「ロイヤル・エレガンスの夕べ 2014」で踊る英国ロイヤル・バレエ、ファースト・ソリスト
リカルド・セルヴェラ=インタビュー

----8月の「ロイヤル・エレガンスの夕べ 2014」公演では、アシュトン振付の『エニグマ変奏曲』(エルガー曲)からトロイトのソロを踊られますが、これは簡単にいうとどのようなダンスですか。
セルヴェラ ひどくせっかちなトロイトという人のソロです。登場シーンではピアノを開けるような仕草があり、この曲はとても速い曲なんですが、彼の性格とかそこの雰囲気とかを表わした曲です。最後はピアノをばたんと閉める動きで終わりです。出てきてピアノを開けて速い曲を弾いてさっと退場していく、という踊りです。

----音楽家の友人の役ですか。
セルヴェラ そうです。作曲者のエルガーが家族ぐるみでお付き合いしていたある人を描いたものです。

----そのほか、アシュリー・ページ『ルーム・オブ・クックス』やウィリアム・タケット『QUIZAS(キサス)』といったロイヤル・バレエの新しい世代の振付家の作品を踊られますね。やはり、アシュトンやマクミラン作品を踊るのとはちょっと違いますか。
セルヴェラ ええ、違いますね。特にこの二つの作品に関しては、ぼくが初演したものです。他の人に振付けられた作品ですと、まず、その作品も持つものを自分の中に入れて、自分なりに創っていくという作業が必要なのですが、この二つの作品は、自分の靴を履いたり、手袋をするかのように踊ることができます。そしてクラシックの踊りではないので、動きや表現の仕方に自由なところがあるので、自分だけのものというパーソナルな感覚があります。

----両方ともモレーラさんと踊るわけですね。
セルヴェラ そうです。ラウラも初演の時のパートナーでした。

リカルド・セルヴェラ (C)Chacott

(C)Chacott

----お二人がパートナーシップを築かれた作品ですね。
セルヴェラ 二つの作品は違う振付家が振付けたものですが、ともにラウラとのパートナーシップを形成することになる作品でした。同じ振付家が私一人に振付ける時、ラウラ一人に振付ける時、それとはまた違った意味のケミストリー(化学反応)を感じて、新しい作品が生まれます。

-----マクレガー振付の『インフラ』も踊られていると思います。日本では彼の作品を見ることができないのですが、いままでのロイヤル・バレエにはいなかったような振付家だと思うのですが、どういった振付家ですか。
セルヴェラ  彼は非常にクレバーな人、舞踊家だけでなくその時代に人気のあるアーティストたちとコラボレーションをして作品を創るということが多いので、いつもバレエを観に来る観客以外の若い人たちを、オペラハウスに引き込むことに成功しています。その点に関してロイヤル・バレエではとても上手くいっています。今まであったレパートリーのくり返しだけでは、新しい若い観客にはアピール出来ない面があります。彼はロイヤル・バレエのレジデンス・コレオグラファーですから、新しいレパートリーを創っていく機会が与えられています。それはバレエ団にとっても新しい観客を呼んでくることになると思います。

-----中東戦争のような砂漠の中を戦車が走っていく映像を背景に、ダンサーが踊る、というような彼の作品の写真を観たことがあります。
セルヴェラ そういった視覚効果に訴えることもありますし、彼が創りだすのはいつも普通と違った新しいものを目指しているので、観に来る人たちの期待が大きい、今度は何をやるのだろうか、と。
ダンサーからの視点で言いますと、クラシック・バレエのダンサーとして教育を受けてきていて、何時もラインの美しさ正確さといったものが求められてきたぼくたちにとっては、彼の作品は、逆にそれを壊していくもの、美しさの対照にあるものを表現することが要求されます。最初はとてもチャレンジングだと感じます。

----ラインのきれいなクラシック・バレエを踊っていて、すぐにマクレガーの作品を踊ることになると、身体的には大変なのではないですか。
セルヴェラ 舞台ということに関しては特に問題はないですが、リハーサルのスケジュールの中で、クラシック作品と彼の作品を同時進行的で行わなければならない場合は非常にハードです。

-----『不思議の国のアリス』では、ルイス・キャロルと白うさぎを踊られましたが、ウィールドンの作品はシーンの転換が速くダンサーの出入りも激しくて、踊られるのは大変ではないですか。
セルヴェラ 『不思議の国のアリス』では最初にルイス・キャロルの役を踊りましたが、一番最初のシーンが最も緊張するシーンです。カメラを構えた時に眼鏡を掛けるのですが、フラッシュを持っていてそのボタンを押すと作動するようになっていて、カメラが上がるボタンを押します、そして尻尾がでてくる仕掛けの紐をひっぱらなければなりません。

-----全部自分でやってるわけですね。
セルヴェラ オートマティックじゃなくて、すべて手動です。ですから、一つ忘れてしまうとすべてが駄目になってしまいます。迫りの位置にバッグを広げないと失敗しますから、ロイヤル・バレエの舞台ではセンサーがあって正しい位置にないと地下に落ちていかないんです。マークはあるのですが、バッグを開けるときは1回のアクションなんです。ワイヤーが伸びて開くんですが、そのスプリングがちゃんと伸びているか確認して、それでジャンプして迫りに入っていくんです。そこで下りながら耳を着けたりいろいろなことをして変身します。こんなに緊張するシーンはありません。ステップなんて考えていられませんので、ほとんど心配してません。ポケットの中にもいろいろなものを用意しているので、手品をしてみせるためのトランプ、親指にスカーフを入れてさっと消えてしまうという手品もします。そこにアリスにあげる扇子が入っています。いろんなものが必要なので、いつも出番の前に必死で確認してます!!

