解説:文葉

ポール・ドゥ・ブラ

(仏/port de bras)

クラシックバレエ用語、直訳すると「腕の運び」。ポジションからポジションへ、決められた軌道の上を腕を動かします。バレエは足だけでなく、腕にもポジションがありますね。すべて枠に入れられがんじがらめ…というわけではありませんが。イタリアのチェケッティ派、ロシアのワガノワ・メソッド、パリ・オペラ座のものとか英国ロイヤル・バレエのものとか少しずつ違ってきます。「腕は丸みを持たせて少し弧を描く、指先は美しく整えて、肩を下げて」という共通点もありますが、見た目は同じポジションでも番号が違う、腕の角度が違うなんてことも。

西洋の踊りは脚で、東洋の踊りは手で魅せる。バリ舞踊を一日体験したときに先生がそんな話をしたからか、漠然と、そんな区別の仕方が私のなかにあります。踊りは身体全体を使って表現するとは言え、どちらがよく「動かされているか」で考えると東西は対極にある、そんな気がします。バリ舞踊に限らず東南アジアの舞踊の印象といえば、ぐりぐり動かす目とか手のくねくね感。実際に体験してみると、脚はシヴァ神の銅像のごとく足を後ろに持ち上げた形とか、単調な動き。その変わり、目の動きはせわしないし、指もそこまで一般人は反りません!と動揺するくらい、柔軟性がないと作れない形で。上半身に無理させることが中心です。日本はといえば、日本舞踊は重心を落としすり足が基本で、どちらかといえば、上半身で謡を表現しているでしょう。土方巽の暗黒舞踏においては、足の存在を否定しているといっても良いでしょうか。一方、バレエに限らず、西洋文化が育んだダンス、ワルツ・タンゴ・サルサ…ソシアルダンスも華麗な脚さばきに目が引き寄せられます。バレエの基礎要素、パ(pas)も歩みの意味、ということは脚の動きを見せたいわけかしら…。

バランシン振付『セレナーデ』のプロローグは有名でしょう。バレリーナたちが正面を向き、チャイコフスキーの弦楽セレナーデに乗せて、ポール・ドゥ・ブラを整然と行う。あの時間あの空間が美しくないと言う人はいないのでは? 10年近く前、ピエトラガラ来日公演を記念して写真展が開催されたときのことです。ある写真のオーラに強く魅了されてしまって、その写真、買いました。頭上にすっと挙げたピエトラガラの肘から手、そして指一本一本のラインの美しいこと。そして彼女の内面の強さも感じる。クラシックバレエが脚を見せるダンスだとしても、指先にこそ優美さが宿る、脚の動きに見事に調和する完璧なポール・ドゥ・ブラがなきゃダンサーの気品も、表現したいことも引き出されない。『セレナーデ』の冒頭部分も、腕だけを映した写真も、そんなことを教えてくれているように思います。