解説:文葉

アティチュード 

(仏/attitude)

 態度、姿勢、様子という意味のポーズ。アラベスクと並んで有名なポーズです。舞台写真としてはシャッターの切りどころなので、名前こそ知らなくても目にしたことがある方がほとんどでしょう。
 私はこのポーズをアラベスクの兄弟姉妹のように思っていました。軸足は曲げずにかかとで大地を押すように立ち、もう片方をアン・ドゥオールしたまま膝を下に向けず横に向けたまま上げる。そこに膝を曲げているか否かの違いがあるだけ。
 ところが、それは間違いだと気付きました。二つは似て非なるものなのです。
 まず、あげる脚の方向が違う。アラベスクは後ろにだけ上げるもの。アティチュードにはチェケッティ派、ワガノワ派など流派によって多少の違いはあっても、後ろ(derrière)もあれば前(devant)もあるし、横(à la seconde)もある。次に、動きの原理が違う。アラベスクはタンジュを通って上げていくのが基本でしょうか。アティチュードはルティレからデヴェロッペをしている過程と捉えるのが一般的です。
 最後に、ポーズの由来が違う。これは決定的です。アラベスクは、名前からしてイスラム美術からでしょう(憶測でものを言って申し訳ないのですが)。一方、アティチュードはイタリア彫刻が起源と言われています。

 アラベスクを思いついた振付師はイスラム美術に心惹かれたのかも。そう思いたったのはイランの宮廷美術でタイルに描かれた宮廷の庭での野宴図を見たときのこと。画面前面左側に上体を反らせるようにして顔と右足を後方に流し、体全体がしなやかで重量感を感じさせないたおやかな女性の立ち姿に、アラベスクのポーズの原型を見た気持ちになりました。アラベスクは絵から生まれた。当時異国情趣がもてはやされるヨーロッパにあって、自分たちの周りにある西洋美術にはない浮遊感、幻想的な「美」への憧れがあったのではないか…。アラベスクは名前にもダイレクトに「アラビア風の」とつけたくらいですから、異国文化を取り入れるぞ!と意識したポーズなのでしょう。

 一方のアティチュードはイタリア人彫刻家ジョバンニ・ダ・ボローニャ作の彫像「マーキュリー」(1580年)をヒントに、ナポリ生まれのカルロ・ブラジス(Carlo Blasis、1797-1878)が生み出したと言われています。もともと彫刻に似せたポーズ、アラベスクの平面性に比べれば否が応でも人体が立体であることを意識させるというものです。また、お手本にした彫刻は解剖学に忠実なものをというより、より技巧を魅せることが本位の美術品。ルネサンス期の後半から台頭した優美さをこてこてに表現しようとするマニエリスム時代の西洋美術です。旋回する立体構造が装飾的にさえ感じるというもの。それ故、私たちも、理想像に近づくためにアティチュードは身体をねじってねじって、素敵に見える脚の位置などを調整してしまいます。バレエという非日常的な世界にはぴったりな造形だったのかもしれません。
 形の由来は判明した。でもアティチュードという名前はなぜ付けられたのか。疑問が残ったままです。ポーズにわざわざ「姿勢」って名前はどうなんでしょう。奥ゆかしく愛らしい様子、威厳のある態度などと何か形容詞が付いているならともかく、単語一個では唐突すぎると思うのです。ブラジスは何を考えたのでしょうか。

 また想像の羽根を羽ばたかせてみることにします。
 18世紀に生きたフランス人のノヴェール(Jean-Georges Noverre、1727~1810)が、彼の舞踊論の中で「バレエ・ダクション(物語のあるバレエ)」を提唱しオペラや演劇からバレエを独立させ、舞台芸術としての地位を確立させたバレエ芸術の祖であるならば、ブラジスは、ノヴェールの思想に賛同し振付の面で具現化させた人と言えます。彼はバレエテクニックを体系化し書物に収め、チェケッティにつながるイタリア流派を確立、国内にとどまらずフランス、イギリス、ロシアにも実際に教えにも行きました。
 ノヴェールはそれまでのバレエを「人々はただ踊りのために踊っており,脚の動きや高い跳躍がすべてだと考えている」と揶揄し、これからはマイムやジェスチャーを交えて情念を表現する振付が必要で、そのほか美術や音楽もバレエを構成する要素すべて筋のために存在せよと主張します。ノヴェールの思想をテクニックに置き換えようとしたブラジスは「立っているだけで情感を伝えられるポーズを創造したい」と思案に暮れたと想像できないでしょうか。
 ブラジスは、アラベスクとニュアンスの違うポーズが舞台の彩りとして欲しかっただけかもしれません。しかし、アラベスクと比較して、アティチュードは演劇的な装置として望まれて生み出された。とするならば、アティチュードは、見た目の美しさで観客の目を喜ばせる、プラスアルファ、エモーショナルなものを伝える、さらに筋を形にしてナレーター的役割を担うこともあったかもしれません。「態度」と名付けられたこのポーズは、舞台で見栄えのする美しいものであると同時に味付けによって微妙に印象を変えられる。人の態度は感情に左右されるでしょう? だから演じ手がいろんな形容詞をアティチュードに付ける必要がある。踊りにあった、役柄に合った、筋に合った雰囲気や感情を醸し出すことが要求されているように思われるのです。