新しいキャストで帰ってきたウィル・タケット演出『兵士の物語』をアダム・クーパーとラウラ・モレーラが語る!

昨年11月、ミュージカル『雨に唄えば』で圧倒的なダンスと芝居を見せて観客を魅了したアダム・クーパーが、この夏、英国ロイヤル・オペラ・ハウス制作の話題作『兵士の物語』とともに日本に帰ってきます。2004年、2005年のロンドン公演で好評を博したこの舞台は、ダンサーたちが、踊り、台詞を語る、バレエと演劇の境界を超えた「役者の力量が問われる作品」(アダム・クーパー)。2009年の来日公演では、そのダンスと会話劇の織りなす幻惑の舞台が日本のファンから感歎の声があがりました。

物語は----。
休暇中のある一人の兵士(アダム)は、ふとしたことで悪魔に心(大切にしているヴァイオリン)を売り渡します。引き替えに彼が手にしたのは、欲しい物を手にすることができる奇妙な本。そして彼は巨万の富を得、美しい姫を花嫁に幸せな日々を送るようになります。しかし、なおも満たされていない自分に気が付きます。自分の本当に望む幸福は何だったのか。貧しかった時代の幸福をも取り戻そうとした彼の前に、封じ込められた悪魔がふたたび現れます......。
前回の来日公演から6年、兵士役のアダム・クーパー、王女役のラウラ・モレーラ、ストリー・テラーのサム・アーチャー、悪魔役のアレクサンダー・キャンベルという新たなチームを結成して、振付・演出のウィル・タケットを中心に前回以上のエネルギーに満ちた舞台を創った、という。
公演を4日後に控えたアダム・クーパー、ラウラ・モレーラ。主役の二人がインタビューに応じ、今回の公演の見所と意気込みを熱く語りました。


----アダムさんはバレエ・ダンサー出身ですが、台詞も歌もタップダンス披露されるなど芸域を広げてこられています。今回の『兵士の物語』は2回目の来日公演になります。この台詞のある『兵士の物語』でいちばんこだわっているところ、ご自分がいちばん表現したい、伝えたいことは何でしょうか。

アダム まず、この『兵士の物語』というのは偉大なプロジェクトであるということです。振付・演出家のウィル・タケットとは25年以上もともに仕事をしてきており、私たちはたいへんいい関係を結んできました。彼とは、仕事のうえでも個人的にもとても深い関わりを持ってやってきました。そういうわけで、このプロジェクトは、ひとつにはウィル・タケットとのすばらしい関係で生まれたものと言えます。
また、ウィル・タケットはとてもユニークな振付家です。彼の振付は唯一無二のものなので、この『兵士の物語』を通じて、私は自分のミュージカル、あるいはバレエといった、自分の基本のところ、自分自身のパフォーマンスに戻ることのできた、とてもよい機会だったと思います。

新しいキャストで帰ってきたウィル・タケット演出『兵士の物語』をアダム・クーパーとラウラ・モレーラが語る!

----ラウラさんに伺います。ラウラさんはロイヤル・バレエのプリンシパルとして活躍されています。今回は、台詞はあまりないと思うのですがロイヤル・バレエとはとはかなり違うパフォーマンスに挑戦されています。どういうところがいちばん難しかったですか。

ラウラ まず、今までといちばん異なったのは「話す」ということです。ラッキーだったのは、私の役には台詞がそれほどないということで、かなりリラックスはできています。ただ、今までなかったスタイルだということは間違いなく、そこがいちばん難しかったのは間違いありません。でも、アダムがとてもクリエイティブなかたちでいろいろとサポートしてくれたので、お互いにさまざまなやり方でこの物語を盛り上げていくことができました。最初は、今までとは違って台詞があるということが本当に難しかったですが、今はかなり慣れてきて、私にとってはとてもよい挑戦になったと思います。

----日本ではここ1、2年、『春の祭典』の公演がとても多いと思います。今回、ストラヴィンスキーの作品を踊られるアダムさんに、音楽とバレエの関係をお話しいただければと思います。

アダム この物語の中で音楽とバレエが一緒になっているのは非常にチャレンジングなところです。
通常、この物語はナレーターが一人で話をし、他の人間はバレエを踊ることになっているのですが、今回はダンサーが台詞を話し、非常に複雑な構成になっています。そういった意味で理解は難しいのかもしれませんが、新しいチャレンジによって、音楽とナレーションとダンスがうまくかみ合って、難しい話をわかりやすくしていると思います。

----ウィルさんとのコラボレーションということが大きいのでしょうか。

アダム そうです。それはもともと、ウィルがこのやり方を考えたとき----私たちが参加する前に考えてあったのですが----例えばキャストの問題ですが、少しでも多く新しいキャストを入れることで、新しい展開、新しいアプローチができるのではないか、と彼が考えたことにあると思います。

