大阪・関西万博での感謝と、数えきれない思い出
- インタビュー & コラム
- コラム 針山愛美
掲載
〜いのち ありがとう、世界を繋ぐ恩返しの心〜
2025年4月13日から10月13日まで開催された大阪・関西万博が、延べ2,500万人を超える来場者を迎え、幕を閉じました。
未来に向けたさまざまなメッセージが発信されたいのちの祝祭。その一つひとつの瞬間が、まるで奇跡の連続のように胸に刻まれています。
私自身、開幕前からパフォーマンスの準備のために会場に通い、初日の感動を舞台の上で迎えることができました。そして「この目で最後まで見届けたい」という強い思いから、最終日の10月13日も会場を訪れ、閉幕の瞬間を静かに見送りました。
あっという間だった半年間。
出会った人々、交わした言葉、そして舞台で共有した空気。どれもかけがえのない宝物です。
今回は、そんな万博で体験させていただいた数々の出来事の中から、「舞台」にまつわる時間を中心に振り返り、全く違う劇場で行った6公演の模様をお届けしたいと思います。
まず、2025年4月13日、日本国際博覧会【大阪・関西万博 Expo 2025】のシグネチャーオープニングイベント第3部にて、針山愛美オリジナル作品【鶴の恩返し】を上演させていただく貴重な機会をいただきました。(※本公演の詳細は前回のコラムにも掲載しております)
舞台となったのは、万博の中心に位置する「EXPOナショナルデーホール レイガーデン」。ここは158カ国が参加し、各国の首脳たちが国の魅力を発信するなど、まさに特別なステージでした。
そんな大舞台で、まさか閉幕直前の9月26日にも再びパフォーマンスの機会をいただけるとは思ってもいませんでした。
『Souls for Peace』
平和と命への祈りを込めて 9月26日に上演したのは、特別公演『Souls for Peace』。タイトルに込めたのは、「いのち ありがとう、世界を繋ぐ恩返しの心」と平和への願いです。
この公演では、ベートーヴェンの「交響曲第九番」や、「瀕死の白鳥」、そしてウクライナの代表的な民族舞踊「ゴパック」、さらに平和への祈りを込めた「雨のあと」といった作品をお届けしました。
『Souls for Peace Vol.4』として8月に淡路島で上演した構成を万博バージョンに再構築し、今回は特に「第九」に深いコンセプトを込めました。
舞台には鏡を配置する演出を用いてし孤独な心境を表現したり、映像なども用いて人との繋がりを映し出すような演出にも挑戦。果てしなく続く道を歩むシーンや、六つの大陸に生きる人々がそれぞれの悲しみや喜び、記憶とともに過ごしている様子なども描きました。
そしてラストには、「地球」そして「コスモス(宇宙)」という大きな命の樹の中で、すべての人間が同じ"いのち"を授かった存在である、分断ではなく共に、手を取り合って進んでいくことができたらというメッセージを届けました。
自然との共生というテーマにも意識を向け、水や大地のモチーフも舞台に織り込みました。これは、海と大地のつながりを象徴する建築として知られるレイガーデンのコンセプトとも共鳴しています。
舞台と観客がひとつになる体験
今回の公演では、「いのち ありがとう」というテーマを目に見える形にしたいと考え、いくつかの試みに挑戦しました。
まず、出演者やスタッフ全員で10メートルの垂れ幕に絵や言葉を描き、それをフィナーレで舞台上に掲げました。さらに、プログラムに折り紙の鶴を挟み、お客さまに折っていただいたものを千羽鶴としてステージで使用。ラストでは、その鶴と、ダンサーが描いた絵とを融合させ、観客と一緒に踊るレクチャーダンスを行いました。
「雨のあと」では、詩人・金子みすゞの詩に、作曲家・大森愛弓さんが音楽をつけた作品をお届けし、心からの平和への祈りを込めました。観客と創り上げるこのような舞台は、私たちにとってもかけがえのない体験となりました。
また、舞台背景には、スヴェトラーナが描いた絵画をリアルタイムで映し出し、視覚的にも深いメッセージを届けられるよう工夫しました。
世界各地での出会いと奇跡のような瞬間
【シャインハット】
