3月に来日するハンブルク・バレエのプリンシパル・ダンサー シルヴィア・アッツォーニ&アレクサンドル・リアブコ=インタビュー

----2016年3月には、ハンブルク・バレエ団が来日公演を行ってくださることを、たいヘん喜んでおります。私は1986年のハンブルク・バレエ団の初めての来日公演を観ており、その時に上演した『真夏の夜の夢』をまた上演してくださるので、個人的には二重の喜びです。
ノイマイヤー振付『真夏の夜の夢』は、とても楽しいバレエでした。手回しオルガンが登場したり、ガマル・グーダが演じたパックもとても良かったです。

アッツォーニ&リアブコ オーッ、ガマル・グーダ!

----おふたりはもちろん、『真夏の夜の夢』を踊られていると思いますが、このバレエはいかがですか。

アッツォーニ ユーモアもあってとても楽しいバレエです。
ちょうどハンブルク・バレエの2回目の日本公演の時、私はヘレナ役をリハーサルし始めたのです。東京でリハーサルをしてハンブルクで本番を迎えたことを覚えています。最初はヘレナを踊ったので、ナイーヴで壊れ易くて真実の愛を信じている役でした。最近は、ティターニア役を踊ることが多いのですが、彼女は妖精の女王で外見は強いのですが、内面は弱いところがあります。このふたつの、どちらかというと対照的な役を踊りますと、同じ作品でもまったく違う面を表現すると言う点でも、ダンサーとしてとてもおもしろい作品です。

シルヴィア・アッツォーニ&アレクサンドル・リアブコ

リアブコ 同じように私も1997年にリハーサルを始めて、コール・ド・バレエを踊りながら、パックの役を踊ることもありましたし、いろいろな役を踊りました。パックのオリジナル役のケヴィン・ハイゲンが大好きでしたし、パックは私の好きな役のひとつです。好奇心が強くてナイーヴな役なので演じるのがおもしろいです。クラシックなテクニックを使いながらモダンな振りを踊るところがあって、動きのコンビネーションに関してもとても興味深いものがあります。デミトリアスやオベロンも踊ったし、踊ることがおもしろい役がたくさんありますので、次はどの役かな、と楽しみにしています。

----ハンブルク・バレエではたびたび上演されていたようですが、日本では30年ぶりの上演となります。


リアブコ 今、私たちのカンパニーはレパートリーが多様になってきていますので、日本の観客の方々にもいろいろな面を観ていただきたいと思います。もちろん、新しい作品も観ていただきたいです。

「真夏の夜の夢」photo/Holger Badekow

「真夏の夜の夢」photo/Holger Badekow

「真夏の夜の夢」photo/Holger Badekow

-----ノイマイヤーさんはどんどん新作を振付けられていますね。
日本公演では『リリオム』も上演されますね。こちらも独特のニュアンスのあるファンタスティックなおもしろい作品ですね。

リアブコ 元々ミュージカルで上演されるなどのストーリーがあって、バレエになりました。以前からバレエにしたいと思っていたのですが、いろいろなプロジェクトがずっと続いていて、なかなか取り掛かれなかったのです。音楽はミッシェル・ルグランに依頼したのですが、音楽のほうが先に出来上がってしまうくらい、とても意欲的に作曲してくださいました。演奏も素晴らしくて、ステージの上にビッグバンドが乗ってライヴ演奏します。テーマパークと言いますか、アドヴェンチャー・ランドみたいなところが設定になっていて、大きなメリーゴーランドがあったり、演奏もビッグバンドだったりオーケストラだったりと、バレエの中でも変わっていきます。

「リリオム」photo/Holger Badekow

「リリオム」photo/Holger Badekow

音楽と一緒に舞台の雰囲気やバレエの踊り方も変化していきます。感動的な物語です。設定はアメリカの大恐慌時代で、就職難に人々が苦しんでいる時、犯罪が多発したりいろんな問題が起きてきます。そうした問題を抱えた人たちのお話をジョン(・ノイマイヤー)が巧みに演出しています。
ジョンはストーリーテイラーなので、出会いから犯罪が起って主人公は天国に昇り、じつは子供が育っていたということがわかり、この世に戻ってくる、と言うお話ですが、とても周到に演出し創られています。

----ソフィストケイトされた物語ですね。

「リリオム」photo/Holger Badekow

「リリオム」photo/Holger Badekow

リアブコ そうです。ジョンはディティールにこだわり、しかも完全主義者ですからこだわるところも徹底しています。たとえば、象徴的な存在として「バルーンマン」という役が登場して、すべての物語を繋いでいく役割を担っています。

----そういうストーリーテリングの巧みなノイマイヤーさんの振付の現場というのは、どんな様子ですか。いろいろと振付を決めるために悩んだりしながら進行していくのでしょうか。

リアブコ 常にダンサーやスタッフと一緒に作品を完成しようとしています。振付も物語変更すると言うほどではないのですが、常に修正していて、『真夏の夜の夢』はもう40年以上前に振付けた作品ですが、上演するたびにアダプテーションしています。毎回、進行中に完璧に完成したものはひとつもない、というくらいです。上演するたびに少しずつ深化していく、というのが彼のスタイルです。

----そうするとダンサーとしても楽しみですね。

アッツォーニ それからダンサーにも解釈の余地を残してくれるので、役を自分のものとすることができます。

----アッツォーニさんは『人魚姫』を主演されてブノア賞を受賞されました。あの人魚の動きは、特別たいへんだったのではないですか。

アッツォーニ そうですね。トゥシューズで美しく脚を上げて踊る踊りではなかったし、映像なども見せてもらていたのですが、最初はできるだろうか、という恐怖感もありました。踊ってみたら意外に自然に身体が動いて踊れたので、もしかしたら私はこの人魚役に合っているのかもしれない、と思ったほどです。
『白鳥の湖』では、手の動きなどで、人間ではなくて白鳥であると言うことを表現しなければなりません。同じように観ている人たちに人魚だと感じさせなければなりません。実際は踊っているわけでは無いのに、海の底にいるということを表わさなければいけない。非常に体力を必要とするばかりでなく、いろいろな感情が動き回るので、精神的にも非常に疲労感を感じます。全幕終わる頃には、体力も気力も使い果たして、もう空っぽになってしまっているかのようです。

