シュツットガルト・バレエ団プリンシパル:フリーデマン・フォーゲル=公演直前インタビュー

ミラノ・スカラ座バレエ団来日公演
マクミラン版『ロミオとジュリエット』をアリーナ・コジョカルと初めて踊る
フリーデマン・フォーゲル=インタビュー

----マクミランの振付作品はイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)で『マノン』のデグリュー役を踊られていますね。
フリーデマン・フォーゲル ええ、他にもウィーンなどで何回か踊っています。また、シュツットガルト・バレエのためにマクミランが振付けた『大地の歌』も踊りました。

----『ロミオとジュリエット』は、いつもクランコ版を踊られていますが、マクミラン版を踊るに当たって、どのようなことを注意されますか。
フォーゲル まず、マクミラン版のロミオを踊ることをとても楽しみにしています。違ったロミオを自分の中で見いだせるのではないか、と期待しています。クランコ版とは音楽性も違いますし。同じストーリーですから、エッセンスの愛は変わりませんが、違った表現をすることになります。内面のソウルを表現するのはステップ通してですから。

----とても期待してます。
フォーゲル 僕自身も期待しています。今はもう、頭の中はロミオでいっぱいになっていて、すぐにでも踊り出したい気分です。

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--ジュリエット役のコジョカルさんとは初めて踊られるのですか。
フォーゲル そうです。初めて会って恋に落ちるシチュエーションですから、僕にとっては新しいヴァージョンで新しいパートナーと踊る、というとても新鮮な経験です。

----もしかすると、ラストがハッピーエンドになっているかもしれない・・・。
フォーゲル すると『ロミオとジュリエット』の続編ができますね。2人には子供ができていてワインを作っているとか・・・(笑)。残念ながら2人とも16歳で死んでしまいますが。

----ENBで『マノン』を踊られた時、ダリア・クリメントヴァが怪我をして、1日だけ日本人の高橋絵里奈さんと踊られましたか。
フォーゲル ええ、公演日に怪我したのでリハーサルがすごくたいへんでした。1時間くらいしか合わせることができなくて、とても難しい状況だったのですが、ステージではすべてのことがうまくいったのです。きっと神様が見守ってくださったのだと思います。
マクミランの『マノン』はとても難しい要求の大きいバレエですから、1日でパートナーを変えるというのはたいへんなことなのです。個人的な気持ちの部分が大きいのです。二人で、何千人もの観客が見ている中で、非常に親密な関係を作っていくわけです。パートナーが突然変わってしまうなんていうことは、ほんとうに希に起ることなのですけれど、本来はパートナーのことをもっと知らないと、そういう気持ちは作ることはできません。幸いにもパフォーマンスはとてもうまくいったので良かったですが。

----ぜひ、日本でも『マノン』全幕を踊っていただきたいと思います。
フォーゲル はい、でも『マノン』はほんとうに相手が変わってしまうと難しいバレエなんです。パートナーとの間に二人だけの世界が作られますから、共有していた関係をまた別の人と新たに組み立てないといけないわけです。何日か時間がないと、そんなにパッと切り替えるわけにはいきません。二人だけの特別な、プライベートな世界なんです。
特に踊れなくなったパートナーが客席でまじまじと僕たちの踊りを見ている場合、非常に踊りにくいです。私は二人のパートナーと踊った経験があるのですが、ファーストキャストのパートナーが見ている前で別のパートナーと踊るというのは、何とも言い表わすことのできない感じです。ちょっと罪悪感に近いような感じがありますし。なんだか浮気しているような気持ちになってしまいます。きっと観ている彼女も嫌な感じがしたと思います。やっぱりパートナーを変えるためには、最低でも2、3日は必要ですね。
フォンテーンとヌレエフはずっとパートナーを組んでいましたが、きっと二人の間には何かそういう特別な関係があったと思います。二人で物語を作り上げていくようなものがあったのではないか、と思います。私も今回、アリーナとともに物語を作っていくのを非常に楽しみにしています。特に私にとっては初めてマクミラン版のロミオを踊る機会ですので。エモーショナルな感情がたくさん入れられるような舞台にしたい、と思っています。

----ミラノ・スカラ座で『ライモンダ』の復元版を踊られましたね。
フォーゲル はい、踊りました。セットやコスチュームも非常に大掛かりで、コール・ド・バレエも何百人もいました。衣装だけでも600着くらい用意されていたほどの大規模なバレエでした。まるでタイムトラベルをして、違う時空に行ったような気分でした。ほんとうにこの一部分になるのだろうか、と思ったほどです。
ですがやはり、100年以上も昔のバレエというのは、男性ダンサーが踊るシーンが少ないですね。女性の引き立て役でしかなかった。ヌレエフがそれを変えたのだと思いますけれど。
男性ダンサーにとってはあまり面白くないパフォーマンスでした。知らないうちに『ライモン』を上演するといわれて、後から復元版だと教えられて、いったい、いつヴァリエーション踊るんだろうと思っていたら、あれですべてだよ、と。夢の中に出てこないんだ君の役は。「えーっ "ザッツ・オール"?」みたいな感じでした。参加することができてうれしかったけど見せ場がないんです。われわれは、「ミュージアム・ピース」と呼んでいます。

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----ミラノ・スカラ座の装置は色彩もきれいだし、舞台芸術の伝統が継承されていますね。
フォーゲル セットが何もなくても劇場自体が息をのむ美しさです。カーテンコール専用のライティングがあって、シャンデリアが輝き、金とヴェルヴェットと照明の輝きで素晴らしい時が出現します。ですから、ああいう劇場で『ライモンダ』の復元版が上演できるというのは素晴らしいことです。実にアメージングでした。