EXPOホール「シャインハット」でも、素晴らしい機会をいただきました。
直径67メートル、約1850席を有する黄金の円形屋根が印象的なこの会場でのガラコンサート。
その中で、『古事記』をモチーフにしたオリジナル作品を振付・上演させていただきました。
この作品には、ウクライナ出身のダンサーたちもそれぞれ"神様"の役として出演し、私は「アマテラス」を演じました。
衣装は一人ひとりのキャラクターに合わせて、デザインから相談を重ねながら丁寧に制作。
舞台では、素晴らしい演出家の方から学ぶことが多く、世界が広がりました。
平原綾香さんの生歌「いのちありがとう」と「ジュピター」をはじめ、ゴスペル、太鼓、生演奏、そしてダンス。総勢260名の素晴らしいアーティストの方々との共演は圧巻で、一生忘れられない1日になりました。
【イタリアパビリオン】
イタリアパビリオンでのパフォーマンスデーでは、短期間でイタリアにちなんだオリジナルプログラムを構成し、夜間のリハーサルと早朝の準備を経て、2回の公演を行いました。
信じられないことに、ウォームアップをさせていただいたのは、カラヴァッジョやミケランジェロの本物の作品が並ぶ展示室。美術館さながらの空間で、静けさと緊張感の中、貴重な時間を過ごしました。
【万博、野外公演】
また、「淡路島の日」には淡路人形座とのコラボレーションが実現。藤井泰子さん、益子ゆうさんとの共演で『戎舞』や『シャンパンの歌』を生演奏に乗せてお届けしました。野外ステージには淡路島から多くのアーティストが集まり、会場全体が一体感に包まれた、心温まるひとときでした。
【Women's pavilion 】
さらに、アフリカンデーとWomen's Dayでは、本番当日に初めて顔を合わせたアフリカの音楽家と、全くリハーサルなしで即興のコラボレーションが実現。なんと、出会ったのは本番2時間前という驚きの状況の中、呼吸と目線だけで音と動きを合わせ、共に舞台を創り上げました。その場にはアフリカの要人も多く来場されており、人生で最も即興的でスリリングな瞬間だったかもしれません。
2025年10月13日、大阪・関西万博は閉幕しました。
そのテーマは、「いのち」。
一瞬、一瞬生きていることが奇跡だと思っています。
芸術が人と人をつなぐ"架け橋"となり、国境も言葉も文化も越えて、心と心が通い会うことができたらと。
ウクライナから避難してきたダンサーたちと共に過ごす中で、「平和とはなにか」「芸術にできることはなにか」私にできる事は限られていますが、できる事は精一杯続けたいと思っています。
昨年初演したオリジナルバレエ作品『鶴の恩返し』は、淡路島での公演を経て、ヨーロッパの国立歌劇場、そして今回の大阪・関西万博のオープニングイベントでも披露させていただくことができました。作品に込めたコンセプトが、50年後、100年後も残っていれば良いなと思います。
芸術文化には、時代も国境も、そして価値観の違いさえも越えて、人と人をつなぐ力があると信じています。
「いのちに、ありがとう」今、生きていることにありがとう。
これからも、その想いを胸に、一歩ずつ丁寧に、歩みを続けていきたいと思います。
インタビュー & コラム
針山 愛美 Emi Hariyama
13 歳でワガノワ・バレエ学校に短期留学、16歳でボリショイ・バレエ学校に3年間留学した後、モスクワ音楽劇場バレエ(ロシア)、エッセン・バレエ(ドイ ツ)、インターナショナルバレエ、サンノゼバレエ、ボストン・バレエ団(アメリカ)、と世界各地のバレエ団に入団し海外で活躍を続ける。
2004年8月からはベルリン国立バレエ団の一員に。
1996年:全日本バレエコンクールシニアの部第2位、パリ国際コンクール銀メダル(金メダル無し)
1997年:モスクワ国際バレエコンクール特別賞
2002年:毎日放送「情熱大陸」出演 、[エスティ ローダー ディファイニング ビューティ アワード]受賞
◆Emi Hariyama Official Page
『世界を踊るトゥシューズ〜私とバレエ』
針山愛美/著 Emi Hariyama
体裁:四六版並製、240頁ISBN978-4-8460-1734-7 C0073(舞踊)