ニーナ・アナニアシヴィリ=インタビュー
熊川哲也版の『海賊』を遅沢佑介さんと踊ることをとても楽しみにしています

-----ニーナさんはABTやデンマーク・ロイヤル・バレエなどとともに英国ロイヤル・バレエでもゲストプリンシパルとしても踊られていましたが、その時は、熊川哲也との接点はありましたか。

ニーナ・アナニアシヴィリ もちろん、熊川さんのことは知っていましたし、私がケネス・マクミランの『パゴダの王子』にゲストで出演した時には、一緒に同じ舞台で踊ったと思います。

-----ダンサーとしての熊川哲也はいかがでしたか。


ニーナ まず、テクニカルの面で非常に優れたダンサーでした。今でも映像で観てもたいへん華のあるダンサーですが、当時からとても軽々と難しい技をこなしていました。もちろん、私はダンサーとしてそれがたいへん難しい技だと分かっていました。今も彼の舞台を観るのはとても楽しみです。
そして熊川さんが、これだけのスケールのカンパニーを創ったということは非常に素晴らしいことだと思います。これだけクオリティの高いカンパニーを創るということは、並大抵のことではありません。彼と彼に協力してこのカンパニーを創った人たちに私は心から感謝したいと思います。
さらに才能のあるダンサーを発掘して育て、将来に向けて継承していることについて、彼は大いに評価されるべきだと思います。特に男性ダンサーの人たちにとって、熊川さんを舞台で観るということで大きな刺激を受けて、日本のダンサーがどんどん育っているということも素晴らしいことだと思います。

ニーナ・アナニアシヴィリ=インタビュー 熊川哲也版の『海賊』を遅沢佑介さんと踊ることをとても楽しみにしています

-----国立や公立でないインディペンデントのバレエ・カンパニーで成功を収めているケースは、世界的にもそれほど多くはないと思います。

ニーナ その通りです。インディペンデントのプライヴェート・カンパニーとしてこれだけのものを創る、ということは非常に難しいことです。プライヴェートなカンパニーでこれだけクオリティが高いということは、世界的に見ても非常に希なことだと思います。
それから、K バレエ カンパニーはファミリーのように協力し合っている雰囲気がとても良いですね。

-----前回は『白鳥の湖』のK バレエ カンパニー公演では、宮尾俊太郎と共演されましたがいかがでしたか。

ニーナ 宮尾俊太郎さんも今回『海賊』で共演する遅沢佑介さんも素晴らしいダンサーです。俊太郎さんは技術的にも素晴らしいのですけれど、彼が醸し出す雰囲気がとても良いです。二人で踊った時には、心も身体もすべてを表現したことを観客の皆様も理解していただけたと思ってます。
今回ご一緒する遅沢さんも素晴らしいダンサーです。今、一緒にリハーサルをして二人の感じ方などを確認し合って、観客の皆様に感じとっていただけるように集中しています。

-----ニーナさんはいろいろなヴァージョンの『海賊』を踊られていると思いますが、熊川版の『海賊』はリハーサルしてみていかがですか。

ニーナ・アナニアシヴィリ=インタビュー 熊川哲也版の『海賊』を遅沢佑介さんと踊ることをとても楽しみにしています

ニーナ 私にとってはまったく新しい『海賊』でした。今までたくさん踊ってきたので、新しいヴァージョンを踊ることになるとは思っていませんでしたが、とても素敵な経験です。
また、彼の振付によって男性のダンサーに多くの機会が与えられていますよね。それもとても良いと思います。それから観客の皆様に理解していただきたいことは、新しいヴァージョンを観ることで新しい発見がありますから、ぜひ、観に来ていただきたいと思います。劇場というのは毎回毎回異なった様相を見せる生き物ですから、その劇場の活動と観客の皆様も一体となって、新しい経験を感じとっていただきたいと思います。