----私はマリシア・ハイデとリチャード・クラガンが踊った『じゃじゃ馬ならし』をみて、バレエとはこんなに素晴らしい胸を打つ表現ができるのか、と開眼しました。
フォーゲル クランコは天才ですから。クランコとマクミランは友達でしたから、よくロンドンとシュツットガルトを行き来していました。クランコが『ロミオとジュリット』を振付けた数年後に、マクミランが同じ物語を振付けました。恐らく、クランコはマクミラン版のプレミアを観ていたと思います。いい友人だったし、お互いに良い刺激をし合った仲だったと思います。

----クランコの作品は世界的にみても重要な作品だと思います。クランコ作品を継承するシュツットガルト・バレエ団のプリンシパル・ダンサーとして責任を感じられるでしょうね。
フォーゲル もちろん、自分の得たものは将来は若い人たちに受け継いでもらわなければなりません。そして一人のダンサーがいろいろなヴァージョンのロミオを踊るチャンスはそんなに多くはないと思いますし、すごく恵まれていると思います。二つのマスターピースの両方を踊る機会を得たわけですから。

----2012年のシュツットガルトのガラ公演で『ロミオとジュリエット』が上演されましたね。
フォーゲル ええ、クランコ版『ロミオとジュリエット』の初演から50年後に、オリジナル・キャストの人たちも出演して上演しました。マリシア・ハイデが乳母、エゴン・マドセンが神父、クランコの『オネーギン』などのスクリプトを書いたシュツットガルトでは64年のキャリアを持っている85歳の人も、オリジナルと同じ役のジプシーを、今回も踊りました!! 50年後に全く同じ役を踊ったのです!もちろん振付は少し簡素にしてましたけれども、演技は全く変わっていません。
オリジナル・キャストとしてジュリエットを踊ったマリシア・ハイデが、リハーサルを見ていて、初演時の振付から変わってしまった部分を、若手が踊っているのをみて、段々といろいろと思い出してきました。そしてクランコから直接聞いた言葉を思い出して、間の取り方とか、お決まりのヴァージョンに慣れて踊っていると失われてしまったことを聞くことができました。
また、オリジナルのロミオを踊ったレイ・バラもその場にいたんです。ロミオとマキューシオとベンボーリオのパ・ド・トロワにはダブルジャンプとかたくさん入っているのですが、「あのジャンプだけはぼくは得意だったんだ」とレイ・バラ。彼が得意だったためにクランコがダブルジャンプをパ・ド・トロワにたくさん挿入しました。それが残っていて僕たちは踊らなければならない、というわけです。
それからまた、クランコは髪の毛についての表現がたいへん繊細でした。踊りのなかで髪にタッチするシーンが多いのです。ロミオがジュリエットの髪に触れる。ジュリエットもロミオの髪を触る。髪に触れることで二人の親密さを表しているのです。パ・ド・ドゥでも触れるし、死ぬ直前にも触れて死ぬ。クランコの表現のこだわりでした。ハイデから「髪の毛の触り方にはほんとうに気をつけて」といわれました。

----タマッシュ・ディートリッヒはカンパニーにいますか。
フォーゲル はい、彼は今、私のコーチです。共同ディレクターでもあり、私が大きな役を踊る時は彼が必ずついてくれます。

----素敵なダンサーでした。
フォーゲル コーチとしても素晴らしい。僕は彼から非常に大きなものを受け継ぐことができました。彼は自分の踊り方を押し付けるのではなく、あなたならこうやりなさい、と教えます。自分らしい踊りかたをしなければならないところを、彼はじつに的確な助言をしてくれますから、とても信頼できます。

----ベジャール・バレエ団で『さすらう若者の歌』を踊られましたか。
フォーゲル ええ、今年の6月に踊ったばかりです。

----しばらく日本のファンは、この作品をみる機会を与えられてないと思います。
フォーゲル 踊る人が少ないからでしょうか。マニュエル・ルグリが踊ったと思います。

----フォーゲルさんもぜひ、日本で踊ってください。
フォーゲル ジル・ロマンにこの作品を教わったことは素晴らしい経験でした。三回ローザンヌにいって教わりました。最初はステップを習い、つぎはステップを内面的に浸透させるために、つぎはすべてを成熟させるために行きました。
結局、僕は、ベジャールは『ボレロ』と『さすらう若者の歌』という二つのマスターピースを踊っています。

----ビゴンゼッティやマルコ・ゲッケ、マクレガー、リアム・スカーレットなど、ヨーロッパでは新しい振付家が活動していますが、これからの舞踊についてどのような関心をもたれていますか。
フォーゲル アーティストですから、いつも新しい作品、振付家、ムーヴメントに注目しています。

----ロミオ、デグリュー、アルマン、レンスキーなどのドラマティックなキャラクターを踊られていますが、どの役が一番お好きですか。また、一番難しい役はどれですか。
フォーゲル どれもすごく自然な感じでそのキャラクターにのめり込むことができます。それぞれまったく異なった個性を持ったキャラクターです。ロミオは時を生きる人、次に何が起きるか考えていません。アルマンやレンスキーは先々のことをどうなるか悩んでいます。過去にこうことがあったからとか、将来を思い悩むタイプで、周囲が自分のことをどう思うか常に気にしています。
ロミオはいつもその時のことしか考えていない男性です。やはり、男性のダンサーにとって一番難しいのはロミオじゃないかと思います。とりわけマクミラン版のロミオはきっと難しいだろうと思います。フィジカルに難しく、要求されるものが大きいだけに、様々な意味で難しいと思います。

----本日は、楽しくかつ意義のあるお話をお聞かせくださいまして、ありがとうございました。ミラノ・スカラ座、アリーナ・コジョカルと踊る「ロミオ」大いに期待しております。

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[インタビュー]
関口紘一

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