公演直前インタビュー :デヴィッド・ホールバーグ
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東京バレエ団50周年プレ企画 バレエ・ブラン・シリーズで『ジゼル』に主演する
デヴィッド・ホールバーグ=インタビュー
----『ジゼル』という作品を踊るにあたって最も気を付けていることは何ですか。

Photo:Rosalie O'Connor
ホールバーグ 舞台で踊っているその時その時の瞬間を大切に踊りたいと思います。ダンサーとして観客に対してもその瞬間を観て欲しい、と思います。
 
 ----そうですか、やはり、パートナーが大切になりますね。
 
 ホールバーグ そうです。パートナーとのコネクションが非常に大切だと思います。
 
 -----東京バレエ団のパートナーの方とはリハーサルをなさいましたか。
 
 ホールバーグ 今回は短いリハーサルをしました。10月にまた日本に来て充分なリハーサルを行いたいと思います。
-----ボリショイ・バレエ団にゲスト出演された時も『ジゼル』を踊られたと思うのですが。
 
 ホールバーグ その通りです。『ジゼル』でした。
 
 ----ボリショイ・バレエ団の芸術監督であるセルゲイ・フィーリンとはどのようなお知り合いだったのですか。
 
 ホールバーグ ゲスト出演で『ジゼル』を踊った時(2010年)は、まだ彼は芸術監督ではありませんでした。私も彼のことは知りませんでしたが、多分、私が踊った『ジゼル』は観てくださったと思います。ボリショイ・バレエ団から連絡があったのは、それから1年後のことでした。
 
 ----それだけでボリショイ・バレエ団から入団を要請されたということになりますか。
 
 ホールバーグ そうですね、他にガラ公演などでは、私の踊りを観てくださっていたと思います。
 
 ----今回の東京バレエ団と共演する『ジゼル』は、ボリショイ・バレエ団にゲスト出演して踊られたヴァージョンと同じですか。
 
 ホールバーグ ご存知のように『ジゼル』は、『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』などと違ってどのヴァージョンも似通っています。
 
 -----では、ホールバーグさんにとって『ジゼル』はどのような意味をもったバレエですか。
 
 ホールバーグ クラシック・バレエの真の美しさを表わすバレエ。はじめてバレエを見る方でも分かり易く感動的ですから、お薦めできる作品です。現実的な人間の感情を題材としていますし。
 
 -----ホールバーグさんがボリショイ・バレエ団にアメリカ人として初めてプリンシパルとして入団されてから、既に2年近くの時が経ちました。ボリショイ・バレエ団で踊られて一番印象的だったことはどんなことでしょうか。
 
 ホールバーグ まず、劇場自体が素晴らしいこと。凄く美しくて壮大です。もうひとつは、いわゆるボリショイ的なオーガニゼーションです。ABTとはまったく違った団体です。そういった点を実際に体験できて、私はとてもうれしいです。
 
 -----ABTは世界で最もスケジュールが厳しいバレエ団だともいわれていますが、ABTとボリショイ・バレエ団の二つのカンパニーのプリンシパルを兼務されて、非常にハードだったのではないでしょうか。
 
 ホールバーグ そうです。実際に大いに多忙でした。
 
 ----ABTはリハーサルが追いつかないくらいのスケジュールが組まれているとか、お聞きしましたが。
 
 ホールバーグ はい、時間が足りないことが多いです。
 
 ----その点はボリショイ・バレエ団とは違いましたか。
 
 ホールバーグ ボリショイ・バレエ団の場合はいくつかのリハーサルが同時に進行しますが、充分な時間が用意されています。
 
 -----ボリショイ・バレエ団にプリンシパルとして入団された時は、凄い反響でした。シルヴィ・ギエムがオペラ座からロイヤル・バレエ団に移籍する、と発表された時のバレエ界の大きな反響を思い出しました。
 