-----私はニーナさんがキトリを踊った『ドン・キホーテ』を観て、これこそ21世紀のバレリーナだ、と確信いたしました。

ニーナ そう、私は熊川哲也さんと『ドン・キホーテ』をぜひぜひ踊りたかった!
私の『ドン・キホーテ』の舞台については褒めてもらえることが多いです。それは『ドン・キホーテ』のキトリ役の役柄と、私がよく合っていたからだ思います。

『ドン・キホーテ』は、ハッピーでエネルギッシュで、古典的な難しいステップもあるのですが、私のボリショイ・バレエ時代の先生であるストルチコーワは、こうあるべきだということをしっかりと教えてくれました。それはとてもありがたいことでした。今、私は新しい世代のダンサーを指導していますが、彼女から教えられたことはきちんと伝えています。

-----私は、かつてモスクワでストルチコーワ(当時はモスクワで発行されていた「Ballet」誌の編集長だった)に会いましたが、その時、彼女は「私はニーナを教えているの」とたいへんに誇りにしていました。

ニーナ そうですか、会われたのですか。今、とてもストルチコーワが懐かしいです。

-----ニーナさんは現在、グルジア(ジョージア)国立バレエ団の芸術監督であり、ローザンヌ国際バレエコンクールを始めいろいろな国際コンクールの審査員もなさっていますが、最近の若いダンサーをご覧になっていて感じられることはありますか。

ニーナ 今、若くて才能のあるダンサーがたくさん居て、私はとても嬉しいです。バレエを踊りたい人が多く、バレエが普及していることが嬉しいのです。近年は日本や韓国、中国などにも良いダンサーが多くいます。西洋で始まった文化が東洋で広まっているという感じで、どこの国のカンパニーを見てもみんなインターナショナルになっています。かつてはロシアのバレエ団に他の国のダンサーが在籍しているなんてことは考えられませんでしたが、今はボリショイ・バレエ団にも他の国のプリンシパル・ダンサーがいます。なんだかバレエがひとつになってきているという感じがします。私はこのバレエがひとつになりつつあるような感覚がとても嬉しいのです。

-----ロシア・バレエのバレエ学校の伝統的な教育システムは優れたものだと思います。グルジア(ジョージア)でもそうしたシステムによって教えているのでしょうか。

ニーナ そうですね、ロシアのバレエ教育システムは優れていますので、グルジアでも採用しています。毎年ごとのカリキュラムもきちんと決まっています。注意するべきことは、最近はどこでもすごく若いうちから高度なテクニックを教えます。コンクールでも11歳、12歳の参加者が難易度の高い技を見せます。技術的には素晴らしいことかもしれませんが、そうすることによってその後のことが心配です。やはりモチベーションは大切ですし、こんなにいろんなことが出来ちゃって後はどうしたら良いんだろう? となってしまいかねません。モチベーションという意味を含めて、もう少しゆっくりと進んだ方が良い結果を得られるのではないでしょうか。ロシアのシステムはもっとゆっくりです。この年、1年目には何をする、2年目にはこういうことをする、といったようにして、ひとりひとりのダンサーのスタイルをしっかりと創っていきます。
しかし一方では、プライヴェートなダンス・スクールが多く出来ていることは良いことだと私は思います。以前は、バレエを学びたかったらその国の教育機関に入るしか道はなかった訳です。でも今は、行きたいところに行って世界中どこでもバレエを習うことができます。もちろん、良い先生、指導者が必要なのは言うまでもありませんが。

