パリ・オペラ座では、1985年に初演されたヌレエフ版『くるみ割り人形』が現在も上演されている。クララが見る夢は、原作のダークな雰囲気を強調しており、ドロッセルマイヤーと王子を1人のダンサーが演じる点がユニーク。2幕では、クララの家族が悪夢に現れるなど怪奇的なシーンもあり、大人が観ても楽しめる。ニコラス・ジョージアディスによるダークな色彩を基調とした舞台の中に、クララや王子、雪の精や花のワルツの豪華絢爛な衣裳が光り輝く風景も見応えがある。1幕でドロッセルマイヤーが子どもたちに見せる人形の踊りでは、シュタールバウム家の子どもたちが人形に扮している（兵士＝フリッツ、人形＝クララ、タタール兵＝ルイザ）。2幕のスペインの踊りではフリッツとルイザがリードを踊り、アラビアの踊りではクララの祖父母が登場、そしてロシアの踊りにはクララの両親がリード・ダンサーとなる。夢の中に登場するネズミたちとくるみ割り人形、おもちゃの兵隊、パーティーに参加する子どもたちは「小ネズミ（Petit Rats）」と呼ばれる、パリ・オペラ座バレエ学校の生徒たち。彼らの中から未来のエトワールが生まれるかもしれない。

ヌレエフ版『くるみ割り人形』は『パリ・オペラ座 IN シネマ 2026』シリーズとして、2026年1月23日（金）～1月29日（木）に日本の映画館で上映される。クララ役はエトワールのドロテ・ジルベール。2007年11月19日、オペラ座のストライキの最中、主役のジルベールとマニュエル・ルグリだけ衣裳をつけ、1幕の舞台装置のまま強硬上演された『くるみ割り人形』。ジルベールはクララを演じて、エトワールに任命された。26/27シーズンに引退予定のため、彼女の当たり役であるクララを観る貴重な機会となる。
ドロッセルマイヤー／王子を演じるギヨーム・ディオップは、パリ・オペラ座バレエ団で現在最年少のアフリカ系初のエトワール。2000年、セネガル人の父とフランス人の母の間にパリで生まれる。パリ・オペラ座バレエ学校卒業後、2018年にコール・ド・バレエとして入団し、2021年にコリフェ、翌年11月4日の昇級試験でスジェ。2023年3月11日、ソウル公演の『ジゼル』でドロテ・ジルベールとアルブレヒトを踊り、飛び級でエトワールとなった。