----アダムさん、ラウラさんお二人に伺います。まず、二人でコラボレートされて如何でしたか。
また、ダンサーと役者の住み分け、線引きはむずかしいと思うのですが、それぞれのアプローチをお互いにご覧になってどう感じられたのでしょうか。

2004年 英国ロイヤルオペラハウス リンバリースタジオ上演時舞台写真

2004年 英国ロイヤルオペラハウス
リンバリースタジオ上演時舞台写真

アダム ラウラとはかなり長く一緒にやっています。最初に彼女が来たのはとても若いときでしたが、パワフルで、非常にエネルギーに満ちていました。初めの頃はもちろん今のようにはいきませんでしたが、12年間一緒に仕事をさせていただく中で、今は気心も知れているし、とてもいいコンビになったと思います。
今回の『兵士の物語』では、私の演じる兵士は感情的に激しいキャラクターです。そうしたキャラクターに向き合うラウラは、最初彼のフィアンセの役で登場するのですが、そこから二人がケミストリー(化学反応)を生み出す、おもしろい関係に出来上がっているのではないかと思います。とてもウマが合った、いいかたちに、いろいろな意味で新しい関係が出来あがりつつあるのではないかと思います。

ラウラ アダムが言ったように、ロイヤル・バレエに入ったとき私はとても若かったので、いろいろなプロジェクトに参加させていただくのは大きなチャレンジでした。最初はやはり、周りとうまくやっていくこともなかなかむずかしかったのですが、その後さまざまなアーティストたちと一緒に仕事をし、よい関係を築いていく中で、息のあった演技ができるようになりました。今ではとても心地よいコラボレーションができていると思います。『兵士の物語』は歌もありダンスもあり台詞もありという難しい演技ですが、アダムからはこれまでにたくさんのことを学んできましたし、これからも学ぶことがとても多いと思っています。

----お二人とも日本では公演をされたり、レッスンや講師などいろいろと活動されていますが、この作品を日本で上演するにあたって、日本と英国の違いなどはお感じになりますか。

ラウラ 私は日本には何度も来ていてるのですが、そのたびに、外国に来たというよりも自分のふるさとに来たような感覚がしています。とくに日本の観客の方たちは演劇やダンス、文化にまで豊かな知識をもっているので、演じるたびに皆さんの反応がとても温かく感じます。私たちが伝えようとしている文化をうまく受け取って反応してくださるので、日本で公演するのはとても嬉しいことなんです。

アダム 私も同じ意見です。日本とイギリスの観客には大いに違いがあります。日本の皆さんはとても寛容に私たちを受け入れて歓迎してくれます。パフォーマンスを受け入れてくれる心地よさがあるんです。ですがイギリスでは、バレエではそんなことはないのですが、演劇では観客は随分異なります・・・(笑)。

----今回は、アダムさん以外は新たな出演者によるカンパニーになるわけですが、今までのカンパニーと違って新たに醸し出されてくる空気があるなど、違いはありますか。

アダム 非常に違います。今回の新しいカンパニーは非常におもしろいし、エキサイティングなものになっています。ウィル・タケットはキャストの使い方が非常にうまいので、オリジナルと同等のクオリティーの作品に、極めて大きなエネルギーを盛り込みました。そのエネルギーの中、非常に速いペースで物語が進み、しかも中身がぐっと凝縮されています。そして人間関係ですが、アクター同士は非常に濃密な関係で結ばれています。ですから今回は、今までのカンパニーに比べて演じるのが非常に難しい。たいへんタフなことになっているんです。難しいししんどいし、緊張もします。とくに悪魔の役をするアレックス。彼は本当にすばらしいバレエ・ダンサーですが、やはり彼も今回は台詞を言わなくちゃならないわけです。しかも動きもすごく速くなっていて、人物像としても、彼の演じる悪魔はこれまでのものよりずっとエネルギッシュです。乱闘のようなアクション・シーンもあるし、衣裳もめまぐるしく変わります。衣裳もまたインパクトのあるものです。そういった意味で、今回の舞台は総じてとても凝縮されていて、激しく、難しく、そしてハイピッチなものになっていると言えます。

----ラウラさんにお尋ねします。今回、初めて台詞のあるパフォーマンスという挑戦をされたわけですが、これから新たに、ダンスだけでなく言葉を含めた、例えば芝居などへの挑戦、やってみたいというお気持ちはおありですか。

ラウラ 今まではバレエを踊ることだけで自分の感情を表現してきたので、初めて台詞を入れるということで、たしかに最初は恐怖を感じていました。でも実際にやってみて、その恐怖は少しやわらいだということは言えます。ですから踊りだけで表現することにプラスして、ちょっとした台詞----今回は最後の方に少しあるくらいですが----で、もう少し感情の幅を広げることができるんだな、ということを経験しました。そういう意味でもちろん、将来、何か新しいことをする、幅を広げていきたいという気持ちはあるのですが、私は英語を母国語にするイギリス人ではないので、台詞に関しては外国人のアクセントが邪魔になるのではという危惧があります。ですがそうした懸念も含めて、何か新しいことに挑戦したいという気持ちはもっています。

