日本フィル「夏休みコンサート 2013」に出演するスターダンサーズ・バレエ団小山久美総監督に聞く

Dance Cube(以下DC):スターダンサーズ・バレエ団が日本フィルの「夏休みコンサート」に参加されるようになったのは、いつからですか。

小山:長い長い歴史がございます。もう何年でしょう、30年くらい経つのではないですかね。渡邉(曉雄)先生とはもっとかな、ほんとうに長いですね。

DC 大体、同じスタイルで参加されていますか。(「夏休みコンサート」そのものは39年目)

小山:オーケストラの前で踊る、ということではそうです。ただ、今は見応えのある作品としてずいぶんと進歩している、と思っています。当初はただ、ストーリーもなく踊りを音楽につけるという感じでした。時間的にも初期の頃より長くなっていると思います。(2012年の『白鳥の湖』は約40分)

DC 作品として踊るようになったのはいつごろからですか。

小山:それをやるようになったのは鈴木稔なんです。それでももう15年くらいにはなってしまうのではないですかね。2005年の『シンデレラ』からだったかしら。以前は『くるみ割り人形』も組曲みたいなのだったと思います。

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DC 今回は鈴木さんの新しいヴァージョンですね。

小山:そうです。日本フィルさんとずっとやっているのが土台になっているものです。ただこのコンサートとバレエ団の活動とは、また違います。踊るスペースも違うし、何から何まで違うので、これはもう別の物として私たちは取り組んでます。

DC 後ろにオーケストラがいて、その前で踊るのですか。


小山:そうです。会場によっては、二間というスペースで踊ることもあります。

DC その中で、ハイライト版としてストーリーを踊るんですね。


小山:ここ十数年はそういうスタイルになっています。私としてはバレエとして独立してちゃんと楽しんでいただけるような、見応えがある作品としてできあがっていると思います。

DC 日本フィルと踊る「夏休みコンサート」自体としての伝統があるんですね。

小山:そうですね、バレエ団としてこういうスタイルをやらせていただくことが、他より数も多いですし、長期間にわたっていると思います。本当に初期、まだどこのオーケストラさんもこういったことを始める前から私たちやっていますので、狭いところで踊るのには慣れているというか。後ろからオケの方々に観られ、前からお客さまに観られという状況に慣れているバレエ団です(笑)

DC やはりオーケストラがオケピットに入って演奏するのとは違いますか。

小山:全然違います。オケの方たちは楽しそうですよ。私はずっと『くるみ割り人形』のアラビアの踊りを踊っていたんですが、そのパートは楽器が少なく手の空いている楽団員さんが多いらしくて、音が静かでしょう、観られているのがよくわかりました(笑)。普段ピットの中で伴奏していただいているオーケストラの方たちと一つの舞台の上でご一緒する、他の芸術団体の方たちと交流するのはやはり楽しいです。

DC 普段バレエを見に来るお客さまじゃない人たちもいるかもしれませんし。

小山:もちろん、むしろそういう方たちのほうが多いと思っています。この日本フィルの「夏休みコンサート」については、日本フィルさんの長い歴史で、これにずっとご尽力された方がいらして、どこよりも下地というか、基盤が長年の努力で作られているんです。ですので、たとえば他のオーケストラさんがこういう試みをやっても、なかなか動員がたいへんだと思います。
公演の魅力を際立たせるテクニックだったり、下準備、いろいろな関係団体との連絡をとったりということなど、様々な面でたいへんなようです。もちろん今もたいへんでしょうが、やっぱり歴史と、本当にそれをご苦労されてやってきた方が日本フィルさんにいらしてしっかりとした基盤を既に作られているから、継続されているんだと思っています。

DC お子さんに観ていただくのには、ストーリー的なものを見せた方が分かりやすかったり、反応があるんじゃないですか。


小山:そうですね。『シンデレラ』はやはり転機になったと思います。それまではバレエの方からいうと、オーケストラのコンサートとしてできあがっているものに華を添えるというか、バレエはおまけ的な存在でした。しかし『シンデレラ』の時からは新しい物をそこで作ろうと。どうしても『シンデレラ』を、ということでしたので、私たちのレパートリーにはなかったですし、それで本腰を入れて作ろうということになりました。それまでは『くるみ割り人形』だったり、いわゆる典型的な古典作品でしたが、ゼロから作るんだ、と。そこに鈴木稔がいたので、『シンデレラ』からは曲の構成もミーティングの時からご一緒させていただきました。だから今での様に、オーケストラの前で踊るバレエ、という土俵で最初から双方が一緒に作っていくという準備段階をとることになりました。それが大成功だったんじゃないかと思います。

