チュチュ(仏/tutu)

ある人が着ると、観客をうっとりさせてくれるもの。そう、バレリーナの代表的な 衣裳のひとつです。先日、待ちに待ったパリ・オペラ座の『ジュエルズ』来日公演に 行って。オペラ座ダンサーのすばらしさ、振付のおもしろさを堪能して。さらに!衣 裳に感慨を受けました。チュチュの歴史と振付の歴史、そしてバレエの歴史が、エメ ラルド・ルビー・ダイヤモンドの3幕の中で眺められることに気づいたときです。

チュチュは、大きく、ロマンティック・チュチュとクラシック・チュチュに分けられます。フランスで旺盛した19世紀前半のロマンティック・バレエすなわち、『ラ・シルフィード』や『ジゼル』は、妖精に女性の脚をすっぽり覆うチュールもたっぷりとしたスカートの衣裳を使いました。それが、ロマンティック・チュチュ。動きにふんわりとなびく長く柔らかいチュールがとても女性らしく、トゥシューズが誕生したてのこのころポアントの技法もままならない状態のなか幻想的なムードを呼び起こすのに、このチュールの動き、また、ロマンティック・チュチュを着たバレリーナの姿は一役買っています。ここで『ジュエルズ』に目線を。フランスをイメージした「エメラルド」では、男性にサポートされながら風にたゆたうように踊る女性陣のポー・ド・ブラ(腕の動き)のエレガントなこと。フランスで生まれたロマンティック・バレエが物語もなく味わえた、そんな一幕でした。

クラシック・チュチュは、『白鳥の湖』の世界を思い出しましょう。19世紀末にロシア皇帝の庇護のもと繁栄した、クラシック・バレエの衣裳です。白く短い硬めのチュールのスカートを身につけたバレリーナは、グラン・フェッテやアクロバティックな技が映えるだけでなく、脚の美しい曲線で私たちをとりこにします。ロシアをイメージした「ダイヤモンド」では、プティパのパ・ド・ドゥを模倣したようなところがあったり、美しいコール・ド・バレエが宝石のようなきらめきでフィナーレを飾ったり。衣裳だけでなく、様式がきらびやかで華やかなロシア・バレエ。

恋人や妻といった「女神」の存在にインスパイアされ、抽象バレエを築いた20世紀の天才振付家バランシン。よくもまぁ、時代ごとに違うバレリーナの「美」を一挙に見せようなんて、ゼイタクなことを考えついたものだ。

 

[解説]
文葉

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