【公演直前インタビュー:マルセロ・ゴメス】
9月にマシュー・ボーン『白鳥の湖』でザ・スワン/ザ・ストレンジャーを踊る
- インタビュー & コラム
- インタビュー
掲載
----マシュー・ボーンの『白鳥の湖』のザ・スワン/ザ・ストレンジャー役のオファーがきた時はどのように思いましたか。
マルセロ・ゴメス(以下ゴメス) 実はずっと長い間この作品を踊りたいと思っていました。
僕がまだアメリカン・バレエ・シアターのコール・ド・バレエだった頃だから10年以上前かな、初めてこの作品を見た時に「なんて巧妙な『白鳥の湖』の伝え方なんだろう」と感動しました。ユーモアがあり情緒が豊かで、一度見てすぐこのプロダクションに惚れ込んでしまったことを覚えています。
あの頃はまだ若かったので、女性がメインの一般的な『白鳥の湖』しか見たことがありませんでした。だから見る前は「男性ダンサーばかりが踊る演出というのは、どうなんだろう?」と思いましたが、上演が始まって直ぐに気が付いたのです。「彼らは男性とか女性とかでは無いのです。もはや人間では無く彼らは白鳥という生き物。そしてそこには彼らが何であるかは関係なく【愛】がある。それこそが伝わるべきことなんだ」と感じました。
あの感動以来ずっとマシュー・ボーンの活躍と彼の作品を追ってきました。そして昨年、マシュー・ボーン・カンパニーが『眠れる森の美女』の公演でニューヨークに来た際に、自ら彼に会いたいと願い出ました。
マシューに連絡を取るのは簡単ではなかったのですが、会うことが出来ました。僕らは会って直ぐに打ち解けました。そして将来、共に仕事をしたいという話が出来ました。
撮影/瀬戸秀美
----ゴメスさん自らが出演したいと申し出たということですか。
ゴメス その通りです。
僕は「物事が成立するとき、そこに最適な環境とタイミングが揃うからだ」と思います。
僕は今なら挑戦する準備が出来ている、今ならこの作品を自分自身にイメージすることが出来ます。でも5年前だったら今とは考え方や成熟度、技術も違うので出来たとは思いません。今がそのタイミングだと感じたので、マシューに直接この気持ちと、「僕は新たな挑戦をしたい、新しい扉を開きたい。」と伝えました。
マシューにもその気持ちが伝わったようで、僕らはその日のうちに双方心を躍らせてワクワクしていました。
最近、僕がアイルランドに行ったときに再びマシューの『白鳥の湖』を新しいキャスト、新しいヴァージョンで見ました。
やはりとても素晴らしかった。初めて見た時は物語を全体的な視点で見ましたが、今回は別の視点から特に "ザ・スワン" にフォーカスして見ました。
それからロンドンに行って3日間、1日4時間ずつ集中したリハーサルを受けました。リハーサルの3日目になると自分の体がスワンの動きに反応し、順応してきたと感じることが出来ました。今はすべてのステップを知ったので、客観的に見ていただけの時より更に興味が湧き、面白く感じています。
Marcelo Gomes and Diana Vishneva in Swan Lake
photo : (C) Nancy Ellison
Marcelo Gomes and Diana Vishneva in La Bayadere
photo : (C) Gene Schiavone
----アメリカン・バレエ・シアター版『白鳥の湖』の二幕のロットバルトを演じるあのクールで男らしいゴメスさんから想像すると、今回のストレンジャー役はとても似合いそうに思います。
ゴメス ありがとう。そうですね。確かにABTのロットバルトの雰囲気があります。
役作りはこれからマシューとたくさん話しあって、質問をしあって役を作り出していくと想像しています。
マシューの描いたストレンジャーと僕が解釈しているストレンジャーは、少しずつ違っているでしょうから、振付をしたマシューからステップ一つ一つに含まれる意味を聞き出して、そして僕の解釈、僕自身の個性も出したいです。
今、僕は、振付家の頭の中に飛び込むような気持ちでリハーサをとても楽しみにしています。
----たった3日でステップ(振付)を覚えることが出来たのですか。
テゴメス 3日です。早かったですね。マシューのアシスタントの二人が指導してくれました。でももちろん、これかからまだたくさんの学ぶこと、知りたいことがあります。
----クラシック・バレエの動きにはある程度の決められたフォームがありますが、マシュー・ボーンの動きはいかがですか。
ゴメス クラシック・バレエとはかなり違いますね。
マシューの動きには "筋肉を緩ませて使う" 要素がたくさんあります。
例えば筋肉をリラックスさせることで腕を長く出したり、ポジションを大きく見せる、身体をもっと長く引き出すことが出来ます。そうするには一生懸命に動くのでは無く、呼吸を上手に使います。呼吸と共に "落とす" という要素を使います。その "落とす" 動きはバレエにはあまり無いですね。
でもバレエのピュアな動き、例えばアチチュードやアラベスクといった美しい動きもたくさん入っていますよ。
どんな踊りを踊る時も、これまでに得たダンスの知識はすべてに応用出来ますよね。この呼吸方法だってバレエに活かせるし、これまで蓄えてきた知識を重ね合っていくことで上手くなると思います。
撮影/瀬戸秀美
----今回の挑戦はあなたのこれまでのキャリアの中で大きなチャレンジになりそうですか。
ゴメス はい。正にそうです。
バレリーナがオデット/オディールを踊るときは一か月、いや二か月くらい体力作りから感情表現まで準備をしなければならないでしょう。
僕はまだ3日間の練習をしただけですが、首の後ろや腕に筋肉痛を感じました。これまでとはかなり違った筋肉の使っているからです。