DC それは積極的なことになりましたね。

小山:ええ、なかなかそこまで思い切れないですよね。それぞれ、オーケストラの活動をメインで活動されているし、私たちも普段の公演をメインにしていて、できる範囲でやりましょうということになりがちです。それが、ここの部分に本腰を入れるというので、日本フィルさんも決断されて、あそこから私たちの歴史が変わってきたかな、という気がしています。
じつは、日本フィルさんと初めて『シンデレラ』をやった時、私客席で、子どもたちを連れてきたお父さんが涙してるのを見たんですよ。『シンデレラ』の結末はちょっと泣かせる部分がありましたから。それで、フルバージョンを作ろうよ、ということになりました。ですからこれがなかったら『シンデレラ』の全幕も生まれていなかったかもしれません。

DC そうでしたか。鈴木さんとしても久しぶりの全幕でした。

小山:そうですね、『ドラゴン・クエスト』を作ってからしばらく空きましたし。日本のバレエ団では全幕物の新作はなかなかできないです。

DC 王宮のシーンの緊張感のある流れは素晴らしかった。


小山:スピーディですよね。とにかく面白いものにしたいと。形式にこだわってあまりおもしろくない部分というのは、逆にそれがちょっと休憩みたいなところも古典作品にはありますけど、そうではなくて、とにかく面白くしたいというのが彼の口癖です。
「夏休みコンサート」のようなお客様が近い、装置もない、袖すらちゃんとした形で使えない舞台、というのはダンサーにとっては厳しい部分があります。照明の効果も何もないですから、だから踊りの表現で勝負をしなければなりません。これは本人も言わないですし私が感じるだけですが、そう言う意味で鈴木にしてもダンサーも、鍛えられて成長しているんじゃないかと思います。
とくに、演出力というのは、子どもたちが飽きないように、余分なものを全部そぎ落としたシンプルで、かつ内容を伝える物というのが、こういうところでは求められます。それを装置や照明の劇的な展開などの力を何も借りられず、その中で勝負しなくてはいけないのです。長く作る方が簡単な部分もありますよね。こういうところで、私は彼の演出力っていうのが鍛えられていったんじゃないかな、と思っています。

DC 全幕を作る上でいい経験をされたかもしれませんね。

小山:プロの仕事ですから、自分たちのプラスになるようにする。で、結果はうまくいっているんじゃないか、と思います。
いま、そういう鈴木が近年になって演出しなおしたのが『シンデレラ』の後に『くるみ割り人形』と『白鳥の湖』。それはバレエ団の公演とは別にこちらの30分、40分で装置もなしにやってる版があるんです。『白鳥の湖』が一番厳しいです。照明を落とせないですし、一番神秘的にならなくてはいけないところでも使えません。袖に入ることもできないし、床に倒れて暗くなるとか、普段の劇場であるようなバレエの作り方できないですから。それでも『白鳥の湖』も4幕の筋を簡潔に作って、皆さん満足いただいています。
この「夏休みコンサート」は、私は客席から見ていて、絶対お得なコンサートだと思ってます。また最後にみんなで歌うのが、みんな楽しそうですね。その辺の運びとか、司会の方の持って行き方とか、団員さんたちのこれに対する取り組み方とか、やっぱり先輩格のオーケストラだけあるんじゃないかな、と思います。総観客動員数もすごいでしょう。クラシックの世界では、あまりあることではないんじゃないですか。
それだけの人たちに私たちのバレエも観ていただくわけだし。結果がすぐ出るわけでもないし、数字で出るわけでもない。やはり子どもたちに対しては地道な種まきにしかならないですから。それをずっと何十年も地道な種まきをやっているわけです。私たち単独の団体だけに対するものだけでなく、広く音楽とかバレエを普及するために。あの時オーケストラとバレエの公演を観たってことが心の中に残っている人たちが、きっと全国にたくさんいらっしゃるんじゃないかと思います。

DC コンサートの『シンデレラ』を見て、全幕を観にいらした方もいるかもしれません。

小山:それもありますね。

DC 何かこのコンサートで上演してみたい演目はありますか。

小山:そうですね、『眠れるの森の美女』なんじゃないかと思います。音楽はチャイコフスキーだし、オーロラの曲はディズニーランドなんかではよく聞かれますから、みんな知っていると思います。
バーミンガム・ロイヤル・バレエ団のピーター(・ライト)も、『眠れる森の美女』は一番たいへんなんだ、費用的な面とか、そんなに簡単にはいかない、と言ってます。『眠れる森の美女』というのは、一番豪華で、そういうものが求められる作品だから、出演する人数から言っても、装置・衣裳にしても、全てにおいてたいへんだから手を出さない方がいい、と。でもオーケストラと一緒ということでは一般的に言って『眠れる森の美女』ということかもしれません。

