今回はバレエカンパニーの事、バレエを取り巻く環境の違い等について少し書きたいと思います。
- インタビュー & コラム
- コラム 針山愛美
掲載
最近、ワガノワバレエ学校が日本に来日していました。
ワガノワバレエ学校は私が初めて訪れた海外の街、ペテルブルグに存在しますが、13歳だった私の心に強く残り、人生を変えてくれた経験でした。長い歴史を誇る学校は、今でも当時の伝統を継いで、これぞロシアバレエと言う踊りを見せてくれました。
ワガノワ
ボリショイ劇場
その後ボリショイ留学を経て、1996年にロシアのモスクワにある、スタニスラフスキー&ネミロヴィチ=ダンチェンコ記念国立モスクワ音楽劇場でプロとしての活動を始めた当時、ロシアは混乱の時期にありました。しかし、バレリーナの地位は確立されていました。
当時はインフレが激しく、物価が日々変化していく時代でした。
バレエ団から頂けたお給料は、日本円に換算すると月10,000円位でしたが、とても恵まれた環境にありました。
劇場の中には、カフェテリアや整体師なども常設され、1日中バレエ団の外に出なくても過ごすことができ、1日中劇場の中にいる毎日でした。
スタジオでは空いている時間には練習することができ、リハーサルが終わり夜自分の本番がない時には、オペラのパフォーマンスを見ることも可能でした。
その日に食べる物を確保するのも容易ではなかった時代でしたが、贅沢しなくてもあるもので充分幸せでした。
インターネットがまだ発達していなかったので、携帯やコンピュータと向き合う必要が無い時代、自分の時間の全てを芸術、バレエに向き合うために使っていました。必然的にそのような環境になっていました。
キエフ
メトロポリタン劇場
1990年代は、バレエやオペラも本当に破格の値段で見ることができました。ボリショイバレエ学校の生徒の時は無償で見ることもできました。
しかし最近では、ツーリストの方々もたくさん来るようになり、ボリショイ劇場やマリインスキー劇場でパフォーマンスを見るとなると、それなりに高価な金額になっています。
それでも、毎日パフォーマンスをしていてもたくさんのお客様でいつも賑わい、劇場に行く事が皆の楽しみになっています。
決して当時のロシアでは裕福な暮らしは出来なかったですが、今考えると逆に、とても恵まれていたと思います。
今のロシアは高価なブランドのお店が並んでいたり、各国の料理が食べられる高級レストランもたくさんあります。しかし、街並みは変わりつつあっても、やはり国や国民の芸術、バレエに対する愛の深さは変わりません。
それは、旧ソビエト連邦から今は独立している国々にも言えることだと思います。
最近もよく訪れているウクライナ、カザフスタン、東ヨーロッパの国々。ウクライナやカザフスタン出身で、世界で活躍するダンサーはたくさんいます。
バレエ、総合芸術としてのスキルを育てる環境が必然的に備わっています。
国立の歌劇場がほとんどの大きな都市にあり、そこをホームベースとしてパフォーマンスすることができます。
クロアチア国立バレエ
市民と
ヨーロッパでもやはり、踊ることに専念できる環境があります。
大きなバレエ団などに所属すれば、贅沢しなければ、踊ることで食べて行くことができます。
ドイツなどヨーロッパの国々では、ほとんどの大きな街にバレエ団やダンスカンパニーがあります。
クラッシックバレエを上演できるのは大きなバレエ団に限られてくるようになってきましたが、コンテンポラリー、ネオクラッシックの作品を上演する小さなカンパニーはたくさんあり、カンパニーに特色があります。
それぞれのカンパニーがお客様のニーズに合わせ、人気のある作品はずっと続けて上演しながら新作を実験的にパフォーマンスしています。
日本では、劇場やダンスのパフォーマンスに足を運んだことがない一般の方々が多数いらっしゃるのは事実だと思います。
バレエの伝統を受け継ぎ、最高の芸術をお届けしていく事は大切です。
その上で、時代のニーズに合わせた楽しめる作品を提供していき、お客様の裾野を広げていく事も大切です。
お客様が心から楽しめる、またぜひ行きたいと思う作品作り、そして家族連れでも何度でも行けるような価格設定ができると一般のお客様も受け入れやすいのではないかと思います。
海外に比べて、日本では一般のお客様とバレエの距離感があり、バレエと言うと「白鳥の湖」、生活に余裕のある方のお稽古事と言うイメージが浸透しているかもしれません。
しかし、「家族で今日はバレエ見に行こう!」「楽しかった、素晴らしかったからまた来週行こう!」と、毎週でも見に行きたいと思う観客が育ってくれれば、パフォーマンスする側の回数が増え歯車が回っていきます。このような環境になれば素晴らしいのに、と思います。
バレエや、バレエだけに関わらず音楽、歌舞伎、オペラ、演劇、これら全ては人から人へと伝えていく必要があります。
テレビや、携帯画面からは伝わらない事はたくさんあります。
今まで関わった数々の教師、振付家、ダンサーから教わった事は自分の一生の宝です。
その中でも、イリーナ・コルパコワ、ウラジーミル・マラーホフから学んだ事は計り知れません。
可能な限り、世界の偉大なダンサー等に直接触れていただき、1人でも多くの日本のダンサーの方々に本物の芸術家のオーラを感じていただきたいと思っています。そんな橋渡しもしていけたらと思っています。
イリーナ・コルパコワ
ウラジーミル・マラーホフ
長年ずっと自分の中で考え、想い続け、温めてきた想いがあります。
この先一つ一つ、少しずつでも人々が自分が与えて下さった様に、お返しできる日が来るように進んで行きたいと思っています。
やってみないとわからないことも多くあります。
勇気を持ってこれからも、自分にできる事を続けていければと思います。
インタビュー & コラム
針山 愛美 Emi Hariyama
13 歳でワガノワ・バレエ学校に短期留学、16歳でボリショイ・バレエ学校に3年間留学した後、モスクワ音楽劇場バレエ(ロシア)、エッセン・バレエ(ドイ ツ)、インターナショナルバレエ、サンノゼバレエ、ボストン・バレエ団(アメリカ)、と世界各地のバレエ団に入団し海外で活躍を続ける。
2004年8月からはベルリン国立バレエ団の一員に。
1996年:全日本バレエコンクールシニアの部第2位、パリ国際コンクール銀メダル(金メダル無し)
1997年:モスクワ国際バレエコンクール特別賞
2002年:毎日放送「情熱大陸」出演 、[エスティ ローダー ディファイニング ビューティ アワード]受賞
◆Emi Hariyama Official Page
『世界を踊るトゥシューズ〜私とバレエ』
針山愛美/著 Emi Hariyama
体裁:四六版並製、240頁ISBN978-4-8460-1734-7 C0073(舞踊)