『眠れる森の美女』公演直前インタビュー:大役、オーロラ姫デビューを果たす中川郁(牧阿佐美バレヱ団)

----10月にオーロラ姫を踊られますが、今、リハーサルはどのくらい進んでいるのですか。

 まだ全体の通しまではいってませんが、リハーサルしていないところはないと思います。これからが勝負になりますね。

----『眠れる森の美女』はこれまでフロリン王女などを踊られていますね。

 そうですね、『眠れる森の美女』全幕に出演するのは、入団してから3回目になります。最初は宝石とプロローグの妖精を踊っています。NHKの「バレエの饗宴」ではリラの精役でしたが、3幕だけなので踊るシーンは少なかったです。

----主役として踊られるのは?

 今回が3回目です。『リーズの結婚』と『くるみ割り人形』の金平糖の精です。『三銃士』では準主役のミレディを今年の3月に2回目を踊りましたけれど。

----私は、中川さんが最初に踊られたミレディを観て、とても感心しました。演じる相手も代わるかなり長いシーンでしたが、落ち着いてしっかりと表現されていました。

 長いですね、2幕はほとんど出ていました。

----作中では一人殺しましたね。

 はい、殺しました。

----悪女に扮するというのはいかがでしたか。

「三銃士」撮影/山廣康夫

「三銃士」撮影/山廣康夫

 全く手探りと言いますか、ストーリー性のある役が初めてでしたし、それが悪女だったのです。 本番の時に初めて「ああ、これでいいのかもしれない」という気持ちになれたくらいで、とても難しかったです。でも2回目の時は、1回目よりは楽しめました。

----当たり役になりましたね。

 今までミレディを踊ってきた中では最年少でしたので、大人の女性のイメージでした。初めてキャストを聞いた時にはびっくりしました。宝石の精などソリストの役を踊らせていただいていて、いきなりミレディでしたので。

----とても初役とは思えないくらい表現できていました。ミレディ役の存在が物語全体の中で見事にハマっているな、と感じました。

 テクニックだけで見せる作品よりは、ストーリー性のある作品の方が好きです。あまり緊張しないで役柄に入り込んでいけるので、好きです。

----でもミレディの役はストーリーの中で面白い、というよりは、その存在感の面白さではないかと思います。観客はストーリーの中では、あそこまで悪いとは思っていないのに、「悪」で輝くというか。

 そういえば、ちょっと印象が変わりました、と言われました。ああいう役ができるとは思わなかったって。

----そのあとはリーズでしたね。

「リーズの結婚」撮影/山廣康夫

「リーズの結婚」撮影/山廣康夫

 はい、先輩たちからリーズはたいへんだよ、と言われて。実際、アシュトンの型はクラシック・バレエとは少し異なるところがあって、難しかったです。シモーヌ役はアントンさんでしたが、お母さんの膝にちょこんと乗ったりしなければならなくて。

----表現としてはどこが難しいですか。

 全体に気が抜けない、というか。

----空想して子供が生まれたり・・・といった表現ですか。

 そこは好きなシーンなので、たいへんと言うよりはリハーサルが楽しかったです。窓にぶら下がって踊るコーラスとのパ・ド・ドゥとかは難しかったですね。うっとりして脚を振るシーンとかはうっとり見せるのが辛かったり。それから階段から滑り下りるところも、音通りにトン、トン、トーンと音に合わせて落ちていかなければいけないのに、すべりやすくて一気に下まで落ちてしまったり・・・かなり痛くてあざだらけになりました。2幕はリーズの家の中でずっと踊り続けますから、体力的にもきつかったです。

----リーズのようなコミカルな役を踊る時って、笑いを取れるかどうかって心配になったりするものですか。

 あります。一人で空想していろいろと演じるシーンなどでは、客席に笑いが起こってちょっと、ホッとしました。

----コミカルな役って難しいだろうな、といつも思います。

 でもミレディもリーズも、例えばこうすれば泣いているように見えるとか、そんなに気持ちを込めてというよりは、形から入った方がしっくりときます。冷静に考えて少し計算しながら表現した方が良い結果を得られると、私は思っています。

----オーロラ姫はまた違ってきますね。

 『眠れる森の美女』もプロローグには登場しませんが、ソロが多いし、緊張感のある踊りが続きます。
「ローズアダージオ」はやはりバランスを取るシーンが観客の注目を集めます。私はコルパコワのビデオなどを見て参考にしたところもあります。
今までは身体の動きにしてもなるべく大きくしてきたところがあるのですが、ローズアダージオのポーズもあまり大きくしすぎないようにもう少し「コンパクトに」と言われています。今までだと、ミレディなんかはやり過ぎくらいやらないと表現にならなかったので、こんなにしなくてもいいんですか?というような感じになっています。手と顔の動きに関係性があるように、とも言われています。
『ワルプルギスの夜』のパ・ド・ドゥはスペイン公演でも踊りましたが、私は自分に合っているような気がして好きです。でもそれも、身体をいっぱい使って踊る感じでした。

----そろそろ通して踊ることになりますね。

 ええ、ローズアダージオを通したり、幻想のシーンを通したりはしているのですが、3幕まではまだ行っていません。

----体力的にはいかがですか。

 確かにちょっと恐怖ではありますが、リハーサルの中では意外に、1回目に踊るよりも2回目に踊る方が楽だったりするのですが、やはり心配ですね、ヴァリエーションもかなり長いし。でも、最初のうちは長いと思っていましたが、最近やっとそれほど気にはならなくなりました。

