「ロイヤル・エレガンスの夕べ 2014」で踊る英国ロイヤル・バレエ、プリンシパル・ダンサー
ラウラ・モレーラ=インタビュー

----モレーラさんは英国ロイヤル・バレエ団では、2008年に『マノン』で主役デビューされましたね。
モレーラ そうです。その時に初めてフェデリコ・ボネッリと踊りました。その後はたびたびパートナーを組むことが多くなりました。

----この公演は大成功だったそうですね。

モレーラ ありがとう。マノンは素晴らしい役なのですが、私のキャリアとしては比較的後期に踊ることになりました。そのために役に対する理解、作品に対する理解、愛情と人生、そして喪失ということについて、私自身がより深く理解することができたと思います。

----マノンという女性は、大きく変わったようにみえてもじつは最初から何も変わっていない、というような演じることがたいへん難しい役ではないかと思います。
モレーラ そうですね、そして観客に好かれることが、とても難しい役です。話だけ聞くと全然良い娘ではないですから。でも私にとってはすごくエキサイティングな役ですし、デ・グリューを愛しているしかし同時にお金が欲しい、ということも良く理解が出来ます。より複雑であればあるほど、その役柄は魅力的になります。

----マノンだけではなく、『オネーギン』のタチアーナあるは『ラ・バヤデール』ガムザッティ、『うたかたの恋』ラ・リッシュ伯爵夫人など、演技力と存在感が要求される役がお得意ですね。役作りに心がけていることはありますか。
モレーラ ありがとう。まず第一に、振付を正確に踊るということを心がけます。それからその役についてディテールに至るまで、他の人の意見を聞きます。あとはセットの細部、その役柄の過去についても理解します。そして、少しずつ感情や感覚を積み重ねていきます。それから、その作品でステージに立つ他の役との関係性をとても大切に考慮します。

----そうした中であなた独特の表現を創っていくわけですね。
モレーラ 私はあまり過去に踊られた舞台のビデオを観ることはしません。私は視覚的な感覚が強い方だと思っているので、一度ビデオを見てしまうとそれが脳に刻印されて残ってしまいます。
『オネーギン』のタチアーナ役は、最初はとてもシャイで恥ずかしがりやです。しかし、レンスキーが決闘で殺される第2幕の小さなシーンのある瞬間が、彼女が成長して大きく変わる瞬間だと思います。それは物語の真ん中にある小さなシーンなのですが、そこが物語全体を繋げていくキー・ポイントで、それがないと前後の脈絡がなくなってしまいます。

-----そうした点を注意深く確実に演じていくことが大切なのですね。
モレーラ 私の場合は、鏡を見て表情を創っていくのではなくて、登場人物の心の中の感情や感覚を創り上げて演じるようにしています。役作りは長く時間のかかる過程です。でもそうして自分で創り上げていくことは、なかなかスリリングなことなのです。

(C) Chacott

(C) Chacott

-----英国ロイヤル・バレエ期待の新進振付家、リアム・スカーレットの新作では、オリジナルキャストとして踊っていますね。彼はどういう作品をつくっていこうとしているのですか。
モレーラ リアム・スカーレットの作品を初めて見たとき私は、主人のジャスティン・マイスナーに、今日、何か特別のものを観た、と言ったことを憶えています。彼の作品を観ていつも思うのは、私がバレエ・スクール時代に学んだことすべて----音楽性だったり、上半身の使い方であったり、細かい足捌きであったり、あるいは感情の出し方などを、彼の作品には当てはめることができます。彼は、ロイヤル・バレエのスタイルが、次の段階に進むためにピッタリと当てはまる振付家だと思います。

----『アスフォデルの花畑』については、おっしゃることはよく分かります。しかし、その後に振付けた『スウィート・ヴァイオレット』とか『ヘンゼルとグレーテル』などは、非常に演劇的な作品ではないかと思うのですが・・・
モレーラ 私は『スウィート・ヴァイオレット』にはオリジナル・キャストで出演していますし、とてもエキサイティングな作品でした。実際、自分の想像をまったく変えてしまうような体験でした。リアムは芸術家として素晴らしい目をもった人です。この『スィート・ヴァイオレット』を一緒に創作したときは、彼と話し合って決めた、私の踊りの動きのビデオを一緒に見るわけです。私にとっては、これはちょっとやり過ぎだと思われるところがありました。確かに狂気の世界ではあるのですが、マノンが最後のほうでおかしくなっていったり、ジゼルが一幕の終わりに狂ってしまったりする、そういった精神の変化とは異なった狂気だと思います。『スウィート・ヴァイオレット』の役は頭の中は空っぽの役なんです。おもしろかったのは、毎日毎日リハーサルの過程で少しずつ何かを取り除いていきます。そして最終的には中味が空っぽになっていしまった女性ということを、観客にわかってもらえるような役柄です。私は、本番でこの役を踊り終わると毎回10分くらい涙が止まらなくなってしまうんです。踊り終わるとみんな周りの人は「良かったですよ」と言ってくれているのですが、それを聞きながら、私はただ泣いていました。
『ヘンゼルとグレーテル』では継母の役でした。それほど大きな役ではなかったのですが、私のためにリアムが創ってくれた存在感のある役です。『不思議の国のアリス』の継母/ハートの女王というようなオーバーな演技をする役は凄く難しい意地悪な役です。私は元々、意地悪な方ではないんですが、リアムは最初の日からもっとはっきりした信念を出してとか、もっと悪い感じを出して、といったような細かい指示をしていました。でも、私だったらこういうリアクションはしないはずなので、もっと違う動きをしてもいいか、とさまざまに進言するなどして、新たな役を創っていきました。それによって私自身新しく変わった自分を表現できたと思っています。たとえば、この役は最初にタバコを持って登場してきます。私はタバコを吸ったことはないのですが、いつもタバコを吸うという役だったので、リハーサル中からずっとタバコを手に持っていました。そうすると舞台に立ったときに、すごく自然にタバコを持つことができました。ああいう役を演じることができるのは、ほんとうに恵まれたことです。リアムとはほんとうに息があった役創りが出来ました。

