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インタビュー/関口紘一
[2017.03. 2]

新世代ダンサーの騎手
木村優里(新国立劇場バレエ団ソリスト)=インタビュー

----木村さんは、入団前に『白鳥の湖』ルースカヤ役で出演し、2015年に新国立劇場バレエ団にソリストとして入団されて『くるみ割り人形』の金平糖の精、チャコット主催公演『バレエ・プリンセス』の白雪姫、そして『ドン・キホーテ』のキトリと、他にも今までたくさん踊ってこられました。デビューされてからを振り返っていかがでしょうか。

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優里 多くのチャンスをいただきまして、感謝しています。不安はありましたが誠意を持って一生懸命努めていけば、必ず上手くいくと自分に言い聞かせながら踊ってきました。今までは、あまり遠くのことは見据えず、いただいたことだけに集中してやってきました。

----木村さんの踊りはとても明快で良かったです。
研修所時代にはどのくらい実際の舞台に立つ経験をされていたのですか。

優里 予科の頃からの4年間に、新国立劇場バレエ団の公演に8回参加しました。

----やはり、バレエ団員として舞台に立つのは違いますか。

優里 研修所の研修生として踊る場合は、先生方が一人一人しっかり見てくださって、手取り足取り、丁寧に教えていただいておりました。
バレエ団に入ってからは、出来て当たり前という世界にいきなり入って、出来ない人はやらなくてもいい、できる人だけがそこにいていい、という世界に替わりました。厳しさを強く意識して、どうしたらお客様に喜んでいただけるかを考えるようになりました。体のケアに対する意識も研修所時代とはまったく変わりました。

----そんなに切実に変わりましたか。そうしますと、役作りの準備と言いますか、心構えということにもだいぶ慣れましたか。

優里 そうですね、役をいただいても、周りに多くの経験を積まれた先輩たちがたくさんいらっしゃいますので、とても勉強になります。キャリアのある方とダブルキャストの役をいただいたりしますと、お手本を間近で見ることができて、足りないところはこうだ、とか、こうしたほうがいい、ということを考えられました。直接言葉で教えていただかなくても先輩を見て、自分で自然に気がつくことも多く、一つずつ練習して学ぶことができます。学びたいというエネルギーが大きくなりました。

----やはり、ダブルキャストが組まれるとどうしても意識されますか。

優里 年齢の割には、例えばルースカヤを踊った時は19歳だったのですけれ ど、、大人の女性の貫禄が必要と思えるような役だったのですが、先輩方のオーラを感じるとやはり意識しなければならなくなって、勉強しなければと思いました。

----ルースカヤは、頭にかなり大きなロシア風の飾りを着けますよね。重くて踊る時に気になったりしましたか。

優里 特に重く感じることはないのですが、かなり大きく高いので、飾りの一部が引っ掛かったりすることがありますし、手の袖が触れたりすることはあるので気を付けなければなりませんでした。

----ルースカヤは、確か、牧阿佐美版の『白鳥の湖』で踊られるようになったのですね、昔は、アンナ・パヴロワも踊っていた素敵な踊りです。
これまでにパートナーとして組まれたのは、菅野英男(『くるみ割り人形』全幕)、中家正博(『ドン・キホーテ』全幕)、井澤駿、渡邊峻郁ですね。

1703_kimura1450.jpg 子どものためのバレエ劇場「白鳥の湖」 撮影・瀬戸秀美

優里 はい。中家さんは『ドン・キホーテ』のバジルを踊られて、キトリ役で初めて全幕を主演させていただいた時のパートナー。リードしていただいてとても安心感がありました。渡邊さんとは「こどものためのバレエ・白鳥の湖」の全幕でパートナーを組ませていただきましたが、表現のことも深く話し合うことが出来てとても踊りやすかったです。菅野さんは細かい部分まで丁寧に教えてくださる優しい先生です。井澤さんの美しいラインには一緒に踊っていても見とれてしまいます。