 ホールバーグ そうでしたね。ほんとうに。
 
 -----みんな最初はボリショイに移籍される、と勘違いしたみたいです。
 
 ホールバーグ 私にとってABTに籍を置いているということはたいへん重要なことですたから。
 
 ----今、もしミルピエからパリ・オペラ座のプリンシパルになってくれ、と要請されたらどうなさいますか。
 
 ホールバーグ 不可能ではないと思います。
 
 -----ホールバーグさんはオペラ座のバレエ学校に留学されていたことがありますが、どうしてオペラ座を選ばれたのですか。
 
 ホールバーグ これからバレエを学んでいく上でどうしたら一番いいのか、世界一の学校はどこだろうか、と考えてオペラ座のバレエ学校を受けました。
 
 ----オペラ座のスタイル、アメリカン・スタイル、ロシアのスタイルなどをいろいろと学んで、自分に一番適しているのはどのスタイルかご自身で選ぶ、という風に考えられているのですか。
 
 ホールバーグ どこに行ってもそこのスタイルを自分のものにしよう、と思っています。どのスタイル、というわけではなく、どこにいてもできるだけ多くのものを身につけようとしています。部分的にはパリ・オペラ座的、ボリショイ的という風に、自分の中にはいろいろなものがあると思っています。
 
 -----ご自分に一番適したスタイルというものがあると思われますか。
 
 ホールバーグ まず、パリ・オペラ座のスタイルが一番好きなスタイル、といえるかもしれません。ボリショイに行った時には、私はアメリカ人ですから、違ったスタイルのダンサーが来たんだな、と回りから思われた。私にとってはそれは大きなチャレンジでした。

-----ABTではロシア・バレエのコーチにつかれていたのではないですか。
 
 ホールバーグ ABTではロシア人はいなかったと思います。パリ・オペラ座で踊り、モンテカルロ・バレエ団のプリンシパルだったギヨーム・グラファンと仕事をしたことはあります。もう彼はABTにはいないのですが。今はボリショイでロシア人の素晴らしいコーチについています。
 
 -----ABTではイリーナ・コルパコワは教えていますか。
 
 ホールバーグ ええ、でも彼女は女性ダンサーのコーチですから。
 
 ----ペーストフ先生のサマーコースをシュツットガルト・バレエ団のプリンシパル、エヴァン・マッキーと一緒に受けられましたよね。ペーストフ先生の教え方はいかがでしたか。
 
 ホールバーグ 怖かったです。教え方自体がかなり怖かったですね。難しかったし。もちろん、ペーストフ先生には敬意をもっておりました。一ヶ月ほどのコースでしたが、ここで教わったものは私のキャリアの中に、確実に身に付いていると思います。
 
 ----今までのダンサーはどちらかというとひとつのスタイルを追求するべきだ、と信じているケースが多かったと思いますが、ホールバーグさんは様々なスタイルに対してオープンに接しています。
 
 ホールバーグ やはり、心はいつもオープンにしていたほうが楽しいと思います。
 
 -----私も日本人のダンサーに会う度に、ホールバーグさんのようにいろんなスタイルをオープンに学んだほうがいいよ、とアヴドヴァイスしています。
 
 ホールバーグ ダンサーが現役で踊れる時間というのは短いですから、ひとつのスタイルを追求していくということはリスペクトしているんですが、私としては常に貪欲に、そして刺激を求めていろんなスタイルを試みていきたいと思っています。
 
 -----だんだんクラシックだけ踊っているダンサーも少なくなっています。ですからこれからは、いろいろなスタイルが踊れるダンサーの時代になっていくのではないかと思います。
 
