーのセミョーン(・チュージン)が、ウィーン国立バレエ団で『ドン・キホーテ』を踊ったことがありました。昨年、セミョーンが『白鳥の湖』(ヌレエフ版)を踊るためにウィーンに呼ばれた時に、いつも一緒に踊っているオーリャ(スミルノワ)と踊りたい、と伝えて踊ることになりました。

――ルグリが芸術監督を務めるウィーン国立バレエ団と一緒に踊られて、どのような印象を持ちましたか。

公演直前インタビュー「ルグリ・ガラ〜運命のバレエダンサー」に出演するボリショイ・バレエのスター オルガ・スミルノワ=インタビュー

スミルノワ ウィーン国立バレエ団とは『白鳥の湖』を2公演一緒に踊っただけですが、まず、ルグリの魅力に感動しました。彼は大変な働き者でリハーサルもコール・ド・バレエに至るまで、すべてに参加します。出演者すべてをコントロールして舞台を綿密に作っていく方です。彼のそういったポジティブなスタイルが、カンパニー全体に伝わっていて素晴らしい経験をさせていただきました。彼とともにリハーサルをすることができて、幸せでした。そして、今回のルグリ・ガラでも一緒にリハーサルを重ねて舞台に立てることは幸せです。彼のアドヴァイスひとつひとつが的確で、それによって自分もすっと正しい方向に自分を持っていくことができることを実感しています。
カンパニーとしてはレベルも高く、若い人たちが多いので、若さのエネルギーのあるバレエ団、という印象を受けました。

――今回の「ルグリ・ガラ」で、チュージンと踊られるジャン・クリストフ・マイヨー振付の『じゃじゃ馬馴らし』は、ボリショイ・バレエに振付られたものですか。

スミルノワ そうです。『じゃじゃ馬馴らし』ボリショイ・バレエのためにマイヨーが振付けたものです。私がビアンカ役のオリジナル・キャストです。セミョーンはルーセンシオ役を踊りました。

「じゃじゃ馬馴らし」photo by E.Fetisova

「じゃじゃ馬馴らし」photo by E.Fetisova

――マイヨー振付、シェスタコーヴィチ音楽、と聞いただけでもワクワクするようです。しかし、ボリショイ・バレエとマイヨーではスタイルが違うと思いますが、その点はいかがでしたか。

スミルノワ マイヨーはダンサーの個々の魅力に振りを付けていきます。その時その時、どんなダンサーと仕事をするかによって、登場人物のキャラクターも少しづつ変化します。そういう振付家だなと思いました。オリジナル・キャストダンサーが異なった人だったら別のヴァージョンになっているのではないか、と思います。
例えて言いますと、オーダーメイドで洋服を誂えるように、自分のサイズをきっちりと測って作った洋服がピタッと自分に合うように、彼の振付は、私が大変動きやすく作られていました。

―――他にどんな作品をオリジナル・キャストとして踊りましたか。

スミルノワ ユーリ・ポーソホフが振付けた『現代の英雄』の第1幕は、私と私のパートナーのために振付けたものです。

――そうですか。マイヨーの動きはコンテンポラリーの要素も入っていると思いますが、踊りにくいことはなかったですか。

スミルノワ マイヨーの振付は、ひとつひとつの動きに意味があります。舞台の上でも登場人物に関係した振付をするので、その動きでストーリーを表現したり、人間関係を表現したりするので、動きに意味があります。意味のある動きなので、とても動きやすかったです。

――私はジョン・クランコ振付の『じゃじゃ馬馴らし』を、マルシア・ハイデとリチャード・クラガン主演で見たことがあります。ですからマイヨー版を見るのをとても楽しみにしています。

スミルノワ そうですね、マイヨー版はクランコ版と違います。クランコ版はコメディになっていますが、マイヨー版は、メインのキャラクターは「愛」となっています。人生で出会って一組がペアになっていく中で生まれる愛をメインとして語っています。

公演直前インタビュー「ルグリ・ガラ〜運命のバレエダンサー」に出演するボリショイ・バレエのスター オルガ・スミルノワ=インタビュー

――ぜひ、全幕でみたいと思っています。
スミルノワさんはワガノワ・バレエ・アカデミーを首席で卒業されましたが、マリインスキー・バレエではなく、ボリショイ・バレエを選ばれました。ワガノワ在学中からボリショイ・バレエへの入団を希望されていたのですか。

スミルノワ ワガノワ・バレエ・アカデミーで学んでいた頃は、全くボリショイ・バレエに入ろうとは考えてもいませんでした。やはり、ワガノワを卒業したら伝統的にマリインスキー・バレエに行く、というのが普通の経路と思っていました。ですから、ワガノワ・バレエ・アカデミーを卒業して、ボリショイ・バレエに行く、というのはターニングポイントとでもいうべき人生の大きな決断でした。リスクも大きいし想像もしていない突然のことでした。