精神的にも大きなチャレンジです。常に音楽を口ずさみ、役柄のことを考え、どのように首を動かしたら良いか、腕や頭の動かし方などを考えています。
そして二つの役柄、"白から黒へ、そしてまた白へ" と戻るその二つの相対関係を演じること。自分の感じるままに表現出来るまでになりたいです。
それから僕は今までほとんど裸足で踊ったことが無いんです。これだけ大きなスケールの作品で、たくさんのジャンプやテクニックが入っているものを裸足で踊るというのは、僕にとっては大きなチャレンジです。バレエシューズを履いているのと履いていないのではとても違いますから、それを気にせずに安心して踊れるようになるまではチャレンジですね。
----夏はいつもゲスト出演などでお忙しい時期だと思うのですが、これからマシュー・ボーンとのリハーサルはありますか。
ゴメス そうですね、今ちょうど、僕が振付を手掛けている作品があって、今日もそのリハーサルをしています。その本番が終わったら少しお休みを取るつもりです。
そのあとアメリカン・バレエ・シアターのリハーサルが始まります。そしてマシューとは、8月後半にロンドンで2週間リハーサルをします。それからアメリカン・バレエ・シアターのオーストラリア・ツアー公演があって、次に日本です。
アメリカン・バレエ・シアターのオーストラリア・ツアーでも『白鳥の湖』を上演しますが、僕は出演しないので良かったですよ。(笑)
この短期間の間に二つの全く違った『白鳥の湖』を踊り分けるのは大変ですから。
----今回、あなたが踊るザ・スワン/ザ・ストレンジャーは日本でしか観られないという、日本人ファンにとって特別なものになります。
特に見てもらいたいシーンなどありますか。また日本のファンの皆さんへメッセージがあればお願いします。
撮影/瀬戸秀美
ゴメス 僕は日本と日本の文化が大好きです。アメリカン・バレエ・シアターに入ってから何度も日本へ行く機会があり、たくさんのことを学びました。
日本の文化、日本の食べ物、細やかな部分までび配慮、ゲストやお客への気配り、物事の運営のされ方、それらは他のどこの国を見ても日本ほど素晴しい国は無いと思います。
今回、僕のキャリアで初めてマシュー・ボーンの『白鳥の湖』を踊るという機会を日本の皆さんと分かち合えることは大きな喜びです。そして日本の皆さんはきっと、どこの観客よりもこの機会を良く評価してくれると思っています。
僕にとって今回の機会はとても特別で、10年間思い続けてきた作品を日本という長年関わりのある場所で踊れるのですから、願いが叶ったのです。
ですから見に来てくださった皆さんに、公演に浸って頂いて充分に楽しんでいただきたいと願っています。
見どころはたくさんあります。
マシューの『白鳥の湖』はとても素晴しく、そして驚くべき作品です。多くの細かい部分に、心に響くシーン、パワフルなシーンがあります。僕は何度も繰り返し見る度にこの作品を大切にしたい、大切に演じたいと感じています。
----あなたはニューヨークでも最も愛されているバレエダンサーであり、世界のスター、振付家としても活躍し、今回はマシュー・ボーンの『白鳥の湖』という新しい挑戦もされます。これから先の貴方はどうなっていくのでしょう。
ゴメス 今はわからないけど、でもマシューとの関係が今回限りで無いことを強く願っています。
僕は今後もマシューと何かやりたい、彼の他のプロダクションにもとても興味があります。マシューの才能、創造力にはとても感銘を受けています。ですから今回マシューの世界に関われることは非常に嬉しいことです。
この行程は僕の魂に大きな影響を与え、アーティストとして成長させてくれるだろうと思います。
Marcelo Gomes in Manon - photo : (C) Gene Schiavone
Marcelo Gomes and Diana Vishneva - photo : (C) Danil Golovkin
----今後もいろいろなチャレンジをされて、将来はバレエ団の芸術監督になることにも興味はありますか。
ゴメス 確実にあります。
芸術監督という役割が僕には向いているのではないか、と思います。
ダンサーたちと仕事をすることが好きですから、彼らがダンスに対して良いインスピレーションを受けていることを認識しながら、しっかりとダンサーたちを取り仕切り導きたいと思います。自分でバレエ団を作ることは無いと思うけど、どこかのカンパニーの芸術監督にはなりたいと思います。
----ところで貴方のドキュメンタリーフィルムは完成しましたか。
ゴメス 今、編集中でもうすぐ完成です! 今日もそのミーティングがありますよ。時間がかかってしまっているけど、焦るよりも時間をかけて良い物を作りたいからね。出来上がりが楽しみです。
(以下のリンクはドキュメンタリーフィルムの紹介)
Anatomy of a Male Ballet Dancer By David Barba & James Pellerito
https://www.kickstarter.com/projects/293915341/marcelo-gomes-anatomy-of-a-male-ballet-dancer?ref=live
----今日はお忙しいところ本当にありがとうございました。
ゴメス こちらこそありがとうございました。
公演詳細は /magazine/information/stageinfo1/post-66.html
Marcelo Gomes - photo : (C) Jade Young
インタビュー&コラム/インタビュー
- [インタビュー]
- 針山 真実