 ホールバーグ 現在、もうそう言う現象が起きてきていて、様々なスタイルにアプローチすることが必要になっていると思います。
 
 ----コンテンポラリー・ダンスにもたいへん興味をもたれている、とお聞きしているのですが。具体的にどういうダンスに関心をもたれていますか。

ホールバーグ 私はフォーサイス、マッツ・エック、ピナ・バウシュなどの現代の有名な偉大な振付家の作品を多く踊っているわけではないのですが、新しい新鮮な振付家に関心があります。
 逆にまだ無名の振付家たちと仕事をすることを楽しみにしています。ニューヨークにいると、そうしたまだこれから登場すると思われる、才能ある振付家が近辺にたくさんいます。たとえばジョン・ジャスパース、テリー・オコーナー、サラ・ミッチェルなど、大きく名前が出ている人ではないのですが、彼らはアメージングな作品を創ります。
 
 ----ジェローム・ベルはいかがですか。
 
 ホールバーグ 彼とは一緒に仕事をしたこともあります。私が踊るためのダンスも一緒に創りましたが、まだ、ステージで踊ったことはありませんので公開されていません。
----ぜひ、観たいです。ホールバーグさんの「コンテンポラリー・ダンスの夕べ」を実現して欲しいです。
 
 ホールバーグ いつかガラ・コンサートなどで踊る機会があるかもしれません。
 
 -----でも、ジェローム・ベルの作品はすごくコンセプチュアルな作品ですよね。
 
 ホールバーグ あなたはジェローム・ファンですか?
 
 -----う、う。ちょっと違うかもしれません。
 
 ホールバーグ 私が踊る作品のテイストも非常にコンセプチュアルなので、退屈なほどの嗜好性の重視です。
 パリ・オペラ座のコール・ド・バレエのダンサーが主演した『ヴェロニク・ドワノー』は知っていますか。
 
 ----はい、映像で観ました。
 
 ホールバーグ オペラ座のコール・ド・バレエだったヴェロニクが舞台の上でマイクで語りながら、「『白鳥の湖』はクラシック・バレエの中で一番美しいパ・ド・ドゥがある。でも私は『白鳥の湖』は好きではない。10分間の立たされっ放しだから。これがクラシック・バレエでしょう、と証明するために10分間立たされている」と。これは凄いアイディアの作品だと思います。私はそういうコンセプチャルな作品が好きなのです。
 
 ----実際に創りたい、と思われているのですか。
 
 ホールバーグ はい、そう言うチャンスがあれば、ぜひ。
 
 ----でも、もうこれ以上ないくらいな完璧な王子役のイメージですけれど・・・・
 
 ホールバーグ 現実はそうではないんです。現実逃避をしたいプリンスなんです。
 
 -----それではマッツ・エックの描く王子役のダンサーみたいです。
 
 ホールバーグ ええ、そうかもしれない。
 
 ----そんな、世界で初めてボリショイ・バレエ団のプリンシパルになったアメリカ人ダンサーなのに。
 ボリショイに入団することを決めるまでには、いろいろなことをお考えになられたのではないですか。
 
 ホールバーグ ええ、難しい決断でした。100パーセント、コミットしなければならない、ということは理解していましたし、もちろん、中途半端な仕事はできない、と覚悟していました。私のキャリアの中でもいろんなことを決めるのが難しい時期だったかも知れない。しかし、まったく後悔していません。
 
 ----決断した最大のポイントは何でしたか。
 
 ホールバーグ 怖かったんです。
 
 -----ええ??
 
 ホールバーグ 怖いけどやらなければ、というものが欲しかった。自分のコアが何か、ということ。そのように決断した時、自分自身が身ぐるみ剥がされてコアが何なのか、自分でもわからなかったのです。それを見るのが怖かったし、でも見なければならない、そういった挑戦でした。
 
