解説:文葉

アラベスク・パンシェ

(仏/arabesque penchee)

バーから離れて、なんの支えもなくパンシェをする。それはもう、一大事でした。
180度まで上げられる股関節の柔軟性が問われ、何より背筋の強さ、腹筋の強さ、そこからくる脚を外に引っ張れる力がなければ、あの危ういバランスをキープできないから!

 パンシェは「傾けた」という意味。「アラベスク」は、上半身(正確に言うと肩胛骨の下から上部)を起こして脚(これも正確に言うと、腰から足先までのイメージ)を外へ外へと引っ張りながら自分の後ろへ上げるもの。パンシェは、見た目にはアラベスクの脚が高く上がったバージョン。頭、肩、胸は前に倒れていきます。アラベスクでは上へ上へ引っ張っていた上半身を、パンシェでは引っ張るベクトルが変わって前に倒すようにして、その反動で後ろ脚が高く上がる。やじろべえのように、片方を下に傾ければ、もう片方は上を指すんです。

一番傾けているものは、「重心」なんだと思う。パンシェをしている子の脚を無理矢理持ち上げようとすると、前につんのめりそうになりますよ。重心の移動で前に倒れないようにするには、その分おへその下を引き上げ、脚を外へと引っ張らないといけないのです。アラベスクは力の均衡で成り立ってるんですね。単に、脚を上げている、という行為ではなく、脚と腕、右足と左足のバランス、伸ばし合いがあってこそ、なんです。

 ウィリアム・フォーサイスは、このアラベスク・パンシェをより危なっかしいものに仕上げました。『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』などで見られる、オフバランスです。ポワントで立ちながらパンシェをするバレリーナが倒れる寸前までバランスを傾けるのを見せるんですね。超人的すぎてデジタルな人間のように見えることがあります…。自分の身体、バランスがおのれの支配下にある一般人ではなく、コンピュータに支配されているかのよう。バランス力の極み。目をつぶって片足で立つのさえふらふらしているようじゃ、デジタル人間への道はほど遠いのね。トホホ。