ニーナ・アナニアシヴィリ=インタビュー 熊川哲也版の『海賊』を遅沢佑介さんと踊ることをとても楽しみにしています

私の場合はとても恵まれていました。グルジア(ジョージア)時代にはゾルトヴァ、モスクワに行ってからはストルチコーワに習うことができ、英国ロイヤル・バレエ、デンマーク王立バレエ、ABTで踊って、いろいろな新しいことを学び、それをひとつひとつ自分のものにしてきました。人間はバレエに限らずなんでもそうですが、常に学ぶ姿勢を持っていなければならないし、そうじゃないんだよ、と言ってくれる人の意見を聞く耳を持っていなければなりません。
また、新しい環境の中で新しい振付家の作品を踊るということは、ダンサーにとって非常に大切です。私は英国ロイヤル・バレエでケネス・マクミランと一緒に仕事をしました。デンマーク王立バレエでブルノンヴィル・スタイルを学んだし、ABTでもいろいろな振付家に学びました。バレリーナとして自分の限界をつぎつぎ突破するような形で新しいものを吸収することができました。
今、私はグルジアで教えていますが、すると生徒たちは、世界各国をめぐって私が経験してきたことをグルジアに居ながら経験することができます。かつて私がボリショイ・バレエ団で踊っていた頃は、プティパとグリゴローヴィチの振付作品しか踊ることができず、新しいスタイルに挑戦することを渇望していました。そうしたことからみれば、今は環境が変わってほんとうに良かったと思います。

-----ニーナさんはロシア人で初めてニューヨーク・シティ・バレエにゲストとして招かれて踊りました。バランシンもグルジアの人です。彼のバレエの中にもグルジアの伝統は生きていると思いますか。

ニーナ そうですね、私は1988年にニューヨーク・シティ・バレエ団に行きました。バランシンは私たち国の誇りです。バランシンの家族はみんな音楽家でした。彼は非常に耳が良かったんですね。たとえばストラヴィンスキーの音楽に振付けた『バイオリン・コンチェルト』などには、ステップの中にグルジアの伝統的な踊りを感じることが出来ます。
バランシンのクリエーターとしての素晴らしさは音楽に卓越していることです。彼の作品には物語がない、とか言われますが、音楽こそダンスです。彼は音楽のスコアを目で見えるものにしているのです。私は、バランシンのバレエを踊るのことが大好きです。
特に最近の若い振付家たち、たとえばポーソホフ、ラトマンスキー、ウィールドンたちは、ただストーリーを表わすだけでなく音楽にのせた本当に美しいバレエを創っています。今、グルジアでもそうした若い振付家の新しい作品を採り入れています。それはダンサーの成長にとっても大切なことです。新しいことに挑戦することは常にリスクを負うことですが、リスクを恐れては何も出来ません。

-----ニーナさんはグルジア国立バレエ団の芸術監督に就任されて10年になりますが、成果はいかがですか。

ニーナ この10年間でかなり進歩したと思います。これまでに57のプロダクションを行ってきました。毎年毎年少しづつ進化してきて、いろんなところから新しい振付家を呼んで新作を創ってもらっています。2015年の10月10日には新しい大きなプロダクションを予定しています。ただ男性のダンサーが少ないという問題はあります。
そして私は今、ステージングもしていまして、香港バレエ団では『ドン・キホーテ』を上演しましたし、ベラルーシのミンスクではグルジア出身のワフタンフ・チャブキアーニのバレエ『ラウレンシア』を上演しました。来年、グルジアでも『ラウレンシア』を上演して、スパニッシュ・スタイルのダンスを採り入れます。
今年の10月10日は、5年間改修のために閉まっていたトビリシのオペラハウスのオープニング・ガラを開催します。オペラとバレエをミックスしたガラ公演です。また、チャブキアーニの全2幕のグランド・バレエ『ゴールダー』を復活上演します。これはグルジアの歴史を背景にした物語なのです。
オープンするオペラハウスは、西洋の様式と東洋の様式が混じり合ったとても素敵なもので、規模としてはコヴェント・ガーデンくらいのものです。
グルジアは歴史のある国ですから、オープニング・ガラを観ていろいろと観光も楽しむことができますので、ぜひ、観に来てください。

-----そうですか、とても魅力的ですね。本日はお忙しいところ、素敵なお話をありがとうございました。

トビリシのオペラハウス

トビリシのオペラハウス

ニーナ・アナニアシヴィリがメドーラを踊る『海賊』公演

6月13日(土)17時開演 オーチャードホール
6月14日(日)14時開演 オーチャードホール
6月20日(土)14時開演 神奈川県民ホール
詳細は http://www.k-ballet.co.jp/company

インタビュー&コラム/インタビュー

[インタビュー]
関口紘一

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