ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で「死」を踊る、宮尾俊太郎インタビュー

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[インタビュー]
関口紘一

世界的に大ヒットしたフレンチ・ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』が、10月5日まで、渋谷の新スポット、ヒカリエのシアターオーブで上演中。今回の公演で、「死のダンサー」を踊る、ミュージカル初出演となるK-BALLET COMPANYの宮尾俊太郎にインタビューした。

──宮尾さんはバレエ以外のジャンルでもご活躍ですが、ミュージカル出演は初めてですか。

宮尾 はい。歌わない役ですが、初めての出演です。

──初めてのミュージカルということで、心がけていることはいろいろあると思うのですが、音楽の流れとかそういったことでしょうか。

宮尾 そうですね。畑が違いますので、僕だけが突出して明らかに雰囲気が違うというか、悪い意味での存在感が目立たないように。作品の世界観を壊さないようにしなければ、と思っています。

──でも「死」の役ですから、それなりに存在感は出さないといけないわけですね。

宮尾 ええ。もちろんダンサーとしての存在感、役としての存在感は出します。

──ああいう抽象的・観念的な役柄はいかがですか、もうちょっと具体的な役をいつも演じておられると思いますが。

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宮尾 まあ、人間の役を演じていますね(笑)。やはり、難しいと思います。かたちのないものを表現するというのは非常に難しいですね、とくに「死」というものは。
まだリハーサルが始まっていないので、演出家の方との関係もあると思うのですが、自分が感じる「死」というものを表現するのか、それとも観客という第三者がみての「死」のイメージを具体化するのか、どちらにいくのかな、と思っています。

──かなり踊られるんですよね。

宮尾 出番は多いようですね。

──普通、『ロミオ&ジュリエット』の中には抽象的な役柄ってないじゃないですか。そういう意味で今回の「死」というのがかなり重要なポイントになると思います。ほかの部分と対等な重みを出さなければいけないですし。例えばメイクなどの工夫もお考えになったりしているのでしょうか。

宮尾 メイクはメイクさんがやってくださるようですが、3名のキャストがいますので、そこの部分では、自分なりに細かいアレンジが加えられたらいいかなとは思います。
でも僕らは歌わないし台詞がないし、ダンサーとして出ますから、根本的に他の人と圧倒的な違いを見せられるのは、やはり動きの質かな、と思います。

──やはり、具体的な役柄があるものと、こういう抽象的なものでは動きの出し方というか見せ方は違いますか。

宮尾 難しいと思います。「死」は人間じゃないので、人間っぽさが出てしまうと駄目なんです。息遣いも抑えなくてはいけないし、一瞬一瞬に気を配らなければならない・・・。

──そうですね、息遣い一つが気になったりしますね。少し無理しないといけないかもしれません。

宮尾 ヴィジュアル的にもそうですし、踊っているときでさえ、生気がないようにしていかないといけない。

──もちろん『ロミオ&ジュリエット』は踊られたことがありますよね。

宮尾 バレエではロミオとパリスを踊りました。

──音楽の入り方とかはやはり違いますか。ミュージカルはバレエと違って音楽が個々に対応しないというか・・・。

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宮尾 違ってくるとは思うんです。バレエでロミオや人間の役を演じていると、曲が台詞を語っているようなところがあります。音楽が感情を語っているので、すんなり入っていくことができるんです。しかし、こういう抽象的な役柄だと、「死」というもの自体には多分感情はないと思いますから、対ロミオとか、登場人物の誰かしらと一緒にいることが多くなります。そうすると、例えばロミオの周りを踊っていたりしても、そこで鳴っている曲はロミオの気持ちを表した音楽なわけです。ですからロミオが感じている「死」というイメージとして僕は音を聴くことになるでしょうね。

──それぞれの雰囲気のなかで、「死」が持つネガティブな世界を動きで表現するわけですね。

宮尾 「死」に対しては、普段われわれの身近に常に潜んではいるけども、誰もそこまで意識はしていない存在というイメージなんです。ただ「死」は、感じたときに初めてみんなその存在を急に大きく感じたり、不安を感じたりするのだと思います。