 ----ラトマンスキーにも相談されたと思いますが、彼は何と言いましたか。
 
 ホールバーグ ラトマンスキーに一番最初に相談しました。彼は「絶対にいくべきだ」と言いました。ほんとうは反対されると思って相談したのです。
 私は彼をたいへん信頼しています。非常にインテリジェントのある頭の良い人で大好きです。彼の答えは完璧でした。
 私は、「あそこは監督したこともあるけどへんなところだよ・・・」というようなことを言われるのではないか、と予想していたのですが、ボリショイは素晴らしい劇場なので、「You must go.」。必ずこのチャンスをものにしなさい、と言いました。ちょうど私に要請があった時に、ラトマンスキーはボリショイ・バレエ団で振付けている最中で、彼はボリショイにいました。
 「ちょっと、お話ししたいことがあるんです」とラトマンスキーを呼んで、「明日の朝、ぜひ、コーヒーを一緒にしてください」と頼みました。彼は「OK」と。そして翌朝、「相談は何なんだ」といわれて。
 
 -----でも、その後「フィーリン襲撃事件」が起きたのではないですか。
 
 ホールバーグ そうです。
 
 -----少し、不安になられましたか。
 
 ホールバーグ オフコース。でも、ひとつの事件よりも深いコミットメントによる決断でしたから、そのようなことでは揺るぎませんでした。クレージーな事件が起きたからといって逃げだすようなことはしません。芸術は私にとってあまりにも意味があることですから。
 
 ----そうですか。でもほんとにボリショイ・バレエ団とABTのプリンシパルを務めるアメリカ人のダンサーが誕生するなんて、未来を感じさせる素晴らしい出来事でした。どのような契約になるのですか。
 
 ホールバーグ 毎シーズンごとに見直す契約です。すごくフレキシブルに対応してくださっているので、凄く心地よく歓迎されているんだ、と感じています。ボリショイは恐ろしいところだというブラックな噂があると思いますが、実際には芸術を愛している人たちがたくさんいて、みんなひとつの方向、良い舞台を創るための大きな集団、という感じです。もちろん、中では多少の対立はあるでしょうが。
 
 ----今は何シーズン目ですか。
 
 ホールバーグ 9月から3シーズン目に入ります。
 
 ----特にパートナリングなどでは、細部の調整がありましたか。
 
 ホールバーグ ないです。特にザハロワがいて、彼女自身ちょうど、パートナー探しをしていたところだったので、「スターズ・アラインズ」(星が繋がって)でした。うまく歯車が合いました。運命が繋げてくれたのでしょう。(バレエのスターという意味ではありません)
 
 ----ABTとボリショイはどういう風にバランスをとっているのですか。
 
 ホールバーグ 両方の監督と、非常に厳しい話し合いをしなければならないことも多いです。でも、要求というよりもどこで妥協するか、ということです。
 
 -----何を踊りたい、ということも主張されているのですか。
 
 ホールバーグ はい、時には悪夢のようなスケジュールを余儀なくされることもあるのですが、要望は受け入れてもらっています。
 
 ----やはり、ボリショイ・バレエ団に入ってこそ踊りたい、という作品がありますか。
 
 ホールバーグ 再度、『くるみ割り人形』を踊りたいです。『くるみ割り人形』はあちらこちらで多くのダンサーが踊っていますし、珍しくはありませんが、ほんとうに素晴らしいバレエだと思っています。グラン・パ・ド・ドゥの音楽もじつに素晴らしいし。この作品は踊っていて絶対に飽きないと思います。
 
 ----もちろん、ラトマンスキー版『くるみ割り人形』も踊られていますね。
 
 ホールバーグ ワールド・プレミアを踊りました。日本では未だ踊っていないので残念ですが。
 
 ----ボリショイ・バレエ団の『くるみ割り人形』はグリゴローヴィチ版ですか。
 
 ホールバーグ はい、真っ赤なコスチュームが有名です。
 
 -----将来、ABTとボリショイ・バレエ団と合同で制作した『くるみ割り人形』を日本でホールバーグさんが踊るのをみたいです。
 本日は、お忙しいところたいへん興味深いお話をありがとうございました。とても楽しかったです。『ジゼル』公演、心から楽しみにしております。
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