-----アッツォー二さんはイタリアのご出身で、リアブコさんはウクライナのご出身ですね。素敵なパートナーシップを築かれたのは、ハンブルク・バレエの『ハムレット』を共演されたことが、きっかけだったのですか。

アッツォーニ イエス。
あの『ハムレット』のパ・ド・ドゥを踊ったことから気持ちが一緒になりました。

----確かにあのパ・ド・ドゥは、なにか特別なものがあるような気がします。

アッツォーニ 私たちにとっても特別です。

リアブコ 何年も同じカンパニーで踊っていたのに、あのパ・ド・ドゥを踊った時に、なぜか気持ちがひとつになりました。今までとは違った感情がお互いの中に生まれました。
あのパ・ド・ドゥを踊った時、何かぐっとくるものがあったのです。ちょっと違った感情がお互いの中に生まれました。何かどういうものでもないのですが、それまでとは違ったピタっとフィットする感覚がありました。すれ違った瞬間にお互いにときめくものがありました。このパ・ド・ドゥを踊った時が、本当に良いタイミングだったのかもしれません。

----でも、あれはハムレットとオフィーリアの別れのパ・ド・ドゥですよね。

アッツォーニ リハーサルでは、二人があんまり楽しそうに踊っていたので、教師が「どうしたの? ちょっと違うよ」と言ってました。一瞬、ストーリーを忘れてステップを覚えるだけになっていました。感情移入をすっかり忘れて教師に指摘されたくらいでしたが、とても楽しい時期だったのです。


----ダンサー同士が踊っている中で幸せな感情が誕生するなんて、羨ましい限りですね。ダンサー同士が恋に陥ちる理想のケースではないでしょうか。

アッツォーニ (思わず微笑んで)確かにそうかも知れません。

----お二人とも2014年にローマ賞を受賞されましたね。

アッツォーニ その年の年間の功績を評価するダンサー賞みたいなものですね。若い頃は、何かを受賞するとか、そういったことにはあまり興味がありませんでした。自分の好きなことを一生懸命やっていれば満足でした。この年にはいろいろな賞を受賞して、様々な方面から受賞の感想を聞かれて、初めて本当に考えてみたのですが、私たちが積み重ねてきたことを再確認する良いチャンスになりました。受賞することで、私たちの表現の技術がきちんと伝わっているということが証明される、という意味でとても良かったです。

「ハムレット」photo/Kiyonori Hasegawa

「ハムレット」photo/Kiyonori Hasegawa

----日本のバレエファンに向けて、2016年に来日公演するハンブルク・バレエの見所を一言ずつお願いします。

アッツォーニ その年の年間の功績を評価するダンサー賞みたいなものですね。若い頃は、何かを受賞するとか、そういったことにはあまり興味がありませんでした。自分の好きなことを一生懸命やっていれば満足でした。この年にはいろいろな賞を受賞して、様々な方面から受賞の感想を聞かれて、初めて本当に考えてみたのですが、私たちが積み重ねてきたことを再確認する良いチャンスになりました。受賞することで、私たちの表現の技術がきちんと伝わっているということが証明される、という意味でとても良かったです。

----日本のバレエファンに向けて、2016年に来日公演するハンブルク・バレエの見所を一言ずつお願いします。

アッツォーニ ノイマイヤーの目指すところやリーダーシップ、そしてバレエダンサーからのインスピレーションを感じとっていただきたい。ノイマイヤーと仕事をしていると、動きの振付だけでなく考え方などにも学ぶことがすごく多いのです。いろいろな解釈の仕方も独特だと思います。同じレパートリーを持ってきても、改めて作り直したり考え直したりして創ります。ストーリーテリングをメインとしているカンパニーですから、観客を泣かせたり笑わせたりすることに特に長けているカンパニーです。
今までは二人のパ・ド・ドゥなどで参加することも多かったのですが、3月はビッグチームできますから、皆さんに大きな感動を与えられると思います。

リアブコ いつも二人でガラ公演で踊るときは、どの作品の一部を踊ろうかと悩みます。ノイマイヤーのフルレングスのバレエは、全体を通して観て素晴らしいバレエが多いからです。だから一部を見せて深く理解してもらえるだろうか、と思うこともありました。でも今回の公演はすべてをお見せするわけですから、私たちにとっても観客にとっても、とても良い機会になると思います。ディレクターになって40年経ってもまだ、年に2〜3作の新作を創っている人ですから。
じつは2016年にもハンブルク・バレエで2作品のプレミアがあります。この次の機会になるかもしれませんが、また、まったく新しい作品を上演することも出来るかも知れません。どうぞ、ハンブルク・バレエの公演を楽しんでください。

----本日はお忙しい中、とても楽しいお話をありがとうございました。来日公演を心より楽しみにしております。ありがとうございました。

ハンブルグ・バレエ団2016年日本公演

●3/4(金)〜6(日)、8(火)、9(水)、11(金)〜13(日)
●東京文化会館
●お問い合わせ=NBSチケットセンター 03-3791-8888
(平日10:00〜18:00、土曜10:00〜13:00)
http://www.nbs.or.jp/

詳しくはこちら
/magazine/information/stageinfo1/2016.html

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[インタビュー]
関口 紘一

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