ドラマティック・スーパー・ダンス・シアター『Flamenco マクベス 〜眠りを殺した男〜』開幕直前インタビュー
- インタビュー & コラム
- インタビュー
掲載
振付家の上田遙が挑むシェイクスピア四大悲劇の最後の大作、『マクベス』。
マクベス役には日本ダンスエンターテインメント界のトップランナー 東山義久、マクベス夫人に元宝塚のトップスターでそのダンス力が高く評価されている 水夏希、そしてフラメンコ界から小島章司を迎え、魔女の予言により自分の主人ダンカン王を殺してしまうマクベスとその夫人を通して、人間の心の弱さ、闇の深さをフラメンコダンスで表現する。
開幕直前の稽古が公開され、演出家の上田遙、キャストの東山義久、水 夏希、木村咲哉が囲み取材に応じた。
上田 遙 この「マクベス」はキャスティングが重要。今回は最高のキャストが揃いました。
東山さんてどこにもあてはまらないから、次の"東山義久"って出てこないでしょ、真似できないから。僕は彼にこういう風にマクベスを演じてほしいと言わず、空間を用意するんです。音とか、相手とか。そうやって本能的に掴んでいったものがマクベスになっていく、という風に僕はやっています。
さっきの稽古の(激しい)シーンもいきなりああなるわけ。ああやってくれって頼んでいるわけではないんです。
東山義久 やらんとやらんで、また何回もさせられるんですよ(笑)
上田 そのエネルギーの爆発がカーッとなる瞬間を見せてくれる。計算外のことなので、それが僕の後ろに観客がいたとしたら本番ではもっとすごいんだろうな、とわくわくする感じになってるわけです。
----それはやはりご自身のなかで湧き上がってくるのですか。
東山義久(上)、水夏希(左)、木村咲哉(下)、上田遙(右)
東山 これはやっぱり、水さんともこの稽古期間でいろいろお話しもさせてもらったし、ミックスアップで、水さんからの目線、お芝居とかを自分に通した時にこうなるんじゃないかなっていうことを、毎回の稽古で探っていってたりします。
上田 水さんは東山さんと真逆で、歌にしろ芝居にしろ踊りにしろ、自分の表現を許せない人なんですよ。こだわりがあるってことですよね。
東山 インテリジェントだよね。
上田 だからこの表現はもっとこうなんじゃないか、と常に追求するタイプで、とにかく自分を許さない人。だけど結局答えなんてないんですよ、表現なんだから。で、常にまた新しい表現を、と彷徨い人として挑む。それで今回もっと彷徨っている小島章司先生にも出会ってるから・・。教科書みたいにこういう答えってわかったらやめればいい、でもまだわからないっていうところにいる。
で、東山さんはそうじゃないところにいる。もう全然ジャンルが違う。生きてるジャンルが違う、表現のジャンルが違う。同じところにいたら面白くないからね。全然違うから、すごく良い化学反応がある。
咲哉君の場合は、そういう大人を見てればいいわけ。こういう爆発力のある大人を見て、どう思っているかは知らないですよ。普通の子は緊張しちゃうから、こうやって普通にしてはいられないです。だけど咲哉は平気なんですよ、意外と。で、興味持って見ている。この経験が彼のあと5年後、10年後に活きてくればいいな、と思っています。みんな普通じゃないですからね(笑)
水 夏希 もう、心配だよ。こんな大人に囲まれて(笑)
上田 彼に必要なのは環境。言わなくても、見て感じているものがきっと今日なんかもあったんじゃないかな。
----そんな大人たちを見ていてどうですか?
木村咲哉 やっぱり、僕はまだオーラというか、そういうものが皆さんに伝わるように出てこないけど、大人キャストの人たちはオーラがバンバンあって、すごいなっていう思いがあります。
水 私たちにはないエネルギーがバンバン出てますけどね(笑)さわやかで、溌剌で、いつもにこにこしていて。
森新吾、東山義久
----劇中ではアクロバット的なシーンもありますね。
東山 いっぱい出てくるね。
上田 バレエを軸にしていますがそれだけじゃなくて、色々なことに興味があるからね。彼に今教えたいのは、外側の技術じゃなくてエネルギーをどう溜めるか。技術を見せられても一回目は面白いかもしれないけど、もう一回見ようと思わないでしょ、慣れちゃうしね。だけど、その先にある何かを見せてくれるようになれば、ファンの人はもう一度見たいと思う。それが分かってくれればいいかな、と思う。
----フラメンコは今回が初挑戦ですか。
木村 そうです、初挑戦です。
----日々、吸収されているのですね。
水 私なんて、あのサバテアードに何ヶ月かかったか!