その辺りは舞台の映像を見たときに、常に、なんとなく周りにいるんだけど、誰かが不安を感じたり誰か死んだときに、ぐっと大きく迫ってくるものなのだと感じました。ですからやはり、存在感にメリハリをつけて演じたいな、と思います。

──振付のパの動きだけでは出せないものを感じさせなくてはいけない、それが要求される役ですね。むずかしいけれどやりがいがある役ですね。
ところで、リアム・スカーレットの振付は、いかがでしたか。


宮尾 なんといいますか。美しい、流れるような動きです。かつ、やはり精密、緻密に計算されています。

──展開は速く感じられましたか。

宮尾 速いカップルもいたり、ちょっとゆっくりなナンバーを踊ったりもします。

──動きは難しかったですか。

宮尾 そうですね。タイミングが難しいです。ペアで踊るところもあるので。身体の使い方も、ふだんのクラシック・バレエとは違うので、最初は多少苦戦するところが多かったです。振付自体に流れが出来ていて、すごく動きやすいので、「こういうものを表現したいのだろうな」というのがダンサーに伝わってきます。「もっとこう動かせたいのだな」「こう見せたいんだろうな」というのが、とても理解しやすい振付なんです。

──あんなに若く、24歳くらいから英国ロイヤル・バレエで振付を発表していますから、相当才能に恵まれていると思います。
熊川さん以外の振付でコンテンポラリーを踊るのは初めてですか。


宮尾 何回か踊りました。留学中にはキリアンとか、バランシンなどの作品を踊りました。それから服部有吉さんの振付作品を踊りました。

──新作のオリジナル・キャストというと。


宮尾 振付の段階から踊るのは、服部有吉さんがシューベルトの曲に振付けた『戦慄』です。

──ダンサーとしては、やはりオリジナルで踊るというのはやりがいがあるでしょうね。

宮尾 新鮮ですね。

──ミュージカルも含めて、今年はいろいろと新しい役との出会いがありますね。

宮尾 これは大きな財産だと思います。

──各種メディアに出られることも多いですが、そういう時はバレエとの切り替えはどうですか。うまくいきますか。

宮尾 あまり気にはならないです。自分を第三者目線で見ることができ、間の取り方などもすごく考えるようになります。そういった意味ではすごくいい経験をさせていただいていると思います。ただやはり、お芝居やテレビドラマなどに出演させていただき、バレエに戻ってきた時は、「帰ってきたな」と感じますね。

──今回の『ロミオ&ジュリエット』の死の役は、3人のダンサーの競演ですね。

宮尾 期待とプレッシャーで胸がいっぱいです。先輩のお二人は初演から出演されています。これは、僕も経験があることなのですが、初演より再演のほうが雰囲気や振りが身体に入っている分、より多くを追求していけます。ですので、一つひとつのリハーサルに集中して臨み、お二方に負けないくらいの完成度をめざし、必死に食らいついていこうと思います。さらに、そこに自分なりの解釈ものせて深みを増していきたいです。

──宮尾さんは、今まで日本であまりいなかったタイプのダンサーですね。常にほかのジャンルとの交流がありながらバレエダンサーを続けている。

宮尾 今回のようなバレエ以外のお仕事にダンサーとして出させていただいた時、僕が意識していることは、僕を通してバレエをまだあまりご存知ない方にも紹介できたらということ。それから、僕自身が他ジャンルからの刺激を受けて成長したいということ。そして、単純にそういった素晴らしい舞台を全力で演じている姿を、たくさんの方に観ていただきたい、という3つの要素です。
ただ初めは、いろいろな分野の影響を受けて流されてしまいそうで怖かったです。自分の中に芯がないと、性格上からもふらふらしてしまいがちですから(笑)。それが僕にとっては、やはりバレエだったわけです。それだけは、絶対守っていかないといけない。言い方は悪いですが、マルチタレントのようになってしまうと「なんのために出たんですか」ということになると思うのです。そして、それを一生懸命守ってきたからこそ、この『ロミオ&ジュリエット』に出られたのかな、と思います。

──本日はお忙しいところありがとうございました。『ロミオ&ジュリエット』期待しております。

ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』

<東 京>
●9/3(火)〜10/5(土)
●東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11階)
<大 阪>
●10/12(土)〜27(日)
●梅田芸術劇場メインホール

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