----ハンガリー国立バレエ学校に留学されていますね。

 ええ、NBAバレエコンクールのスカラシップで1年間行きました。バレエ学校の舞台が王宮だったり学校の中だったり、オペラ座だったり、と小さいものも含めていくつもあって、『くるみ割り人形』の公演などは、昼も夜も上演することもあって1週間くらい続けて踊ることもありましたし、全部で30公演くらい踊りました。

----ハンガリーはニジンスキーの妻のロモラの出身地で、なかなかバレエが盛んな国ですね。

 そうですね、5年に1回開催されるルドルフ・ヌレエフ国際バレエコンクールに出場して3位になりました。パ・ド・ドゥを3曲か、ヴァリエーションを6曲踊らなくてはならなくて、かなりたいへんなコンクールでした。私はヴァリエーションを1日2曲ずつ全部で6曲踊ったのですが、選曲は当日、先生に指示されて初めて決まるのです。日本のコンクールの練習時間と比べると、かなりハードな条件をこなさなければならなかったので、私、強くなれました。でも、阿佐美先生に習いたいという思いが強くあったので、日本に帰って新国立劇場のバレエ研修所に入りました。

----バレエ研修所の2年間の経験というのはいかがでしたか。

「くるみ割り人形」撮影/山廣康夫

「くるみ割り人形」撮影/山廣康夫

 同期は女性が3人男性が3人という少人数でした。卒業公演の『シンデレラ』でストーリーのある役を踊らせていただいて勉強になりました。小倉先生の振付で、私は最初から12時の鐘がなって王宮から消えるまでを踊らせていただきました。それから台詞のあるシアトリカル・ダンスでは『人魚姫』の主役を踊らせていただきました。台詞を言って物語を引っ張っていく、というか、流れに乗るというか。それを経験できたことは良かったです。ミレディを初めて踊った時にも勇気付けられました。この2演目はとてもいい経験になりました。今でも思い出して役立てています。
でも実は、研修所時代はずっと悩んでいました。バレエ団に入ってからは、ああ、こういう風に踊っていいんだ、という選択肢が増えて楽になりましたが、研修所時代は、常に同じ人と比較されている、そう感じてしまうので、本当に苦しかったです。

----牧阿佐美バレヱ団は創立者の橘秋子以来、日本を題材にした全幕バレエを創る、といった伝統があると思いますが、そういうことを感じられますか。

 『飛鳥 ASUKA』の上演の時には、阿佐美先生の情熱をすごく感じました。私は音楽が特に好きです。どのシーンも素敵でしたし、私と同じくらいの年齢の日本人が作曲しているということもすごい、と思います。

----これからどういった役を踊っていきたいですか。

 ミレディのように役をいただいて、新たに自分を発見する、というのはとても楽しいです。何にでもチャレンジしていこうというのが、私のポリシーです。与えられた役に全力で取り組みます。幼い頃からオーロラ姫は踊ってみたいと思っていましたし、ジゼルもすごく踊りたいし・・・。

----いつか私もミレディを踊るだろう、と思われていましたか?

 まったく思っていませんでした! ミレディを役として意識したこともありませんでした。コンスタンスに憧れていましたが、今、そんなこと言ったらそんなイメージないよ、と言われそうです。

----見抜かれてしまいましたね。

「眠れる森の美女」清瀧千晴と 撮影/山廣康夫

「眠れる森の美女」清瀧千晴と 撮影/山廣康夫

 ミレディをキャスティングされた時、私は知らなかったのですが、青山季可さんに「『三銃士』よろしくね」と言われて、「何の話ですか」と聞き返したら、「郁ちゃんがミレディで私がコンスタンスよ」って。「えーっ!ミレディってあの大人の女性の役ですよね」って言っちゃいました。まさか自分に! 青天の霹靂でした。

----コンテンポラリー・ダンスも踊りたいと思われていますか。

 はい、コンテンポラリーも踊りたいです。ピーター・ブロイヤーの『ボレロ』などを踊りましたし、ナチョ・ドゥアトも大好きです。ドゥアトの『ロミオとジュリエット』には感激しました。幕の使い方がとてもドラマティックで印象的でした。今までで一番感動したバレエの一つです。

----最後にオーロラ姫を踊って、どんな舞台を作りたいですか。

 そうですね、難しいですね。ミレディの場合は誰か観客一人だけに向かって表現していけば、それで全体にわかってもらえる、という気がしました。でも、オーロラ姫は、観客もすでに見て知っているしそういうわけにはいきません。その中で正確に踊って、格調を出していかなければならないので、とても難しいと思っています。私としては、みんなに祝福されて心から喜ばれるような舞台にしたい、と思っております。

----リハーサルでお忙しいところ、いろいろと楽しいをお話を聞かせていただきましてありがとうございました。オーロラ姫の舞台を心より楽しみにしております。

Photo DANCE CUBE by Chacott

Photo DANCE CUBE by Chacott

『眠れる森の美女』La Belle au bois dormant

日時:2017年10月7日(土)15:00〜 8日(日)14:30〜 <全2回公演>
会場:文京シビックホール 大ホール
詳細は http://www.ambt.jp/perform2.html

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関口 紘一

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