解説:文葉

舞台袖(ぶたいそで)

客席から見える板が「身ごろ」だとすれば、舞台上手下手にかかっている幕の、さらに外側のエリアは「袖」ということでしょう。ローザンヌ国際バレエコンクールのテレビ放送では必ず、踊りの部分だけでなく、その前後、つまり袖での模様(舞台裏)を映していますね。高鳴る鼓動を感じながらひたすら成功を念じ、アナウンスが終われば自分の出番!息づかいが手に取るように伝わってきます。またカメラは、披露し終わってすぐの彼らの表情を捉えようと「袖」で彼らを待ち構えています。舞台で大きく見えた彼らの身体は、先生に抱きついてみたら実はとても華奢だったり、にこやかな笑顔がたちまちにプロの表情で舞台の出来に思いをめぐらせたり。舞台から袖に入ったとたんの大きな落差に驚かされます。
  舞台監督、その他のスタッフ、照明器具、舞台転換を待つ大道具や小道具、ときには衣装までもがひしめき合う「袖」。板の上とは又違う、スリリングな場所です。ダンサーは袖で舞台の成功を祈る、袖で松脂をシューズにすり込む、袖で振付の確認をする。出番を待ちながら袖から舞台を見守る。私は常々思う、「袖」で暮らせればどんなに楽しいか。将来の夢は、「袖から舞台を日常として眺めていられるようになること」だったりしたなぁ。袖幕の側で1歩踏み出せば、向こうは光にあふれた世界。その境界線もたまらなく好き。
  ところで、日本の劇場で一番面積の大きい袖を持っているところはどこでしょう? 答えは、新国立劇場オペラ劇場。奥と左右と、客席から見える本舞台と、すべて同じ面積のエリアがあるんです。それで日本初のグランドオペラが上演可能になったのです!