オランダ国立バレエの『くるみ割り人形とねずみの王様』は、1810年頃のアムステルダムを舞台としている。運河、スケートをする人々などオランダらしい風景を舞台美術に取り入れている。聖ニコラスをお祝いするオランダの伝統行事「シンタクラース祭」が近づき、クララの家ではパーティーが開かれる。そこにドロッセルマイヤーと甥（若い士官）も招かれており、クララが見る夢の中では、甥がくるみ割り人形になっている。クララもまた、夢の中では大人の女性として登場する。二人は力を合わせて、ねずみの王とその軍隊との戦いに挑む。くるみ割り人形の軍隊はより戦術的な動きを取り、ねずみ側も不気味さと迫力を増して描写される。戦いの後、クララとくるみ割り人形（王子）は ドロッセルマイヤーの魔法のランタン（によって別世界へと導かれ、遠く離れた色彩豊かな土地を巡る幻想的な旅をする。

シャイックによる舞台美術と衣裳も作品を支える大きな見どころとなっている。シャイックはハーグ王立美術アカデミーで彫刻を学ぶため、ダンサーとしてのキャリアを中断し、オランダ国立バレエに入団した。現在は振付・舞台デザイン・衣裳に加えて、彫刻や絵画など幅広く活動している。この『くるみ割り人形』のプロダクションでシャイクはバレエの大部分を振付しただけでなく、コンセプトを考え、美しい舞台装置と衣裳をデザインした。この作品において、彼は画家のクリスティアーン・アンドリーセン（1775年～1847年）の日記に描かれた700点を超える絵を通して、インスピレーションを得て、当時のアムステルダムの日常生活を写真のように鮮やかに垣間見ることができる。

今シーズンは、プリンシパルのマイア・マハテリや坂本莉穂などがクララを演じる。なた、2022年にボリショイ・バレエから移籍したジャコポ・ティッシが王子役に、ソリストの山田翔がくるみ割り人形役にキャスティングされている。坂本は2021年12月21日にクララ役でデビューしたその日に、芸術監督テッド・ブランセンからプリンシパルへの昇進を告げられた。