今月はロシアからお届けします。
- インタビュー & コラム
- コラム 針山愛美
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8月に、今年で3回目となる、「ボリショイバレエ学校インターナショナルワークショップ」をモスクワで開催しました。
何回訪れても、ロシアの美しい街並みには心が躍ります。
私が初めて訪れたのは1991年でした。その時に比べると、比べ物にならないほど豊かな国になっています。しかし豊かさにはいろいろあります。当時1990年代ロシアは、ペレストロイカの真っただ中で、物質的にはヨーロッパや日本には比べると裕福ではなかったかもしれませんが、芸術に関しての理解とバレリーナの地位は、世界で指折りでした。
食料や、着るもの、物質的に得られるものなどがあまりなかった時代でも、すばらしい芸術に触れることにより、心は満たされて真の豊かさを感じることができる時代でした。
今回の短期留学も、例年通りボリショイバレエ学校で、長期留学しているのと同じような体験が出来ました。
実際に寮に寝泊まりし、ボリショイバレエ学校のスタジオでレッスンしました。
私は毎回、ボリショイの寮に訪れるたび複雑な感情が湧き起こり、25年前の想いがよみがえってきます。
そして今回、その頃の自分の年齢と同じ10代の若い素晴らしい才能を持ったバレリーナたちと一緒に、自分自身が過ごし日々が勉強でした。
ワークショップの期間中には、「ジゼル」のパフォーマンスを見ました。
主演のジゼルを演じたプリンシパルのバレリーナはとても美しく、安定していてどの場面でも安心して見ることができました。
1幕の、農民達の踊りは、トゥシューズでは無く、ロシア特有のキャラクターダンスを用いた振り付けでした。
衣装もカラフルで愉快で楽しい雰囲気の1幕とは一変して2幕は、ロシアの伝統的なロマンチックバレエの真髄を見せてくれました。
夏は公演を行っているバレエ団は少ないのですが、客席は満席で、地元の方々と観光客で賑わっていました。
今回のワークショップは、バレエ学校とバレエ団と両方で行いました。
ボリショイバレエ学校では、12人ずつの少人数制グループに分けてレッスンを行いました。年齢別でクラス分けがあり、その年齢に合った、決して急がない、基礎を大切にしたレッスンでした。
必ず皆が身体で理解するまで次に進まない妥協なしのレッスンで、改めて基本の大切さ、繰り返す事の大切さを再確認しました。
キラキラした瞳で、一言たりとも聞き逃すまいと集中する子供達に、私も日々感動でした。
到着した次の日から、毎日3クラスありました。「クラシックバレエ」、「レパートリークラス」、「キャラクターダンス」とハードな毎日だったにもかかわらず、皆生き生きと楽しそうにレッスンを受けていました。
ロシア以外の国では、なかなか本格的に学ぶ機会がないキャラクターダンスは、初めての子供たちも多数いました。しかし、みんな覚えるのが早く、コーディネーションも素晴らしかったので、先生方も次々と新しいことを教えてくださり、何か月分ものレッスンをしてくださったような感じでした。スペイン、ハンガリー、ポーランド、スペインなどあらゆる国のポールドブラの使い方、足の使い方を、先ずはバーレッスンで学びました。
バーレッスンは、プリエ、タンジュ、フォンジュなどほとんどクラッシックと同じ順序で進んでいきます。センターレッスンでは、沢山の作品を教えていただきました。エネルギッシュで楽しいレッスンはとても有意義なものになりました。
「白鳥の湖」などでもキャラクターダンスは欠かせないもの。特に3幕の各国の踊りは、その国のスタイルをきちんと習得していると、動きが全く違ってきます。素晴らしいレッスン内容でした。
レパートリークラスでは、グループで作品を踊ったり、1つのバリエーションをみんなで勉強したり舞台に備えての授業でした。
トゥシューズのレッスンをした日もあり、日々違う内容で、1日に5つ以上のバリエーションを踊った授業もありました。
また、今年もトゥシューズを作る過程を見学しました。
トゥシューズが一人ひとりの手作りで、心を込めて作られているということを見て、普段では全くできないような体験もしました。
赤の広場や、雀が丘など観光では、ロシアの街並みを肌で感じ感性に触れる事が出来ました。
芸術家にとって、美しいものを美しいと感じる、素敵なものを見てイメージを膨らませる等、感じることがとても大切です。
改めてロシアバレエは、伝統誇るそして歴史ある物だと思いました。
しかし、様々な先生方のレッスンを見て、ワガノワメソッドも時代とともに少しずつ変化しているとも感じました。
教える先生によっても、少しずつ違う部分があります。今年春に、ワガノワバレエ学校、ボリショイバレエ学校に行き、両方の卒業試験の練習を見ました。モスクワとサンクトペテルブルクでも少し異なる部分がありました。
また「アラベスク国際バレエコンクール」が2年毎に開催されるペルミでも、本当に細かいニアンス等少し異なっている部分がありました。
世界には様々なスタイルがあります。各地でメソッドのことを様々な先生方とディスカッションしながら追求していくのも、キリがなくて本当に自分にとってかけがえのない素晴らしい勉強の機会です。
芸術には、ゴール、終わりが無いですね、、、。
来月は、またヨーロッパからお伝えします。
『世界を踊るトゥシューズ〜私とバレエ』
針山愛美/著 Emi Hariyama
体裁:四六版並製、240頁
ISBN978-4-8460-1734-7 C0073(舞踊)
チャコットにも、置いていただいています。ぜひ読んで頂けると嬉しいです。
インタビュー & コラム
針山 愛美 Emi Hariyama
13 歳でワガノワ・バレエ学校に短期留学、16歳でボリショイ・バレエ学校に3年間留学した後、モスクワ音楽劇場バレエ(ロシア)、エッセン・バレエ(ドイ ツ)、インターナショナルバレエ、サンノゼバレエ、ボストン・バレエ団(アメリカ)、と世界各地のバレエ団に入団し海外で活躍を続ける。
2004年8月からはベルリン国立バレエ団の一員に。
1996年:全日本バレエコンクールシニアの部第2位、パリ国際コンクール銀メダル(金メダル無し)
1997年:モスクワ国際バレエコンクール特別賞
2002年:毎日放送「情熱大陸」出演 、[エスティ ローダー ディファイニング ビューティ アワード]受賞
◆Emi Hariyama Official Page