東山 最後のとこね。今日(の稽古で)お見せした。
----水さんはまた新しい環境ですが。
水 新しいというか、今回の遙さんの踊りのジャンルというのが、今までにやったことがないものなので、そこが大変です。自分の引き出しの中でやっていたら意味がないというか、引き出しにないものと出会って増やしていく、ということを今までもやってきたし、これからもやっていきたいので、そういう意味では本当に絶好の人に出会えましたね。
----小島章司先生の「運命」というのは抽象的な役名ですが。
上田 ヨーロッパでは当たり前のようにある「魔女」という感覚が、僕がこれまで育ってきた中にはないんですよね。自分が一番わかりやすいのは、お稲荷さんとか、日本だと川の神様だったり、八百万の神々がいますよね。そういう、身近にあるものの方がわかりやすいかなと思って、それで神と呼ばれている人が出てくるのだけど、それは運命でもなんでもいいんだけれど、非常に人間の身近にあるものなんじゃないかな。違う言い方をすると「鬼」。鬼っていうのはどこにいるのか、人間の心の中にいるわけでしょ。そういうニュアンスとして、もしかしたら小島章司はマクベス自身かもしれない、というように、自分自身と戦うみたいな仕方にしているんです。
ジャンルに当てはまらないひと、自分の探求者っているでしょ。小島先生はこの世の人じゃないんですよ。小島章司の踊りは、僕はずいぶん前から見ていますけれど、本当に命と魂を擦り削って踊っているの。大野(一雄)先生もそうでしたけれど。涅槃なんですよね、自分を動かしているのが精神なんですよ。もう、びっくりしますよ。そういうのって、他の人ではできない。
水 夏希、東山義久
中塚晧平、東山義久
咲山類、TAKA
----では、今回のキャスティングはフラメンコをというより小島先生ありきだったのでしょうか。
上田 東山義久っていうブランドに何がびっくりするかなって。経験豊富だけれども、さすがに今回の涅槃の踊りはないんじゃないかな。これをバーンとぶつけた。
で、僕フラメンコってすごく好きなんです。アントニオ・ガデスとかね。翁と同じで歌と踊りと演奏が全部で、しかもそれが情景を歌うとかじゃなくて、今この瞬間今日あったから生まれるもの。だから今回も作り方としては、ここ(稽古場)でつくる。自分の書いた台本が、その場でもうつまらなくなってるので、すぐに変えて、ここで生まれたもの、吟遊詩人的に同じ歌は二度と歌わないみたいな魂がそこにあるんですよね。だから格好つけてない、すぐに踊りが始まっちゃう。そういう感じがこの二人のやりとりにはあった方がいいんじゃないかな。台本で芝居を読み込んでやるやり方もあってもいいんだけど、一回一回違っていいんじゃないかなと僕は思ってる。
その時その時に生まれたマクベスとマクベス夫人が、今日はこれなんだっていう風で僕は構わない。マクベスになってれば、転ぼうが何しようがマクベスはマクベスだから。なりきれる二人だから、あまり演劇的なやりかたはとってない。フラメンコって楽譜がなくてもその場に来ていきなり始まっちゃうから。
----今回はギターのないフラメンコですね。
上田 そう、一番原始的なものって(手を叩き、足を踏み鳴らし)リズムがあればどこでも。それがフラメンコの持つもの。小島先生もそうだし森新吾もそうですが、みんな音楽を持っている人たちなんです。これが大切。音楽性のない人はだめ。自分の音楽を持っていて、それがハーモニーになったりある時は戦い合ったり。
今回、ドラムと和太鼓、尺八となかなかの人材を揃えているので、本番でお客さんが入ったらどうなるんだろうっていうくらい、あまり楽譜的じゃないところで演奏してもらっている。ある時は感情によって、ある時は空間によって、というやり方になっているので一回一回のリハーサルが勝負。それでまた発見していくもの、変わっていくもの、という風に積み重ねていくようだけれど、捨てていくものっていうかね、昨日やったことはもうやめた方がいいっていうことも。また新しい「マクベス」がきっと出るに違いないって思っちゃってる。
水 ソロのシーンとか、毎日違ってもいいよって。そんなばかなって(笑)
東山 新しいよね。シンプルに、カウントいくつって、毎回(笑)
水 そう、曲がないところで振り付けるっていうのがありえない!え、曲ないの?って。
上田 そう、水さんのところもそうだし、作曲者が見て後から曲をつくる。全部がそうじゃないですよ、群舞のところはカウント取りますけど。ソロのところは1年半くらい前にキャストが決まった時点で、僕の場合だと絵面が見えてくるわけ。早くやらないと忘れちゃうから、とりあえず、初日一発目で振付けは終わるくらいの勢いでやりますね。もう渡しちゃうの、イメージを忘れちゃうから。で、あとは段々馴染んできながら、こういう風にひしめき合いながらやるっていうやり方かな、僕の場合は。それを理解してくれているので助かっています。
