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ニューヨークでドラマターグを学び、ミュージカル・プロデューサーとして活躍する小嶋麻倫子に聞く

インタビュー=小嶋麻倫子(東宝 プロデューサー室チーフプロデューサー)


< ニューヨークのコロンビア大学大学院でドラマターグを学んで修士号を取得し、ニューヨークでブロードウェイ・ミュージカルの仕事をしていた小嶋麻倫子とは、私がニューヨークに引っ越した当初2002年に知り合い、パフォーミング・アーツの話題で意気投合した。その後、小嶋が東宝に初の女性プロデューサーとして入社してからの3年間、ニューヨークの友人として、彼女がブロードウェイ・ミュージカルの仕事をしている様子をリアルタイムで見てきました。
特に、小嶋と私のニューヨーク生活が重なっていた時、ブロードウェイ・ミュージカルで日本人初の演出家として宮本亜門が『太平洋序曲』を演出しました。彼女はそこで通訳とドラマターグを担当していました。また、小嶋は東宝のプロデューサーに就任した直後から、シアタークリエのプロデュースを手掛けていましたが、シアタークリエはオープンから10周年を迎えました。
10周年記念公演『TENTH』がシアタークリエで上演され、今回私はその3つのプログラムのうちの『ニュー・ブレイン』を観劇しました。
小嶋は、よくニューヨークにミュージカルを買い付けに来て、「ニューヨークのミュージカルを日本に紹介していきたい。ミュージカルはその時代を反映している。今の時代の新しいミュージカルを発掘したい」と話していました。彼女は、どこよりも早くニューヨークのミュージカルを日本で初演しようとしています。すでに名作として評価を得ているブロードウェイのトニー賞受賞作品だけでなく、まだ日本では上演されていないオフ・ブロードウェイ作品を発掘し、この10年間に日本に紹介し、多くの成功を収めてきました。

ニューヨークでドラマターグを学び、ミュージカル・プロデューサーとして活躍する小嶋麻倫子に聞く

ニューヨークでドラマターグを学び、ミュージカル・プロデューサーとして活躍する小嶋麻倫子に聞く

「ニュー・ブレイン」(「TENTH」より)写真提供/東宝演劇部

「ニュー・ブレイン」(「TENTH」より)写真提供/東宝演劇部

Q:ニューヨークのコロンビア大学大学院で専攻されたドラマターグとはどのようなことですか。

小嶋:ドラマターグの役割は非常に多岐に渡り、作品によって関わり方が全く違ってきます。翻訳物の場合は使用する翻訳を選んだり、時代考証をしたり、テキストのカットを行ったり、新作であれば脚本家にアドヴァイスしたり。演出家へのアドヴァイスもします。劇場のドラマターグであれば、作品選定にも関わる場合が多いと思います。
エデュケーション・ワークショップに関わるかどうかは、その劇場のポリシーによると思います。
大学院では、リサーチの仕方から批評の書き方、そして他のアーティストとのコラボレーションの方法まで、様々なことを学びました。

Q:子供の頃から、たくさんの舞台をご覧になっていますね。ミュージカル、オペラなどですか。

小嶋:小さい頃から音楽をやっていたので、クラッシックのコンサートにはよく行っていました。親戚がオペラ歌手だったのでオペラも見ていました。あまり舞台に興味がなかった母が、たまたま知り合いにSKDのチケットを貰って連れて行ってくれて、そこから宝塚を見るようになり、ミュージカル的なものにハマりました。

Q:日本の大学ICUでは英文科でシェイクスピアの勉強をなさいました。そのような育った環境、学んできた内容、留学経験を経て、今のプロデューサーの仕事にすべて役に立ってつながっていますか。

小嶋:すべてが繋がりすぎていて、本当にびっくりします。
人生は良くできているなと思います。生家が料亭だったので、赤ちゃんの頃から日本の伝統芸能に親しんできました。その後、ジュニアオーケストラに入って西洋の音楽に触れ、大学でもオーケストラとミュージカルのサークルに入りました。同時に文学としての演劇を学び、その後アメリカで実践的な演劇を学びました。
アメリカ時代には演出家や舞台スタッフの通訳や翻訳の仕事もしていたので、そこでスタッフワークや舞台機構から版権の契約まで学ぶことができました。

「ニュー・ブレイン」(「TENTH」より)写真提供/東宝演劇部

「ニュー・ブレイン」(「TENTH」より)写真提供/東宝演劇部

「ニュー・ブレイン」(「TENTH」より)写真提供/東宝演劇部

Q:ニューヨークでも歌のレッスンを受けていらっしゃいましたね。

小嶋:1998年から2005年までニューヨークに住んでいました。最初は大学院に通い、その後はブロードウェイやオフ・ブロードウェイで仕事をしていました。自分がスタッフとして関わっていた公演もたくさんありますし、観客として観劇した舞台もたくさんあります。多い年には270本くらい見たと記憶しています。
出演者になるつもりはありませんでしたが、大学時代にミュージカル・サークルを立ち上げたこともあり、自分でも歌やダンスを勉強しました。アメリカでは、エイドリアン・エンジェルという先生にミュージカル歌唱を習っていました。エイドリアンはニューヨークでも有名な先生で、バーナデット・ピーターズやウーピー・ゴールドバーグやシェールなど錚々たる人たちを教えています。
仕事に関しては、信じられないほどラッキーだったと思います。在学中からたくさんのプロの仕事に関わっていました。オービー賞をとった劇団や、オフ・ブロードウェイの新作ミュージカル、そして宮本亜門演出のブロードウェイ版『太平洋序曲』などにドラマターグとして参加しました。

Q:東宝のプロデューサーとして就任なさったのはいつですか?

