【公演直前インタビュー=ロベルタ・マルケス】
熊川哲也版『カルメン』世界初演に主演するロベルタ・マルケスに聞く

----3回目再演『ロミオとジュリエット』に感動しました。特にマルケスさんのジュリットは素晴らしかった。このヴァージョンの、ロミオへの手紙をジュリエットが書くというアイデアが素晴らしい。ロミオへの手紙を書いた時に、ジュリエットは仮死の薬を飲む決意をする。つまり死を賭してもロミオへの愛を貫く決意を胸に秘めて部屋に戻り、荒れ狂う父親をなだめてパリスとの結婚を認める。そこまでの一連の演技はじつに見事でした。あなたのジュリエットに感動したことを、今日はまず、お伝えしたかった。3回目の再演ですが、何か変わられたことはありますか。

ロベルタ・マルケス いつも踊るたびに違いますね。すべて違いますし、初演から5年間過ぎましたから、私の中でもいろいろなことがありました。そうしたことが私のパフォーマンスにも影響を与えていると思います。何度も何度も繰り返すことによって新しい発見があります。それがひとつの美しさだと思います。同じバレエを踊っていても全く違うものだ、と感じています。

----その間にご結婚されましたと思いますが。

マルケス そうです。結婚したのは3年前ですから、ちょうど初演と今回の間です。

----マクミラン版の『ロミオとジュリエット』はいつ頃踊られましたか。

マルケス 英国ロイヤル・バレエで、8年ほど前だったと思います。まだ、ロイヤル・バレエに入団したばかりの頃でした。

-----何度も質問されていると思いますが、この二つのヴァージョンを踊られてどのように思われますか。

ロベルタ・マルケス  Photo:Ayumu Gombi

Photo:Ayumu Gombi

マルケス マクミラン版のジュリエットの場合は、多くのアクティング(演技)があります。私はマクミラン版を踊る前に、ワシーリエフ版の『ロミオとジュリエット』を踊っています。ワシーリエフ版のほうはテクニカルな部分を求められて、ステップも非常に難しかったので、そこに集中していました。熊川版は、マクミラン版の演技的なものとワシーリエフ版のテクニカルなもの、その両方が備わっている新しいヴァージョンだと思います。マクミラン版もワシーリエフ版も既に上演されていたものですが、熊川版には初演からオリジナル・キャストとして参加することができました。ですから、とても新鮮でしたし、私のとって特別な『ロミオとジュリエット』でした。

----ワシーリエフ版の『ロミオとジュリエット』は、私もモスクワのダンチェンコ劇場で初演を観ました。舞台を上下2段に区切りその間にオーケストラを配するという大胆な構成の舞台でした。

マルケス そうです。セット無しで、バルコニーのシーンでも映像を使って装置のように見せています。とても素晴らしいプロダクションでした。ブラジルで上演したんです。優れた指揮者がいて、このヴァージョンはさらに素晴らしいものなりました。ラストシーンで指揮者が、死んでしまったロミオとジュリエットの手を繋がせて終わるんです。とても特徴的な『ロミオとジュリエット』でした。
私は好き嫌いが比較的はっきりしているのですが、新しいものを観たり、感じたり、演じたりすることが好きです。新しいものを経験することは、そこに何か美しいものを見つけることになります。

----ワシーリエフ版はブラジルで踊られたのですか。

マルケス まだ若い頃でコール・ド・バレエで踊っていましたが、ワシーリエフ自身が私をジュリエットに選んでくれました。もちろんプリンシパル・ダンサーもいる中から私を抜擢するのは大胆なことでしたが、ワシーリエフが私がいいんだ、と言ってくれました。

-----そうですか、ではもうジュリエットを踊ることが運命づけられていたのかもしれませんね。ジュリエットを踊ったダンサーで印象に残っている人はいますか。

マルケス とても有名なところではロイヤル・バレエのアレッサンドラ・フェリ。小さい頃は映像で観ていました。私はナタリア・マカロワの大ファンなので、彼女からいろんなインスピレーションを受けています。

----私はマルケスさんのジュリエットを観て、あなたが踊る『ラ・バヤデール』のニキヤを観たくなりました。あなたはマカロワにニキヤを習われたのですね。

マルケス そうです。マカロワにニキヤを指導してもらったことが、私のバレエ人生を変えました。ブラジルにいた時、マカロワが来て『ラ・バヤデール』を指導してもらって踊りました。彼女はその時、数ヵ月間カンパニーと共に過ごしました。私はまだコール・ド・バレエでしたが、マカロワと出会ったことが大きなきっかけになりました。彼女の指導はとても素晴らしいものでした。その後、マカロワは『眠れる森の美女』のためにロンドンに行き、オーロラ姫の役はマルケスがいいと推奨してくれました。そのおかげで私は、英国ロイヤル・バレエ団にゲスト出演して、オーロラを踊ることができたのです。大きなカンパニーで主役を踊るのは初めてでしたが、とても良い経験になりました。彼女にはたいへん感謝しています。その後も何回かゲストで呼ばれて踊り、契約を結んで英国ロイヤル・バレエ団に入団したのです。

----ニキヤはどこで踊られたのですか。

マルケス 最初はブラジルでマカロワから習って踊り、その後、ロイヤル・バレエ団に入ってからも踊りましたし、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)でも踊っています。

