シルフィード(仏/Sylphide)

「ラ・シルフィード(La Sylphide)」と「レ・シルフィード(Les Sylphides)」
「あー、なんてまぎらわしいっ!」
今ではすんなり作品名と内容が一致しているバレエ愛好家の方々も、過去に少なくとも1回はこんないらだちを覚えたにちがいない。フランス語の文法をご存じだったのでなければ。同じシルフィードだし、「ラ」と「レ」って同じラ行だし。表記ミス?なんてことはなく、生まれも育ちも違うれっきとした別作品。
では、2つの作品を見比べてみよう。
『ラ・シルフィード』は1832年にフランスで生まれた。パリ・オペラ座で初演。振付は主役(=シルフィード役)を踊ったマリー・タリオーニの父フィリッポ・タリオーニというイタリア人。音楽は、J.シュナイツホーファ。「ジゼル」に代表されるロマンティック・バレエのエポックを築き上げた作品で、「バレエ・ブラン(白のバレエ)」の原型だ。ストーリーは、スコットランドが舞台となり、一人の森の妖精に魅せられた若者が恋に溺れた結果、シルフィードも婚約者も失うというもの。
対する『レ・シルフィード』は、20世紀初めロシアで開花したネオクラシック・バレエの名作。情緒あふれるショパンの曲にミハイル・フォーキンが振付。1907年に「ショピニアーナ」として初演、その後改訂された。決まった物語はなく、いわばロマンティック・バレエのエッセンスを寄せ集めた「舞踊詩集」。シルフィードたちが月明かりに照らされて、一人の詩人と森で踊る様子は、詩人の夢想か憧れか。 『ラ~』では悲しい現実がついてきたが(女からすれば鼻持ちならない男の話だし)、『レ~』では妖精が醸し出す雰囲気に酔っていればいい。
料理のときに唱えてしまう調味料の順序「さしすせそ」ではないが、『ラ・シルフィード』のラ→ラ行の1番→『レ・シルフィード』の見本となった、と覚えてみる...。ちょっとこじつけすぎか。

 

[解説]
文葉

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