-----今日は白うさぎの尻尾が出なかったとか、ハプニングはありませんでしたか。
セルヴェラ よくあることは、ひぱっても開かないことがよくあって、可愛く「ポンッ」とでるはずなんですが、上手くいかない時は、仕方なくてお尻を動かして尻尾が出るように努力しなくてはなりません。
世界共通ですが、ダンサーは小道具が嫌いです。新しいステップを習うのに凄い時間を掛けているのに、小道具がうまく作動しないことで作品自体をよく見せられない場合があるので。

-----『エレクトリック・カウンター・ポイント』では、そうしたことはなかったですか。
セルヴェラ はい。ただ最後のほうの早変わりでは、身体がとても熱くなっているので、衣裳が汗でくっついてしまって苦労しました。やっぱり早変わりはストレスになります。『エレクトリック・カウンター・ポイント』では女性のダンサーが早変わりに間に合わなかったことがありました。

----ロイヤル・バレエで多くの作品を踊られていますが、伝統的なロイヤル作品ですと、どういった作品がお好きですか。
セルヴェラ 『マノン』が大好きです。その中のレスコー役が最も好きです。

----レスコー役は2幕の初めに長いヴァリエーションがあって、酔っぱらいの踊りですね。
セルヴェラ 酔っぱらった状態ですぐパ・ド・ドゥになります。

----酔っぱらった状態のステップは難しいですか。
セルヴェラ おもしろいことに初めて踊った時は、酔っているように見えなければならないので、一生懸命酔っぱらいの真似をしていました。当時の芸術監督のモニカ・メイソンに指導してもらいました。彼女はマクミランが実際に振付けた時にその場にいましたから。その時、教えてもらったのは、酔っぱらった人は、自分は酔っぱらってはいないのだ、とみせようとする。それを演じて欲しいといわれました。酔っぱらっているのだけれど、自分は酔っぱらっていないと見せようとする演技こそが、酔っぱらいそのものなのだ、ということなんです。だいたいそのステップを踏む時には、自分は大丈夫、酔っぱらっていません、と思っているのに、うまく歩けない自分に驚いている、という風に演技することです。そうするともっと自然に酔っぱらいに見えますよ、と教えられました。

-----なるほど、素晴らしいですね、自分がコントロールできないことを見せるわけですね。
セルヴェラ そういう役を踊る場合は、まず、ステップを正確に踊ることができなければならないです。それから酔っぱらって踊ったらどうなるのか、ということです。もちろん、酔っぱらいのリサーチも必要です。

----「ロイヤル・エレガンスの夕べ」では4演目を踊られるわけですが、どういった点を最も観客にアピールしたいですか。
セルヴェラ ぼくが最も楽しみにしていることは、『ルーム・オブ・クックス』という作品で、おそらく14年くらい前、すごく若い時に振付けられた作品なので、自分たちが経験を積んで成長したことによって、どんなことが生み出せるか。自分にとっては初演のようにも思えます。

----もちろん、モレーラさんも経験を重ねてきたわけですし。

セルヴェラ そう、二人とも成長してきているわけですから。3人で踊るのですが、二人は若者で、もう一人は少し歳を重ねた役です。今回はネマイア・キッシュがその役を踊ります。彼はその役にぴったりなのですが、実際にはぼくのほうがキッシュより年上なのです。だから、どういう舞台になるかというのが、とても楽しみです。
これは日本人の方にはとてもよろこんでいただけると思います。村上春樹の小説を短くしたような作品ですので。すごく緊張感のある作品です。

-----それはとても楽しみです。本日はお忙しいところどうもありがとうございました。

ロイヤル・エレガンスの夕べ 2014
〜英国バレエの伝統と今を伝えるショーケース公演〜

●2014年 8/8(金)〜10(日)
●日本青年館ホール
●出 演=
ラウラ・モレーラ(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
サラ・ラム(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
崔由姫(英国ロイヤル・バレエ団ファースト・ソリスト)
佐久間奈緒(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
ネマイア・キッシュ(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
スティーヴン・マックレー(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)
リカルド・セルヴェラ(英国ロイヤル・バレエ団ファースト・ソリスト)
平野亮一(英国ロイヤル・バレエ団ファースト・ソリスト)
ツァオ・チー(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)

◇リハーサル見学会
8/8(金)14:00〜日本青年館ホール
◇ファンミーティング
8/10(日)17:00〜アリスガーデン(千駄ヶ谷)

『ロイヤル・エレガンスの夕べ2014』公演記念展開催
●チャコット渋谷本店
●期 間=2014年 6/8(日)〜7/4(金)

インタビュー&コラム/インタビュー

[インタビュー]
関口紘一

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