アン・ファス(仏/en face)

バレエの用語で「正面を向いて」という意味です。ファスは英語のフェイスと同じ、顔のこと。
バレエで正面と言ったらどこか。バレエは、もともとはボールルームの宮廷舞踊から発展したとは言え、舞台からお客様のためにお見せするパフォーミング・アートですよね。ステージがあり客席がある。その劇空間の中でお客様に面と向かってポーズをとる。顔だけ正面で身体は斜めにひねっている場合はアン・ファスではありません。身体の前面すべてをお客様と正対させることがアン・ファスなのです。
劇場の舞台であれば客席がありお客様が座られる「正面」ですが、お稽古場であれば、大きな鏡が広がる一面が正面となることでしょう(バーレッスンは除く)。舞台の上にいると客席から眺めることは物理上無理でも、鏡があれば、観客の目にはこう映るんだなと確認できます。あとは、自分の動き、ポーズがどうか、自分の目で確かめ磨きあげていくことができます。と、良いところがたくさんある鏡ですが、鏡に頼りすぎてしまうのはお勧めできません。なぜか。その答えは舞台に上がればわかっていただけるでしょう。鏡の中の自分を見ていておかしいなと思うから直すのではなく、鏡を気にせず踊ってみて、それを鏡で映すとどうなのか、おかしければ直す、という具合に、視覚に頼らず自分の感覚を研ぎ澄ましていかないと上達しないのだと思います。脳ではなく、筋肉が動きを咀嚼して記憶していかないといけない。誰かに何かをお見せするのは、自分との戦いなんですね。

 

[解説]
文葉

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