ブロードウェイの新作ミュージカル『Allegiance(アレジアンス)』が幕を開けました!

「やっとこの時が来たね。この時だよね。」と、アメリカ人も皆さん話しています。 「この時」とは。ほとんどのミュージカルでは、アジア人の出演者は一人、あるいは二人いるぐらいでアジア人が多く出演するミュージカルは、白人から見たアジア人を白人に良いように作られています。
有名な『ミス・サイゴン』でも、アジア人は娼婦役しかなく、結局撃たれて子供は白人の手に渡る、と解釈している団体もいます。また、これはある記事の抜粋ですが「アジア系民族に対する偏見が強いとして、ニューヨーク公演時にアジア系俳優を中心とした俳優組合からボイコット寸前にまでなった」そうです。

The cast in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

The cast in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

観る立場からはどのミュージカルも問題なく、物語も音楽も素晴らしく楽しめる作品でロングランになっていますが、演じる方になると、現実にはこういう白人から見たアジア人の役しかありません。
でも、今回の『Allegiance』は、主役からアンサンブルまでアジア人に役があり、制作スタッフもほとんどがアジア人です。内容も白人が見たアジア人ではなく、アジア人として、その時を過ごした内容を元に作られています。
そうです。やっとアジア人の時が来ました!
昔は、黒人も白人が黒塗りをして白人だけで演じていました。それが、今では黒人がストーリーの軸になるミュージカルがどんどん出来てきています。『オペラ座の怪人』『美女と野獣』でも黒人の主役が現れました!
イギリスでも今度はジェームズ・ボンドのボンド役に黒人の俳優さんが候補に上がっているので「やっと来たね。」とみんな言っています。

表現の世界もグローバルになってきていますね!

Lea Salonga and George Takei in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

Lea Salonga and George Takei in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

『Allegiance』ですが、スタートレックで有名なジョージ・タケイさんが実際に体験した実話を元に、ディレクターはStafford Arimaで創られています。第二次世界大戦中のアメリカで真珠湾攻撃をした日本人と同じ顔をしている、同じ国から来た、というだけで普通に真面目にアメリで暮らしていた、日系のアメリカ人を強制収容所に入れたキャンプのお話です。

今、シリアから来るシリア人の移民を、テロリストと同じように考え排除しよう、入国をさせるな、という方たち、政治家もいますが、ジョージさんは「あんな思いは二度と他の国の方にさせてはいけない、容姿が似ている人、その国の人だからというだけで無実の人を助けることをするのは止めてはいけない」と訴えていらっしゃいます。そして移民を受け入れるのに反対している政治家を『Allegiance』にご招待もしています。 私の夫はこの舞台のスタッフとして関わっているのですが、プレヴューの1日1回公演の時は、始まる前に4時間ほどリハーサルをしたりハードでした。夫もこの約1ヶ月は朝8時から夜中まで劇場です。(5時起きで6時半には家を出て、帰ってくるのは夜中12時半から1時前です)
新曲も最後の週に出来上がったり、毎回振付なども変わっていき、休演日もメールでアドヴァイズ(ダメだし)などが来ていたそうです。

Telly Leung and Katie Rose Clarke in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

Telly Leung and Katie Rose Clarke in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

私は最初の公開ドレスリハーサルを観ました。このドレスリハーサルの後はプレヴュー公演で、お客様を普通に入れて、反応を見ながら初日までに作品を仕上げていきます。そして私は約1ヶ月後の初日も観ました!
びっくりしたのは、(ドレスリハーサルから本番までに)ほとんど半分が変わっていました。
ますは、出だしのシーンの演出が全く変わり、セットも変わり、シンプルになっていました。私は、ドレスリハーサルの時は、主役の女性が、シルエットで歌い出す方が、鳥肌がたち好きでしたが、初日には、普通に現れて、でも内容からすると、分かりやすくスムーズになっていました。
またキャラクターも変わっていて、メインの一人でもある白人の女性が、最初は真面目な仕事に忠実な人間として描かれていたのが、初日では(歌もセリフも多分そのままですが)正反対のコメディーの役になっていました! 白人の女性はこの役だけです。全く今までのミュージカルと反対ですよね。

どの歌も素晴らしいです。( Jay Kuo:作詞・作曲 )日本語をアメリカ人にわかりやすいように訳した英語ではなく、日本語をそのまま歌う曲もあり、でも、上手に意味がわかるように歌の前後のセリフや歌の中で英語が入っていたりと、見事! と思いました。この日本語の箇所は、日本人で演出助手を務めた渋谷真紀子(Makiko Shibuya)さんが担当されたみたいです。嬉しいですね、才能ある日本人がどんどんブロードウェイ・デヴューされるのは。
さすがに主役のレア・サロン、Lea Salonga(『ミス・サイゴン』のオリジナルの主役でトニー賞も受賞しています)の歌は素晴らしい! 時々劇中でも踊っています。走るシーンがいくつかあるのですが、それがおばさんがちょこちょこ走る感じで可愛いです・・・。
この役の2番手の方、 Elena Wang が開幕して2週目に出演したそうですが、夫が袖で見ているジョージに「彼女も悪くないですね」と言うと、「新たなスター誕生だね」と嬉しそうに言っていたそうです。