----マカロワから学んだ一番大きなことは何ですか。

ロベルタ・マルケス  Photo:Shunki Ogawa

Photo:Ayumu Gombi

マルケス マカロワからはたくさんのことを学びました。彼女と出会った時はまだ私は自分探しの年齢で、転換期でした。これ以上ないというタイミングで彼女とレッスンすることができました。それまで私には見えていなかったものを、彼女は見せてくれました。バレエは芸術ですからステップだけではない、ということにすごくこだわります。感情の表現の部分をとても大切にする方でした。彼女の腕の動きはとても素晴らしかった。『白鳥の湖』を踊るマカロワの腕の動きの素晴らしさは非常に有名です。その動きから目を離すことができませんでした。私は彼女の良いところを絶対に見逃すまい、という気持ちで凝視しました。彼女は大好き、しかし泣かされたこともあります。とてもタフな人ですね。

----『ジゼル』の狂乱シーンもマカロワの名演として有名です。

マルケス そうですね、『ジゼル』を踊った時も助けて貰ってとても助かりました。彼女の『ジゼル』も有名ですね。

----今日、『カルメン』のリハーサルを見せていただきました。

マルケス はい、まだまだ一部しか出来ていませんけれど。ロイヤル・バレエのレパートリーにはマッツ・エクの『カルメン』しかありませんので、あまり上演されません。ですから、非常に興味深いものになると思います。新しいプロダクションを次のシーズンにやろうという計画はあるのですが。カルメンは、繊細な役柄ではなく、ジプシーで激しいものですから、舞台で上手く表現できるようになるには、かなりチャレンジングなものになると思います。

----あの素晴らしいジュリエットを踊ったダンサーに会うんだ、と思って今日稽古場にきたのですが、マルケスさんはすっかりカルメンに変身しているので、とても驚きました。

マルケス そうですね、切り替えて心も身体もカルメンになってリハーサルに臨まなくてはなりません。今、様々のオペラの『カルメン』を観て研究している最中です。いろいろなアイディアを頭に入れてインスピレーションを受けることは大切なことだと思います。ビゼーの音楽がまた、素晴らしいですからね、私の大好きな音楽です。

----マルケスさんは、ジュリエットがほんとうに良く似合っている方ですが、じつはカルメンを踊りたかったのだ、と聞いていますが。

マルケス 新しいものですから、また新しいインスピレーションを受けることが出来ます。とても興味深い役です。エレガントに美しくという役柄とは全く違う役ですから、すごく踊りたかったのです。

----いろいろリサーチもされて、実際にリハーサルに入られて何か感じられてことはありますか。


マルケス まだ始めたばかりですが、とても楽しかったです。バットガールを演じられることが凄く楽しかったんです。セットも新しいですし、振付も創っている最中ですし、制作しているプロセスに参加できるので、とても楽しいです。最終的な段階はまだですが、意味が繋がってこなくてはなりませんから、なぜこのように動くのか、熊川さんと対話しながらどのように創ったらいいのか、話し合っていかなければならないと思います。そのプロセスが新しい発見があったりして、すごく素晴らしいんです。

----非常に激しく愛される役ですが、いかがですか。

マルケス そうですね、周りに男性が多くいるのは悪い気はしないです。

----カルメンは愛する自由を生きる女性ですが、そういう意味でも女性として共感するのではないですか。

マルケス 私の国ブラジルは自由の国ですから、そういうことを理解するのは他の方よりもちょっと分かり易いかもしれません。

----そうですね、ブラジルからは優れたダンサーが生まれています。マリシア・ハイデ、マルセル・ゴメス・・・・・。

マルケス ハイデはほんとうに素晴らしい方でした。優しくて親切でした。彼女はチリで芸術監督をしています。10年くらい前にブラジルで一緒に仕事をしたこともありましたし、今でも彼女のチリのカンパニーに踊りに行くこともあります。ジョン・クランコのタイミングなどを教えてもらいました。私は『オネーギン』はロイヤル・バレエで踊りました。マルセル・ゴメスもとても良いダンサーで大好きです。一緒に踊る計画もあったのですが、タンミングが合わず流れてしまいました。

----もしかしたらリオデジャネイロのオリンピックの開会式で、ゴメスと一緒に踊ることになったりするかもしれませんね。それからマーゴ・フォンテーンもブラジル系のダンサーですね。

マルケス そうですね、ロイヤル・バレエの大スターでした。彼女は特別なものを持っていたので、バレリーナはみんなマーゴ・フォンテーンになりたいという憧れがあります。

----他にもブラジル人のダンサーはロイヤル・バレエにいますか。

マルケス ええ、才能のあるブラジル人のダンサーが4、5人います。あなたはブラジルに行ったことはありますか。

-----いえ、まだです、残念ながら。ぜひ行きたいです。カポエラを習いたいと思ったこともあります。

マルケス サンパウロなど日本人のコミュニティは大きいですし、カーニバルもありますから、ぜひ来てください。

----マルケスさんは、ご主人もバレエダンサーですね。

マルケス はい、彼はキューバ出身です。

----お二人で一緒に踊るとか言う計画はないのですか。

マルケス カンパニーの外では二人で一緒に踊ったりすることはあります。あまりないですが。異なったカンパニーで踊っているということは、お互いの関係にとっていいことだと思います。近からず遠からずという感じで。

----もし、チャンスがあったらご主人と気の合ったダンサーたちと一緒に、また日本に来て公演してください。
今日はリハーサルでお疲れなのに、楽しいお話たくさん話してくださいまして、どうもありがとうございました。

Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY
15th Anniversary Autumn Tour 2014
『カルメン』

インタビュー&コラム/インタビュー

[インタビュー]
関口紘一

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