荒部 好

『アンナ・パヴロワ』

 アンナ・パヴロワの死後、評伝を執筆したビクトール・ダンドレの回想から始まる。ダンドレはパヴロワの内縁の夫として生涯をともにした人物である。
 パヴロワは幼い頃、マリインスキー劇場で『眠れる森の美女』を観て魅了されて以来、一生をバレエ芸術のために捧げたが、その幼い日の過酷なバレエのレッスンの模様、マリインスキー劇場で『ジゼル』の主役を射止めて踊るシーンなど、良く知られるエピソードに基づいて描かれる。
 新しい時代にふさわしいバレエを共に希求したミハイル・フォーキン、19世紀のクラシック・バレエを完成したマリウス・プティパ、野心に燃えるディアギレフ、名教師チェケッティ、名花クセシンスカヤ、モルドキン、サン=サーンス、ストランヴィンスキー、ニジンスキー、セルジュ・リファールなどの舞踊史に名を残す舞踊家たちが登場する。
 パヴロワにフォーキンが『瀕死の白鳥』を振付けるシーンやディアギレフとパヴロワの関係が念入りに描かれている。
 ディアギレフのバレエ・リュスは、最初のパリ公演で踊られた「ポロヴィッツアン・ダンス」の観客の熱狂ぶりや、「青い鳥」のヴァリエーションを息も絶え絶えに踊るニジンスキーなどが興味をひいた。
 それからアメリカで、次々と発せられる記者団の質問をにこやかに、時に少々辛辣に答えるパヴロワの様子は、やはり堂々としており見事なプリマぶりである。
 さらに、オランダのハーグで、白鳥の衣裳を求めつつ息絶えてしまうシーンは涙を誘う。その日もパヴロワが踊る舞台は予定されていたが、彼女を失った劇場では、最大の敬意を表して、彼女が踊るはずの『瀕死の白鳥』の動きを追って、照明だけを映した、という。
 ちなみに、ハーグの彼女が息をひきとった場所は、現在、パヴロワ通りと呼ばれている。
 映画監督のスコセッジがメトロポリタン歌劇場の支配人に、ロシア時代のバランシンのグループでも踊ったことのあるピヨトール・グーセフはプティパにに扮して出演している。

 



『アンナ・パヴロワ』
Anna Pavlova a Woman for All Time
3,990円 (本体価格:3,800円)
発売/クリエイティヴ・コア