解説:文葉

タン・ドゥ・キュイス(仏/temps de cuisse)

有名なミュージカル『オペラ座の怪人』を見ていると、オペラ座の踊り子たちに向かって「タン・ドゥ・キュイスの練習を」とバレエ・ミストレスのジリーがせかしていたシーンがあって。そのセリフで、19世紀末のパリが舞台の物語でも登場するとは、タン・ドゥ・キュイスは昔からメジャーなパだったのか…と少々驚いてしまいました。どうでしょう、皆さんがなさるレッスンではたびたび遭遇しますでしょうか。

初めて行うと、上へ上へと引き上げて伸びた状態が多いクラシック・バレエなのに、こんなに踏みしめ、床に近い感覚の動作ってあるのかしら、と不思議になってしまいます。ただ、それはあくまで印象であって、全体的にプリエをしている時間が長いだけのこと。引き上げておかないとシソンヌで飛ぶことができませんし、プリエのときも、パを行うときも、すべて引き上げる力あってこそです。

タン・ドゥ・キュイス。タンは「時、拍子、動作」といった意味で、キュイスは太腿。ももの動きが特徴的な移動を伴うジャンプのパです。アレグロのアンシェヌマンで登場しますね。フランスとイタリア、メソッドの違いで行い方が違うようですが、良く知られるフランス式をここでは紹介しましょう。行い方は、アン・ファスに身体を向け右足後ろの5番に立ちます。そこから、両足でドゥミ・プリエの後、プリエをしたまま右足かかとを上げてクペ、パッセして前のク・ドゥ・ピエ・ドゥヴァンを見せます。次に動はそのク・ドゥ・ピエから、ドゥミ・ポワントを通って右足5番前のドゥミ・プリエに納めます。その直後、小さく左横へシソンヌ・フェルメ・ドゥ・コテし右足5番前で終わり。この一連がタン・ドゥ・キュイス(・ドゥシュー)です。右足前5番からはじめる前の足を後ろに入れ替えるドゥスーもあります。

動作のアクセントは、最初のプリエで足を取り換えるところで「1」、勢いよくシソンヌ・フェルメをして5番に納まって「2」。プリエからク・ドゥ・ピエに持って行くところは素早く一気に持ち上げ小粋なアクセント飾りのように行い、プリエに戻す過程はややゆっくり見せ、プリエでシソンヌ・フェルメのために少しためを作って、最後シソンヌを華やかに見せます。身体の重心を両足でドゥミ・プリエしているときから軸足になる方へ偏らせておくと、シソンヌに入りやすく、鋭く大きく飛ぶことができるはず。上半身は軸足ではなく動足を意識するようにややエポールマン。顔も動足の方へつけましょう。

タン・ドゥ・キュイスは連続して左右行うことが多いですから、着地した途端に上半身の重心を逆方向へ移動させることが、スムーズに軽やかにタン・ドゥ・キュイスを見せるコツではないでしょうか。着地したと思ったらすぐにク・ドゥ・ピエで足を入れ替えますからね、そこで重心チェンジです。振り子のように、揺れながら、小粋に足先を見せましょう。そして、もう一つ、クペから5番に下ろす指先の関節と足裏を柔らかく滑らかに動かせるようにしておくこと。さらに、最初のク・ドゥ・ピエで取り換える間、ドゥミ・プリエの高さを保つこと。簡単な動きで遊んでるみたいな楽しさのあるパですが、意外と難しいのがタン・ドゥ・キュイスなのかもしれません。