----舞台に立つ時はいつも緊張しますか。

優里 ええ、緊張します。逃げ出したいくらい。でも時間が経過してしまって、気づいたら舞台に立っているという感じです。そうするともう舞台に出てしまったのだから、と思い切って踊るようにしています。

----木村さんは古典作品に多くキャスティングされていると思いますが、新国立劇場バレエ団にはいろいろとレパートリーもあります。どんな作品を踊りたいと思われますか。

優里 いつか『ロメオとジュリエット』のジュリエットなど、ドラマティック・バレエを踊ってみたいと思っています。今は年齢に相応の若い役、村娘とかクララなどを踊りたいと思っています。ですから、チャコットの『Ballet Princess 〜バレエの世界のお姫様たち〜』で、白雪姫の役をいただいた時はとても嬉しかったです。再演されますので、楽しみです。(6月4日金沢、7月20日東京の予定)

----子供の頃から憧れていたバレエとかはありますか。

優里 まだ何もわからなかった頃から『ジゼル』と『ラ・バヤデール』を踊りたかったです。ただ可愛い、きれいだけでは終わらない役を踊りたくて。『ジゼル』だと一幕は可愛らしいのに、途中から錯乱しておかしくなって精霊になる、とか、『ラ・バヤデール』のニキヤも裏切られて、また黄泉の国から現れるとか、そういうマイムだとか、一気に変わるところ、裏切られるところとか、繊細な演技が緊張感に満ちた場面を作り上げるバレエに憧れます。

----次は、5月に16歳の大役を踊りますね。

1703_kimura0363.jpg 「海賊」パ・ド・ドゥ 撮影・鹿摩隆司

優里 『眠れる森の美女』のオーロラ姫ですか。オーロラ姫は気品とか、風格が必要ですから、村の娘とはちょと違いますけども。

----やはり、ジゼルを踊りたいという気持ちは強いですか。

優里 はい、そうです。

----バランシンは踊ったことがありますか。

優里 以前に『セレナーデ』の時にアンダースタディだったことがあります。音楽とステップがこんなにぴったりなんだ、と思って、音楽を視覚化した踊りは初めてでした。照明があたるとセリフが聞こえるようにロマンチックで、こういうバレエもおもしろいな、と思いました。

----そうですか。木村さんは素晴らしいプロポーションをしているし、踊りも明快だから、きっとモダンやコンテンポラリーな作品を踊っても美しいと思います。ぜひ、積極的に挑戦していただきたいと思っています。
やはり、クラシック・バレエの全幕作品の主役を踊る時は、準備の仕方も違いますか。

優里 はい。今までソリストとしてディヴェルティスマンを踊る時などは、主役の方が栄えて、その日1日の舞台が良かった、と思われるようにしっかりやろうという気持ちで踊りました。私だけのためにというのではなく、真ん中の方のために、と思うと気持ちが落ち着いて踊れます。でも、主役となると主役次第でお客様の心をつかめるかどうか決まってしまいます。お客様の感情移入をずっと途切れさせないように努めなければなりません。。原作を読むのは当たり前ですが、他にも全体を通して一人の人間が、その瞬間に生きている、というように表現しなければならない、と気をつけています。

----舞台の良し悪しは、どうしても主役の責任にされてしまいますからね。振付が良くなくても主役の責任にされてしまう、とさえ言う人もいます。
オーロラ姫にはどのように取り組むつもりですか。

優里 研修生の時に、『眠れる森の美女』の一幕と三幕は踊ったことがありますので、このバレエは大変なんだな、と実感しています。その時の経験から、改善する点がありますし、どういう気持ちで取り組んだらいいのか、ということはだいたい決まっています。全幕を踊りきる体力も大切ですし、古典のスタイルも『白鳥の湖』より『眠れる森の美女』の方が格式が高くて難しい、と知りましたので、十分に気をつけて踊りたいと思います。
『白鳥の湖』の場合は白鳥と黒鳥とか、ドラマの表現が重要ですが、『眠れる森の美女』は、そうした内面の表現というよりは、その時代に基づいた独特なスタイルを一貫して美しく表して踊らなければいけないので、難しいです。