Lea Salonga in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

Lea Salonga in a scene from "Allegiance"
(c) Matthew Murphy

振付は、Andrew Palermoのコンテンポラリーのような振りで、役者さんを上手に使っていて私は大好きです。振りとストーリーと役がはまっていて、感情が伝わってきます。メインのダンスシーンはアンサンブルの4名が主に踊っていて、日本人女性2名、Rumi Oyama,Momoko Sugaiが素晴らしいです! ただ、ビッグダンスシーンの振りは普通でした。何も自由がなく辛い時のキャンプ場で唯一自由に、自分を出して踊っているという振りではなく、良き時代のアメリカのダンスという感じでした。
ビクトリーというシーンがあり、かなり物語も後半で観客がこのキャンプの日系アメリカ人の気持ちになってきているのに、広島の原爆の映像の後で、何もセットがなく「勝利!勝利!」と白人男性3人が一生懸命踊っているのですが、夫に「あれは危険じゃない? アメリカ人がバカに見えるわ。確かにアメリカが勝った。終戦した。というのを表すのでもせっかくあそこまで物語が良いのに」と話していたのが、初日にはビックチェンジがありました! 良かったです。

Michael K. Lee, George Takei and Lea Salonga in a scene from "Allegiance"  (c) Matthew Murphy

Michael K. Lee, George Takei and Lea Salonga
in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

Telly Leung and the cast in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

Telly Leung and the cast in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

グリーで有名な俳優さんTelly Leung、韓国系アメリカ人の俳優さんMichel K Lee がとても良く、観ていてアジア人として鼻高々になります。対照的な役を演じていますが、どちらにも気持ちが観客として動き、自分だったらどちらの道を選ぶかな、と思わせます。最後の初日ギリギリ前に創られたという新しい歌も観ている人を感動させます!
とにかくこのミュージカルが日本やアジアで創られてブロードウェイに来たのではなく、アメリカで、ブロードウェイで始まった! というのが本当に素晴らしく、これから先ずっと語り続けられる作品となると思います。
ジョージ武井さんが素晴らしい! 役に生きていて、物語でもほっとさせる役を生き生きと演じています。間の取り方もさすがです! とても78歳とは思えません。出演していない時間は、宣伝活動であちこちにテレビや雑誌のインタビューに出て、夫が自分たちよりも一番働いている。と言っていました。
凄いですよね! ブロードウェイでロングランをしようと思ったら、彼が有名になったスタートレックの話を元にした役者の話などすれば、アメリカでは大うけでロングラン間違いないのに、あえてアメリカが聞きたくない、話したくない過ち、と言われている歴史を題材にするのは! 受け継がれていかないといけない話だ、とショージさんはおしゃっています。
夫も本当にこの作品に出会えて良かった。これからの世界を先導する若者の考えを変えさせるかもしれなく、ジョージさんは素晴らしい、素敵だな、とますます好きになったようです。 私はまだお会いしたことがないのですが、私が出演したマシューの作品をロスで観てくださっているので、夫と私のことは話しているそうです。ミーハーとも言われても良いので、早くお会いしてできればお話ししたい! 彼が出演できるうちに日本公演があると良いですね!! 日本に持っていきたい、と話されているそうですよ。

読者の皆様、応援をありがとうございます。暖かいクリスマス、年末をお過ごしください。

George Takei and Lea Salonga in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

George Takei and Lea Salonga in a scene from "Allegiance" (c) Matthew Murphy

インタビュー & コラム

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友谷 真実 Mami Tomotani

マーサ・グラハム・サマースクール、劇団四季研究所、川副バレエスクールでダンスを学ぶ。
★主な出演作品:
ニュー・アドべンチュアーズ『くるみ割り人形』(クララ、キューピット役ほか)、『白鳥の湖』、『カーマン』、『エドワード・シザーハンズ』(ペグ 役ほか)、『Highland Fling』(愛と幻想のシルフィード)、州立バレエ・リンツにてロバート・プール、オルガ・コボス、ピーター・ミカなどの作品(オース トリア)、 アルティ・ブヨウ・フェスティバル(京都)、ベノルト・マンブレイの振付作;スイセイ・ミュージカル『フェーム』、『ピアニスト』; 劇団四季『キャッツ』、『ジーザス・クライスト=スーパースター』、『アスペクツ・オブ・ラブ』、『ウエストサイド物語』、『オペラ座の怪人』、『ハン ス』、『オンディーヌ』など
★TV/映画:『くるみ割り人形』(BBC)他。
★振付作品:『just feel it?以・真・伝・心』個人のプロローグ(02年);アルティ・ブヨウ・フェスティバル(98年)、他。
http://ameblo.jp/mami-tomotani/

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