森新吾、木村咲哉
----東山さんは上田先生の手法は。
東山 僕はもう遙先生とは、作品としては3つ目で、ヴァイオリニストの川井郁子さんのショーなど、振付は何本か一緒にやっています。上田先生の面白いところは、空間と枠だけくれるんです。その色塗りはとりあえず任せるわっていうところに、僕が持っていったものが青っぽかったとしたら、ここ赤の方がいいんじゃないかなっていう相談をしながらやっていくし、振りも本当にいつでも変えていいよって言ってくださるので、振りを踊らなきゃというプレッシャーはなく、どうやったらこのシーンでこの振付が分かりやすく自分の身体を通して見せることができるかということができるので、僕はやりやすいというか、やっていて楽しいです。
今回、僕初めてダンスソロがないんです。それも新鮮だけど、逆にソロがないので、ずっと立ち続けて最初から最後までの中でマクベスがどういう風になっていくのかを作っていかなくてはならない、というのは新しい挑戦だと思います。
上田 今回は剣舞がありますが、芝居でいう殺陣ではなく舞踊なんです。そこが今回のハイライトで、2回出てきますけれど意外と泣ける。そこの東山義久を見たい。一番のファンでないといけないから、見たいわけ。東山義久っていうブランドがどうやったら輝きを増すんだろうっていうのを、見ていたい。
東山 それで、のたうちまわらせるっていう、ね。ドSですよ(笑)。
上田 水夏希も今までの水さんじゃなくて、必死にジャンプするとちょっと掠るようなようなところに作品を用意しておいて、ゼイゼイいいながら掠らせて、掴めるようになったらもうちょっと上げてって、というような事をぼくが用意できないと。水さんがすぐに掴めるようなものを用意しておいてもやらないじゃない、自分は成長できないってさっきも言ってたでしょ。だからヤバイんですよ。それだけのものをこっちは用意しておかないと。それが用意できるかどうか。
東山 ソロが終わったあとに立てない水さんってあんまり見ないもんね。今までの、格好良くジャンって終わって拍手、みたいなのじゃなくて。見終わったあと、多分お客さまも息が詰まってるんじゃないかなっていう緊張感がある。
---そんな新しい水さんが見られるんですね。
水 そうだといいな。
上田 大丈夫です!あとこの少年がマクベスを殺すわけだけど。
東山 どう?初めてでしょ、人を切るのは。怖い?
木村 怖くはないです。
上田 今回は男同士でしょ。
東山 前作の「サロメ」の時は僕は女の子だったから。女の東山と男の東山はどっちがいい?
木村 やっぱり男の方が。
一同 (笑)
----最後は新しい王として君臨する。
上田 そう。王冠とかそういうのじゃなくて、戦って戦場でいつも死と向かい合っている時のマクベスが最高に輝いていたわけですよ。だけど、運命が試してみた時に手紙を書いて、先にご夫人の方がマクベスに王冠を取らせてあげたいという愛が違うものに変化していっちゃう。それは女性が持つ、潮の満ち引きとか魔性のもの。こういうものは男性ではなくやはり女性が持っているんですよ。そこでばっと注入されて、マクベスは最後ギリギリまでどこか友情を信じたり正義を信じたりしている部分があるんだけれども、ばっと最後掴んじゃうんだよね。
----そんなマクベス夫人像ですが、水さん自身はどんな解釈をされていますか。
水 悪女と言われることが多いですけれど、誰しもが持っている欲望とか理性で抑えている部分が、抑えきれない程の欲望や野心になっていく、マクベスを愛しているが故に。
上田 愛が大きすぎちゃうんだよね。だって、般若とか鬼とか、ああいうのもそうだけど、滅茶苦茶愛情が激しいからああなっちゃうんでしょ。普通のちょっとした愛情じゃならないけど、かなりの愛っていうものはそういう風に化身していくんじゃないかな。
東山 そんな「マクベス」を、ぜひご覧ください。
----本日はお稽古中のお忙しい中、皆さんありがとうございました。
前作「サロメ」のラストでは東山演じるタイトルロールのサロメがヨカナーンの首を手に、15分間のソロを踊りきる感動のラストシーンとなっていたが、今回の「マクベス」でも上田解釈によるマクベスの最後となっている、という。最後の時にマクベスがどんな表情を見せるのか、幕開けが楽しみだ。
DRAMATIC SUPER DANCE THEATER
「Flamenco マクベス 〜眠りを殺した男〜」
【公演期間】2018年5月23日(水)〜27日(日)
【会場】シアター1010
〒120-0034 東京都足立区千住3-92
北千住駅西口マルイ11階
TEL: 03-5244-1010
【チケット料金】
S¥8,800(全席指定・税込)
3歳以下は入場不可、4歳以上は有料
【お問い合わせ】キョードー東京 0570-550-799(平日:11:00〜18:00 土日祝:10:00〜18:00)