アンシェヌマン(仏/enchacInement)

クラシック・バレエの動きは最小単位まで分解すると「パpas」となり、アンシェヌマンはパとパを組み合わせた一連のステップのこと。

仏語の「鎖でつなぐ、脈絡をつける」という動詞enchacÎnerアンシェネの名詞で、連鎖、つながり、関係といった意味。フランス語に親しまれている方はご存知でしょう、アンシェヌマンと言えば調音現象の代表的なもののひとつで、elle a という主語動詞を「エル・ア」と読まずに「エラ」、"Aix-en-Provence"は「エクス=アン=プロヴァンス」ではなく、「エクサンプロヴァンス」と発音するように、語末子音と母音で始まる単語が続くときに自然に発音しやすいように変化させることですね。
クラシック・バレエの世界でも前のパを受けて流れるように次のパへ入れるよう、自然につながるよう組み合わせます。バレエのお約束ごととして「つなぎのパ」「ジャンプのパ」などパには役割(主役脇役)があり、基本的に、特に古典ではランダムにパは組み合わせられません。「このパの後にはこの種のパがくる」という関連性が生まれ、「アッサンブレの次にグリッサード」よりも「グリッサードの次にアッサンブレ」の方が常識的となるわけです。その規則を体に叩き込めば、センターでアンシェヌマンを覚えるのに焦らずにすむかも...

人体にたとえるならば、パは「細胞」で、アンシェヌマンは「器官」。役割別の細胞が集まって一つの機能を担う臓器、器官ができるのと似ています。ひとつひとつのパだけでは味気なく、無機的な運動にしか思えないかもしれません。ところが、アンシェヌマンになれば動きに強弱や音楽性も生まれ踊りを踊っている実感がわいてきます。
つなぎ方に規則性があるバレエ作品一つ一つが単調にならないのは、聞こえる音楽や物語が違うから、という大前提よりも、パの連結の仕方に教師や振付家のセンスが異なることが大きいのではないでしょうか。プティパ時代、バランシン時代、そしてフォーサイス、ノイマイヤー、マイヨー...それぞれの時代・振付家によって違う面白みがあるのは、極端に言ってしまえばつなぎ方が違うからと思います。 アンシェヌマンのつなぎ方が千差万別というならば、レッスンピアニストは本当に骨の折れる職業なのだろうと想像してしまいます。長さも組み合わせの複雑さもカウントの取り方も、教師の望むものを音楽として瞬時に表現しなければならいのですから! レッスンピアニストの方から見た作品や振付の面白さを聞いてみたいものです。作品のおもしろさ振付家の特徴など、音楽の側面からでは、普通に見るだけとは違う意見が聞けそうですから。

 

[解説]
文葉

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