----そうですね、『眠れる森の美女』を踊り終わった時には、木村さんはダンサーとしてもう一つ上のステージに達しているのではないでしょうか。とても楽しみです。
全幕を踊りきるためには体力も大切ですね、キトリ役なんてほとんど出ずっぱりですよね。

1703_kimura2002.jpg 「ドン・キホーテ」撮影・瀬戸秀美

優里 そうですね、キトリはいつも100パーセント元気いっぱいでなければならない役でした。セーブしたら見るところがなくなってしまうので、やはり大変です。ただ、『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥは、新国立劇場のヴァージョンはキトリの友人の踊りが入りますので、少し休めます。それがないヴァージョンを踊る場合よりはいくらか楽です。

----普段は食事制限とかはなさっているのですか。

優里 逆に食べないと体力が持たないので、意識して食べるようにしています。運動量が多くて全幕のリハーサル中に痩せてしまうので、私にとっては切実です。

----すごいですね〜。

優里 一度、食べて太る、という体験をしてみたいです。

----体験しなくていいですよ。

優里 何でもいいから何が欲しいですか? と言われたら今は食べたら食べただけ太る身体が欲しい、です。

----あっ 食べ過ぎてしまったと思ったり・・・

優里 全然! 代謝がすごく良いらしくて。役的にもうちょっと太っていたらいい、と言う場合は、これくらい食べればいいだろう。と思う量よりもさらにもっと食べます。夕食も夜食も。

----私、血糖値が高いので、夜食厳禁です!! 天性の素晴らしいエンジンをお持ちなんですね、羨ましいです。
ヴァレンタイン・バレエでは「黒鳥のパ・ド・ドゥ」を踊られますね、どういう点を気をつけて踊られますか。

優里 『白鳥の湖』全幕を彷彿させるような踊りにしたい、と思ってます。テクニックだけ見せておしまい、という感じではなくて。ジークフリート王子との駆け引きもしっかりと見せたいと思います。

----バレリーナとしての目標と言いますか、尊敬しているダンサーはいますか。

1703_kimura0051.jpg 「くるみ割り人形」 撮影・瀬戸秀美

優里 新国立劇場バレエ団はもちろん、素晴らしいダンサーがたくさんいて一人の名前はあげられませんが、共通して言えることはみなさん思いやりがあって、周りの方への気遣いとか、全体が見渡せている方。そいう方はやはり自分に余裕があって周りのことを考えられると思います。尊敬している人の良いところを表面的に真似しようと思うだけではなくて、なぜ、そうするのかまでを考えるようにしています。
例えば、イチロー選手とかですと、バットをしっかりと磨くとか、誰よりも早く球場入りするとか、ガッツポーズをしないとか、いろいろとあると思いますが、バットを作った人への敬意だったり、ガッツポーズをしない対戦相手への敬意があったりするわけです。思い遣りとか謙虚さとかそういうものがあって、それが自然と現れてくるのだと思います。ですから、尊敬している方がどうしてそうしているのか、想像して、ああ、こういう気持ちがあるのだなと考えるようにしています。

----とても素晴らしいですことだと思います。そういう思慮深い人間性は舞台姿と深いところで結びついているのではないか、と思います。今、お話を聞いていてマリインスキー・バレエのトップ・バレリーナのロパートキナのことを思いだしました。ロパートキナなどは、今お話に出たイチロー選手のように、自分に厳しく、厳しいだけではなくきちんとした考えに基づいて、日常的な行動をしています。木村さんは若いのに立派な心がけだと思い、感心しました。
本日はリハーサルでお疲れのところをありがとうございました。
(インタビューは2016年12月12日、新国立劇場で行いました)

新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』
公演=5月5日(金・祝)〜13日(土)。
木村優里は5月12日(金)にオーロラ姫を踊る予定。(18:30開演)

http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/sleeping/

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