パ・ダクション(仏/pas d'action)

一言でいえば「ストーリーのある踊り、演技の踊り」のこと。物語のある舞踊劇のバレエ作品の核となる部分とも言えるかもしれません。踊りの技術を競うように見せるグラン・パ・ド・ドゥや異国情緒を醸し出すキャラクテールダンスがなくなれば、作品に彩りがなくなって少々寂しいかもしれませんが作品の筋は変わらないでしょう。でも、パ・ダクションがなくなってしまったら、物語がつながりません。作品に血が通わず魂が消えたも同じこと。主役を踊るバレリーナ、男性ダンサーたちは技術的にも演技力も高いレベルが要求されるわけですね。

パ・ダクション、たとえば、『白鳥の湖』で言えば第2幕のオデットと王子の「愛のデュエット」。オデットにすっかり心を奪われた王子は常にオデットを見つめ、彼女に真心を伝える。それを受けるオデットは喜び愛に身をゆだねたい気持ちと、二人の愛の行く先を不安に思う気持ちとで揺れ動くさまが描かれます。また、『眠れる森の美女』では二つのパ・ダクションがあります。一つは第1幕オーロラ姫の登場、求愛する王子たちと踊っても「ローズ・アダージョ」とオーロラのヴァリエーションで、多くの人に愛され賛辞を送られようと誰か一人の愛を受け入れることはないオーロラの乙女らしさが。もう一つは第2幕、百年の眠りにつく間、リラの精が王子に幻想のオーロラを引き合わせ、本物の王女に逢わせてほしいと懇願する王子とオーロラの出会いを描きます。

バレエは言わずもがな、言葉に頼ることなく物語を紡ぐ芸術です。台本を、音楽と演劇のセリフに相当するマイムと踊り、つまり体の動きを通してお客様に伝えなくてはなりません。これを大変なことと取るか幸せなことと取るか。本当に感動したときは「言葉にならない」という私たちですから、心の動きは言葉の表現に限定されず上回るのだと思うのは強引でしょうか。内面で熟成された心が手や足の動きを通して劇場全体に広がる瞬間は、美しいセリフを耳にするときよりも強く胸の奥に響くことがあると私は思います。

 

[解説]
文葉

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