----最近のリアムの振付作品の話を聞くと、バレエというジャンルが今までにない感覚で、現代とマッチングしているように感じられます。
モレーラ あるいは、それが自然なバレエの流れなのかもしれません。彼はいつも人生の暗い面を見詰めているかのようです。『ヘンゼルとグレーテル』の公演のときでしたが、リアムのお母さんが劇場に来ていたので、「息子さんを誇りに思われるでしょう」と話しかけたら、「ええ・・・」と暗い作品だったので、ちょっと微妙な反応でしたけれども。
誰でもそれぞれの中に暗い部分と優しい明るい部分を持ち合わせていると思います。ですから、暗い部分に光を当てるのは必要なことだと思います。彼との仕事は非常に充実していました。私は、今までリアムとの仕事はいやだ、といったダンサーには会ったことがないです。

-----「ロイヤル・エレガンスの夕べ 2014」では、英国ロイヤル・バレエ団のさまざまなスタイルを観ることができる、と思います。日本の観客はどういう点にポイントを置いて観るのがよいと思いますか。
モレーラ プログラムを作った時、観客に観ていただきたいと思ったことは、英国バレエが時間が経つに連れて変化発展してきた過程です。また、一夜でそれぞれのダンサーのいろいろな魅力を観ていただきたいです。大きなグループではないので、よく観ることができると思います。ダンサーたちはそれぞれに好きな作品があります。全体としては、バレエで表わす感情の起伏をお見せしたいのです。素晴らしいダンサーというのは、テクニックばかりに際立つものではなく、そのアーティステックな美しさが輝くものだと思います。ダンサーひとりひとりの優れた芸術性を観ていただきたいと思います。
例えば私についていいますと、『真夏の夜の夢』ではアシュトン・ダンサーとして、「アスフォルデルの花畑」ではリアムが私のために振付けた役、「ルーム・オブ・クックス」ではアシュリー・ページがまだ若いころの私の性的な表現力を初めて表わしてくれた作品です。ウィリアム・タケットが振付けた『QUZAS(キサス)』は、古くからのパートナーのセルヴェラと二人で楽しんで踊る作品です。素晴らしいパ−トナーを得て、初めて表わすことができるケミストリー(化学反応)を味わっていただきたいと思います。

-----私は個人的には『真夏の夜の夢』をとても楽しみにしています。

モレーラ 今年、私は6月にコヴェント・ガーデンで『真夏の夜の夢』にデビューしますので、日本で踊る時は、一番いいタイミングだと思います。

-----それは素敵ですね、「ロイヤル・エレガンスの夕べ 2014」公演は、今からとてもとても楽しみです。大いに期待しています。ありがとうございました。

ロイヤル・エレガンスの夕べ 2014
〜英国バレエの伝統と今を伝えるショーケース公演〜

●2014年 8/8(金)〜10(日)
●日本青年館ホール
●出 演=
ラウラ・モレーラ(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
サラ・ラム(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
崔由姫(英国ロイヤル・バレエ団ファースト・ソリスト)
佐久間奈緒(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
ネマイア・キッシュ(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
スティーヴン・マックレー(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
リカルド・セルヴェラ(英国ロイヤル・バレエ団ファースト・ソリスト)
平野亮一(英国ロイヤル・バレエ団ファースト・ソリスト)
ツァオ・チー(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)

◇リハーサル見学会
8/8(金)14:00〜日本青年館ホール
◇ファンミーティング
8/10(日)17:00〜アリスガーデン(千駄ヶ谷)

『ロイヤル・エレガンスの夕べ2014』公演記念展開催
●チャコット渋谷本店
●期 間=2014年 6/8(日)〜7/4(金)

インタビュー&コラム/インタビュー

[インタビュー]
関口紘一

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