「グラン・パ・クラシック」photo by Jack Devant

「グラン・パ・クラシック」photo by Jack Devant

――ザハロワを始め、ウラーノワ、セメニャカなどマリインスキー・バレエから移籍したダンサーは、大成功を収めていますから。

スミルノワ 最終的に私が決断したきっかけは、当時ボリショイ・バレエの芸術監督に就任したばかりだったセルゲイ・フィーリンとの話し合いでした。彼は芸術監督に就任したばかりだったので、自分自身に合ったカンパニーにしたい、という目的でダンサーを集めていたところだった、と思います。そして、彼自身のヴィジョンをしっかりと話して聞かせてもらいました。その話はきちんと筋が通っていました。「オーリャ、君は最初から主役を踊ったりしてはいけない。しっかりとヴァリエーションを踊りこなしながら、ひとつひとつ例えば、ミルタとか、リラの精とか、そう言った役をひとつひとつこなして、経験を積み力を蓄えてから、主役を踊ったほうがいい」と、話してくださいました。それが理路整然としていて納得することができたので、最終的にボリショイ・バレエに決めました。そして、フィーリンが言ったようなキャリアを積ませていただいて、とても良かったと思っています。

――昨日、ボリショイ・バレエの来日公演で『白鳥の湖』を見せていただいたのですが、スミルノワさんの踊りは、姿形が美しいだけでなく、オデットとオディールの内面をくっきりとコントラストをつけて感じ取ることができました。そういう表現について何か心がていることはありますか。

スミルノワ 人間というのは、日々の生活の中、いろいろな状況下でどんどん変わっていきます。その中で自分がいろいろなことを理解したり、決断したり、そういう経験を重ねながら生きて行くことが、ヒロインの一つの色付けになっているのではないかと思います。それはどんどん変わっていくものです。だから自分が描くヒロインもやはり変わっていくのだと思います。

――ルグリ・ガラでは、バランシンの作品を踊られますが、バランシンのバレエについては、ダンサーとしてどのように感じられていますか。

「ダイヤモンド」photo by Alisa Aslanova

「ダイヤモンド」photo by Alisa Aslanova

スミルノワ まず、最初に申し上げたいのは、バランシンの振付は大変音楽的である、ということです。『ジュエルズ』がボリショイ・バレエで上演されてとてもラッキーだったと思っていますし、その時、「ダイヤモンド」の指導に来てくださったのがメリル・アシュレイだったことも嬉しかったです。アシュレイはバランシンから直接指導を受け、NYCBのプリンシパル・ダンサーとして活躍したダンサーでしたから、とても細かいところまで教えていただきました。また、たくさんのおもしろいエピソードも聞かせてくださいました。アシュレイが言っていたのですが、「ダイヤモンド」にはいくつかのヴァージョンがあります。それはバランシン財団から指導に行く先生によって少しづつ変わってしまうのです。ですから、マリインスキー・バレエとパリ・オペラ座バレエとではヴァージョンが異なっています。そういうことの中でもアシュレイにコーチしてもらったことはラッキーでした。彼女は彼女の知る全てを教えようと努力してくれていましたし、私たちも彼女から全てを吸収しようとしました。

――今後、踊ってみたい振付家、特に注目している振付家はいますか。

スミルノワ アレクセイ・ラトマンスキーと仕事をしたい、と思っています。今、世界で最も売れっ子の振付家の一人だと思います。ボリショイ・バレエにはラトマンスキーの振付作品がいくつかありますが、残念なことに私はまだ、一度も彼の振付を踊ったことがありません。カナダ・ナショナル・バレエにラトマンスキーが振付けた『ロミオとジュリエット』を、ボリショイ・バレエで上演しようという動きがあるので期待しております。それが叶わなくても、いつか彼の作品を踊りたいと願っています。

――ラトマンスキーは『アンナ・カレーニナ』も振付けていますし。

スミルノワ ラトマンスキー版はマリインスキー・バレエのレパートリーとなっていますね。実は次のシーズンにボリショイ・バレエは、今年7月に初演されたジョン・ノイマヤー振付の『アンナ・カレーニナ』を上演する予定です。こちらもとても楽しみです。

(C) DANCE CUBE by Chacott

(C) DANCE CUBE by Chacott

――ルグリ・ガラでは、4演目踊られる予定ですね、日本の観客にメッセージをお願いいたします。

スミルノワ ルグリからこの作品を踊ってほしい、と提案を受けた時に、私たち(チュージンと)もワクワクしました。4作品それぞれ振付家も違うし、スタイルも違う、もちろん音楽も違うということで、一つのガラ公演でダンサーが4つの異なった面を見せることができましす。ということもあり、私たち自身もとても楽しみにしています。

――本日はお忙しい中、とても丁寧にお答えいただきまして、ありがとうございました。

ルグリ・ガラ〜運命のバレエダンサー〜

2017年
8月19日(土)14:00開演 大阪/フェスティバルホール
8月20日(日)17:00開演 名古屋/愛知県芸術劇場大ホール
8月22日(火)〜25日(金)18:30開演 東京/東京文化会館大ホール

▼詳細はこちら
http://www.chacott-jp.com/magazine/information/stageinfo1/post-70.html

▼公式サイト
http://www.legris-gala.jp/

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