小嶋:2005年に東宝に入社しました。

Q:プロデューサーとは、具体的にはどんな仕事内容になるのですか。

小嶋:企画を立て、スタッフを決め、キャスティングをし、宣伝、券売などにも関わります。作品をどういう方向で作っていくかをスタッフと話し合って脚本などを作り、稽古、公演にも毎日立ち会います。

Q:その後、シアタークリエの立上げの時から10年間担当なさって、どんな内容の企画を担当なさいましたか。

小嶋:8割以上はミュージカルだと思います。私が担当する海外作品はほとんどが英語圏のもので、ニューヨーク発のものが多いです。

「ニュー・ブレイン」(「TENTH」より)写真提供/東宝演劇部

「ニュー・ブレイン」(「TENTH」より)写真提供/東宝演劇部

「ニュー・ブレイン」(「TENTH」より)写真提供/東宝演劇部

Q:女性初のプロデューサーとして話題になりました。

小嶋:クリエの他に、帝国劇場や日生劇場などでもプロデュースを担当しますが、帝劇で女性がチーフとして作品を担当したのは私が初めてだと思います。帝劇ができて101年目。2012年の松任谷由実の公演でした。
別に女性でも何の問題もないのですが、今までずっと男性がやってきたので、女性が帝劇作品をやるという当たり前の概念がなかっただけだと思います。

Q:実際の企画として作品を選ぶ基準は、何がポイントですか。

小嶋:重視するのはストーリーと音楽です。そしてやはり、古いものよりは新しいものに出会いたいと思います。振付が良い作品は、振付ごと権利を取得し、海外からその振付家を招聘します。

Q:ミュージカルは、ストーリー、歌、ダンスの要素がありますが、ダンスの割合は全体のどのくらいでしょうか。

小嶋:ダンスの要素がどれくらいあるかというのは、作品ごとに全く違います。いわゆるダンス、というものから、ダンスと呼ぶよりはステージングと呼ばれるものまで様々ですが、何らかの動きの要素は入ります。私が手がけるものでは、ダンスだけをやっていただく方は少ないです。ミュージカルが多いので、歌、ダンス、演技のすべてが必要な場合が多いです。

Q:プロデューサーの個性としては、何を基準に作品選びをしていますか。好みはありますか。

小嶋:完全に自分の好みです。自分が感動できるかどうかが私のものさしです。私が好きなものが必ずしも会社に受け入れられてOKが出るとは限りません。アメリカの小規模なミュージカルが好きなのです。

Q:その結果、観客動員数とか興業の成功につながってきましたか。10年間で小嶋さんの仕事の成果はいかがでしたか。

小嶋:これまでの10年間でクリエでは再演も数えると36本の作品をプロデュースしましたので、数十万人の方に見ていただけていると思います。残念ながら赤字になってしまったものもいくつかありますが、でもすべての作品が見ていただいた方の琴線に触れたと思いたいです。

「ガラ・コンサート」(「TENTH」より)写真提供/東宝

「ガラ・コンサート」(「TENTH」より)写真提供/東宝

「ガラ・コンサート」(「TENTH」より)写真提供/東宝

Q:10年間を振り返って、思い出に残った作品をいくつか挙げてくださいますか?

小嶋:思い入れがある作品が多すぎて、名前をあげるのが難しいです。
ただ、再演を繰り返してきたという意味では、『RENT』『ピアフ』『ダディ・ロング・レッグズ』などは何度も上演する機会に恵まれました。ニューヨークに関するものでは『ZANNA』と『ラディアント・ベイビー』という2つのミュージカルは、私がニューヨークで働いていた時にスタッフとして関わった作品なので、日本で自分の手でプロデュースできたことは非常に感慨深かったです。

Q:最後に、Dance Cubeの読者へ、何かメッセージをお願いできますか。

小嶋:月並みですが、自分が好きだと思うことを全力で続ける、ということが大切なのかなと思います。目の前のことに精一杯取り組む。そして日々、小さなことでもいいので学び続けること。オーディションを受けに行っても、ただ受けるだけではもったいないですよね。そこで学べることはたくさんあると思います。
でも同時に、将来の展望も持っておいた方がいいですよね。今はダンサーとして踊っているけれど、将来は振付をやりたいのかとか、教えたいのかとか。そのために今できることは何なのか。
日本でミュージカルのオーディションを受けたい場合、事務所に入った方がたくさん情報を得られると思います。または、振付をなさっている先生のクラスに通うのもいいかもしれません。

「ガラ・コンサート」(「TENTH」より)写真提供/東宝

「ガラ・コンサート」(「TENTH」より)写真提供/東宝

シアタークリエ10周年記念公演「TENTH」(プロデューサー:小嶋麻倫子)は、2007年の開場以来、海外の小規模ミュージカルを上演してきたシアタークリエが、これまでに登場した俳優たち多数が登場し、10年間のヒストリーを綴ったもの。2018年1月に上演された。

インタビュー&コラム/インタビュー

[インタビュー]
ブルーシャ 西村

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