DC 『白鳥の湖』が照明を使わないで成功したのはたいした物ですね。

小山:そうですね、経験を積んでいって、照明を使えない中で工夫したこと、たとえば、譜面灯を簡単なクリップライトのLEDにしたりとか。多分、どこのオーケストラさんでも持っている物ではないと思います。それまでは、普通の譜面灯ってコードが出ているので、バレエと同じ舞台では使えなかったんです。
(有線を張るには時間が足りないので、それまでは地明かりでやっていたが、『くるみ割り人形』の時に、譜面灯あったらもっとドラマチックになるとバレエ団から提案し、ワイヤレスのものを付けた)
やっぱりね、そういうの持ってらっしゃるから、照明もある程度落とすことができた、でなかったらプレイヤーさんが嫌がりますよね。でもね、嫌がる度合いが他より低いですよね(笑)かなり極限の暗さまで我慢できるように、トレーニングされてらっしゃる日フィルさんは(笑)。他のオケさんだったら、もうできないって言われそうです。
やはり、積み重ねだと思います。私たちもそうですけどオーケストラさんも一歩先を行っているんじゃないかな、と思います。私たちも、このスペースで踊れ、ということではまかせてくださいというものがあると思います。

DC 演奏者とバレエの絡みが楽しく、今年の『くるみ割り人形』も楽団員とダンサーの舞台上でやりとりがあるそうですね。

小山:あれみんな嬉しそうよね。『シンデレラ』はね、シンデレラが靴を落として、王子が探して探してオケの方をちょっと立たせて履かせて、「違う!」ってね。楽団員の方も立候補して、私がやるって言ってますね。それはやっぱり、あまり知らないお付き合いのないオーケストラだったらできないと思います。

DC 2005年の「シンデレラ・プロジェクト」はコンサートとは別の物ですか。

小山:ありましたね。
「シンデレラ・プロジェクト」として、バレエのワークショップも初めて声をかけていただいて、初めてやったんです。それでエデュケーション・プログラムをやってらっしゃるって伺って、そういう世界があるんだと。これは個人的に、いまそういう方向で働いていることのきっかけをあそこでいただきました。
府中の学校に3日間行って、『シンデレラ』のあるシーンの音楽とバレエとを、自分たちで作ることで、プロコフィエフの『シンデレラ』という作品にアプローチしようとするワークショップを行いました。体育館で楽団員さんと実際に夏休みコンサートに出るダンサーが6名、自分のプロフェッショナルのスキルを活かして子どもたちと一緒に作ってくださって、それを合体させて『シンデレラ』の12時のシーンを作りました。
そして3日目に発表しましたね。タンターンタタン(第38曲 真夜中)・・・という曲が、鐘が鳴ってドキドキするようなシーンです。で、それはミ・ラ・シ・ミの4つの音だと、3つというか。ミラシミシララミラシって。これだけの、この音だけを使って曲を作れってという風にしました。それで、その音だけで子どもたちが作って、動きは私たちがやりました。本当に試行錯誤で、初めてだったんです。
とにかく終わって、その後に、プロコフィエフの本当の曲を聴かせたんです。私ね、その時の子どもたちのことが忘れられなくて。すごくね、何て言うんだろう、ジーンときてるという顔つきでじーっと聞いてたの。やっぱり自分たちが取り組んできた3つの音だけでこんな曲が出来るんだっていうことが、子どもたちに確実に伝わってるなって思いました。プロコフィエフなんてそんなに耳に優しい曲じゃないので、ただこれを聞かせているだけだったら絶対素通りだと思いました。だけど、この音で作ってるんだって、何て言うのかな、子どもたちの様子を見たら、言葉で教育、本で教育するだけじゃないものがあって、確実に何か入っていったなという気がしたんです。
この経験が、私が子どもたちのための活動をするようになったきっかけになりました。それはあの時にいただいて、ずーっと今日まで残っています。

DC:お忙しいところたいへん意義のあるお話をありがとうございました。日本フィルの「夏休みコンサート 2013」楽しみにしております。

日本フィル夏休みコンサート

公演日:2013年7月20日〜8月4日
東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県で17公演

<夏休みコンサート2013公演スケジュール一覧>
7月20日(土)14時 府中の森芸術劇場
7月21日(日)11時&14時 東京芸術劇場コンサートホール
7月25日(木)11時&14時 サントリーホール
7月26日(金)11時&14時 横浜みなとみらいホール
7月27日(土)11時&14時 大宮ソニックシティ
7月28日(日)11時&14時 サントリーホール
7月30日(火)14時 習志野文化ホール
8月1日(木)14時 鎌倉芸術館
8月2日(金)14時 千葉市民会館
8月3日(土)14時 東京芸術劇場コンサートホール
8月4日(日)11時&14時 横浜みなとみらいホール

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指 揮:川瀬賢太郎(7/20〜28)、園田隆一郎(7/30〜8/4)
お話とうた:江原陽子
バレエ:スターダンサーズ・バレエ団
(第2部演出・振付:鈴木 稔)
コンサートマスター:江口有香(7/20〜28)、扇谷泰朋(7/30〜8/4)


お問い合わせ:日本フィル サービスセンター
電話:03‐5378‐5911(平日10〜17時)
FAX:03‐5378‐6161(24時間)
http://www.japanphil.or.jp/

<主催>公益財団法人日本フィルハーモニー交響楽団

インタビュー&コラム/インタビュー

インタビュー・写真=上村 奈巳恵

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