----お二人が、今回の物語で観客に伝えたいことはどんなことですか。

アダム この物語が書かれたのはかなり以前ですが、現代に通じるテーマが多くあります。とくに、テーマとなっている「誘惑」。どの時代にも起こりうることであって、私にとってもとても身近な問題と言えます。観客の皆さんにとっては警告とも言えるでしょう。そういう意味では、この舞台が伝えることは、古今東西どこでも通じることということになると思います。

ラウラ 私はフィアンセとプリンセスという二つの役を演じるのですが、愛とはどういうものか、愛を通じて何が変わっていくかをお伝えできればと思います。とくに最後の方でそういったことが色濃く出てきますので、お楽しみいただければと思います。

----アダムさんはビデオ・メッセージで「動きによって観客の感情を引き出したい」とおっしゃっていましたが、これから観る日本の方に、今回の『兵士の物語』のポイント、観るうえでのアドバイスやメッセージがありましたらお聞かせください。

アダム 今回の『兵士の物語』は非常にエネルギーに満ちた公演になっています。ダンサーたちの動きは舞台上のさまざまな場所を点々とし、ダンスと台詞が折り重なっていく。その中で、兵士がいかに犠牲者であるかという点が表現されていきます。なぜ犠牲者かというと、家に対する愛、家族に対する愛、彼は愛をもっているにもかかわらず、誘惑によって自分の望みを絶たれてしまう。ダンス、台詞、動きが凝縮され、その葛藤、彼の望みとそれを引き裂く誘惑のジレンマが表現されていきます。そのあたりが見所ではないでしょうか。

----「誘惑」がこの物語のテーマのひとつですが、そうしたものにアダムさんはどのように対処されるのでしょう。

アダム それはプライベートなことなのでお答えできません(爆笑)。

ラウラ そう、それは難しいですね(笑)。

----(スタッフから)昨日、ウィル・タケットさんとお話ししましたら、今回の舞台に非常に興奮されていました。アダムさんは先程、6年前(最初の来日公演)に比べて、今回の舞台は非常にタフになったとおっしゃいましたが、今回『兵士の物語』を演じられて新たな発見というのはありましたか。

アダム この6年間、振付やさまざまなクリエイティブな部分においてウィル・タケットと一緒にやってきました。その間、知識も増えましたし、台詞もダンスも向上し、よりエネルギーに満ちたパフォーマンスをこなせるようになったと思います。6年前に比べて、アーティストになった気持ちがしています。その中でもいろいろな発見があり、ひとつひとつの発見がとてもワクワクさせられるものでした。今回は3度目になりますが、まったく新しい気持ちでこの公演に向おうと思っています。

----最後に、お一人ずつ今回の意気込みをお願いします。

ラウラ 今回、こうして日本に戻って公演ができることをとても光栄に思います。観客の皆さんのたくさんのサポートがあってこそ帰ってこられたものと、とてもありがたく思っています。今回の『兵士の物語』はまったく新しいキャストでやりますが、キャストもウィル・タケットも、とてもすばらしい人たちです。そうしたすばらしい仲間とともに、この物語を新たにフレッシュなものとして皆さんにお届けできることをとても楽しみにしています。

アダム 日本は私にとって第二のふるさとですので、また帰って来られてとてもうれしく思っています。去年の11月に『雨に唄えば』を上演させてもらって以来の、最高の出来映えになっています。演出もとてもユニークで、今まで観たことのない公演になるものと思います。ウィル・タケットが心血を注ぎ、さらに新しいキャストを得て創った『兵士の物語』です。以前この作品を観たことのある方にも、観たことのない方にも、まったく新しい『兵士の物語』をお見せできるものと思っています。

新しいキャストで帰ってきたウィル・タケット演出『兵士の物語』をアダム・クーパーとラウラ・モレーラが語る!

●7/24(金)〜8/2(日)
●東京芸術劇場 プレイハウス
●音楽=イゴール・ストラヴィンスキー、
原作=アファナシェフ、脚本=ラミューズ
演出・振付=ウィル・タケット
●出演=アダム・クーパー(兵士)/ラウラ・モレーラ(王女)
サム・アーチャー(悪魔)/アレクサンダー・キャンベル(ストーリー・テラー)
●12,000円(全席指定・税込)
U-25チケット=6,000円(チケットぴあにて前売り販売のみのお取扱い・観劇時25歳以下対象・当日指定席券引換・要身分証明書)
●開演時間=7/24日19:30
7/25・8/1日13:30と18:30
7/26・8/2日13:30
7/28・31日19:00
7/29日14:00と19:00
7/30日14:00
7/27日休演
※英語上演/日本語字幕付
●お問い合わせ=公式HP http://www.parco-play.com/web/program/soldier/

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